奇跡の贈り物
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第一章 妻からの告白
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式の帰りに
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「やっと終わったね。」
助手席にいる、ついさっきまでウェディングドレスに身を包んでいた妻に、そう言いいながら新居に向かって車を走らせていた。
妻は、助手席から外の流れる景色を見ながら言った。
「ずっと隠していたことがあったの。」
たった今結婚式を挙げたばかりの妻の言葉に僕は戸惑った。
こういった時、たいていの男なら、
” 男 関 係 ”
だと思ってしまう。
しかし、ここで困った顔をしてもしょうがない。
これから新しい生活が始まるのだ。
覚悟して聞いてみた。
・
・
それは想像にしない返事だった。
・
・
「何をだい?」
「私、子供を産めないかもしれない。」
「え?どういうこと?」
「生理が無いの。」
生理が無いと言われても、よく判らない。
「卵子が出来ないの。」
「そうなの?」
「高校生の時から、ずっと病院に通ってるの。」
「これからも、毎月病院に通わなくては行けないの。」
「うん、わかったよ。」
それ以上、その話をするのは、止めた。
「疲れたから、早く帰って、ゆっくりしようよ。」
「うん。」
新居に車を進めた。
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<<初夜>>
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新婚初夜は失敗に終わった。
妻が、あまりにも痛がったのだ。
そして、その後も妻の痛がりは治りそうもなかった。
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<<通院の生活>>
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妻は、月に一度、正確には6週間毎に、昔から通っている産婦人科に行き、検査と薬をもらってきていた。
薬は、排卵促進剤という物だ。
それを飲めば、2週間くらいで排卵が起こる。
排卵が起これば、また病院に行き検査。
その時に卵子が十分育っていれば、医者から指示がでる。
「今晩がタイミングです。」
子供でなく、物を製造するかのような扱いだ。
でも、僕たちは、それに従った。
・
・
しかし、相変わらず、うまくいかない。
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はじめて成功
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そんな日、僕は友達から、
「そんな時は、ローションを使うといいよ。」
と聞いた。
さっそく、薬局へ行き、ローションを買うことにした。
家から離れた、街中の薬局を選んだ。
街中の薬局なら、客も多くて顔を覚えられることは無いだろうと思ったからだ。
ローションを棚から見つけたのはいいが、レジに持っていくのは恥ずかしい。
ゴムなら気にしないのだろうが、ローションは、やはり特別な物なのだろう。
何度も棚の前を往復し、覚悟を決めてレジへ持っていった。
レジの女の子は、さっと紙袋に入れてくれた。
その日の夜、初めて成功した。
・
・
結婚後、3ヶ月の事だ。
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SEXする目的
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ローションを使ってのSEXは出来るようになったが、
相変わらず、医者の指示で行っていた。
・
・
一体、何のためのSEXなんだろう?
ふと思った。
”快楽のため?”
”夫婦のコミュニケーション?”
いや?違う、
医者に管理されたSEXに、そんなものはない。
僕と妻の目的は一つ。
”自分たちの子供が欲しい。”
それだけである。
それまでは医者の指示に従うしかない。
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第二章 口と心は、ちがうもの
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クリスマス
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それから半年過ぎ、季節は、クリスマスシーズン。
二人だけのクリスマス。
来年も、
再来年も、
もしかして、
・
・
ずっと二人かもしれない。
”そういえば、しばらく、ディズニーランドに行ってないな。”
と思った。
結婚する前に、妻の親に内緒で一度だけ外泊した事があった。
それが、ディズニーランドへの旅行だ。
クリスマスシーズンになると、僕たちの住んでいる神戸の街は、電飾に飾られて美しいところが数多くある。
でも僕は、ディズニーランドの電飾がたまらなく好きだ。
この電飾を、彼女(=妻) に見せてあげたかった。
妻は、あまり乗る気でなかった。
妻は、ディズニーランドを行ったことがなかったからだ。
たんなる遊園地だと思っていたようだ。
そして、妻の親にウソをついてまで、行くことに罪悪感があったようだ、
それでも、僕の説得に根負けしたのか、付いて着てくれた。
・
・
ゲートをくぐると早々に、ミッキーマウスに遭遇した。
僕は、妻の手を引っ張り、走って行った。
僕が、ミッキーマウスに抱きつき、妻にも反対側から抱きつくように言った。
そして、3人で写真を撮ってもらった。
・
・
そして、その日以来、妻は、ディズニーランドの虜になってしまった。
今後は秘密にする必要もなく堂々と行ってきた。
2年ぶりに訪れるディズニーランドに妻の心は躍っていた。
僕が最高と思っている電飾は、妻にとっても最高であった。
夕食はディズニーランドにある、ブルーバイユレストランでコースディナーを食べた。
食べながら、
「子供がいると、こんなこと、できないね。」
二人は、声に出して言ったが、それは強がりだった。
それが、引き金となり、会社の休みを見つけては、ちょくちょくと、ディズニーランドに行くようになった。
神戸から東京まで、決して近いわけでもなく、裕福なわけでもないが、
「子供が出来ると、行けないから、今のうちにね。」
と、自分達に言い訳ばかりして行っていた。
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春になり
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春先に、僕の親戚に不幸が起こった。
僕たちは、車で1時間程の親戚の家を訪ねた。
そこの、長男夫妻には、産まれて7ヶ月の赤ちゃんがいた。
”僕は、子供が大好きだ。”
不思議な事に、赤ちゃんというのは、自分を一番可愛がってくれる人を本能的に見つけるようだ。
長男夫妻は、忙しいので、その結果、赤ちゃんは、始終、僕に抱かれることになった。
他の親戚からは、
「早く、自分たちの子供を作りなさい。」
とはやし立てられていたが、
「まだ、まだ」
とごまかし、
”子供ができないかもしれない。”
ということは黙っていた。
・
数日後、
・
再び、親戚の家に行く用事ができた。
妻が僕に言った。
「また、赤ちゃん、抱っこしに行くの?」
”ガーン”
ときた。
僕がうれしそうに、親戚の赤ちゃんを抱っこしているのを見るのは、辛かったに違いない。
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第三章 希望の光
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保険の外交員から
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結婚して、すでに1年経過していた。
普通なら、
”結婚一年目で子供が欲しい!”
