消師(けし)ーステキナコイノワスレカター
「なんで、なんで別れなきゃいけないの?」
「別れるんじゃなくて、距離を置くってことだよ」
「でもそれって会えなくなるってことだよね?」
「そうだけど…」良太は困った顔をして視線を地面に落とした。
「だってこれまでずっと二人でデビューの日を夢見てきたじゃん。やっとデビューが決まったらこれなの?」
「だから、事務所の方針なんだってば。アイドルグループがデビューするのに彼女いたらダメなんだって」
「それはわかるよ、わかってた。でも別れなくてもいいじゃない」
「だから、別れるんじゃないって!コールドスリープだよ、そうそうコールドスリープ!」良太はいい単語を見つけたとばかりに笑顔を見せた。この顔なんだよね、私が好きになった決め手。特に瞳。自分の夢を語る時のキラキラした瞳。良太がデビューしたら、この笑顔と瞳に魅了され、ファンが多くつくことだろう。ああ、私しか知らない良太が世間にさらされる。良太が私の隣から離れていく…。わかっていたけどもどかしくてやりきれない気持ち。
「なんでもっと早く言ってくれなかったの?もっと前から事務所に言われてたんじゃないの?」
「言おうとしたよ、でも言えなくて今日まできてしまった。それはごめん。デビュー決まって汐里が喜んでる姿見たら言えなくて」
「私だって考える時間が欲しいよ。何かいい方法あるかもしれないし」良太が一瞬「ウザっ」という顔をしたのを私は見逃さなかった。最近妙によそよそしかったり、うわの空で会話が続かなかったりが多かった。きっと何かあるんだろうなと思ってた。それくらい気づいてた。でも「何かあった?」と聞くのが怖かった。
「ごめん、本当にムリなんだ。汐里にはここまで支えてもらったけど、俺のためだと思ってくれよ、な、頼む」色々な感情が混ざり合って何を言っていいのかわからない。
「俺に何かあったら、メンバーに迷惑がかかる。それはできない」
「だったら、連絡はしてもいいよね?」すがる私。
ポケットからスマホを取り出し、時間を確認する良太。
「ごめん、もう時間なんだ、行かないと」良太はスマホをポケットに戻し「じゃあ」と一言残し、くるりと背を向けた。
私は悟った。もうダメだ。ダメなんだと。良太の背中が遠く離れてゆく。追いかけようにも体は動かず、声をかけようにも何と言ったらいいのか?「必ずまた連絡ちょうだいね」「待ってるから」「がんばって」どれも違う。涙も出ず、「バーカ」と叫ぶこともない。
「あー何やってんだ私」とりあえず家に帰ろう。
良太の所属するダンス&ボーカルグループ「JA-ya」がテレビ生放送の音楽番組にデビューの日に初出演する。早く見たい。
横断歩道で信号待ちをしていた。青に変わると一斉に人が動いた。ふと向こうから渡ってくる人が目についた。その人は白シャツに黒ズボン、黒髪のロングヘアだった。一瞬「女の人?」と思って胸を見たが、ふくらみはない。代わりに左胸のポケットに目がいった。ポケットからハムスターが覗いていた。びっくりしてよく見るとそういう刺繡だった。思わず顔を見た。目が合った。距離は1m。吹き出しそうになるのをこらえながら、通り過ぎようとしたその時「僕が視えるの?」と声がした。
声をかけられた後、その男性(“ハムオ”と呼ぶことにする)は、くるりと向きを変え、私の隣に並び、横断歩道を渡った。
「あの…えっと…何ですか?」と訝しげに尋ねると「僕が視えるということは、君が僕を必要としているということなんだ」とハムオは言った。新しい手口の詐欺かナンパか。
「困ります」と言って走って逃げようとした時、ハムオは「リョウタ」と言った。私は思わず「良太の知り合いですか?」と聞いた。ハムオはイエスorノーではなく「リョウタのことで何か悩んでることがあるんだろ?話を聞くよ。ちょうどこの近くに行きつけの店があるんだ」と言った。いつもは絶対にこんな誘いには乗らないんだけど、まだ明るいし周りに人もいる。危ないと思ったらすぐ逃げればいい。良太を知っている人に、この胸のモヤモヤを吐き出して話を聞いてほしい方が勝った。それにそれに…刺繍のハムスターが少し動いたように見えたのだ。
