5話
5話
「お母さん! お父さん! こっち来て! 」
「どうしたの、そんなに慌てて」
「まぁまぁ、見に行ってみようじゃないか。あの子があんなに嬉しそうなのは久しぶりだ」
「見て! 扉の先の世界が色づいたの! とっても素敵じゃない?」
「この世界には関わらない方がいいって言ったわよね?」
「っ、でも! 私の世界なの! 私だけの世界! 誰にも邪魔されない、私だけの世界」
「沙織、色をつけてしまったら現実か、虚構の世界かわからなくなってしまうよ」
「でもっ!」
「どちらで生きていくつもりだい?都合のいい世界か?それとも理不尽なこともある世界か?」
「それは……わかんないよ。なんにもわかんないよ。 なんでこの扉が私の前に現れたのかも、どうすればいいのかも、なんにもわかんないよ」
「じゃあ、一緒に考えよう。お父さんもお母さんも一緒に考える。答えが出るまでとことん付き合うよ。僕たちに足りなかったのは、話し合うことだ」
「そうね、私沙織のこと否定してばかりだった。なにかかんがえがあったのよね。今からでも教えてくれるかしら……」
「うん……、話したいこと、いっぱいあるの。聞いてくれる?」
夜通し話をした。私の思っていたこと、お母さんが思っていたこと、お父さんが思っていたこと。いっぱい、いっぱい話した。それでようやく見つけた。
私はここにいていいんだって。必要なんだって。
だから、虚構に縋るのはもうおしまい。今度はきちんと、前を向いて生きていく。虚構の優しさが忘れられないけれど。それでも生きていく。私らしく、ありのままで生きていく。
それがきっと私に出来る唯一の事だから。