と思う夫婦は少ないのでは?と思う。
でも、僕たちは違っていた。
歳を取れば、それだけ出産できる可能性が低くなるからだ。
ただ、子作りだけが夫婦に必要かというわけではない。
結婚1年目、生命保険の見直しを行った。
受取人を妻に代えたかったし、妻が、大病かかった場合に備えて、入院保険に加入しておきたかったからだ。
保険の外交員は、契約が増えると判り、喜んで家にやって来た。
そして、妻の入院保険の手続きを行った。
入院保険は、健康な体でなければ入ることができない。
そのため、外交員は、妻に病歴などを質問していった。
その中で、妻が不妊症であることを告げた。
保険の外交員は、
「どこの病院に行ってるの?」
「△△病院ですけど。」
「そこって有名?知らないわよ。」
「不妊治療なら○○病院が、いいわよ。」
「あそこの病院は、不妊治療で有名で、遠くからも来てるから。」
「絶対、○○病院に行ってみて。」
そう教えてくれた。
無事に保険の契約を済ませて、保険の外交員は帰っていった。
どうやら、不妊症に保険は関係ないらしい。
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子供の将来
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ゴールデンウイーク、今度は夜行バスを使って、東京ディズニーリゾートに行くことにした。
僕は独身時代に、東京に出張には、夜行バスを使うことがあったが妻は初めてだ。
東京までの道中、バスはトイレ休憩の為サービスエリアに止まる。
深夜のドライブインで、安いながらも豪勢な食事をした。
豚まん、たこ焼き、ソフトクリーム
子供が喜びそうなメニューばかりだ。
「子供が小学生になったら、夜行バスで行こうね。」
「絶対、喜ぶね。」
「夜は9時には寝かせるけど、こういう時は、夜更かしさせてあげよう。」
まだ、いない子供の話で盛り上がった。
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もう、いい!
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夏が近づいてきた。
妻はだんだん、
”やっぱり子供ができないのでは?”
と、不安がりだしていた。
・
そして、
・
その日の夜、医者の指示で子作りを行っていた。
エアコンは点けているのだが暑い。
そのせいかわからないが、うまくいかない。
1時間経っても、一向にできない。
僕にも妻にも披露が見えてきた。
「もう、いい!」
「こんなことしてまで、子供はいらない!」
妻が泣き出した。
「愛情のないSEXで、子供は作りたくない。」
「こんな気持ちで、子供なんて、欲しくない。」
今日は止めることにした。
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<<僕の予感>>
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オカルトめいた話だが、僕には予感というものがある。
意外と当たる事が多いのだ。
祖父が、お寺で修行し、そういった能力が有ったということを聞いていた。
その祖父が、天に昇る龍を見た!と言っていたが、
さすがに、それは信じていないが。
その祖父に一番似ているのが僕だと親戚中に言われる。
僕は、自分の子供の夢を2回見ていた。
男の子2人の兄弟だ。
田舎の見渡す限り田んぼのばかり道に車を止め、長男が田んぼの溝で遊んでる。
車の中には、妻に抱かれた次男がいた。
次は、兄弟が成長し、小学5年生と小学校3年生で、
ディズニーシーから帰るところ。
長男が遅れてくる次男に、早く来い!と言っている。
かなりリアルで、顔もはっきり覚えている。
子供がはもう出来ない。と諦めている妻に話した。
チラシの裏に、夢に出てくる子供の似顔絵を描いて見せた。
「大丈夫、僕の予感は当たることが多い。」
妻は、そんな夢の話を信じろと?と思ったかもしれないが、
「そうね。がんばりましょ。」
と答えた。
まだ、疑いが晴れない妻に、もう一つ、話をした。
「君との結婚も、見えていたんだ。」
妻とは、仕事の出入り先で知り合った。
そして、信じがたいけど、妻の猛アタックの末、結婚した。
なので、妻は、自分が捕まえたと思っているらしい。
でも、僕は、妻を最初に見た時にわかっていた。
「あぁ、この人と結婚するんだな。」
そんな予感がしていた。
妻は、本当?って感じで聞いていたが、
「そしてら、龍生(友達)に聞いてみ。」
「客先に、良い子がいて、その子と付き合うかもしれない。」
って話してたから。
妻に、笑顔が戻った。
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第四章 夢はきっとかなう
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奇跡へのチケット
