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2頭のユニコーンは、とうとう怪物の頭付近に到達した。
そこには、ガシムが呆然としている。
リーザは左手から鋼線を放った。
「ちぃぃぃ!」
ガシムが短剣で、刃を弾く。
リーザはユニコーンの上から跳んだ。
短刀で斬りつけるが、ガシムの短剣がまたも阻む。
「邪神様! 我を助けたまえ!」
呪術師の頼みに、虫肌が鋭い棘をリーザに伸ばした。
走り抜けた馬上から、ラファンタが投げた円盾が、それらを弾き防ぐ。
短刀で2撃、3撃と続けたリーザは、フェイントの後、掌中に戻した鋼線を再び、投げつけた。
ギリギリで外したように見せかけ、刃を旋回させ、鋼線でガシムの右手首を絡め取る。
「うあぁぁ! このゴミ虫めが! 我は死なぬ! 邪神様とこの世界を」
そこまで言いかけた仇の喉を、リーザの短刀が斬り裂いた。
ヒュッと呻き、呪術師は倒れた。
仇を討ったリーザをラファンタがユニコーンに乗せ、ペプシアとチャミの乗った一角獣と並び駆けだす。
目指すは巨虫の口だ。
召喚者が死んだことなど、意にも介さない怪物は、大口だけの頭をもたげた。
急角度で敵を振り落とそうという意図か。
しかし、2頭のユニコーンは、いかなる魔法か楽々と巨獣の肌を駆け昇る。
またも襲ってくる棘を、聖女コンビは銀槍と銀盾でなぎ払った。
巨虫は、いよいよ頭を返し、突き進む小さな敵を呑み込もうと無数の牙を揺らし、おぞましいよだれを垂らす。
「ラファンタ!」
ペプシアが呼べば、盾を持つ聖女が頷く。
彼女は輝くシールドを怪物の大口へと投げつけた。
回転する円盾は襲いくる巨牙を苦も無く折り飛ばし、巨虫の口内を丸見えにする。
「ペプシア!」
呼び返された聖女は、銀色に光るスピアを勢いよく放った。
猛スピードの投槍は、恐ろしい生物の口中に消えていく。
そして、次の瞬間。
怪物の頭が膨らみ裂け、体内から強烈な光を発した。
それは2聖女のまとうオーラと同じ輝きだ。
巨虫は断末魔の悲鳴をあげ、邪体を粉々に霧散し始めた。
飛び戻る各々の聖武器をキャッチしたラファンタとペプシアは、ユニコーンの首を優しく撫で、騎乗のまま地上へとダイビングした。
2頭の一角獣は2人ずつを乗せた状態で、半ば宙を駆け、地上へと見事に着地する。
ガシムの呼び出した邪悪な存在は、この世界から完全に消失した。
ユニコーンたちが、脚を止めた。
2聖女は、リーザとチャミを降ろした。
2人が馬上の聖女たちを見上げる。
「では、聖宝を回収しましょう」
ラファンタが右手を、儀式台上のアイテムに向けた。
それらは温かい光を放つ球となって、彼女の掌に吸い込まれる。
「これで大丈夫。もう、この地に敵は現れないでしょう」
「感謝しろ!」
ラファンタとペプシアが、揃って笑う。
「オレは仇を討てた。礼を言う」
リーザが頭を下げた。
「私たちの使命は、あなたたちを守ること。気遣いなく」
ラファンタが頷く。
「いいや、ありがたがれ。お前たちは、すぐに謙虚さを忘れるからな」
ペプシアが、ニヤッと笑った。
「ああ! 聖女様! 肝に銘じます!」
チャミが土下座し、額を地につける。
「さあ、それでは行きましょう。ミリンダルと合流しなければ」
「あの娘、ちゃんと聖宝を回収してるかな?」
「きっと大丈夫。ミリンダルも、もう1人前です」
「だと、いいけど」
微笑み合った聖女2人が、リーザとチャミを見つめる。
「愛すべき者たちよ、私たちは行きます。あなたたちに幸運のあらんことを」
「力なき者たち。無茶はするなよ」
2頭のユニコーンは駆けだし、聖女2人はいつの間にか訪れた夜の帳へと消えた。
残されたリーザは仇を討った達成感と、父母の形見を失った寂しさに胸を満たされる。
地に這いつくばったままのチャミは、魔杖を持ち帰れずとも、不服は無さそうだが。
「聖女様! しかもお2人も! こんな近くで!」
大粒の感涙をポロポロと零している。
リーザは幸せそうな彼女を残し、歩きだした。
久しぶりに故郷に帰り、父と母の墓参りをするつもりだ。
気のせいか、月明かりは温かく、夜風はとても優しかった。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)
大感謝でございます\(^o^)/