というわけで路地を入った喫茶店についた。カウベルが心地よく鳴り響く。カウンターの向こうの若いマスターが「いらっしゃいませ」と言った。昭和レトロな雰囲気。客は数人いたが、こちらを気にすることもなく、スマホを見る者、本を読む者、小さな声で会話する二人組等、それぞれの時間を過ごしていた。ハムオは自分の席と決まっているかのように一番奥の4人席に腰をおろした。それも壁を背にするソファー席の方。女子をそこに座らせて、男性は手前の椅子に座るのが普通なんじゃないかと思ったけれど、奥に座らせる方が逃げにくくなるから、あえて「そんなつもりはないですよ」というメッセージなのかも。その方が都合がいい。この空間にいる全ての人たちがグルで、私を襲う可能性がないとは限らない。気を緩めるなと自分に言い聞かせた。
ハムオは「何にする?」と聞いてきたので、「お水を」と答えた。ハムオは「オレンジジュース飲めるよね?」と言い、私が「いりません」と言ったにもかかわらず、お水を持ってきたマスターに注文しようとしたので、私は「レモンスカッシュください」と言った。
沈黙―この空気ダメだ。どこを見ていいのかわからない。ああ、どうしよう、私から話しかけていいのだろうか?ノコノコついてきた私を、ハムオはどう思っているのだろう。良太のことで悩んでるの?って聞いてきたけど、この人良太とどういう知り合い?芸能関係の人?友達にしては歳が上そうだし、ああ後悔しても遅い。お水が入ったグラスを眺めていたら、コーヒーとレスカが運ばれてきた。
ハムオが沈黙を破った。「僕は孔堂透。君、名前は?」
「え、はい、前田汐里といいます」つられて本名を言ってしまった。それもフルネームで。
「あの良太とはどういう知り合いですか?」
「僕、知り合いだって言ったっけ?」
「いえ、でも良太のこと知ってるんですよね?」
「いや、リョウタのことで悩んでることがあるみたいだから話を聞くよと言ったんだが」
「待って、良太と知り合いじゃないんですか?」どういうこと?理解できない。
「僕は負の感情を持っている人がわかるんだ。それを読み取るというか」
「…」
「理解できなくてもいいよ。そういう反応をされるのは慣れている。君が信じらないのも無理もない。怪しがられても仕方がない」
「か、帰ります」私どうかしてた。こんなのに引っかかってしまった。飲み物代を払うために、カバンの中の財布を探したが、意識が逃げることに向いてしまって、自分が何をしているかわからない。
「マエダさん落ち着いて。帰るのは自由だけど、僕が視えたということは、君が僕を必要としているということなんだ」その時一瞬、ハムオの胸ポケットのハムスターの刺繍が動いた。目を見開きかたっまている私にハムオは言った。
「ねえ、君とリョウタのこと、僕に話してみないか?」
「私はダンススクールに通っていて、そこで良太と出会いました」
私より良太が5つ年下だということ。良太はめちゃくちゃダンスが上手くて、ダンスグループの一員としてデビューするのが夢だったということ。私は才能が無いと気づいて途中でダンスを辞めたこと。良太はオーディションを受けては落ちてを繰り返し、そこを私が応援して支えたことで、付き合い始めたこと。そしてとうとうJA-yaのメンバーとしてデビューが決まったこと。
そして今日がデビューの日で、初仕事がテレビの音楽番組の出演であること。先ほど事務所から交際禁止令が出たから、距離を置きたいと言われたこと。
「でもそれって結局は別れたいって言われたのと同じことだと思うんですよね」喉が渇いた私は目の前のレスカをちうちうと飲んだ。美味しい。ハムオは途中で適度に相槌をしながら聞いてくれた。突然声をかけられて、良太の話を聞かせてと言われ、長々と話してしまったけれど、少し落ち着いてきた。
「距離を置きたい」と言われた時点で別れを受け入れようとしていたと思う。決心をするには未練があった。
