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3話:とっておきの「焼きそば」

 ナウロイの街の住人は遠巻きにある建物を見ていた。あの場所は昨日まで空き地だったはず。だが、今は見慣れない外見の建物が立っている。

 おまけに、その店先でこれまた見たこともない恰好の女の子が机を出して、野菜や肉を切っていた。


「お……おい。あんた達……いったい何してるんだ?」


 見ていた住人の一人。オオカミ男が勇気を出して声をかける。オレンジの髪をした一番胸が大きい女の子。


「ハーイ! 料理の準備でーす! 今度ここでカフェを開くのでその先行イベントでーす! もうちょっと待ってクダサーイ!」


 その返答に、そうなんだとと返事をしてオオカミ男が離れる。


「確か……あそこって没落した魔王家の土地じゃあ……。とうとう手放したのか? それにしても……ここらで見かけない奴等だな……」


 そんな、オオカミ男と入れ違いにユウと、現魔王オーベンバッハが戻ってきた。


「おーい。販売の許可取ってきたよ! そっちの準備は?」


「おかえりなさい! ユウ殿! 材料切り終わりました!」


「皿やフォークの準備もオッケーでーす! いつでもいけマース♪」


 店から運び出した机の上には切られたキャベツや玉ねぎ、にんじん、豚バラ肉がボールに入って鎮座している。


「こちらも準備万端じゃ!」


 もう一つの机の上にはホットプレートと箸を持ったメイロンが、こちらもいつでも行けるといった感じで待ち構えていた。


「……よし! それじゃあ……頼みますよ。魔王様!」


「……。ほんとにやるのか? いや……やらなくてはいかんとは思っておるが……さっき試したときの恰好が魔王として……」


「納得してたでしょう! それに……僕も貴方も料理を売ってお金を稼がないと! 後がないんでしょ?」


 そう言って、ホットプレートのコンセントプラグを渡す。実際、この町での販売許可を取る際、彼女が靴の中に隠していたお金を使って支払っているのを見た。あそこに隠したお金を使うというのは本当に最後の最後のはず。


「ううぅう……わかった! あ~わかったわい! ……うぐぐぐぅ……はむっ!」


 オーベンバッハはコンセントプラグを口で咥えこむと、縦笛を吹くようにほっぺたを膨らませた。すると、息をが吹き込むように、コードに沿って青い稲妻が走る。


「お! 電気がきたネ! それじゃあスイッチオン! ……お~温まってきた! 油を塗って~♪ 坊や! 材料を取るネ」


「ハイ! まずは豚バラ肉から……!」


 僕は、メイロンに材料を渡していく。豚バラ肉、キャベツ、玉ねぎなど……。それに火が通り始めると、塩コショウで味付けをして炒め始める。彼女は4人の中で一番炒める調理がうまいというだけはある。

 これが、解決策。電気を操れるというオーベンバッハを使って調理器具を動かす。女の子をこき使っているようで心苦しいが、ここは頑張ってもらおう。


「よっ! はっ! いい具合に火が通ってきたネ! それじゃあ……あれを入れるネ!」


 メイロンの合図で、僕は見付けたあれを入れた。黄色く細いちぢれ麵……中華麺だ。

 そう! 今回作るのは『焼きそば』! ラーメンも考えたが、お湯が大量にいる。しかし、焼きそばはいらない。入れる具材も問題ない。そして何より……。


「そ~れ! ソースの投入ネ!」


 ホットプレートの上で具材と炒められた麺にかかるウィスターソース。熱せられた瞬間、濃厚で深みのある味が匂いの拳となって、見物客に襲い掛かる。


「えっ!? おい……なんだこの匂い……嗅いだことないけど……すっげえ……うまそう……」


「見ろよ……どんどん色が……よだれが……」


 目の前で作られている見たこともない料理。当然警戒する。だがそんな警戒も吹っ飛ぶほどの、においの猛攻。心が! 魂が叫ぶ! あれはおいしいに違いないと!

 そんな見物客の様子を見て、ユウはタマとジェニーに合図した。2人はうなづくと、紙皿と使い捨てフォークをもって、見物客に向かって叫ぶ。


「皆様! お待たせしました! これよりカフェ『ヒナタ』の開店決定を記念しまして……遠い異国の料理! 『焼きそば』を低価格でお届けします!」


「一皿500ドラー! さらに100ドラーで目玉焼きも追加デース!」


 ドラーはここ『ナウロイ』で流通している通貨。1円=1ドラーの価値のようだった。決してぼったくり価格ではない……はず。

 ただ、見物客はこの宣言を聞いておろおろしている。食べたいのに勇気が出ないのか……? それとも、値段が高すぎるのか……。


「ぷっはぁ! 待て! その料理! 最初は我が食べる約束だったであろう! ほれ! 600ドラーじゃ!」


 まだお金を隠し持ってたんだと、思いながら紙皿をメイロンに渡す。中華麺とキャベツ豚肉……それらがソースでコーティングされ輝いている。そして、そこにホントプレートの片隅で焼いた目玉焼きをのせた。


「(これだけでもおいしいけど……うちの焼きそばは……これだ!)」


 かつお節粉と青のりをふりかけ完成した焼きそばを、オーベンバッハに渡す。彼女は受け取った焼きそばの匂いを吐き出した電気の代わりと言わんばかりに吸い込む。その匂いに我慢できないといった感じで麺を口に運んだ。


「……。うまい! こ……これはなんじゃ! あのテリヤキとも違う! 焼かれたことで味と匂いが膨れ上がって……この麺と野菜と肉! それを完全に征服しておる! それに……どうして!? なぜ、魚のうまみを感じるのじゃ!」


 オーベンバッハは焼きそばを無我夢中で口に運ぶ。まさに暴力的な味。なすがままなのにそれを望んでしまう。やがて、フォークが目玉焼きの黄身に触れた。そこから半熟の黄身があふれ、焼きそばに絡まっていく。


「!?! むはぁー! 卵が! 卵が絡まるとさらに! 焼きそば単品で完成されたものと思い込んでいたが、さらに強化! いや! これは神化じゃ! うんまぁ~!」


 叫びながらきれいに食べつくしたオーベンバッハの口にはソースと青のりがしっかりとついていた。


「……お……おれも……ひとつくれ!」


「俺は目玉焼きをつけて! ……大盛りってできる?」


 オーベンバッハの食べっぷりを見て、見物客が動き出した。言い方はわるいがオーベンバッハがいい毒見役兼サクラになってくれた。


「はい! できます! 順番に並んでくださ~い!」


 ロンメイが調理担当。ユウはその助手。ジェニーは客引き&列整理。タマは商品の引き渡しと会計……それぞれの役割を実行している中、アリュミールはというと……。


「ぷはぁ~♪ うまかった! くくく……これなら、あっという間に大金持ち……ん?」


 焼きそばを食べて満腹になったオーベンバッハの肩をアリュミールの肩を叩く。両手にコンセントプラグをもって……。


「それはよかったわ♪ それじゃあ、どんどん電気を作ってね♪ ホットプレートと……オーブンの分」


「……ホットプレートだけでも結構つらいんじゃが……」


「そう♪ でもこれは、商品を売るために必要なことだから♪ みんなも働いてるし、私も裏で秘密兵器の仕込みをしてるし♪」


「わ……我……魔王……偉いんだし……」


「それで? どこに挿したらいいかしら? 一つは口として……鼻の穴? それとも……」


 アリュミールの視線が、オーベンバッハの下半身に移る。


「わかった! わかったから!」


 オーベンバッハは2つのコンセントプラグを咥え、再び電気を送り出した……。

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