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事の始まりは、高校の入学式の帰り道。
「うわぁ~~、桜綺麗~…。
入学式の日に咲いてるなんて、超ラッキー♪」
真新しい紺のブレザーに身を包み、私――玉城依璃亜は呟いた。
今日は高校の入学式。この高校は偏差値が高い進学校だがそのわりには自由な校風であり、何より制服が可愛いことで地元でも有名な学校だった。
だから、勿論倍率も高い訳で……。この学校に入るために、どれだけ努力してきたことかっ……!!
……あ、何か泣けてきた。
――とまぁそんな訳で、私はこの日をずっと楽しみに待っていた。ニヤける顔を止められずに上機嫌で足を運ぶ。
《…みつ…た………ま…》
ん……?今、何か聞こえた……?
ふと立ち止まり辺りを見渡す。春風により散る桜。その横で流れる小川のせせらぎ。そして、人気のない小道。―――ふむ、特に変化はないな。空耳…?……受験勉強での疲れがまだ残ってるのかな……?
《……みつ…た……せ…さま……》
……空耳じゃないぃぃっ!!
恐る恐る後ろを振り向くが、やはり誰もいない。………幽霊?
「ひいぃぃぃい――!!」
ヤバイヤバイヤバイよおぉ!!
何!?マジで幽霊!?人外?人外の生き物(?)がついてるっていうのっっ!!?
「私が何をしたっていーうーのー!?」
逃げてます。ええ、それはもう全速力で。多分、今自分の中では新記録が叩き出されてるよ……!
《―――見つけた、我等の正妃様―――》
「ひっ……!?」
突然、大量の光に包まれる。その白い光に咄嗟に目を閉じると、次の瞬間、浮遊感を感じたと同時に意識は暗転した。
* * *
ドスッ……!
「いっ……!!」
…痛い。何コレ?浮遊感を感じたと思ったら、次は落下デスカ?マジありえない。
思ったよりお尻が痛くないから、そんなに高い所から落ちた訳じゃないだろうけど。
「…オイ」
あーでもやっぱ痛いかも。何故……?――ハッ!!もしかして、…太った?その分だけ重量に負荷がかかったのかっ…!?
「…オイ、小娘」
あれか……!?おやつに食べたプリンかっ!?
あれのせいなのか……!!
「…いい加減にしろよ、小娘」
「痛っ……!?」
突然、頭に激痛を感じる。反射的に頭を上げると、そこには冷たい視線をこちらに向ける、金髪蒼眼の美形の姿が。
「……誰デスカ?」
というか手を離せ。地味に痛いんですけどっ!!
そんな私の心の叫びを知らずか、その男は私の顔をじっと見つめ、不愉快そうに眉を寄せた。そして、パッと私の頭から手を離すと、呆然とそちらを見遣る私を睨みつけてから後ろを向いた。
「……オイ、魔術師長。これは一体どういうことだ?体格から幼いとは思っていたが…、これでは子供ではないか?
こんな子供が正妃などと……。冗談じゃないぞ…!?」
怒りをあらわにしながら、男は傍らにいる男性に詰め寄る。
怒りの矛先を向けられた、身体を覆う白いローブを羽織った年配の男性は、顔を青ざめさせながら戸惑いの表情を浮かべていた。そして、「恐れながら」と零す。
「召喚の条件は“多くの魔力を有していること”“子供を産める、若く美しい娘であること”“皇帝様と相性の良い娘であること”というものでした。ですので、適齢期でない子供が喚ばれるということは無いはずなのですが…」
「しかし、あれはどう見ても十二、三程ではないか!?」
「それはっ……」
二人の間で白熱とした言い合いが展開されている。それを眺めながら、私はとりあえず今の状況を整理してみた。
あの人達の話を聞く限りでは、私はあの人達に召喚されたらしい。
そして、あの偉そうな金髪蒼眼の男が皇帝様。つまり一番偉い人ってことかな?で、その皇帝様に詰め寄られているのが、魔術師長。…私を喚んだ人?多分。
そして、私は皇帝様の正妃様になるべく異世界に召喚された、と。
――――“異世界ネタ”キター……!!
皇帝の正妃様になるために召喚なんて、小説の中だけの話だと思ってたよ…!!まさか自分の身に起こるなんて……!!
しかも、日本人が若く見られるって本当なんだね…十二、三歳はちょっと傷つくけど……、私、今年で十六なんですけども。
ってか、そこの二人!!私を無視して話を進めるんじゃなあぁぁぁああいっ!!!
「やり直せっ!!」
「し…しかし…、正妃様のご召喚は生涯ただ一度だけと、掟で決まっていらっしゃいます!」
「…そんなことは分かっておる!!」
おぉぅ……。一度だけなのか…。それって喚んだ人と相性最悪だったら終わりだよね。そうなったら喚ばれた人かわいそう。だって帰れないんだもんね。
……ん?っていうことは、私も戻れないのか?
「…チッ…!!仕方ない。――オイ、娘。名は何という?」
…え!?ここで私に振るの?今まで散々無視しといて!?
「……人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀だと思うのですが」
てか、こっちは来たくもない喚び出しに不本意ながら応じてしまった訳だけど、一応客人だよね!?罵声は疎か命令される筋合いはないんですけど!?
だけど、それは皇帝様の癇に障った訳で。
「何だと…!?貴様、誰に向かってそんな口をきいていると思っているんだ!!
……チッ、もうよい!誰か、この娘を部屋に連れていけ!!」
「失礼致します」という声と共に、ものすごい力で二人の侍女に引っ張られていく私。
………一体、私が何したって言うのよっ…!!