攻略キャラ兼悪役な王太子に転生したから悪役令嬢を溺愛しまくったら、悪役令嬢の様子が変わった
俺は加藤剛、もといオベロン!!!
この妹がどハマりしていた乙女ゲームの世界に異世界転生した、王太子だ!!!
…帰りたい、王太子とか無理、もうやだ。
だって聞いて欲しい。
オベロン・ジルベール・ターフェルルンデというこの王太子、つまり今世の俺の記憶もあって、前世の記憶と今世の記憶の意識が混じりあったのが今の俺なんだが…まあこのオベロン、酷い。
乙女ゲーム内でもそういう設定だったので知ってたっちゃあ知ってたが…クソオブクソな性格なのだ。
「婚約者を醜女扱い、成績最悪、実務能力なし、外交能力なし。なんで廃太子しないんだよおかしいだろ」
あー、こんなんが今世の俺とか無理ー!
なお乙女ゲームでは個別ルートか逆ハールートにてヒロインと出会って、改心して王太子に相応しい男になるようだが…プレイヤーが他の男のルートを選ぶと悪役王太子として立ちはだかる。
それがもうまた性格最悪で、セクハラパワハラモラハラのオンパレード。
幸いまだ物語は始まっていないが…どうしたもんかな。
来年の貴族学院への入学から物語がスタートするのだが…まあ、いっちょやったるしかないか。
俺は即行動がモットー。
両親に強請って学力テストをしてもらい、前世の記憶の知識チートで良い成績を叩き出し両親を…国王と王妃を驚かせ、喜ばせ、執務もある程度任せてもらえるようになり、仕事も無難にこなせるようになり、外交の場にも出させてもらえるようになり、外交でもなんとか上手いことやっていけるようになった。
ものの半年でここまで変わった俺を国王も王妃も喜び、早まって廃太子しなくてよかったと言われた。
………あぶねー!!!
廃太子されなくてマジ良かった!!!
野良犬以下の生活とか真っ平ごめんだ!
が、王太子としては軌道に乗ったが……男として、やるべきことがまだ残っている。
そう、醜女扱いして悲しませた婚約者へのケアと仲直りである!!
俺の婚約者は乙女ゲームではどのルートでも悪役令嬢になる。
それは俺が散々醜女と罵倒して、モラハラし続けたため性格が歪んだせいだ。
つまり俺のせい。
だから、俺は責任を持って彼女をケアしてあわよくば仲直りも果たす必要がある。
あと半年…乙女ゲームの舞台である貴族学院に入る前になんとかせねば。
とはいえ俺は、歳の離れた妹を猫可愛がりしていた以外女との接点がなかった男だ。
うまくいくだろうか…いや、うまくやらなければ!
「あの…王太子殿下」
「うむ」
「これは?」
「お前に似合うと思って買ったネックレスだが」
「…!?」
初めての贈り物に、彼女…俺の婚約者、ティターニア・ロズ・ウェールズは目を見開く。
「え、あ、あの…本当にいただいていいのですか?」
「ああ、だがちょっと貸してくれ。着けてやる」
ティターニアにネックレスを着けてやる。
ティターニアは目をキラキラさせた。
「素敵…」
「ティターニア。これからは愛称で呼んでも良いか?」
「え…は、はい」
「ティティー、似合ってる。可愛いぞ」
「え」
ティティーは驚いた表情で固まったかと思うと、泣き出した。
「ティティー!?ど、どうした、すまない、何か気に触ったか!?」
「ち、ちがうんです…ずっと醜女と言われ続けて、その、王太子殿下が悪いとかじゃなくて…ただ、顔の生まれつきの痣のせいで、王太子殿下以外からも…家族からすら醜女と言われ、罵られ、嫌われていたから…王太子殿下の心変わりの理由はわからないのに、それでも…嬉しくて」
…ああ、そうか。
ティティーには昔から…生まれた時から、顔に痣がある。
幸い顔立ちは超絶美人なので、正直痣くらいむしろチャームポイントと言えるレベルなのだが…ティティーの周りの目は厳しかったらしい。
…特に、俺が。
ごめんな、ティティー。
「ティティー、一つ言って良いか?」
「は、はい」
「ティティーは世界一可愛いよ」
「えっ」
「こんな美人、世界中どこを探してもいないくらい可愛い」
ティティーは褒められ慣れていないせいか、泣き顔でぐちゃぐちゃのまま赤面して俯く。
「そ、そんな」
「とりあえず鼻紙で鼻チーンして」
「は、はい」
「でー、涙は俺のハンカチで拭いてー…よし、やっぱり世界一可愛い!泣いた後の顔でもこんなに可愛いなんて天使かな?」
「お、王太子殿下っ」
からかわないでください、と俺の胸をぽかぽか叩くティティーも可愛い。
なんで今世の俺、こんなに可愛い子を冷遇してたんだ?
