4話
4話
週一の散歩から帰って直ぐに、居間へ来るようにと言われた。
何かしただろうか。いや何もしていないことがダメなのだけれど。
「沙織、単刀直入に聞くわね。あの扉なんなの?」
「え?お、母さん勝手に入ったの?! いつも言ってるよね?勝手に部屋にはいらないでって! 」
「だって貴方最近部屋にこもりきりじゃない! 心配にもなるわよ……。食事もたまにだし、お風呂にも入ってないみたいだし…」
「……別に、ちゃんと食べてるし、お風呂も入ってる」
「いつ?」
「扉の中の世界でちゃんと食べてるよ」
「あの世界はなんなの?」
「わかんない。けど私が好きにしていいんだって」
「そう……もうあの世界に行くのはやめにしたら?」
「なんで?」
「貴方はもっと世界に目を向けるべきよ。扉の先以外にも楽しいことは沢山あるわ」
「私はあそこがいい」
「どうしてそんなに意地を張るの?少しはお母さんの言うことを聞いてよ……」
「知らない、もう部屋に入らないで」
バタン。
真っ直ぐ自室へ向かう。お母さんはわかってない。私の好きな世界を作り出して何が悪いの?
扉を開けくぐる。あぁ、ようやく息ができる。
お母さんはどうしてあんなことを言うのだろう。私はこの世界が好きなのに。どうして否定するようなことを言うんだろう。
「この世界に色をつけてはいけないってことに関係してるのかな……」
そもそも、どうして色をつけてはいけないんだろう?なにか不都合でも起きるのだろうか?あのメモは誰が置いたのだろう。
……少し、少しだけなら色をつけてみてもいいだろうか。そうだ、猫に色をつけてみよう。白や黒よりミケの方がカラフルだし。
三毛猫を捕まえて色を付ける。
「あれ、そういえば色ってどうやってつけるんだろう?」
指先に意識を集中させても、触れてなぞっても色はつかない。
乱雑にポケットへしまったメモ紙をもう一度見やる。
『この世界は君のもの。君の思うままに創り出せる。色をつけてはいけないよ。モノクロだから良いんだ。』
1度見た時には気が付かなかったが、裏面にもなにか書いてある。
『色は魔法。付けるのは禁忌。杖と呪文があれば途端に色づくだろうさ』
杖と呪文……
それがあれば色を付けることが出来る。
まずはそれを探そう。
でもどこを探しても杖も呪文も見つからなかった。
メモ紙が落ちていた場所も、初めて作った街並みも、最初に作った家にも、どこにもなかった。
あぁ、ならば作ればいいのか。杖と呪文を私が作ればいい。
杖は山菜のわらびのような形で、渦の中心には青い宝石をつけよう。材質は木でいいかな。
想像すると、それが出てくる。思ったものと同じ杖だ。
次は呪文。王道の開けゴマ では色づかないだろう。そもそもあれは扉を開ける時の呪文だし。
テクマクマヤコン?あるいは、アロホモラか?
呪文、呪文……。杖を手に取り振ってみる。
「”色付け”」
唱えると、途端に色付いた。呪文というより、ただ命令すれば良かったのか。
これでピースは揃った。この世界を色付けよう!