レスカの中のサクランボの弦をストローの先の穴に差し込んサクランボを持ち上げた。実に近い弦を持ち、ストローから外して実を食べた。ハムオは私のその一連の動作を興味深く見ていた。
「良太はコーヒーが苦手で、チェーン店のコーヒー屋さんには入らずいつも喫茶店でした。そしていつも注文するのはレスカでこうやって器用にサクランボを取って食べていました。私も今のクドウさんのようにずっとグラスの中のサクランボを見ていました。グラスに直接手を突っ込んで取るのって抵抗あるので、こうやって取るとスマートですよね。良太の真似をしてみました。結構うまくできました」
涙がつーと流れた。笑おうとしたけれど、次から次から涙があふれては頬を伝って落ちた。
「うっ、うぐ、ふず、ぐず、う、うわーん」両手で顔を覆ってしゃくりあげて泣いた。
「すみません、私…」
「いや、僕の方こそ泣かせるつもりはなかったんだ。申し訳ない」ハムオは頭を下げた。そして「僕が君に視えるということは、君が僕を必要としているんだと言ったよね。僕が君の気持ちを楽にしてあげることができるかもと言ったら信じるかい?」
「どういうことですか?」
「君はリョウタとのことどうしたいと考えてるの?」
「どうって、別れたくないって思っていたけど」
「思っていたけど?」
「今、クドウさんにお話しして、良太のために身を引くのがいいと思うようになりました。私、待つなんて多分できない。本当に待っていていいんだったら、あんなに足早に去って行ったりしないですよね。誠実さが皆無」あー、なんか腹が立ってきた。
「それだったら僕に提案させてくれないか?」
「何ですか?」涙をぬぐってハムオを見た。
「君とリョウタとの記憶を消す」
「消す?」
「そう」
「どうやって?」
「それは消すって言ってくれないと言えない」
「は?なんですかそれ」笑える。
「僕はいたって真面目だよ」
「はあ」
ハムオはコーヒーを一口飲んだ。「君は、この記憶を消してしまいたい!と思ったことはないかい?」
「それはあります」
「失敗したり、恥ずかしい思いをしたり、嫌いな人にいじわるされたり、誰にでもあるよね」
「はい」
「僕にはそれができるんだ」
「はあ」この場合何と答えるのが正解なんだ?
「しかし、どんな記憶も消せるというわけではなくて」ハムオは続ける。
「例えば犯罪者が反省して後悔して罪を償ったとしてもやってしまった罪は消えない。罪を犯してしまったことを忘れられれば、楽に生きられるのにと望んだとしてもそれは一生背負っていくもので、消してしまってはいけない。逆に知人だと思って声をかけたら別人だった、プレゼンで噛んでしまったなどということは、ずっと引きずって、生きていくのに支障が出るようなことだろうか」
「はあそうですね。だったら何の記憶だったらいいんですか?」
ハムオはその質問待ってましたとばかりに「それは恋愛の記憶、まさしく今の君のことだよ」と言った。
「恋愛というものは基本登場人物は二人。喜怒哀楽・紆余曲折、それは二人しか知らない記憶であり、本人が望んで消したのならば、社会にも歴史にも影響はないと考える。どうかな?」ハムオはまた一口コーヒーを飲んだ。
「君の話を聞いて、君はもうリョウタと別れる決心がついているように思った。背中を押してくれるきっかけが欲しい、違うかい?」
確かにこのモヤモヤした気持ちに区切りがつけられるのなら、どれだけ楽だろうと思う。でも良太と過ごした日々を忘れるなんていやだ。
「ではこうしよう。今からリョウタに電話をする。そして君の思いを伝える。「いつまでも待ってるから」でもいいし、「待ってていいの?」でもいい。その反応で決めたらいいんじゃないか?」
「重すぎません?ていうか、なんでそんなことしないといけないんですか?良太は今からテレビの音楽番組に出演予定で忙しいと思うので、電話に出られないですよ」
