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8話:戦利品で『野外バーベキュー』

「到着じゃー!」


 あれから数時間歩き、僕たちは目的地に着いた。巨大樹と呼ぶのがふさわしい樹の根元にいくつかのテントが乱立している。


「ここは、行政府が管理しておる。出張所みたいなものじゃ。我らのような探索者の休憩所でもあり、森で何か起こった時の対処班もおる。なので行儀よくなー」


 オーベンバッハは手慣れた感じで、とあるテントにいって手続きをしている。こういう手続きも探索資格だある者でないとできないらしい。


「手続き終わりじゃ! それでは、休憩じゃ……あそこが開いてるの!」


 そうして荷物を下ろしたのは樹木の下に広がっている広場の一角。ほんとに大型のキャンプ場のような場所だ。


「ユウ殿! 休憩の準備は私達に任せて座ってお休みください! ここまで荷物をもって運んで疲れているでしょうし!」


 タマにすすめられるままに、荷物を下ろして座る。確かに、途中で倒した『魔物』の素材を僕が持ってやってきた。それは持っているリュックが本格的使用だったから。父さんが昔、登山やキャンプをたしなんでいた時のグッズを持ってきていたからだ。

 ダンジョン=素材というイメージから、いろいろ持てるよう本格的なリュックを選択。女の子に荷物をもって運ばせるのはNGと思って……。


「だけど……実際は……」


 彼女達はそんな配慮は無用と思えるほど、僕より優秀だった。

 あれから、いくつかの『魔物』が出てきたが、そのすべてを4人で片付けてしまった。何もない所から武器をとりだす。炎や光の障壁と言った魔法もつかう。身体能力もすごくて鎧を着ている僕より防御力もある……。

 僕がやったことの言えば荷物持ちと果物や食べられる植物の採取……。買った槍や防具が無駄に思えてしまった。


「おーっし! かまどができたのじゃ~♪ ユウよ! 肉を出せーってどうした? 疲労……ではないの?」


「あ……いや……。えーと……『魔物』を全然倒せなかったので……これからダンジョン探索なんてやっていけるかなぁ~って」


 僕の言葉にオーベンバッハは首をかしげる。


「何を言っておる。ここまで体調不良にならずにこれたのだから……ああ! 『魔物』を倒せず来たことを気にしておるのか? そんなこと気にせずともよいわ!」


 オーベンバッハ曰く、一番の必要なことはまず、ダンジョンに入り続けること。入れないものは、少し滞在しただけで体調不良になり動けなくなるらしい。そうなってない時点で僕は資格があるというのだ。


「『魔物』もな? 倒せるのが一番じゃが、それよりも『遭遇した時うまく対処できるか?』が重要じゃ! 倒せるなら倒す! 無理なら逃げる! まあ……ここまでの道中でユウは前衛に向いてないことしかわかっておらぬ! だから、そんな考えは杞憂きゆうじゃ!」


 ……まあ……たしかに……。ダンジョンと聞いてゲームみたいにばったばったと敵を倒せることを期待してた部分もあった。それができなくてちょっと落ち込んでるのかもしれない。


「そうデ~ス! ユウはちゃんと頑張ってましたヨ! ちゃんとケガもなく、ここまで来たのですから立派! 立派! ジェニーお姉さんもちゃんと後ろから見てましタ~♪」


「うわっ! って! ジェニーさん! ちょっと!」


 思いっきり抱き着いて来て、体温と柔らかなものの感触でどきまぎしてしまう。


「ふふ♪ なんか落ち込んでいるようなので元気が出るハグです♪ あとは~お肉! いっぱい取ったので焼きまショウ!」


 ここまでくるのに『フォレストピッグ』のほかに、牛や鳥っぽい『魔物』を倒して肉を確保している。なので、ここでのご飯はこれを使った焼肉と話し合って決めていた。


「わわわ……わかりました!」


 背中からの圧力から逃れるために急いで、リュックからブロック肉を取り出す。


「(これも……初めて見たときはびっくりしたもんなぁ……。魔法の布に『魔物』の死体をのせたらこんな肉になるんだもん……)」


 探索資格保有者が購入できる魔法陣が書かれた布。それの上に『魔物』の死体をのせると、自動的に『探索ギルド』の解体所に送られるのだ。そこで解体され、できた肉の一部が送り返されてくる仕組みらしい。