「ティティーはなにをしても可愛いなぁ」
「王太子殿下っ」
「あー、俺のティティーが今日も超可愛い。幸せ」
「王太子殿下のバカー!」
ぷりぷり怒る婚約者がまた可愛い。
ティティーは本当に、天使の生まれ変わりじゃなかろうか。
この日以降俺は、ティティーを人目も憚らず溺愛しまくった。
そうしたら、それはティティーの周りにも影響を与えたらしい。
「王太子殿下、最近父と母と兄がやたらと優しいんです」
「ああ…まあティティーは俺の婚約者で、俺が溺愛してるんだからそりゃあ阿るだろ」
「正直、家族からこんなに大切にされるのも初めてで…でも嬉しくて」
「ティティーがそれでいいなら、それでいいと思うよ。大事なのはティティーの気持ちだから」
「王太子殿下…!」
可愛い可愛いティティーが幸せなら、それでいい。
たとえ打算ゆえの阿りだとしても、ティティーが優しくされて幸せだというなら夢を壊す必要はない。
ティティーのことは、俺が守ってあげればいいのだから。
「それと、今までお友達と呼べる人がいなかったのですが…最近、お友達になりたいと声をかけてくださる方が増えて」
ティティーは公爵家の娘で俺の婚約者だが、俺が冷遇していたことから貴族社会で浮いていた。
腫れ物扱いというやつだ。
だが俺があからさまに溺愛するようになってから、貴族令嬢たちが手のひらをくるくると返しているらしい。
まあただ、ティティーはそれも嬉しいみたいだし夢を壊す必要はない。
よほどまずい相手は俺が防波堤になればいいしな。
「よかったな、ティティー」
「はい、王太子殿下!」
花が咲くように笑うティティーが可愛い。
そして、そんなこんなで幸せになったティティー自身にも変化が現れた。
「お嬢様、失礼します」
カップに茶を注ぐ使用人。
ティティーはそんな侍女に微笑む。
「ありがとう」
侍女は何も言わないで下がったが、嬉しそうな表情を俺は見逃さなかった。
ティティーは俺に冷遇されていた時には、侍女にお礼を言うなんてあり得なかった。
いつも侍女たちに辛く当たっていた。
だが気持ちに余裕ができたティティーは、侍女たちに優しくなった。
本来のティティーは、優しい子なのだ。
侍女たちもそんなティティーの変化を素直に歓迎してくれているようで、ティティーを純粋に慕ってくれるようになった。
さらにティティーは、精神的に余裕が出来てからは平民たちにも優しくなった。
孤児院や養老院に寄付をし、慰問に行く。
いまやティティーは孤児院と養老院のアイドルだ。
棄民たちのための炊き出しなどの教会の活動にも積極的に協力しているため、ティティーに感謝する者は教会内にも多い。
平民たちはこぞってティティーを褒め称えるようになった。
ティティーは悪役令嬢から、愛され令嬢へと進化したのだ!
これなら貴族学院でもうまくやっていけるだろう。
そう、思っていた。
「ティターニア様!男爵家の者とはいえ貴族であるルナを虐めるなど、王太子殿下の婚約者として恥ずかしくないのですか!」
「いえあの、わたくし虐めなどしておりませんが…」
…なんでこうなるかなぁ!?
ヒロインは何故か逆ハールートに突っ込んで行き、俺にも粉をかけてきた。
だが俺が靡かずティティーだけを溺愛していたら、他の攻略キャラたち総出でティティーを攻撃し始めた!