「答えを出すきっかけを提案しているつもりなんだが。じゃあ、出なかったらこのままでいいんじゃないか?この子もそう言っている」とハムオは胸ポケットを撫でた。
「!」と思い胸ポケットを見たら、刺繍は消えポケットが膨らんでゴソゴソと動いている。何?手品?ハンドパワー?なんだかわからないけど、かけてみてもいい気がしてきた。
「わかりました、電話します」スマホを出すと良太と私の写真。LINEから良太をタップする。LINE特有の呼び出し音が続く。
「出ないの?」と聞かれうなづく私。タップして切った。
「リハとかで忙しいんだと思います」良太が出なかったことにホッとした。すると伏せていたスマホが鳴った。慌てて手に取ると良太からの着信だった。
「もしもし」
「あなた汐里さん?」この声聞いたことがある。マネージャーの吉住さんだ。
「はい、そうですけど」
「今、リョータ電話に出られないんです。急ぎだったら伝えますけど」ケンのある言い方。
「いえ、あの、すみません。特には…」
「そうですか、では。あっちょっと待ってください。戻ってきたわ」
「リョータ、汐里さんから電話だけど」
「え?マジ?」電話の向こうに聞こえる良太の声。
「おい、リョータ、お前別れたんじゃなかったのかよ」この声はリーダーのヒロイチさんだ。
「言った言った、さっき言った」
「じゃあなんでかかってくんだよ」
「知るかよ!」良太怒ってる。
「お前のことだから遠回しに言ったんじゃねーの。こういうことははっきり言わないとわからなんだよ」「こんなにわかってもらえないもんかな?」
「吉住さんから言ってもらったら?」この声はJA-yaのリアンて子だ。
「ということなんですが」吉住さんの声。私は赤い終了ボタンをタップした。私の知ってる良太ではなくなってしまった。違う世界の人になってしまったんだ。
「私、良太との記憶消します。消してください」悲しいけどこの悔しさを含めて忘れたい。
「了解」ハムオは言った。
「これからやる儀式で君の中のリョウタとの記憶を消す。そして僕と会って記憶を消したことも忘れる」「はい」
「しかし、100%完全に忘れることはまれで、おかしいなと整合性が取れない場面に出くわすことがある。その時は深く考えずに流してほしい」
「はい」
どこからともなくB5サイズほどの紙を取り出し、「この上に両手のひらを乗せて」と言った。私は手形を押すように両手を乗せた。
ハムオは「いいかい、やり方はこうだ。目を閉じてリョウタとの記憶をできる限り思い出して手のひらを通じて紙に込めるんだ。一切合切。僕がいいよと声をかけるまでそうしていて」
「はい」
「いいんだね」
「はい」
「では始めよう」私は大きく息を吸って吐いた。そして目を閉じた。
良太の顔・声・仕草・思い出の場所。過ごした時間を一つずつ丁寧に思い出し、いとおしみ、手のひらに込める。楽しい思い出の時は脳内がピンクや黄色で、手のひらが温かく感じる。うれしい時は赤で、悲しい時は青、ケンカしたときは黒で冷たい。
ああ、走馬灯のように頭の中に流れ、先細りになって、紙に取り込まれていく感じ。
「目を開けていいよ」ハムオの声がした。
私の目に入ってきたのは紙の真ん中に浮かび上がった変な模様。こんなの初めて見る。
「次はこれ」ハムオが渡してきたものは透明な消しゴムだった。なんだか消えにくそうな消しゴム。
「この消しゴムで、この模様を消すんだ。この模様は君の記憶だ。「忘れろ!」「消えろ消えろ!」と念じながら集中して消してほしい。決して言葉は発してはいけない。いいね?」私はこくんと頷いた。
紙に向き合い深呼吸をした。透明な消しゴムは紙との相性がいいのかスルスルと模様を消していく。
「ありがとう良太。さよなら良太。消えろ消えろ消えろ消えろ。バイバイ」私は消しゴムを置いた。
爽快感。模様は消え、紙の上に透明な消しカスが残った。
ハムオは小指ほどの小瓶を取り出し、消しカスを入れコルクの栓をした。
「これで終わりだ。この店を出ると、君の良太との記憶は消えている。そして僕のことも記憶を消したことも全て忘れている」
