予知夢に目覚めた私を神様が救ってくれるお話
お久しぶりの短編でございます!
久々なのでお手柔らかに……(引け腰)。
ワタクシの短編にしては長めなので、ぜひたっぷりお楽しみください!
気が付くと、私は宙に浮いていた。ぼーっとする頭のままで周りを見てみると、大きな黒い雲に囲まれている。下を見ると、いくつも重なる線路。そこに同時にやってくる、反対方向からの特急電車。カーブを曲がったところで大きく脱線した片方の電車に、もう片方の電車が勢いよく突っ込む。横転する電車。阿鼻叫喚が遠く聞こえてくるところで、私は目を覚ました。
「夢……か。なんであんな不吉な夢見たんだろう?」
夢は頭の中の情報を整理するためのもの。私は高校にも徒歩で通ってるし、普段の生活で電車を使うことは無い。ストレスが溜まっているわけでもないし、本当になんであんな夢を見たのかな……?
「ま、いいや。とりあえず今日も学校行かないと!」
制服に着替えて薄くメイクをし、髪を整えた私は、ローファーを履いて慌ただしく家を出た。
家から15分ほどかかる高校までの道は、平坦だけど信号が多い。タイミングが悪いとなかなか渡れなくて、移動時間が結構変わることがある。だからこそ早めに家を出ないとね!
急いで朝の準備をしたおかげか、赤信号に捕まっても心に余裕がある。前を通り過ぎる車をぼーっと眺めていると、往来する車の間を若い男が歩いているのが見えた。……え? 今赤信号だし、めちゃくちゃ車通ってるよね!? なんであの人堂々と横断歩道渡ってるの!? 轢かれるよ!?
「ちょ、お兄さん! 今赤ですよ! 危ないです!」
「ああ、大丈夫大丈夫! 僕轢かれるとか無いから!」
「無いわけないじゃないですか! ちょっと早く渡りきるか戻るかしてください!」
「大丈夫さ! 心配しすぎだよもう君ったら! この通り、車が猛スピードでぶつかって来ても僕はぶっごあ!」
「だから言ったのに! なんで車にぶつかりに行ったんですか!」
吹っ飛ばされた男は、空中できりもみ回転しながら道路に落ちていく。ほんとなんであの人普通に轢かれたの!? 轢かれないとか言ってたけど何の自信だったの!?
少しして信号が青に変わり、私は倒れている男に駆け寄る。
「お兄さん、大丈夫ですか!?」
「ああ……。大丈夫さ……。ただ、伝えてくれないか……? 僕は、また戻って来るって……」
「誰に伝えればいいんですか!? 私あなたと共通の知り合いいないんですけど!?」
「共通の知り合いなんて、今から増やせばいい……。ただ、それだけのこと。人生で人が人に出会う確率を上げるには、出会った人の知り合いと知り合いになる回数を増やせばいい……。簡単なことさ……」
「いや別にあなたの知り合いと知り合いになりたくないんですが!? 自ら車に轢かれに行く成人男性の知り合いとか怖すぎるでしょ!?」
「そんなことで人を判断してはいけないよ……。人には必ず、パッと見で分からない魅力がある……。それを知るために、人は人と出会うんだ。そう、まるで赤い羽根のように……」
「糸じゃなくて!? 赤い羽根は募金した時にもらえるやつでしょ!?」
「今ミャンマーでは、1日が24時間しか無いため、ハーフタイムとアディショナルタイムを設ける協議がなされているんだ……。ぜひそのために募金を……」
「しませんそんなことに! 何そのサッカーみたいな1日!?」
「ハーフタイムではミャンマー伝統の踊りを披露したいが、まだその段階には至っていない……。だから僕が落語を披露しよう。毎度バカバカしいお話をひとつ……」
「めっちゃ喋るなこの人! いいから早く事切れてよ!」
何なのこの人……。変すぎるよ! 完全に不審者だよこれ! どうしよう、とりあえず警察? でも轢かれてるしなあ……。轢かれてるけどやたら伝言頼まれるし、とりあえずそれを誰かに伝えに行った方がいいのかな?
