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Love*escape  作者:
ようこそ正妃様
5/8

4

カチャッ……コツ………。



…お、重いです…。何がって?……この空気がですよ!


鋭い視線とできるだけ目を合わせないように、促されるまま食事の席についたのが数分前。最初は運ばれてくる色とりどりの食事に目を輝かせていたんだけど、如何せん、持ち前のスルースキルがもたなかったみたいで。入室以来絶え間無く向けられる無数の視線――特に、長い机越しに向かい合っている皇帝様からのものに、もう手がブルブルですよ。


え?これ何てプレイ?

生まれてこの方十五年、ここまでの羞恥プレイは初めてですよ。


フフフフ……と心の中で涙を流していると、鋭い視線の主がスッと目を細めた。



「……娘」


「はひぃ…!」



変な声が出た…!?

やばい、今すぐ逃げ出したい。



「……すでに聞いておるかもしれないが、お前はこの俺の正妃になるべくこの地に喚ばれた。

お前のような子供に任せるには大役過ぎるかも知れないが、如何せん、召喚は生涯ただ一度のみと掟で決まっていてな。非常に不本意だが仕方あるまい。お前も俺に従い、きちんと正妃の役目を果たすことだ。

俺の手を煩わせるなよ」



……。

何だろう?この胸の奥底から湧き出てくる激しい苛立ちは。


殺っちゃってもいいかな?私にはこの怒りをぶつける権利、十分にあると思いませんか?


……いやいや落ち着け自分!この状況を思い出せ!

殴るのはもう少し情報を手に入れてからでも遅くないではないかっ!!



テーブルの下で僅かに拳を奮わせながら、無表情のまま感情を押し込める。

そんな私を見て、皇帝はフンッと軽く見下した後、更に視線を鋭くさせた。



「フンッ……、面白みに欠ける娘だな。まぁ、よい。

この後は、お前の異能を調べる。まぁ、余り期待はしていないが、精々頑張るんだな」


「……異能って何ですか?」


「そんなことも知らないのか?

異能というのは、喚ばれた娘に備わる能力のことだ。個々によって様々だが、どの能力も国の発展に大いに貢献してくれた。

お前もそうなるように精進するんだな」


「…分かりました」



え?素直だって?いえいえ、表に出さないだけで、腸が煮え返っていますよ。本当に。


しかし“異能”か…。

自分では今までと変わった感じがしないんだけど、本当にそんなものが使えるようになったのかな?

異世界に渡り、力を得る……マジでテンプレ展開。まぁ嬉しいんだけどね。とりあえず生活の役に立つ能力だといいな。何故って?……早くこんな場所から逃げ出す為にですよ……!!



「そろそろ行くぞ」



私が食べ終わったのを見計らってか、皇帝が席を立った。何だか偉そうに指図されるのが癪に障るが、まぁいいや。いくら子供に見えようが、私も今年で立派な十六歳、大人だもんねっ!ここは一つ、私が大人になろうじゃないか!!


フハハハ…と心の中で笑いながら、私も席を立ち皇帝の後を追って部屋を出た。

皇帝、侍女、私の微妙なメンバーで長い廊下を歩くこと数分、私達はお城の最奥部近くに構えている扉の内の一つの前に佇んでいる。視界の端に映る、更に奥にある扉――昨日お世話になった“召喚の間”に一度恨めしい視線を向けるが、すぐに戻す。


今はこっちに意識を向けよう。

よしっ!と力んでいると、目の前の皇帝が何故か憐れみを含んだ視線をこちらに向けていた。



「…気持ちは分からんでもないが、今更何をしても結果は変わらんと思うぞ。余計なことは考えずに、さっさと終わらせてくるんだな」



なっ……!?

何て失礼なやつだ!そしてやめろおぉぉ!そんな残念な子を見るような目を向けるんじゃないっ!!



「此処からはお前一人しか行けない。だからよく聞いておけよ。

入って真っ直ぐ行くと、少し開けた場所に出る。その場所の中央に淡く光る鉱物が置かれている。それに触れると、自然と自分の異能が分かるらしい。

俺もこの中には入ったことはないが、まぁお前でも何とかなるだろう。早く終わらせろよ。俺を待たせるな」


「…用事があるなら、お帰りになってもよろしいですが。後のことは侍女の方々にお聞きしますから」


「そうしたいことは山々なんだがな、如何せん、これも掟で決められたことでな。正妃の能力を真っ先に認知しておらねばならないのだ。

だからお前はさっさと行ってこい。俺はこんなことで時間を取らせたくないんでな」


「…分かりました」



ご説明アリガトウゴザイマス。

私は掟とかどうでもいいんだけどね。寧ろどうぞお帰り下さいませ、だよ。てか寧ろ帰れっ!私の前から今すぐに消え去れーーっ!!


…っていう心の声は一先ず置いといて、今はこっちに集中しよう。

ゴクリと息を呑んで、皇帝達に背を向けて私は扉の先に一歩足を踏み入れた。

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