「大部分がギルドにとられるみたいだけど……あんな場所で解体なんてできないしなぁ……」


 ゲームで敵を倒したときに肉とか手に入るのはあんな仕組みなのだろうかと思いながら、確保しておいた肉を持っていく。


「うんうん。いい肉デ~ス! さて……ここは私に任せてもらいま~す♪」


 そう言って、ジェニーが仕切りだす。なんでも、『肉を焼く』という調理は一番の腕らしい。ちなみに『炒める』ならメイロンらしい。

 かまどの上に、家に置いてあったキャンプ用のフライパンをのせ、牛のような魔物の肉を豪快に焼いていく。これは説明などいらない。ステーキだ。

 肉が焼ける光景。誰も言葉を発しない。本能で目が離せない。ジェニーが、目を光らせ肉をひっくり返す。素人の僕にはわからないが、ここがベストの火の通り具合だと確信しているようだ。


「そして……これが勝利の弾丸デ~ス!」


 ジェニーが取りだした瓶の中身を肉に振りかけ、素早く蓋をする。液体が泡立つ音と油がはじける音……。中身の見えないフライパンから響く音だけでワクワクが止まらない。


「! ココ! さあ! ご覧あれデ~ス!」


 気合いを入れて取りはずした蓋。フライパンからあふれ出した湯気と共にニンニクと醤油……そして香ばしく甘い匂い。そこには極上のビーフステーキが降臨していた。


「「「おおぉお~!」」」


 何人かが思わず、声をあげてのぞき込む。ジェニーはそれを制して、素早く切り分けていった。ほのかに赤い断面からあふれる肉汁がソースと混ざり合う。


「ハイハイ♪ みんなで食べるデ~ス! ホントは塩コショウでもいけると思いますが……野外ではこっちみたいなワイルドな味付けがベストで~す!」


 ジェニーの手には家の冷蔵庫にあったステーキ用の「ニンニク醤油ソース」の瓶が握られていた。


「が……我慢できん! はむっ! むほおぉおお~! この前の焼きそばやテリヤキの味も刺激的じゃったが! これはそれよりもさらに暴力的でうまい!」


「ソウでしょう♪ ソウでしょう♪ さあ! どんどん焼きますよ~♪ 肉はいっぱいありマ~ス♪」


 そう言って、次々焼きあがる肉、肉、肉……時々野菜……そして、肉。おまけに生姜焼き用や焼き肉用といった向こうの世界の市販のソースを代わる代わる使うので味に飽きが来ない。

 無言で、そしてがむしゃらに肉を食べていく。


「ああ……おいしい……」


「ですデ~ス♪ このお肉……そして、野菜はここに来るまで私達とユウが取ってきた物デ~ス♪ それが無かったら、物足りないものになってました! ……大丈夫! ユウはちゃんと役立ってマ~ス!」


 そう言ってジェニーは僕の皿に焼いたものをどんどんのせて来てくれる。どうやら、僕を励ましてくれているようだ。


「それに、大抵のことはおいしい肉を焼いて食べれば忘れマ~ス! どうしても、気が引けるなら……ユウが私の分を焼いてくだサ~イ♪ いっぱい焼いて疲れました!」


 ニコニコしながら道具を渡してくる。僕はそれを受け取って、笑いながら肉を焼き始めた。


「ぬおっ! 追加の肉か! 我にもよこせ!」


「あんたは十分に食べたでしょ! って……私達の主が肉焼いて! そういうのは下の者の役目じゃない!」


「ほう……では、アリュミールはいらないのかネ? 坊やの焼いた肉は?」


「そ……そんなこと言ってないわ! もらう! もらうわよ!」


 騒ぎながら、僕達は食事を楽しんだ。しかし……そんな僕達をじっと眺めている人達のことを全く気付かなかった……。

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