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第十話 招集

 その日、全正規魔法少女に緊急招集がかけられた。

「こういう事って、よくあるんですか?」

 ただ事ではない雰囲気が漂う総合作戦室で、ひよりは居心地が悪そうに、まことに問いかけた。

「いいや、早々ある事じゃない。……何か、とても嫌な予感がする」

 まことの視線が鋭さを帯び、ひよりがごくりと息を呑む。その瞬間、総合作戦室の扉が開いた。

「みんな、良く集まってくれたね」

 入って来たのは、とわのの父で総司令の獅子帝宮久遠。元スコルピオの笹間みか。そして現スコルピオの毒嶌あまね、その妹毒嶌いち。と、ひよりが見た事のない、壮年の男性が1人。

「……あの方は?」

「毒嶌藤二郎研究チーム統括だよ。あまねといちの御父上でもある。彼とみかさんが居るって事は、門について何か分かったのかも」

「……門?」

「オドロの発生源とされている場所の事さ。僕達のリップが見つかった場所でもある。詳しくは後で説明するね」

「ありがとうございます」

「それでは、早速本題に入ろう」

 全体を見渡した久遠が、藤二郎を見る。藤二郎はひとつ頷くと、口を開いた。

「オドロを完全に封じる方法が分かった」

 総合作戦室に、魔法少女たちのざわめきが溢れる。藤二郎はそれを僅かに眺めた後、「静かに」と声をかけ、みかを見た。

「笹間くん」

「はい。……みんな、作戦テーブルを見てくれるかな」

 総合作戦室の中央に置かれた、天板がモニターになっているテーブルに視線が集まる。みかはそれを確認すると、手元のタブレットをスワイプした。

 すると、洞窟のような写真が表示される。

「知っての通り、あたし達の敵であるオドロはこの門から出現してる。だから、あたし達門研究チームは対症療法じゃなくて、原因療法――つまり、門を閉じられないかって研究してきたんだけど、今回、ようやくその方法が全部分かった」

 みかが、今度はタブレットをタップする。

 画面が切り替わり、先ほどの洞窟を模した簡単な図形が現れる。

「門を閉じるには、閂をかければ良いの」

 洞窟の図の上に、長方形の板のような図が1枚表示された。

「でも、この閂の正体だけが、ずっと分からなかった。だから、みんなにはずっと戦い続けて貰ってた。だけど、ようやく答えに辿り着けたの」

 魔法少女たちから歓声が上がる。まことも、ひよりの隣で安心したように息を吐いた。もここに至っては涙ぐみ、隣に立ついおなに抱きしめられて頭を撫でられている。

 だが、その空気は、どたん、という音で切り裂かれた。

 音の発生源は、みかの隣。黙って話を聞いていた、毒嶌あまねからだった。

 膝から崩れ落ち、両手で顔を覆ってしゃくりあげているその姿は、どう見ても喜びのそれではない。

 喜びの輪は掻き消え、暗雲が立ち込めていく。

「やだ……やだよぉ、嫌だぁ……! 絶対嫌ぁ……!」

「あまね、立ちなさい」

「立てない! 無理……嫌だよぉ……」

 とうとう地面に伏して激しく泣きじゃくるあまねに、藤二郎はそれ以上何も言わなかった。

「……問題なのは、その閂の正体」

 あまねの泣き声ばかりが響く部屋では、スワイプの音さえ大きく聞こえた。

「閂の正体は、遥か昔に生贄にされた、13人の子どもの魂を持つオドロの女王。彼女は、全てが始まった13年前、門の封印の解除と共に赤ん坊として蘇った。そして、封印を解除したトレジャーハンターチームのメンバーに引き取られて、彼の娘として育てられた。その彼女の現在の姿がこれだよ」

「……みか先輩」

 いおなが、震える唇を開く。

「じゃあ、それじゃあ……この子は。毒嶌いちは、人間じゃないって事ですか……?」

 天板では、黒い絹糸のような髪が映える、陶器のように真っ白な肌をした少女が、微笑んでいた。

「うん。当時トレジャーハンターチームだった総司令からも、統括からも確認は取れてる。本人に協力してもらって検査もした。彼女は、果てしなく人間に近いけど、間違いなくオドロだよ」

