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7話:初めての戦闘

 結局、今はひとり一本の焼き芋を配り、先に進む。オーベンバッハは結局あの『非常食』を、数本背負った袋に入れていた。ダンジョンを出たら焼いてもらうといっている。


「それで……。これからどうするのよ?」


「ホックホクじゃぁ~……ん? ああ、このまま、森の奥にある行政が管理してるキャンプ地に向かうのじゃ! その間に目的の『魔物』がいればよし!」


「目的地があるのはいいけど……肝心の魔物と出会うのは運じゃない。どこに生えてるのか知らないの?」


 アリュミールのつぶやき、にオーベンバッハはわかってないなぁというちょっと憎たらしい顔をする。


「そこら辺におるからの。それを見つけるのも訓練じゃ。特徴は教えてたじゃろ? せっかくじゃ! これからはお前達が前に出て進むとよい。我は後ろからついていくぞ!」


 そう言って、この森で一番大きな木を指差す。あれ……ちょっとした高層ビルの高さがあるように見えた。


「えっと……。もうそんなことをしていいんですか?」


「安心せい。いざとなったらすぐ助けてやるわ! というか……そういうのはここでしかできんぞ? 下の階層では何が出るかわからんから……我でも助けてやると断言できん」


 そんな場所なんだと、ちょっと怖くなると、タマが手を握って話しかけてきた。


「大丈夫です! 私達がいます! それにほんとに駄目かどうか試すためにここに来たんです!」


「そうそう! ユウ! とりあえず、やってみまショウ♪」


「私達の主なんだから自信を持ちなさい! それに……いざとなったら、自称魔王に押し付ければいいだけだし……」


「焼き芋のお代分……しっかり働いてもらうからネ♪」


 そんなことを言われて、思い出した。元々ここにはダンジョン内でやっていけるかどうか確かめに来たんだ。ならこの程度……!


「わかった! それじゃあ……行こう!」


 覚悟を決めて、初めて自分達が先頭で歩き出す。戦闘はタマ。次に僕でロンメイとアリュミールが左右を固める。ジェニーは後ろだ。そのちょっと後をオーベンバッハが歩いている。


「それぞれ自分の前にいるメンバーを視界にとらえながら、そのメンバーが見ていないほうを見て歩くんじゃぞ~。最後尾は後ろも見るのじゃ!」


 後方からアドバイスが飛ぶ。ただ、歩くのではなく、何かいないか観察し、注意しながらこんな森を歩くなんて初めての経験だ。


「! ……。ユウ殿……。立ち止まってください。前方に何かいます」


 前を歩いていたタマが手を広げて、停止するように指示してきた。タマの視線の先には、何かが木の根元をほじくりだしている。見た目は……豚だ。顔をあげると額から頭部にかけて、モヒカンのような毛が生えていた。


「『フォレストピッグ』じゃな。よく見る魔物じゃ。多少気性が荒いが肉がうまい」


「ということは……倒してもいいってわけね!」


 オーベンバッハの言葉にアリュミールが袖をまくり上げる。


「(ちょ……ちょっと待て! 女の子に戦わせる?)ま……待って! 最初は僕に行かせてくれないかな? 武器も持ってることだし……!」


 この中で一番装備が整っているのは僕だ。ここは僕が率先してやらないと……。


「ユウ殿! いきなりは危険かと……!」


「ん? いいんじゃないかのう? やってみることが今回の目的じゃ。4人が消耗していないのでフォローも遠慮なくできるしのう」


 止めに入ろうとしたタマを、オーベンバッハが止めた。言っていることに正当性があるので、やや納得していない顔で4人が見てくる。


「や……やってみたいんだ! だから……見守っていてくれない?」


「そうそう! ……ユウよ。『フォレストピッグ』を倒す時は後ろから攻撃するのじゃ。あいつは前と左右の感知範囲は広いが、真後ろはほとんど無頓着。そうじゃのう……4人があいつの前で気を引いて、後ろから奇襲するのがいいじゃろう」


 目の前に敵が来ればそちらを警戒して攻撃するが、4人もいれば警戒して足を止める。そこを後ろから強襲するというのだ。堅実な作戦だと思うので実行することにした。

 そうして、配置についたことを合図すると、タマ達4人が茂みから飛び出す。目の前に現れた4人に、『フォレストピッグ』は足を止め、唸り声をあげながら身をかがめ始めた。


「(あいつの攻撃方法は走って体当たりだけって、オーベンバッハさんが言ってた。だから、飛び出す前に……ここだ!)」


 僕は全力で駆けだし、槍の穂先を『フォレストピッグ』の真後ろ……お尻に突き刺す! 槍から突き刺さった感触が腕に伝わってきた!


