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聖女として真面目に働いてきたのにこの仕打ち~ならば返して貰いましょう~

聖女メアリー・アンは謂れの無い罪で断罪されていた。

味方はおらず、身内だったほとんど力のない妹を聖女扱いする王太子と、それを正当とする貴族達を見て呆然としていた。

そこへ魔王ヴァルスが姿を現し──




「──メアリー・アン。貴様の悪行は今述べた通りだ。よって聖女の任を解き幽閉、新たな聖女はメリー・アンとする」


 喝采が上がる。

 私は呆然とする。

 今までこの国に尽くしてきたのに、その末路がこれだと誰が予想できただろうか。


「衛兵、そいつを連れて──」


「いらないのであれば、余が貰おう」


 静かな声が響き渡る。

 ホールに姿を現したのは──


「ま、魔王ヴァルス?!」

「その元聖女はいらぬのであろう、ならば余が貰う」


 その方──魔王ヴァルス様は兵を退け私を抱きしめる。


「そして余の花嫁とさせて貰おう」


 聖女の衣装が真っ黒なドレスとヴェールに変化する。

 美しい漆黒のドレスに。


「さぁ、花嫁よ。どうする?」

「わ、私を妻にしてどうするおつもりで?」

「何も。余は其方が欲しいだけだ」

「……」

「見よ、誰も其方をかばおうとしなかった。あれだけの恩恵を受けながら」

「……」

「ならば、与えたもの全てを返してもらって良いのでは?」

「……そう、ですわね」

 私の心に悲しみと憎しみの心が芽生える。



「ユージーン殿下、私が今日をもって聖女を解任させられるのであれば──」



 私は嗤う。



「今まで私が働いた分は全て返していただきますね」


 国中から光があふれ、光は私の元へと集まり消えていく。


「おい、メアリー! 貴様何をした?!」

「何を、と言われましても。謂れの無い罪を着せられて黙っている程お人好しではないのですよ、私は」


「ゆ、ユージーン殿下! 国中が瘴気であふれ、魔物が闊歩し、流行病が発生し──」


 慌てて戻って来た兵士の言葉に真っ青になる殿下。


「瘴気を取り除いたのも私、魔物を浄化したのも私、流行病を治したのも私ですから──」


「それを全部元の状態に戻して差し上げましたわ」


「こ、この悪女め!」


「誰がそうさせたのか分かっていてそう言うのか、愚か者め」

 魔王ヴァルス様の鋭い視線に皆悲鳴を上げる。

「精々頑張ってね、メリー。貴方にそんな力ないと思うけど」

「では、行こうか」

「はい」

 私は魔王ヴァルス様に抱かれて、その場から姿を消した。





「ヴァルス様、どうしてあの場に?」

「部下から、ユージーン第一王子と、君の両親が妹を聖女に祭り上げ、ユージーン王子は彼女と結婚する為に、君を偽聖女とし、幽閉することにしたと聞かされて飛んでいったのだよ」

「お父様にお母様まで……」

 悲しかったが、仕方ないと思った。

 両親は美しい妹を溺愛していたからだ。

「ヴァルス様、私はこれから何を?」

「それは君が選ぶといい。君がしたいことをすればいい」

「では、聖女として仕事をさせてください」

「勿論だよ、我が妻」

 そう言ってヴァルス様は私に口づけをしてくださいました。


 もう、母国の事は、人は忘れよう。


 私は裏切られたのだ、信じていた全てに。


 ヴァルス様は、本当に信用できるのでしょうか?


 一抹の不安が私の心に生まれる。


──いいえ、できるわ。だってあそこから助けてくださったんだもの──


 そう思うことで不安を消し去った。





「瘴気の浄化ですか?」

「ああ、魔族にとっても瘴気はあまり体に良くない。吸い過ぎると魔瘴病という病にかかってしまい、最終的には自我を失い、魔物のように成り果てる」

「……分かりました、この国の瘴気がでている場所を案内してください」

「わかった。メアリー、其方が望むなら」

 ヴァルス様は優しく微笑んでくださいました。



 瘴気で汚染された、湖や、泉、森などを私は次々と浄化していきました。

 それが終わると、魔瘴病の方の治療にあたりました。


 皆、私に感謝をしてくれた。

 捨てられた聖女だというのに。

 あまり仲が良くない国からきた女だというのに。


 誰も、私を差別しなかった。

 私は本当に、ここにいていいのですか?





「ヴァルス様」

「どうした、我が妻よ」

「私、ここに居てよいのですか?」

「勿論だとも」

「ありがとう、ございます」


 私はヴァルス様の腕の中で泣いた。





 ヴァルスは腕の中で涙を流し、泣き続けるメアリーを優しく撫で、微笑み、抱きしめた。

 そしてメアリーに顔が見えなくなると冷たい目線を彼方へ向けた。


──無実のメアリーを断罪しようとしたルスト王国を許すわけにはいかない──


 その目は怒りで満ちていた。





「どうして、どうして私がそんなことしなきゃならないの!」

 メリーは子どものようにだだをこねた。

「メリー、お前が聖女なのだから行かねばならないのだよ」

 父親が諭すが、メリーは言い募る。

「どうして! 計画だったらお姉様を幽閉して、用があるときだけ出して浄化作業をさせる算段だったじゃない!」

「メリー、今の君は聖女なんだ。そんな言葉を言ったら誰に聞かれるかわからな──」

「誰に聞かれるか分からない、だと?」

 ユージーンが最後まで言う前に、誰かが言葉を途切れさせた。

「ち、父上?! まだ戻ってくる予定ではなかったのでは?!」

 しどろもどろになってユージーンは言う。

「ヴァルス殿から聞いたぞ。貴様等は結婚したいが為にその娘を聖女に仕立て上げ、そしてメアリーに謂れの無い罪を着せ、幽閉しようとしたとな。それを聞いて慌てて帰ってきて、貴様の息のかかった者達を集め問いただしたところ、ヴァルス殿の妻になったとも聞いた」

