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あけましておめでとうございます”(ノ><)ノ
今年もよろしくお願いします
※活動報告をお読み下さい。
一歩足を進めた先に見えたのは、薄暗く先の見えない一本の廊下だった。
その人が二、三人は通れそうな廊下を、少し緊張しながら黙々と歩く。程なくして突き当りの開けた場所に足を踏み入れた私は、思わず感嘆の声を漏らした。
「うわぁ…」
目の前に広がる光景に、そっと息をつく。
ドーム型の高い天井に合わせるように、そこは円状に開けている。床には大理石のような鉱石が広がっており、うっすらと部屋の中心に向かって不思議な模様や文字のようなものが刻まれている。そして、その中心には一メートル程の縦長い鉱石が静かに佇み、その存在を曝していた。
「何これ、綺麗……」
七色の淡い光がその表面を彩り、ほんのりと部屋を照らしている。そんな幻想的な光景に、まるで何かに誘われるように一歩、また一歩と光に向かって足を運ぶ。
それを間近で目に映した刹那、私は無意識のうちにそれに向かって手を伸ばしていた。
そして、それに触れた瞬間――――部屋いっぱいに純白の光が溢れた。
「きゃっ……!!何コ……レ………!?」
痛いっ…!!頭が――!?
なっ……、何なのよ!?
「ど……して、こん、な……っ!?」
触れている手を辿って体内に潜り込み、私の頭を圧迫するナニカ。
それを振り切るように何度も頭を振るが、それは無駄な足掻きで。
「ッ……ハッアァァ………ぁ?」
頭を押さえていた手を訝し気にそっと外す。頭を軽く横に振って、ぽつりと呟く。
「……終わった…?」
さっきまでの締め付けられるような頭痛も無ければ、右手が触れている鉱石が光ることもない。
そこにあるのは、ここに入って来た時と同様、ほんのりと七色に輝く鉱石が静かに佇んでいるだけ。
「……何だったの?今の?」
軽く見渡してみても、なんら異変は感じない。
幻覚でも見たのか?と訝しんでいると、胸の奥――ちょうど心臓辺りに何か違和感を感じた。小さい、だが確実に先程までは感じなかった暖かい何かが心臓で燻っているのだ。
「う~~ん?」
今までは感じなかったモノ。身に覚えがないナニカ。
分からない……私は、こんなモノ知らない。
―――――本当に?
「あっ………?」
シラナイ?―――違う。私は、コレを知っている。さっき、“知った”から。
―――“想像具現”―――
それが、これの、正体。
それを認識した瞬間、私はひどい脱力感に襲われ、ドサッと音を立ててその場に座り込んだ。そして、その勢いのまま寝転がり、高い天井を眺めながらひっそりと口角を上げた。
「ふっ……ぁはは…は……」
にやける口元が止められない。
花嫁全員が有するという異能――その存在を知った時、人外の正しくファンタジーな力が手に入ることに対する高揚は感じたが、一方でその力には余り期待をしていなかった。
だって、私だよ?どこにでもいるような、平凡な一般人Aみたいな立ち位置の自分に、まさかそんなチートな力が手に入るなんて米粒程にも思っていなかったんだからね。悪くて身体能力アップ(大人の男性くらい)で、良くても治癒力アップくらいかなぁ~って。
それが、まさかの“想像具現”だよ!?
頭の中で想像したあらゆる事象が創造される――これをチートと呼ばずして何を呼ぶんだ!!っていう話で。正しく予想外の結果だったのですよ。
「でもまぁ、これで……」
――予定よりも早く逃げ出せる!!
思わずグッと手に力が入る。
どんな異能を得たとしても、時期をみたらすぐにでも抜け出そうと目論んでいた矢先に、このチート能力。これはもう、今すぐにでも逃げなさいという神様の思し召しに違いない!!……多分!
これで逃げる方法についての心配事は無くなったに等しい。だって使い方次第では何でも有りの能力だからね!ここ大事だよ!!
ということで、最低限の常識を学んだらすぐにでもトンズラしよう。
あ、でも異能の練習とかもしとかなくちゃなぁ…。
「う~ん……」
よっこらせっと。
何ともオッサン臭い掛け声で立ち上がり、あの薄暗い廊下に足を向けながら、依璃亜は小さく息をついた。
「それよりも、あの俺様皇帝に何てごまかそうかなぁ……」
何って?もちろん授かった異能のことだよ。
自分の手札を正直に教えるなんて、馬鹿のすることだよ。ましてやこっちは逃亡者になる予定だし。
強大な力を有することがバレた暁には、あの皇帝のことだし、絶対都合良く利用されてポイッが落ちだよね。逃げ出さないように監視を強化されたりしたら堪ったもんじゃないし!
――ということで、異能は軽んじられない程度のそこそこのレベルのものにしといて、かつ、「逃げ出すなんてとんでもありませんっ」っていうくらい従順で大人しい性格を演じよう!!
そして逃げ出した暁には「はっ、バーカ」って笑ってやるんだ!!
精々後悔するがよい!!己が散々見下した人間に出し抜かれる屈辱を味わうがよい!!
…っと危ない危ない。ちょっと興奮し過ぎた。
いや、別にあの糞生意気な俺様皇帝の人を見下した態度に顔面殴りたいほど心底苛立ってるわけじゃありませんから、ね?
ただちょっと、そろそろヤバいかなぁ~なんて思ってるだけデスカラ。……なんて、ねぇ……?
「ふふふふふ………」
不気味な笑みを浮かべながら、依璃亜は出口に向かって足を運んだ。――扉の向こう側にいるであろう、あの顔が悔しげに歪む光景を想像しながら。