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5話:ダンジョン攻略準備

「……ふう……ふう……」


「大丈夫ですか? ユウ殿? 荷物を持ちましょうか?」


 僕ははオーベンバッハの後を続くように、魔王城ダンジョンと呼ばれる場所に向かっていた。タマやジェニー、アリュミールやメイロンも一緒だ。背中には食料と飲料水だけを詰め込んだリュックを背負っている。


「だめじゃ! だめじゃ! ダンジョン内では常に仲間と一緒に入れるとは限らん! 最低限、食料と飲料水を持って歩けるようにならんと!」


 魔王と名乗るオーベンバッハでも背中に袋を背負っていた。話を聞けば確かにそうだろう。自分の分の食糧すらも持って歩けないのは足手まとい以外何物でもない。


「……ところで、ダンジョンって言ってたけど、私達でも入れるの?」


 アリュミールがオーベンバッハに問いかけている。


「入るだけならな! 探索となるといろいろあるが……まあ、それは実際に見せながら説明するぞ。 ……お……ついた」


 目の前には魔王城がのっかている岩山の絶壁。そこにトンネルが開いている。隣には鎧と槍を持った兵士が見張りのように立っていた。


「あれが入り口?」


「……正確には入り口の一つじゃ。入るぞ」


 見張りは僕達が入るのに検問もしない。オーベンバッハがいるから顔パスなんだろうか……? 

 そんなことを疑問に思いながらトンネルに入る。トンネルが続くのかと思った瞬間、僕の目には太陽の光が飛び込んできた。

 それどころか、風が吹きつけてきた。洞窟内の冷たい感じではない。暖かい。当然だ。目の前には青い空と白い雲。太陽が頭上に輝くという光景が広がっていた。足元も石畳ではなく草が生える草原だ。そこにいくつかのテントが多数点在している。


「え……ええ? 僕達……岩山に入ったよね?」


「これが魔王城ダンジョンじゃ! 内部の空間がおかしくなっておっての……。最初の一階はこのような野外フィールドになっておる。っと……ここじゃ! ひとまず、宿を取って説明するぞ」


 オーベンバッハはサーカスの様な大きいテントに入っていく。中は区画ごとにシートが引かれ、それに合わせてグループが座っていた。巨大な雑魚寝部屋と言った感じだろうか? オーベンバッハは手慣れたように、係の人に話しかけて札をもらい、決められたシートに座る。


「ほれ! まずは座れ。これから、今後の説明をするぞ!」


 色々聞きたかったが、まずは荷物を下ろしたい。タマが保温できる水筒に入れていたお茶を人数分配る。


「むっ! 暖かい……。そっちの世界には便利なものがあるな……。ふう……では、まず今回の目的はこの階層の奥にある『探索ギルド』に行って、探索資格を得ることじゃ!」


「ゲームや小説っぽい単語が出てきたけど……。そういうのってダンジョンに入る前に取るもんじゃないの?」


「ここはダンジョン内だが、我が生まれる前に完全制圧された階層じゃ。管理は『ナウロイ』の行政府がしておる。ここの半分は農業区画で、街の食糧のほとんどが作られておる」


 町の外はあまり農業に適した土地ではないらしい。そして、ダンジョン内とはいえ、すぐ近くに適した土地があるならそっちを開拓するのは当たり前だろう。


「ダンジョン内のルールとして『入るのは容易だが、出るのは各階層にある脱出魔法陣を使わねばならない』! この階層のは『探索ギルド』にあるからの。ついでに言うとそこに次の階層への入り口もある」


 その『探索ギルド』は行くだけなら、ここからまっすぐ伸びている整備された道をいけば着く。ただし、探索資格を取るためにはそれだけではいけない。道から外れてわざと残してある森にはいり、そこであるものを取ってこなければならないというのだ。


「それが資格……。当然その森は危険なんだよね? ……あれ? でもオーベンバッハは魔王だから、魔王城ダンジョンに出る敵は言うことを聞くんじゃ……」


「何を言っておる? ダンジョン内にでるのは『魔物』。魔王はモンスター種を統べる王じゃ。『魔物』は言うことは聞かん。まあ、この階層なら我にかなう『魔物』はおらんから安心せい」