 ユージーンの父たる国王は、鋭い眼光で四人を見つめる。

 四人とも短い悲鳴を上げた。

「返す気はない、と言われた。故にメリー・アン! 貴様は聖女として浄化作業に今すぐあたれ! 浄化が終わるまで休むことは許さぬ!」

「そんなことできない!」

「できなければ処刑だ!」

「ひぃ!」

 メリーは衛兵に連れて行かれてしまう。

「そして貴様等三人への処罰だが、アン伯爵そしてその妻マリーは処刑! ユージーンは王籍から外し、魔物狩りの兵団に所属してもらう」

「こ、国王陛下、お慈悲を!」

「そうです、酷すぎますわ!」

「父上、酷すぎます!」

「黙れ!」

 国王は三人を一喝する。

「あのよく働いてくれた聖女メアリーに、酷いまねをしておいてよくそんなことを言えるものだ!」

「ですが、あの女は瘴気を──」

「当たり前だ、彼女にも我慢の限界がある! その場の誰もが理不尽なお前達の味方で、何の落ち度もない自分の味方が一人も居ない絶望を味わったのだ! 婚約破棄の現場にいた貴族達もこれから処分を決めていく。さぁ連れて行け!」

 衛兵が三人を連れて行く。


「ああ、聖女メアリー。私達が間違っていた、どうか許しを──」


 王は一人、助けることができなかった事への謝罪と、許しを求める言葉を口にした──





「ルスト王国の国王から手紙が来たぞ。お前を見捨てた輩を全員処分した、偽聖女のメリーには浄化活動をやらせているが、まともに行えず力不足から老婆のようになり、ユージーンは王籍からの除籍処分、魔物狩りをやらせているが、死んだと。だからどうか罪無き民に許しを、とな」

 ヴァルス様に言われて私は少し考えます。

「そこまでしたならいいでしょう。戻りはしませんが、結界を張りましょう、浄化をしましょう」

「ならば、私は着いていこう」

「有り難うございます」

 ヴァルス様に抱きかかえられて私はルスト王国の王宮に向かいます。



「おお、聖女メアリー。来てくれたのか」

「そこで戻って来てくれた、とは言わないのですね」

「愚息と馬鹿共があのようなことをしたのだ、見捨てられて当然だと思っていた。だから来て下さり嬉しいのです」

「この国を浄化し、病を癒やし、結界を張りましょう。その後メリーは処分してくだされば」

「そのように」


 私は手を天にかざす。光が集まり、空へ登り破裂し、花びらのような物が国全体に舞い散った。


「結界と浄化、病の癒やしは終了しました。私はヴァルス様の国へと帰ります」

「この御慈悲に感謝を……」

 ルスト王国の国王様はそう言って頭を下げました。

 私はヴァルス様と共に国へ帰りました。


 それからほどなくして、メリーが処刑されたと聞きました。

 また私を守ろうとしなかった貴族達も処刑されたと聞きました。

「さて、これで誰も邪魔者はいなくなった」

「何をなさるので?」

「結婚式だ」

「まぁ」

「国を挙げて行おう」

「はい」



 そして一ヶ月後、王宮で式を挙げました。

 私は黒い花嫁衣装を纏い、陛下も黒いタキシードを纏い、国民に見守られながら愛を誓い合い、口づけを交わしました。

 勿論指輪も交換しました。





 そして、数年の時が経ち──


「メアリー、相談したいことがあるのだが」

「なんですか?」

「最近、はやり病が広まっていてな」

「分かりました、お供いたしましょう」


「ちちうえ、ははうえ、おでかけですか?」

「いいえ、ヴェール。お仕事よ、いい子で待っていられる?」

「はい!」

「直ぐ帰るからな」


 私は息子を、ヴェールを出産しました。

 ヴェールと私とヴァルス様は国民や多くの方々に愛され、幸せに暮らしています。

 ヴァルス様、あの時私を連れ去ってくれてありがとう──







聖女のざまぁものです。

悪人ばかりの中でただひとり、味方だった国王のお陰でルスト王国は滅亡の危機を逃れました。

今回のことが教訓になって同じ過ちを起こさないと良いですが。

メアリーとヴァルスは結婚し幸せに暮らしています、息子も居ますがきっと子どもも増えるでしょう。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

他作品も読んでくださると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
恐らくは断罪劇に向かんけであろう国民たちが救われて良かったです 国民たちも一緒になって聖女を虐げていたならともかく、そうでないなら馬鹿な権力者の巻き添えはあまりにも不憫なので...
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