「やった! 当たった! ……え? あ……あれ?」


 攻撃を成功させたという達成感と同時に、違和感も感じた。確かに槍はささっている。だが、それだけ。『フォレストピッグ』は断然元気だ。それどころかお尻に刃物を突き立てられた怒りによって、力が上がっているように感じる。


「あ……やばっ! み……みんな! にげっ! にげてぇえええ!」


 僕が叫んだ瞬間、『フォレストピッグ』がお尻に槍を指したまま走り出した! その勢いに、つかんでいた槍を手放してしまう。


「(まずい! このままだとみんなが!)」


 スピードと体重を乗せた突撃がタマやジェニー、アリュミール、ロンメイに襲い掛かる。最悪の状況を頭の中で想像し、血の気が引いた。しかし、そんな想像を衝撃音がかき消す。

 槍を手放した際、倒れこんでいた上半身を起こす。そこには光の壁に突撃を遮られている『フォレストピッグ』がいた。


「その程度で、私に触れようなんて……無礼にもほどがあるわよ!」


 アリュミールが手のひらを広げ、前に押し出す。それに合わせて光の壁が前進した。『フォレストピッグ』は踏ん張っているが押され始める。何とかしようともがく『フォレストピッグ』。次の瞬間銃声が響き渡った。

 2発。その銃声と共に、『フォレストピッグ』の左右の瞳がつぶされ、真っ赤な血があふれ出す。


「イエ~イ♪ 命中デ~ス♪ 足止めしてくれたから当てやすかったデス♪」


 歓喜の声をあげながら、ジェニーはいつの間にかリボルバーの銃口を『フォレストピッグ』に向けていた。


「それじゃあ、仕上げといくネ!」


 そのつぶやきと共に、メイロンが身をかがめ、蛇のように地面をかける。そして、炎をまとった足で『フォレストピッグ』を蹴り上げた。それなりの大きさの『フォレストピッグ』が悲鳴をあげて宙を舞う。


「お見事! それではとどめ!」


 タマが空中に飛び出し、身をひるがえす。手に持つは日本刀。体のひねりに合わせて、繰り出された斬撃が『フォレストピッグ』の首を襲う。

 何かが切り裂かれる音の後……タマと『フォレストピッグ』が地面に降り立つ。ただし、タマは華麗に着地したのに対し、『フォレストピッグ』は首を皮一枚だけ残されて切られてた状態で倒れ落ちた。


「……え……あ……。(……か……彼女達……めちゃくちゃ強くない?)」


「ユウ殿! お怪我は!?」


『魔物』を倒した直後なのにそのことを全く感じさせない顔で、4人が駆け寄ってくる。


「だ……大丈夫……。それより……みんな、いつの間に武器を……ていうか……強いね……」


「当然じゃない! 私達を誰だと思ってるのよ! あんな豚なんか一人でも倒せるわよ!」


 アリュミールの言葉が嘘じゃない。同時に……彼女達は見た目通りの人間じゃないんだ……。いまさらながら、今僕はとんでもない不思議な経験をしていることを実感した。


「い……いやぁ~。見事見事じゃ! ホントにダンジョンは初めてか? 我の出番なぞなかったな! あっはっはっは!」


 茂みからオーベンバッハが拍手をしながら出てきた。


「……ちっ! ピンチの所を助けて、我の偉大さを教え込ませる計画が……! いや! さすが我が勧誘した者達じゃ! これなら下の階でもやっていけるじゃろ! いや~よかったよかった!」


 心の声が漏れ出て、ひそかに計画していたことをしゃべったオーベンバッハの額に、ジェニーが銃口を押し当てる。


「あ……あの~……あはっ♪ これはなんですかなぁ~?」


「いえいえ~♪ 別にいいですヨ♪ どの程度戦えるか確かめるのは当然デ~ス! でも……もしあの豚が突撃する先にユウを配置していた場合……ばんっ! しましたヨ? OK?」


 ジェニーの笑っているけど怖い顔をしたまま、撃鉄をあげる。


「うひっ! なっはっは! 我がそんなことするはず……ありません! きちんと考えて……あの……その……ぐりぐりやめて……。す……すいませんでしたぁ~のじゃ~!!!」


 タマやロンメイに、立ち上がるのを手伝ってもらいながら、僕はオーベンバッハのあげる悲鳴を聞いていた。槍を回収し、息絶えた『フォレストピッグ』を見てつぶやく。


「僕……やっていけるかな……?」



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