「はい、わかりました」私はカバンを持って「なんだかよくわからないけど、ありがとうございました」と言った。
店を出た瞬間、外の光が眩しく脳を突き刺した。
「おや」透は眉をひそめた。
「ルル見てごらん、紙にまだ模様が残っている。ああ、ミスったなあ。これではきれいに忘れてないかも。まあ100%はないと保険をかけておいたし、僕には関係ないし」胸ポケットのハムスターは顔を出し鼻をぴくつかせた。
「緑、店を閉めてくれないか」カウンター内のマスターに透は言った。
「りょーかい」緑と呼ばれた若い男は入口のOPENの札を裏返した。先ほどのシオリという女性の姿勢の良い後ろ姿がドア越しに見えた。
透は店の中央に立った。店内の客が一斉に透を見た。
「ようこそみなさん、記憶のオークション会場へ!」
「今日の記憶は23歳女性、今日デビューのJA-yaのメンバーリョータとの恋の記憶だ。JA-yaが今後売れれば、価値の上がる代物だ。この中にどんなエピソードが入っているかは見てからのお楽しみ。推しの気分を味わいたい人、夢見る若い男子との恋愛をお望みの人、おススメですよ。小説のネタにもなるかもよ。どうだ、買わないか?まずは〇万円から!」透は小瓶を高く掲げた。
「あらお帰り、遅かったのね」母の声でスイッチが入った気がした。
「た、ただいま」あれ、私どこから帰ってきたんだっけ?今日何してたっけ?わからない。不思議な感覚。
「おねえちゃん遅かったじゃない、もうMUSIC DO DO 始まってるよ」と妹が言った。
「MUSIC DO DO?」私の反応を見て「おねえちゃん、ミューDOにJA-yaが出るって楽しみにしてたじゃん」
「そうだっけ?」JA-yaってなんだ?
「ほら、JA-ya出てきたよ」私は妹の隣に座りテレビを見た。
「今日デビューしました、JA-yaです。よろしくお願いします!」男5人女2人のグループだ。
わ、一番左の人めっちゃかっこいい、笑顔がいい。
妹に言うと「おねえちゃん、このリョータが一番好きって言ってたじゃん」
「そうだっけ?」私今日初めて見たんだけど。
「なんかおねえちゃんヘン」
「ごめん」とりあえず謝った。自分でもなんかおかしい。
「それでは曲行きましょう!今日デビューのJA-yaで「ENGEL SKY」です、どうぞ!」MCが言った。JA-yaのパフォーマンスが始まった。私はリョータの笑顔に持っていかれた。
「JA-ya、デビューおめでとう!テレビ初出演おめでとう!乾杯!」事務所の牧野専務の掛け声でみんな一斉にビールを呷った。
「はあうめえ!」
「最高!」とメンバーが口々に言った。
MUSIC DO DOの生放送が無事終わり、都内のBARを借り切っての打ち上げ。リーダーのヒロイチは「俺たち7人、今日の日が迎えられたのは、社長始め吉住さんや事務所の皆さんのおかげです。もっともっと頑張って売れに売れてJA-yaを国民的グループにしたいと思っています。これからもよろしくお願いします」7人で揃って頭を下げた。
「頼むよ」と社長も上機嫌だ。吉住さんは泣いてしまって、専務が「よかったよかった」と言っている。「緊張したよね」
「最高のパフォーマンスだったよな」
「これからもがんばろうな」とメンバーが興奮気味に感想を言い合い、スタートしたJA-yaの未来を固く誓った。
本当にデビューしたんだ俺。やっと実感が湧いてきてかみしめる。うれしい、がんばるぞ俺。
でも頭をかすめるのは汐里の存在。連絡するなって言ったのによと毒づく。
スマホが気になり、「トイレ行ってくる」とみんなに告げ、トイレに入った。
洗面に男性が一人いた。個室に入って急いでLINEを立ち上げた。連絡はなかった。ホッとした。個室を出て視線を上げたら鏡越しに男と目が合った。
「僕が視えるの?」と男は言った。
なんだコイツ。
「僕が視えるということは君が僕を必要としているということなんだ。シオリのことで何か悩んでいるんだったら話を聞くよ。ちょうど近くに行きつけの店があるんだ」




