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16話:名家からのご指名

「お久しぶりですわね! オーベンバッハさんとその一味の皆様! リューネイン=メルバルドですわ!」


 入ってきたリューネインを見てオーベンバッハが立ち上がる。


「ぬお! リューネイン! 何しに来たのじゃ! ここは我の領地じゃぞ!」


「あら? でもここはお店ですわ! 私はお・客・さ・ま! ですわ! このお店はお客を追い出すですの?」


「ぐぬぬぬ……!」


「あ……あの……いらっしゃいませ。おひとりですか?」


 僕は二人のやり取りをひとまず置いておいて接客することにした。


「……」


 リューネインはなぜか鼻をひくひくさせてこちらをじっと見ている。


「……? あの? どうかしましたか?」


「今日は……あれは持ってなさそうですわね……。ちっ! いえ! なんでもありませんわ! 今回、私は用事でまいりました。オーベンバッハがいるところになんて来たくありませんが、これは家の命令ですので……」


 そう言って、姿勢を正す。


「メルバルド家はある家より、カフェ「ヒナタ」の主……ユウ様に面会の仲介を依頼されました。なんでも、こちらで出される珍しい料理を食べたいと」


 リューネインの話では、最近ダンジョンや街で異国より変わった料理を出す一団が店を構えたということを聞きつけた名家より依頼があったという。


「その家は『できる限り内密に』こちらの料理を食べたいと。ですが、直接使いをだすと噂になりやすいので、メルバルド家に話がきました。『魔宰相』という家なのと……以前私があなたとやり取りしてたのを知ったようで……」


 要するに貴族がお忍びでうちの料理を食べたいということなのだろうか?


「その家の格は我がメルバルド家が保証します。日時もそちらに任せること。ただ、貸し切りにして食べる姿を見られないようにとの依頼です」


「ええ……っと……。ちょっと話合いをしたいので……」


 そういうと、リューネインはどうぞと言った感じにうなづいた。


「で……どうしよう。僕としてはチャンスだと思うんだけど……」


 名家……つまり町の有力者からの御使命だ。成功すれば大きな利益になる。


「私は、ユウ殿がいいと思うなら受けてもいいかと!」


「ビッグチャンスデ~ス! 私は賛成デース!」


「誰だろうと、私の料理があれば失敗しないわ! 恐れることなんてないのよ!」


「そうネ。むしろ好機と考えるべきネ。名家もうならせる店となれば評判もうなぎのぼりヨ!」


 タマ達4人は乗り気なようだ。僕はオーベンバッハを見る。一応、ここの主は彼女になっているからだ。


「……リューネインが話を持ってきたことがちと気になるが……。家の命令なら……。話を受けるのはいいと思う。しかし、何を出す気じゃ? また『焼きそば』か? それとも『かつ丼』? あれはうまいが……」


 こっちの世界の食材にも慣れてきた。また、元の世界の食材もある。今回は特別として出してもいいかもしれない。そんなことを考えていると、リューネインが遠くから話しかけてきた。


「失礼。あと、料理の希望として『小さい女の子が喜ぶような料理』……だそうです。さて……そろそろお返事を聞かせていただけますでしょうか?」


 貴族が食べるようなフルコースを希望していないようだ。それなら、ますますこのカフェらしいメニューでいけそうだ。僕はすぐさま、この話を受けることにした。



 そうして数日後の午後。貸し切りとなった店に一台の豪華な馬車が乗り付けた。家紋はメルバルド家の物。そこから賓客として降りてきたのは3人。

 一人目はリューネイン。2人目は、マントと仮面を付けた高価な礼服を着た男性。3人目は小学生低学年くらいの女の子。質のいい淡いピンクのドレスを着てベールを付けている。

