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2話:開店準備

 日本では触ったことのない触り心地の紙にユウは名前を書く。


「うむ! ……確かに! これで、契約は完了したぞ!」


 オーベンバッハ……ちっこい魔王を名乗る少女が書かれた紙を受け取る。


『日向ユウは魔王オーベンバッハに協力を約束する。代わりに魔王オーベンバッハは日向ユウの身分を保証する』


 日本語で書かれたそれをオーベンバッハは紙を折りたたみ懐にしまい込む。


「あの……日本語で書いてよかったんですか? いえ……こっちの文字はわからないんですけど……」


「関係ない。どんな文字で書かれていようと『双方が合意している』という事実が重要なのだ。契約書はそれを確定させる楔。例え読めなくても、我とお主が合意してればよい」


 もし契約書に、合意した内容と違うことが書いてあればそもそも契約できない。契約魔法はそういうものらしい。というか、日本語でしゃべっているけどなぜか通じている。しかし、文字は読めなかった。どういう仕組みなのだろう?


「さて……それではお主達に命令する! 急いでお金を稼ぐのじゃ!」


 椅子の上に立ち上がり、手を広げたオーベンバッハを、タマやジェニー、アリュミールとメイロンが拘束した。


「早速タカリあるカ? 魔王の名前がなくネ」


「なんで、いきなりあんたにお金あげないといけないのよ! っていうか、さっきのテリヤキバーガー代……もらってないんだけど?」


「のわぁ~!! 首っ! 首がぁあ~! 角をつかんで持ち上げるなぁ~!」


 一番背の高いジェニーがオーベンバッハの頭の角をつかみ上げ、ぶら下げている。


「ユウ殿! ヤの付く者達への対応は一度たりとも要求を受け入れないことです! 早速裏で3枚おろしに……」


「違う! 違うわ! ユウよ! お前、お金は持っておるか? ここ『ナウロイ』で使われておるお金じゃ! 話によると異世界から来たのであろう?」


 言われて、はっとした。持っていない。両親が残した財産はあるが、現金は少ない。通帳はあるが、この世界ではほとんど使えないだろう。


「こ……これって使えますか?」


 財布の中の紙幣や硬貨を取り出す。珍しい美術品として高値で売れないだろうかと聞いてみた。


「……変わったものだが……これはなぁ~……。物好きな好事家なら買うかも? 実際に換金すると時間もかかるぞ?」


 オーベンバッハが穴を開いた硬貨を持ちながら眺めている。


「だからこそだ。家はあるようだが、ここですぐ生活ができるのか? 水は? 行政府へどう連絡する? 身分は保証するといったが、いろいろな手続きには金がかかる! そして我にそんな金は無い!」


 角をつかまれてぶら下がったまま腕を組むオーベンバッハ。


「自慢することじゃないわよ! あんた、私達の身分を保証するって言ったわよね。そのために必要なのを用意するのがすじじゃない? ねえ?」


「いてっ! つつくな! 無いものは無い! だから、折衷案じゃ! 我がこの街での商売権を手配する! お前たちはあの料理を売って金を稼げ! その金でいろんなもの……生活基盤を整えるのじゃ!」