 瞬間、赤い稲妻が総合作戦室に走った。そしてすぐにギィン、と激しい金属音がして、ガチガチと鍔迫り合うような音がする。

「っ何をしてるんだ! もここ!!」

 それは、話を聞いた瞬間にいちを殺そうと変身したもここと、もここからいちを守ろうと変身したあまねが、それぞれの槍を交えた音だった。

「っこいつのせいで、どれだけの人間が不幸になったと思っているですか! 何人の人間が死んだと! こいつさえ生まれて来なければ、とわのだって死ななかった! 誰も苦しまずに済んだ!」

「いちが生まれたのはいちのせいじゃない! 総司令とお父さんが好奇心で封印を解いたからじゃない! いちは何も悪くない! 自分が楽になる為に、いちに全部の責任を押し付けようとしないでよ!」

「やめろ2人とも! いおな、れい! もここを頼む! ゆうは僕と一緒にあまねを!」

「離して! こいつは殺さないと気が済まないのです! 他の誰が許しても、もここは絶対にこいつを許しません!! 殺してやりますですよ!!」

 もここの燃え盛るように赤い目が、いちにもう一度襲い掛かろうかという勢いで向けられる。

 けれどもいちは、穏やかに。ただ、穏やかに微笑んで見せた。

「っ何ですかその目はァ!!」

「落ち着きなさい! それにもここちゃん、ここでいちちゃんを殺してしまったら二度と門を閉じられなくなるよ!」

 それを聞いたもここは、何度かふぅ、ふぅと肩で息をして、必死に怒りを押さえ込もうと試みた。

 それでも抑えきれなかったものを視線に溢れさせながら、ぎろりとみかを見る。

「どういう事ですか……」

「彼女の存在は、封印に必須って事だよ。話はまだ終わってない、変身を解除して、いちちゃんから離れなさい。あまねちゃんも」

 2人が納得いかない様子ながらも変身を解除し、もここがいおなとれいに誘導されていちの対角線上に移動する。

 それを見たみかはため息をひとつ吐いて、再びタブレットを触った。

「続きを話すよ。閂は見つかった。封印する方法も分かった。だけど、すぐに実行に移せない理由も見つかった。何だと思う?」

「そんなの、話の流れから予想が出来ます。決まった手順でいちを殺さなきゃいけないとか、そんなところでしょう」

 ふん、ともここが鼻を鳴らし、みかはひとつ頷いた。

「言い方が物騒だけど、大体そんな感じだよ。封印には、いちちゃんの犠牲が必須なんだ」

「だから何だと言うのです、オドロなんだから殺せば良いじゃないですか。それともなんですか、情が湧いたからそいつだけ特別だとでも言うつもりですか?」

「いいや。少なくとも、いちちゃん本人はそうじゃない」

「は?」

 もここの顔が、引き攣った。

「彼女は、自分1人の犠牲で全てを終わらせられるのならばと、受け入れてくれたよ」

「……なんですかそれ。聖人ぶって同情煽って生き残ろうって算段ですか!」

「もここ、一度黙れ! 過ぎるぞ!」

 まことが険しい顔でもここを睨みつける。もここは、もう一度鼻を鳴らすだけだった。

 みかは最早、気にもせずに言葉を続ける。

「ただ、門を閉じる方法はもうひとつあるんだ」

「もうひとつ、というのは?」

 まことが問いかけると、みかは深海のような紺の髪を左右に振る。

「わからない」

「わからない?」

「存在する、というところまでしか分かってないんだよ、まこっちゃん」

 みかがそっと目を伏せる。

「ここからは私が話をしよう。今日の本題だからね」

 みかが一歩下がり、久遠が一歩前に出た。彼は両の手を悠然と天板につけ、穏やかな笑みを崩さないままに口を開く。

「今日君たちに集まってもらったのは、この件に関する決断をしてもらいたかったからだ。今、命を懸けてオドロと戦っている、他でもない君たちに」

 その笑みは、まるで仮面でも被っているかのようだった。

「今すぐにいちを犠牲にして門を閉じ、戦いを終わらせるか。それとも、もうひとつの方法に希望を託して、戦いを続けるか。君たちの率直な考えを、意見を聞かせてほしい」

 軽く放り投げられたそれは、まるで黒い鉄球のように重たく、魔法少女たちの心に圧し掛かった。

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