「何よ……。それなら、資格の獲得も楽勝じゃない。念入りに準備させるから警戒しちゃったわよ」


 アリュミールの言葉に、オーベンバッハはこれだから素人はと言ったようなちょっと見下した顔をする。


「資格確保のために必要な『魔物』……こいつを倒さねばならぬのだが……。それは、我が手伝うわけにはいかんのよ。資格はあくまで『私は一人でもダンジョン内の危険……魔物にも対応できます』ということを証明せねばならぬからの。……うわ! そっちの世界の携帯食うまっ!」


 小分けに梱包されたお菓子を結構な勢いで食べながら、オーベンバッハはお茶の流し込む。クッキータイプのオーソドックスなもの。チョコレート系などを出せば喜びそうだ。だけど、全部食べつくす未来が見えたのでやめた。


「それと同時に、我がダンジョン内での暗黙のルール……野営の仕方とか、救難信号の出し方とか、取ってはいけないものとかを教えながら行くからの。ここで準備して数時間休んだら出発じゃ!」


「ところで……質問だけど……食材などを仕入れるだけならここに入って、作っている者と直接交渉すれば安上がりになるんではないかネ?」


 メイロンの質問にオーベンバッハが首を振る。


「あ~駄目じゃ。駄目じゃ。まず、ここで農業を営む者は全員、行政府の役人という地位になる。そして買い入れの交渉にはきちんとした担当達がおる。個人で商売用に取引したいなら、そいつらに面会できるコネがないといかん」


 おまけに、この階層から物資……特に生産された食料を持ち出す際、脱出魔法陣の使用税を多くとられる。そこら辺の税を下げれるかは担当との交渉が必要というのだ。


「しかし! 探索資格者は個人でもてる量に関しては税が免除される! 取っておいて損はない! それに専用店もあるからの」


「……免税店みたいなものなのかな……。確かに、今後店をやっていくには取っておいたほうがいいかも……」


 両親を見ていたから少しだけ理解できる。自営業にとってどれだけマイナス部分を減らせるかがやっていくキモなのだ。


「けど……『魔物』か……戦えるかな?」


 自慢じゃないが、僕に武術の経験はない。せいぜい体育の授業で体験した程度だ。


「安心してください! ユウ殿は私がお守りします! 『魔物』だって……」


「あっ! それはダメじゃ! そこらの『魔物』から守るまではいいが、資格用の魔物は1対1で戦わんといかん。言ったであろう? 資格は『私は一人でもダンジョン内の危険……魔物にも対応できます』ということを証明じゃ」


 その言葉に僕は思わず持ったコップに力を籠める。


「(誰かに倒してもらってクリアはだめって事なのか……)」


「まあ、安心せい! その『魔物』はそこまで強くない! それに……さっきの売り上げの残りで装備を整える! 死ぬことはなかろう! 本当に向いてないものを省くためのふるいみたいなものじゃ!」


 励ましているかもしれないが、余計に緊張する。そんなに簡単なら自分だけできなかった時……。そう思うとプレッシャーが……。


「大丈夫デ~ス♪ ユウなら楽勝で~す♪ 駄目かどうかはやってみてから考えればオッケー! 別にダメと思って逃げても再度挑戦できるんですよね?」


「ん? ああ。その『魔物』は森の中に結構いるからな。それを探して何度でも挑戦できる。1回でも勝てばいいのじゃ」


 そういうことならいけるかもしれない。確かにやってみないとその『魔物』が強いかどうかもわからない。


「それじゃあ、全員の装備を……」


「ちょっと待つヨ! 我々の装備はいいから坊やの装備をまずしっかり整えるネ」


「え……でも……それって危ないんじゃ……。装備をおろそかにするのはよくないかと……」


「資金に限りがあるなら、ユウ殿を優先です! それに私達には神力があります! 料理に仕えるのはあくまで付属! 真の能力は『守護』……害あるものから戦い守ることです!」


 4人ともうなづく。見た目が女の子だから忘れていたけど彼女達は付喪神……つまり神。確かに人間よりは強いかもしれないけど……。


「ユウよ……! 本人らがよいと言っておるのだから、言うことを聞いておけ。実際5人分の装備を揃えようとすると心もとない。それに……」


 オーベンバッハは僕に耳打ちをするように小声で話す。


「一度痛い目をみればいいのじゃ! あいつらは我のことをちっこい子供と思っておる。ここらで『魔王』と探索資格保有者の偉さを教え込まねばならんからの……くっくっく……♪」


 どうやら、彼女達に対して格付けをはっきりさせたいらしい。一方、4人は誰が装備を整える間についてくるか? 荷物番として残るか? それを決めるためにじゃんけんを始めていた……。


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