 アリュミールにお腹をつつかれて、悶えるオーベンバッハ。


「まあ……それがいいかな……さっきの『テリヤキバーガー』は彼女の反応を見る限り売れそうだし……」


「……悪いんだけど、難しいかも……」


 アリュミールが申し訳なさそうに、うつむいた。


「えっ? なんで?」


「材料不足……仕入れされてなかったから、そんなにないの」


「あとは調理器具が動きまセーン! 電気やガスが来てないから……」


「そうネ……。大量に……はちょっと辛いネ。さっきの『テリヤキバーガー』を作るだけでも結構神力……私達のエネルギー使っちゃったネ」


 話を聞くと、神力を使えば時間経過を無視したり、調理器具を無理やり動かすことはできるらしい。ただ、それはとても効率が悪いというのだ。


「そ! それは困るぞ! 我が契約をしたのはあれを作れるからなのじゃ! 何とかいたせ!」


「何とかいたせって……。とりあえず、何が残っているか調べてみないと……」


 ひとまず、今ある材料を確認することにした。動かなくなった冷蔵庫や倉庫を手分けして探していく。


「そうした結果……。米や小麦粉……業務用調味料はそれなりにあった……けど……」


 米や小麦粉を食べれるようにする調理器具は電気がきていないので使うことはできない。おまけに水道が出ない。備蓄用のミネラルウォーターがあるからしばらくは何とかなるが、大量には使えない。


「言っておくけど、調理器具無しで作るとなると1~2人前が限界だからね。私達の力を使っても」


 アリュミールやタマは材料さえあればこの状態でも米を炊いたり、パンを作れるらしいがほんとに効率が悪かった。袋半分の材料を使ってこぶし大のパンやお茶碗一杯のご飯しか作れなかった。


「空中に浮かんでできていく光景は面白かったけど……。後は冷凍の豚バラ肉やソーセージ。キャベツや玉ねぎ、卵がそれなりにあった。他の野菜もすこしならあったな……。まあ、店が休みでほとんど仕入れてなかったからなあ……」


「なんじゃ♪ それなりにあるではないか! これだけあれば何かできるであろう?」


「いえ……できるとしたら、野菜炒め……肉と野菜を炒めた料理なんですけど……ここで売れます?」


「……それ単品では売れにくいの……。酒やパンと一緒なら……」


 オーベンバッハの言葉に僕も同意する。野菜炒め単品で売られても、購買意欲はなかなか起きない。


「それに……どうしても調理が……ここって調理ってどうしてるんですか? かまど?」


「炎石かまどのことか? あれは高いぞ? 家とセットで買うようなものじゃ。共同のはあるが……新参者がすぐ使えるものでは……」


 それでは、ますます難しい。だが、さすがに生の状態で売るわけにはいかない。どうするべきかと悩んでいると、タマとメイロンが声をあげてやってきた。


「ユウ殿~! こんなものがありましたよ~♪」


 そんなに厚くない木の箱を二人がかりでもってきてそれを机の上に置く。


「えっ……これって……」


「伝票を見ると今朝届いておったの」


 それを見て思い出した。注文して毎週届けられていた品。本来なら発注中止をしなければいけなかったのに、忘れていていつも通り届けられてしまったようだ。配達員さんも、ユウの家族に何も言わず指定の場所に置くことが定例になっていた。


「これだ……! これがあれば……あっ! でもまだ、調理が……。くそっ! せめて電気だけでも無事だったら……!」


 最悪、メイロンに種火だけ作ってもらって焚火を起こしてやることも考える。


「(けど街中で焚火って……大丈夫かな……? 怒られると思うけど……)」


「電気……雷のことか? それなら用意できるぞ?」


 オーベンバッハはつぶやく。そして指先からは青い稲妻がほとばしっていた。


「どうだ! これぞ魔王の『青雷』じゃ! ただ、放つのではない! 我が意思で自在にコントロールできる! これができるのは我しかおらんぞ!」


「……。魔王様……。質問ですが……お金……どうしても必要ですよね? 僕達が稼げないと困りますよね? その為なら……手伝えることは手伝っていただけますよね?」


「ん? なんじゃ? そんなことは当然じゃろう? もはや、お前達とは一心同体じゃ!」


 腰に手を当てて胸を張る魔王オーベンバッハを見て、僕は動き出した。


「えーっと……確かここに……あんまり使わなかったけど……あった!」


 そうして取り出したのは家庭用の鉄板プレート。懸賞で当てたとかで手に入れ、焼き肉をするときに使った記憶しかない。だが、今こそ封印を破るとき!


「みんな! 来てくれ!」


 僕は声を出して、皆を集める。うまくいくかわからない。けどやるしかない。みんなにやりたいことを説明し、さっそく作業に取り掛かってもらった。

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