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暖かい朝の日差しが照らされる中、小鳥のさえずりが響く。
そんな穏やかな景色にポツリと私の声が落ちた。
「……ありえない」
…何がありえないかって?
まずこの状況。
そっと周囲を見渡す。
落ち着いた純白の壁紙の部屋……しかも、体育館並の広さ。その内に、細かい模様が端々に刻まれた机や椅子、ソファー、ベッド、ドレッサー……等など。様々で、かつ共通の趣を示している。それらが、綺麗に部屋の中に納まっている。
そして、大人が五人くらい寝れるのでは?と疑問を抱かせるほど大きくて広い、レースの天蓋付きの、これまた純白で覆われたベッドの上で佇む私…。
…うん、どう見ても私の部屋じゃないしね。
で、何より………この意味不明な状況でいつも通りにぐっすり眠れた自分自身が一番ありえないっ……!!
だってさ、このベッド見てよ!?この掴めないような柔らかさで高級感溢れるベッドだよ!?眠くなっちゃうじゃん!?
……はい、すみません。ちょっと調子に乗ってました。
いや、初めはリラックスするつもりなんて微塵もなかったんだよ?だってさぁ、意味わかんないじゃん?
侍女らしき二人に引きずられること十数分、ようやく部屋に着いたのか?と思ったら、いきなり「明日の朝お迎えに伺いますので、それまでゆるりとお過ごし下さいませ」って、返事する間もなく部屋に押し込められたんだよ!?しかもご丁寧に鍵も閉められて!
で、諦めて振り向いたら、そこは白とピンクで纏められた、可愛いながらも上品なもろ“お姫様”って感じの部屋で。
…いやぁさあ、こんな私もまだ十五だからね、あのですね、人並みの憧れはある訳ですよ。だから、女の子の夢を詰め込めたような部屋にテンションが上がったのは仕方のないことで…。
いや、ほんとすみません。だからといって全てを忘れてはしゃいだのは軽率でした。
ハァ……、とため息をつきながら目を落とす。
…何してんだろ、私。傍から見たら、ぶつぶつ独り言呟いてるただの変人だよね…。
そんな感じで何となくうなだれていた私の耳に、扉をノックする音が響いた。
「お早うございます、正妃様。起きていらっしゃるでしょうか?」
「あ、はい」
「失礼致します」
聞き覚えのある声と共に現れた姿に、「あっ」と一声上げる。
昨日の侍女さんズ……!!
そこにいたのは、昨日私を誘拐監禁(?)した二人の侍女さん。
二人とも私より少し背が高くて、茶髪茶眼のやや童顔で可愛いらしい容姿をしている。昨日は混乱していて気付かなかったけど、こうして見ると、全く同じ顔が二つ。ついでに迫力も二倍。……ぱっと見私よりも華奢なんだけど、内には凄い力を秘めてるんだよね…。……この見た目に騙されちゃダメよ!!依璃亜!!
「昨晩はゆっくりとご休憩致せましたでしょうか?」
「ええ、それはもう。自分でも信じられないくらい」
「左様でございましたか。ならば宜しかったです。
それでは、本日のご予定をお知らせ致します」
何…!?完全スルーだと!?この双子……出来るっ…!!
「本日のご予定ですが、まず、ご朝食を陛下と共にとっていただきます。その際に、今後のご予定や詳しい事情説明があるとお聞きしています。
ですので、まずは身なりを整えさせていただきます。
それと、申し遅れましたが、私は正妃様の専属侍女を承りました、姉のティナ、こちらが妹のティアです。至らない点も多くございますが、どうぞ宜しくお願い致します」
「すみませんごめんなさい。お願いですからその敬語止めて下さい」
言葉の威力ってほんと凄いね。産まれてこのかた、一般庶民で通してきたただの一日本人には、この敬語のオンパレードは最早言葉の暴力の域に達するよ…!
「そのように申されましても…、私達と正妃様とでは身分が違いますゆえ」
「…せめて“正妃様”は止めて下さい。そもそも、私は承諾した覚えは微塵もないんですが」
「承りました、正妃様。それでは、お名前を伺っても宜しいでしょうか?」
またもや見事にスルー!!……もういいや、何か疲れたし。
「…私は、玉城依璃亜と言います。依璃亜が名前の方です。とりあえず、宜しく」
「こちらこそ宜しくお願い致します、イリア様、…で宜しいでしょうか?
では、まずはこちらの御召し物にお着替え致しましょう」
「あ、はい。着替えはどれですか?」
…何か嫌な予感がするのは私だけでしょうか?
「ティア」
「はい」
ニコリと今まで一歩後ろで佇んでいたティアが、一歩前に出て腕をそっと差し出す。
「こちらが今日の御召し物でございます。では、失礼致します」
「ちょっ…!?何するんですか!?」
躊躇なくティナとティアの手が制服に触れ、勢いよく剥がしにかかる。
やっぱり嫌な予感がしたと思ったよ!全く躊躇しないなんて……なんて恐ろしい双子っ!!
「何、と申されましても…、お着替えのお手伝いをさせていただくつもりでしたのですが……」
「着替えくらい一人で出来ます!」
「…これでもですか?」
ピラリと広げられたそれは、薄いピンクの上品なドレスで……――って“ドレス”!?
「これでも、本当にお一人で出来るのでしょうか?」
ニコリと、音が出そうな笑顔が二つ。
ヒクリと顔が引き攣る。
この双子……、絶対分かっててわざと言ってるな…!?
「……宜しくお願いします」
うなだれた先の二つの笑顔に、やはり侮れない双子だと再確認したのだった。