表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おじさんの仮装

作者: 島島

このお話は、三十路を迎えた「おじさん」の物語です。

でも、そのおじさんは本当は可愛いものやいい香りが大好き。

外では「おじさんらしく」振る舞っているけれど、家に帰ると仮装を脱いで、素の自分に戻ります。


鏡に映ったのは、世間が知っているおじさんではなく、内側に隠れていた可愛らしい自分。

その瞬間、ちょっと恥ずかしくて、でも不思議と幸せになる。。

吉村は三十路を迎えたおじさんだ。

鏡の前に立つたび、少しずつ変わっていく自分の身体に戸惑いを覚える。髪の艶は薄れ、肌にはうっすらと疲れが刻まれる。世間からは「おじさん」として見られ、本人もそれを否定できなくなっていた。


だが、心の奥底は違う。

吉村は昔から可愛いものが好きだった。ふわふわのぬいぐるみ、甘い香りのキャンドル、やわらかい色合いの雑貨。それらに囲まれると心が和む。しかし、社会の中で「おじさん」がそんな趣味を持っていることは、どこか許されないように感じる。だから彼は外に出れば、渋い色のスーツをまとい、口数少なく振る舞う。「おじさん」という仮装を着込んで。


世間はドライだ。おじさんに可愛さを求めない世界で、吉村は仮面を外すことなく一日を過ごす。けれど、家に帰るとその重たい衣装を脱ぐことができた。


部屋に足を踏み入れると、棚には小さなマスコット、机には花柄のマグカップ、ベッドにはリボンのついたクッション。吉村は椅子に座り、深く息をつく。職場で固めていた表情が、ゆっくりと溶けていくのを感じた。


ふと視線を上げ、鏡に自分の顔が映った。最初は無表情に見えたが、よく見ると頬がほんのり染まっている。思わず恥ずかしさに目を逸らした。だが、もう一度そっと覗くと。。


そこには、雑貨に囲まれて幸せそうに微笑む、自分が映っていた。

頬はやわらかにピンクを帯び、まるで内面の可愛らしさが滲み出たようだった。

おじさんの仮装を解いた、本当の自分。


その姿を見つめながら、吉村は静かに笑った。

淡い桃色の余韻が、心の中に広がっていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