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虚構の扉  作者: 緑町坂白
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2話

2話

 一面白黒の世界。何も無い、白い地平線が永遠と続くモノクロの世界。ここは一体何なのだろうか。


 周囲を探索してみると、メモ紙を見つけた。

 

 『この世界は君のもの。君の思うままに創り出せる。色をつけてはいけないよ。モノクロだから良いんだ。』


 色をつけてはいけないとはどういうことだろう。色を付ける事ができるのだろうか。いやそもそも、この世界が私のものってどういうこと?本当に?


「私のものってことは、好きにしていいってこと?」


 ならばなんでも創り出していいのだろうか?私だけの世界を。私に都合の良い世界を。


 それなら創ろう。まずはそうだな。うん、布団は大事だよね。それから、本棚と本。あと食事も必要か。それから、携帯にゲーム。あとは引き込もれる部屋があれば完璧。そんなことを思っていると、目の前に家が現れた。恐る恐る中へはいると、私が想像したのと同じような布団、本棚、食事にゲーム、全て揃っていた。


「これなら引きこもり放題だ! お父さんにもお母さんにも邪魔されない! 最高!」


 それからは日がな一日ずっとここにいた。この世界には時計がないので、時計を持ち込みお父さんやお母さんにバレないようにある程度の時間で出ていく。楽しかった。自分の好きな物を創り出せるというのは。


 あの本が読みたいと思えば、それが目の前にでてきた。これが食べたいと思えば、それが目の前に出てきた。なんて便利な世界なんだと感心した。


 けれどそれも数週間で慣れ、飽きてしまった。ずっとこの部屋で閉じこもっていても、つまらないのだ。

 だから、今度は外を創っていくことにした。まずは自宅周辺を再現してみる。……そういえばあまり知らないな。

 1度元の世界に戻り、自宅周辺がどんな景観だったかを確かめる。忘れないようにメモに残し、写真も映す。

またモノクロの世界へ戻り、写真と取ったメモの通りに街を創り上げていく。あの家にはこんな人がいた。この家にはこんな人がいて、犬を飼っていた。あっちの家はあんな人……。

 それを続け、周辺の家々が完成した。完成した時達成感があった。何か一つをやり遂げたという達成感。今までの自分では有り得なかったこと。自分にもできるのだとわかった。それが、それが何より嬉しかった。私は出来損ないなんかじゃないんだって思えたから。


 じゃあ今度は私の好きな物を創り出そう。京都に行ってみたいから、伏見稲荷大社を創った。温泉に行きたいから、温泉を創った。海が欲しいから海を創った。海があるなら山も欲しい。あとは、小川に河川、田んぼ、道路、橋も必要かな。

 

 いっぱい創った。あれもこれもとアイデアが出なくなくなるまで創り出した。自分一人しかいないこの世界が、途端に空虚に見えた。音もしない、匂いもない。何も聞こえない。聞こえるのは自身の拍動と呼吸音、それから独り言だけ。寂しくなった。自分一人だけの世界が心地よかったのに。寂しくなってしまった。


 だから作ることにした。私を肯定するお父さんとお母さんを。近所のおばちゃんやおじさんを。先生を、生徒を。道行く人を。いっぱい創った。

 そうしたら、この世界は私にとっての天国となった。誰も私を怒らない。誰も私のやることに文句をつけない。家から出ろとも言われない。学校にいけとも言われない。あぁ、なんて幸せなのだろうか。言われないだけでこんなに快適だったなんて。

 

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