 3人が店の中に入ると、ある装置を起動させた。オーベンバッハが指示して取り付けさせていたものだ。これが作動すると窓ガラスからでは内部の様子が見えなくなる。


「い……いらっしゃいませ! カフェ『ヒナタ』へようこそ!」


「ああ。私達の要望を聞いてくれてありがとう。メルバルド家にも感謝を。今回の訪問は非公式だが名乗らせてもらおう。ガーン・レーベルだ。そして、娘のカーリア。」


「……こ……こんにちわ……」


 マントと仮面、そしてベールを取ると温和そうな男の顔と、かわいらしい茶髪の少女が現れた。


「レーベル家じゃと!? これは……リューネイン……どういうことじゃ? お前がここをレーベル家の者に紹介するとは……」


「私だって……ですが、家の命令ですから! ……実際私も詳しい事情を聞いてはいないんですけど……」


 端で言い争っている二人は見えないことにして、僕は話しかける。


「わざわざ、仲介を挟んでまでここの料理を希望していただきありがとうございます。要望は……そちらのお嬢様が喜ぶようなメニューでよろしいでしょうか?」


「ん? ああ! 可愛い娘に是非食べさせたくてね。色々噂を聞いてる。ここら辺では食べれない物が出るのだろう?」


「はい! ご期待に沿えるよう頑張りますので……。それでは座ってお待ちください!」


 僕は、賓客を席に案内し、4人はあらかじめ決めていたメニューを作り始める。


「……おい……。ユウよ。これはチャンスじゃぞ! もしかしたら……砂糖が安く手に入るかもしれん」


「えっ?! どういうこと?」


「あのレーベル家はな。先祖が初めて砂糖が取れる『小ダンジョン区画』を制覇した家なのじゃ! この街での砂糖の流通を、代々行政と一緒に仕切っている家を言った方がわかりやすいか? もし、その家の令嬢を喜ばせれば……砂糖を定期的に購入できる交渉もできるぞ!」


 それは確かにあり得る。普通なら末端からコツコツ攻めるしかない所を、一気に本丸に入れるようなものだ。


「それは……。いや! 今はあの人たちを喜ばせることに集中しよう!」


「むう……まあ大丈夫じゃろ! 事前に我もしっかり味見したし! あの味は名家など舌が肥えたものでも納得するはずじゃ! ……リューネインに食べさせるのが癪じゃが……」


「まあまあ……。あの人も一応紹介者として同席するって了承したし……。あ! できたみたいだか運ぶよ!」


 話をいったん中断し、できた料理を運ぶ。


「こちら、メニューを説明します。『ミックスサンド』と『フルーツサンデー』になります」


 食パンに、卵、ツナサラダ、ハムなどの色々挟んだサンドイッチと市場で仕入れてきた果物を使った豪華なサンデー。お茶はオーベンバッハが選んだ最高級品。

 かつ丼などのと言ったがっつりしたものより、こういうカフェらしい食事の方が喜ばれると考えたメニュー。

 ミックスサンドは厚焼き玉子、ツナと小さく切ったキュウリをマヨネーズであえたもの、薄く切ったハムにレタスをはさんだもの……これらをパンで挟んできれいに切ることで色とりどりの断面で楽しませれるようにしている。

 フルーツサンデーもアイスクリームの周りに、リンゴやイチゴ、バナナやメロンといったフルーツをカットし添えたあと、生クリームとチョコレートソース(冷蔵庫に入っていたある意味秘蔵品)をかけた自信作!

 これを喜ばない子供はいないはず!


「わあ~……!」


「これは……噂通りだ。このような形式は見たことが無い! よくわからないものもあるが……食べる前に聞くのは興がそげそうだ」


「うむ! 味は保証する! 何せ、この我が事前に試食して食べたのだからな! この魔王オーベンバッハが!」


「それは信用が落ちそうなのでいわないほうが……!? これは! もしかしてあの時食べた!? 魚の方! ちっ! あの生肉っぽいのが欲しいのに……あっ! いえいえ! それではいただきませんか?」


 そうしていざ、食べようとするとある人物が前に出てきた。


「その前にお待ちを! 失礼ですが調べさせて頂きます……」


 その男は執事服を着ていた。ただし、顔は犬。リューネインみたいに獣耳がついているのではなく完全な犬だ。


「毒見か? お主……この魔王の店で毒を出すと?」


「申し訳ございません。ですがお許しを。カーリア様の物だけは必ずせねばならないのです」


 毒見だなんて貴族みたい……貴族といってもいい家柄っぽいけど……。それにしても娘さんのだけっていうのもおかしい話だ。普通なら全員するはずなのに……。


「ああ! いいですよ! 風習みたいなものだろうし……」


 体に害するものを入れるかもしれないと思われているようで、いい気はしない。だが、貴族と言った家ではそういう物なのだろうと納得する。別にそんなものは入れていないので、調べたいなら好きなだけしてもかまわない。


「ありがとうござます。それでは……」


 犬の執事は料理の前に行くと、鼻でその匂いを嗅ぐ。食べるんじゃないんだと思いながら見ていると、鼻を料理から話した。


「終わりました。……大変申し訳ないのですが……。この料理は……呪われています。お嬢様には食べさせてはいけません」


「……。 えっ? ……はっ? はぁああああ!!」


 その言葉に僕は思わず大声をあげてしまった……。

 

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