「はあ……。とりあえず伝言の話に戻りますけど、誰に伝えればいいんですか? 必ず戻って来るでしたっけ?」
「大丈夫……。必ず伝えるべき人に会えるから……。心配しないで、僕の最後の言葉を伝えに行ってくれ……」
「いやだから、誰に伝えればいいんですかって聞いてるでしょ! 話通じない人だな!」
「そうだ、彼女に渡すものがあるんだ……。これを渡してくれ……」
「だから彼女って誰なんですか! 何ですかこれ……?」
「転出届だ……」
「転出届じゃないですか! なんでこれ私に託すんですか! 自分で出してくださいよ!」
「これを豊島区役所にいる彼女に渡して、必ず戻って来ると伝える……。それが、君に託したい使命だよ」
「豊島区住みなんだ! いやそれ役所の人に転出届出すだけでしょ!?」
「そんなことはないさ……。ちゃんと、また必ずここに戻って来ると伝えるからね……」
「1回豊島区から出るけどまた豊島区に戻るって意味ですか!? それ役所の人に伝えても何の意味も持たないでしょ!」
「単身赴任で1ヶ月大宮に住むことになったんだ……」
「じゃあ転出届要らないですよ! あと大宮なら通ってくださいよ! 行けるでしょ豊島区住みなら!」
「ああ、そう言えば君に転出届を託すなら、委任状がいるね。今書くから待っておくれ」
「要らないです! 行かないから!」
変な人だやっぱり……。なんでこの人は転出届を私に託そうとしてるの!? それ絶命直前にやること!? 住所大宮じゃなくて地獄何丁目とかになるでしょ!
いや勝手に地獄って決めつけてるけど、多分地獄でしょこの人なら。
そんなことを考えてる間に、彼は何とも無かったかのように起き上がり、私の方をじっと見る。起きられるんじゃん! 何最期みたいな雰囲気出してるの!?
「Zii……」
「じーってZの表記で言う人初めて見た! 何なんですか!?」
「君か……。家まで行く予定だったのに、こんなところで出会うとはね」
「え、なんですか気持ち悪い。家まで来るつもりだったんですか!?」
「そりゃね。君に会うためなら家ぐらい行くさ」
「初対面の人にそんなこと言われるんだ! とりあえず警察呼ぼうかな!」
「ああ、勘違いしないでおくれよ。僕は君に伝えないといけないことがあるんだ」
「伝えないといけないこと多いなこの人! もうスっと言ってくださいよめんどくさい!」
「ところで君、休みの日は何のモバゲーをして過ごしてるんだい?」
「モバゲーしてないです! してる人今いないでしょ! あとこのタイミングで雑談振らないでもらえます!?」
男は1度大きく息を吸うと、また私の目をじっと見て口を開く。
「君……超能力に目覚めたよな?」
「何言ってるんですかまた! くだらないことばっか言って、何のつもりですか?」
「いや、これは大真面目さ。君は超能力に目覚めた。予知夢にね」
「予知夢……? え、まさか……」
私は今朝見た不吉な夢を思い出す。大きな脱線事故。あれがまさか、予知夢だって言うの……?
狼狽える私の様子を見て、彼は数回頷いて近づいてくる。
「ようやく事の重大さに気づいてもらえたようだね。そう、君は予知してしまったんだ。その不吉な事件をね」
「やっぱり……。でも、なんであなたがそんなことを? あなたは何者なんですか?」
「ああ、僕は君たちで言うところの神ってやつかな。名前をフランボワーズ島本っていうよ」
「胡散臭い占い師みたいな名前! 急に信用度低くなったな!」
フランボワーズ島本さんは、真剣な顔で私の方を見る。なんかそうずっと見つめられてると気まずいな……。でもそれだけ重大な事ってことだよね……。とにかく、あの予知夢を何とかできないか聞かないと!
「島本さん、あの……」
「ああ、島本じゃなくてフランボワーズ島本だよ。略して呼ぶなら不破本と呼んでくれ」
「もう変わってるじゃないですか! いやまあいいんですけど、私が見た予知夢が現実になるのを、回避する方法は無いんですか!?」
「ある。それを知りたいかい? それとも僕のストライクゾーンを知りたいかい?」
「後者はどうでもいいです! 回避する方法だけ教えてもらえます!?」
「僕のストライクゾーンは、外角が広めだよ」
「だからどうでもいいって言ったのに! ていうか本当のストライクゾーンじゃないですか! え、普段球審とかなんですか!?」
「そうだよ。独立リーグのね」
「ちゃんと球審じゃないですか! なんで片手間で神様やってるんですか!? いやいいから、回避する方法教えてくださいよ!」
「仕方ないな。僕の腕に掴まって」
そう言うと不破本さんは右腕を差し出してくる。言われるがままに不破本さんの腕を掴むと、その瞬間景色が大きく変わった。
私の周りは青1色。少し下には白いものが見える……ってこれ空じゃないの!?