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テレビを見ていると、東京ディズニーシーに今度新しく出来るアトラクションのCMが流れた。
妻は、そのアトラクションに乗りたいと言った。
僕は、妻が寝てからネットで検索をしまくった。
そして、目的の物を手に入れて、机の上にプリントして寝た。
妻が朝起きて、それを見つけた。
それは、新しいアトラクションの試乗権と旅行の申込み書だった。
妻は、寝ている僕を起こして、
「これ何?」
と大喜びした。
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季節は夏
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すっかり夏になっていた。
医者に言われた行い、妻は検査に行った。
「今回も駄目だった。」
「よかったじゃん。妊娠してたら、来月、行けなかったよ。」
精一杯の、慰めだった。
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魔法使いの弟子
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9月3日の早朝、東京ディズニーシーへ出発した。
神戸空港から一番早い飛行機に乗り、羽田空港からバスで、東京ディズニーシーへ入った。
東京ディズニーシーは、明日で、ちょうど5周年。その記念すべき時にあたり、パークは華やかに飾られていた。
ゲートを潜り、ショップが建ち並ぶところを通り抜け、明日試乗するアトラクションの方へ向かった。
新しいアトラクションは公開前で平日ということもあり、道には人影がなかった。
「あ、ミッキー」
妻が叫んだ。
建物の陰から、ミッキーが出てきたのだ。
ミッキーが、沢山の人々に幸せを届けにやってきたのだ。
今、周りには誰もいない。
ミッキーのボディーガード役となる、キャストが少し離れて居るくらいだ。
僕と、妻はミッキーに駆け寄った。
ミッキーは、いい大人が二人掛かりで寄ってきても、ちっとも嫌がりもせずに、握手をしてくれる。
ミッキーは、写真を撮りましょうと、カメラのシャッターを押す仕草をしてくれた。
僕は、カメラを向け、妻とミッキーのツーショットを撮りながら、横に居たキャストさんに話した。
「大人気なくてすいません。子供が居たらいいんですけど、子供が出来ないんですよね。」
なぜ、こんな話をしたのかわからない。
大の大人がこんなにはしゃいで恥ずかしいとキャストに思われているかもしれないのを、ごまかそうとしたのかもしれない。
写真を撮り終わると、キャストはミッキーに近づき耳打ちした。
すると、ミッキーは妻に近づいきた。
腰をまげ顔を妻のお腹に近づた。
そして、白い手の平でお腹を撫でてくれた。
数回、撫でた後、ミッキーはキャストの方に戻っていった。
「きっと、願いは叶いますよ。」
キャストはそう言い残し、ミッキーは手を振りながら、
二人は賑やかな方へ行ってしまった。
その夜、宿泊先のホテルで、医者の指示はなかったが、SEXをした。
遊び疲れているので、短時間であったが、医者の管理ではなく、自分達の意志でだ。
翌日は、お目当ての新アトラクションを試乗し、さらにもう一泊して帰路についた。
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最終章 ~ はじまり ~
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病院を替えようか?
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家に戻ってきた。
不妊治療の再開だ。
以前、保険の外交員が言っていたことを思い出した。
「今回、駄目なら、病院を替えよう。」
僕は、妻に言った。
妻も、
「そうね。替えましょう。」
妻も、賛成した。
妻は、薬を飲んで、一週間後、いつもの病院へ行った。
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仕事中の連絡
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僕は、会社で仕事をしていた。
携帯が鳴った。
「ピピピピピ」
携帯の画面には、妻からと表示されていた。
妻は、病院へ行っている時間だ。
仕事中に、掛けてきたのは初めてだ。
急いで建物を出て、電話に出た。
「子供出来てた。」
妻がそういった。
「え?本当」
「うん。妊娠してるって。」
「やったね!」
それ以上の言葉は不要だった。
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その名は
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翌年の春、男の子が生まれた。
ミッキーマウスは、人々に、幸せと勇気を与えてくれる。
私たちに幸せと勇気を与えてくれた、子供に、
「みつき」
と名付けた。