どうしようかなぁ、とりあえず黙らせるか…と思ったが、俺の出る幕はないようだった。
「ちょっと、そこの殿方たち!黙って聞いていればお優しいティターニア様になんて無礼な!ティターニア様はそんな男爵家の出の娘など相手にしたことはございませんわ!」
「大体ティターニア様は虫も殺さぬほど優しいお方でしてよ!」
「そんな小者が相手とはいえ、ティティー様が誰かを虐めるわけがありませんわ!」
最初はティティーの権力に阿り取り巻きとなっていた連中。
彼女たちは、ティティーの優しさに触れて取り巻きではなく本当のお友達…いやむしろ信奉者にまでなっていた。
「だ、だがルナがティターニア様に水を被せられたと泣いていて…」
「あー、ちょっといいか?俺は王太子として、誓ってこの場では嘘をつかない。その上で言うが…ティティーは貴族学院内では四六時中俺と一緒にいるから、俺の目を盗んでそのルナとやらを虐めるのは無理だぞ。お友達に依頼して虐める、とかも無理だ。それともお前たちは俺がティティーと共犯とでもいうつもりか?」
ティティーのお友達に言い返されてもなおのこと言い募る攻略キャラたちにそう言い放てば、明らかに狼狽える連中。
ついでだし言いたいこと言っておこ。
「あとさぁ、君たちよっぽどそのルナって子を信奉しているようだけど…甘い言葉だけを吐く従順な娘と、自らを貶めてでもお前らを守ろうとする…普段の行いにお小言を言ってくれたり、ルナに近づくなと忠告してくれる婚約者…どちらが大事か、ちゃんと考えた方がいいぞ」
「え…」
「あ、あの。わたくし、皆様の婚約者の方々ともお話を致しますが…いつも皆様のことを気にかけて、心配していらっしゃいますよ。ルナさんと言う方にのめり込みすぎていて危なっかしいと、すごく不安そうでした…どうか婚約者を大切になさって差し上げてくださいませ。わたくしの愛する、王太子殿下のように」
「っ…」
俺とティティーの言葉は彼らにとって耳が痛い話だったようで、それ以上言い募ってくる様子はなかった。
なので俺はティティーの手を引いて、その場を立ち去った。
その後の顛末は、案外すんなりしたものだった。
彼らは俺とティティーの言葉を受けて自らを省みて、ルナと距離を置き婚約者と話し合いを重ねたようだ。
そしてお互いの蟠りや誤解が解けて、婚約者と仲直りをしたカップルばかりだったらしい。
そのカップルたちはラブラブになり、幸せそうにしていて…改めてティティーに謝罪をして、ティティーもその謝罪を受け入れた。
貴族学院内で起きた揉め事だったため、まだ若い学生の過ちということで攻略キャラたちにはお咎めはなし。
しかしヒロイン…ティティーに濡れ衣を着せて断罪しようとまでした男爵令嬢ルナはそうもいかなかった。
公爵家の娘、それも王太子の婚約者で王太子に溺愛される姫君。
そんなティティーに濡れ衣を着せようとしたことにティティーの両親や兄、ティティーのお友達たちが貴族学院に猛抗議。
ちなみにティティーを冷遇していたティティーの家族もティティーの優しさや純粋さに今更ながら気付き、今では阿りとかではなくガチで溺愛しているので怒りが尋常じゃなかったらしい。
ということでヒロインである男爵令嬢ルナは、貴族学院を退学処分に追い込まれた。
我が国では、貴族学院を卒業できなかった者は貴族失格と見做される。
まあ、彼女の人生はこの先そう明るいものではなくなっただろう。
………ざまぁ。
俺の可愛いティティーを傷つけた罰だ。
さて、乙女ゲームも無事乗り切ったところで。
ティティーに、ずっと言いたかった…言えなかったことを伝えよう。
「ティティー」
「はい、王太子殿下」
「今まで、ティティーを傷つけてきて本当にごめん」
「えっ…」
「俺、本当に最低だった。ごめん、謝って許してもらえることじゃないけど…本当にごめん」
ティティーは俺の言葉に顔を曇らせる。
「でも、出来たらこれからもずっと一緒にいて欲しい…だめ、かな」
「…もう、王太子殿下のバカ」
ティティーは目に涙を溜めていたが、優しく微笑んでくれた。
「とっくの昔に、許してますよ」
「え…」
「王太子殿下にはたしかに、傷つけられましたが…今では最愛と公言して大事にしてくださってますもの。わたくし、むしろそんな王太子殿下に惚れ直してしまいましたの。これからも一緒にいさせてくださいませ」
「ティティー!」
彼女を抱きしめる。
俺がティティーにやらかしたことは消えない。
だけど、これからは傷つけた分の何倍もの愛を捧ぐ。
それが俺にできる全てだ。
ということで如何でしたでしょうか。
転生王太子視点の悪役令嬢物語でした。
この王太子の悪役令嬢にやったことの罪は大きいですが、許し愛し合うことができたのは…大団円と言っていいですかね。
他のカップルも、なんか勝手に救われたようです。
なお出番なく消えていった逆ハールートを選択して見事返り討ちにあったヒロインは、貴族としては生きていけなくなりましたが図太く世渡りして平民人生も謳歌できる気がします。
ヒロインも例に漏れず転生者でした。
悪役令嬢は転生者ではありません。
ちなみに今はティティー>>>>>>>>>>> <<<<<<<<オベロンくらいの愛の熱量です。
少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
ここからは宣伝になりますが、
『悪役令嬢として捨てられる予定ですが、それまで人生楽しみます!』
というお話が電子書籍として発売されています。
よろしければご覧ください!