「ええ!? ちょ、浮いてる!?」
「浮いてるわけではないよ。一時的に跳び上がっただけだから、いずれ落ちるよ」
「なんで跳躍なんですか! なんとかホバリングして堪えてもらえます!?」
「まあそれはいい。とにかく君、この空の景色に見覚えは?」
空……。今日見た夢も、私は空にいた。でもあの時は黒い雲に囲まれてたような……。他に見た夢って言えば、1週間ぐらい前に宙に浮かんでる焼きそばを必死で追いかけるしょうもない夢はあったけど……。あれは関係無いもんね絶対。
「うーん……。覚えがあると言えばあるんですが……」
「そう、ここは君が見た予知夢が起こる場所。これから、その予知夢を回避する。僕の力で」
そんなことができるの……? やっぱ変な人だけどちゃんと神様なんだこの人……。期待して、いいのかな?
「君はただ、ここにいてくれれば良い。僕が君の不吉な予知夢を回避して見せよう」
「分かりました……。お願いします!」
「さあ、じゃあ行くよ?」
不破本さんがそう言うと、私たちは凄いスピードで落ちて行く。え? 落ちるの!? 今!?
混乱していると、突然ブレーキがかかったように落下が止まる。
「不破本さん……? どうして止まったんです?」
「ここが、君の予知夢が起こる場所。正にその場所だ。もうすぐそれがやって来る。さあ、心を決めるんだ! 僕はアルゼンチンが優勝する方に20万円賭ける!」
「サッカー賭博やめてもらえます!? しかもワールドカップでやるとかどんだけ恥知らずなんですか!」
「ほら、来たよ」
「聞いて!?」
不破本さんが下の方を指さすが、景色は青空のまま。私が夢で見た黒雲や電車はどこにも見当たらない。本当にあの脱線事故は起こるの……?
すると少しして、白い雲が少しずつ動き出した。不破本さんの方を見ると、キリッとした目で雲を見つめている。やっぱり、脱線事故は起こるんだ……。でも、止めてくれるんだよね!? そうなんだよね!?
「来たぞ! 避けろ!」
不破本さんの声と共に、腕を強く引っ張られる。すると私たちがさっきまでいたところから、何かが凄いスピードで飛び出した。
何あれ……? 何か四角いものだった気が……。
「さあ、あとは仕上げだ!」
不破本さんの方を見ると、何かを持って低く構えている。あれは何? さっきの四角い何かを壊すとか?
少しするとさっきの四角いものが落ちてくる。不破本さんはそれを見ると、四角いものの方へ飛び出した。
「不破本さん!」
「任せておけ! 僕が、必ずこいつを何とかしてやる!」
力強い声と共に、不破本さんは四角いものに飛びつき、そのままこっちに落ちてくる。
私の目の前で止まった不破本さんが抱えていたのは、プラスチックの容器に入った茶色く香ばしい麺。青のりやかつお節がかかっていて、美味しそうな匂いを漂わせている。
「……焼きそばじゃないですか!」
「うん? そうだが?」
「『そうだが?』じゃないでしょ! なんで焼きそばが雲を突っ切って飛んで来るんですか!」
「いやだって、君が予知夢で見たから」
「そっち!? あのしょうもない夢の方!?」
「君が見た予知夢では、焼きそばにマヨネーズがかかっていなかった。だから僕が、マヨネーズをかけて渡してあげようと」
「要らない気遣い! 別にマヨネーズかかってなくても気にしないんですけど!」
「え? ああ、塩焼きそば派かい?」
「そういうことじゃないです! 焼きそばはどうでもいいんですってば!」
私の叫びを気にすることなく、不破本さんは焼きそばにマヨネーズをかけ、そのまま口に運ぶ。いやあんたが食べるんかい!
「なーんだ……。じゃああの脱線事故はただの夢で、何も起こらないんだね」
「ああ、脱線事故は明日起こるよ。雨予報だっただろう?」
「先に言ってよ! そっちの方が一大事でしょ!」
「そうだね。脱線事故が起こる前に、豊島区役所に着いていないと」
「だから転出届は出さなくていいんですよ! 1ヶ月の単身赴任でしょ!?」
「ああ、それとは別にマイナンバーカードの暗証番号を設定し直さないと」
「なんでさっきから神様なのに役所で手続きしようとしてるの!? ああもう、悪夢なら覚めて!!」
明日の脱線事故を防ぐために、不破本さんは明日も来るらしい。はあ……。もう起きないでおこうかな。




