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「まぁ、よくお似合いですわ、イリア様!!」
「とても麗しいお姿ですわ!!」
「………それは、よかったですね」
目を輝かしてこちらを見遣る双子とは対照的にグッタリとうなだれる私…。
ナニコレ?新たなイジメですか…?
目の前で佇むもう一人の私に、ハァ…と息をつく。
結論から言うと、ぶっちゃけ似合わない。てかむしろ、そこで騒いでる双子の方がよっぽど似合うと思うんだけど。
チラリともう一度鏡の中を覗く。
淡いピンク色のドレスに身を包んだ私が、同じようにこちらに目を向ける。少し大人っぽく見えるのは、双子に施された化粧のおかげかな?でも短いボブが何だかちぐはぐな感じ。やっぱりドレスって言ったらロングヘアーだよね。うん、絶対。てかそれ以外認めない。
でもこのボブだってかなり気に入ってるんだよ?『プチ高校デビュー♪』とか何とか言って、入学式前日にバッサリ切っちゃったんだよな。昨日までは軽くなった頭にテンション上がってたのに…。今は寧ろ切る前に戻れって感じ。……何か複雑。
とまぁ、こんな感じで自分に向かって遠い目をしていた私に、「そろそろ時間でございます」という、双子の声がかけられる。
にこやかな表情を浮かべる双子に憂鬱そうな表情で返す。
「……今から行くのって朝食だよね?ドレス着る要素かけらもないよね?」
「そんなことはございません。王宮の中とはいえ、いつも人の目がある所ではきちんと身だしなみを整えることは、貴婦人のマナーですわ」
「いやいやいや!!私、ただの一般庶民だよ!?
てか朝食って一人じゃないの!?だったら余計に無理!他の服を用意してよ!」
こんな情けない姿、他人に見せてたまるものか……!!
しかし、そんな望みは一瞬で崩れ去ることになる。
「御召し物はそのドレスしかご用意されておりません。それが嫌とおっしゃるならば……裸になって戴くしかありませんね?あ、もちろん先程着ていらっしゃった御召し物はございませんよ?もう係りの者にお渡し致しましたから。――ドレスと裸、どちらを希望なさりますか?」
「すみません!私が間違っておりました!!
このドレス、とても素敵だと思います!!」
この双子の恐ろしさを忘れてた数秒前の自分を殴りたいよ!
「えぇ、それならよろしいんですよ?
ではご案内致します」
笑顔の隙に垣間見た黒い何かに、戦慄が走る。
「はは、は…」と乾いた笑みを浮かべながら、私はその背中を追った。
どうか何事もなく無事に終わりますように、と心の底から願いながら。
* * *
「こちらがお食事をなさるお部屋でございます」
「ここですか…」
歩くこと十数分、ようやく着いた場所にはドンッと構えた大きな扉が一つ。
…うん、何だか嫌な予感しかしないんだけど。
なんて若干現実逃避しそうになった私の意識を繋ぎ止めたのは、「失礼致します。正妃様をお連れ致しました」という高い声とノックの音で。
「入れ」
ああ、やっぱりね!!
いや分かってたんだけどね。何となく認めたくなかったんですよ。
扉の先では、全ての諸悪の根源である皇帝様が鋭い眼差しをこちらに向けていた。