14話:適正
「それでは……これで講義を終わらせて頂きます。そして、これが探索者の証です」
銀色のクレジットカードみたいなものにチェーンを通す穴が開いている。ふつうはこれを首からかけて携帯するそうだ。
「これを持っていれば、この一階の脱出用魔法陣がある部屋にフリーパスではいれます。無くした場合、手続きをしなければダンジョンから出れなくなるのでご注意を」
僕はカードを手に取って、首にかける。自分自身の力で手に入れた勲章。そんな感じがして誇らしかった。
「終わったか~? そろそろ行くぞ~」
オーベンバッハが、講習室に迎えに来てくれた。これから、それぞれの適正を見てアドバイスしてくれるギルド職員に会いに行くそうだ。なんでもオーベンバッハの知り合いだそうだ。
「我の祖父の妹……親戚じゃな。別の家に嫁いでるので『魔王』家ではないが……色々昔から便宜を図ってくれてもらったぞ? お~い。おるかの~」
ギルド内の廊下の一角。小さいテントをめくるとその人はいた。ゲームに出てくる占いオババみたいな感じの方。緑色のローブを着て、テーブルの上の水晶玉に手をかざしている。
「おや……あんたかい? 元気そうでよかった。それに……あんたが誰かを連れてくるとは……」
「我の新しい配下じゃ! 今日、探索者の証を手に入れたのでの! 適正を見てほしいのじゃ」
「ど……どうも……。ユウと言います」
オーベンバッハに紹介されたので挨拶をする。ローブの奥は人の顔ではなく黒いもや。その中に2つの光輝く瞳外観でいた。
「……ふ~む。あんた達……この子の家の事情は知っているのかい? 『魔王』なんて名乗っているが、本当に名前だけなんだよ?」
「あ……はい。大体知ってます。でもこちらもいろいろ事情があるので……。それに、いろいろお世話になってますし」
「ほ~……この子が……。見たところよそ者のようだし……。そんな人材を配下にとは……ちょっとは成長したみたいだね。どれ……サービスとしていつもより詳しくみてやるとするかね。カードを渡しな」
僕と他の四人、そしてオーベンバッハもカードを出した。
「あれ? オーベンバッハも見てもらうの?」
「依然見せた時よりも成長しているかもしれんからの。あのクリスタルの中の情報を見るのには特殊な技術が必要なのじゃ。それを解析して適切なアドバイスをする……誰にもできることじゃないのじゃ」
「ふぉっふぉっふぉ……。年の功なだけさね。どれ、まずはオーベンバッハから見るかね……。むむむ……。能力は増えておるな。まあ、鍛え方と目指す方向は間違っておらぬ。そのまま精進するといい」
カードを当てた水晶玉の仲に炎が揺らめいたようにしか見えなかった。ゲームのようにステータス画面が出るわけじゃないんだ……。
「もっと詳しくはっきり言われると思ったかね? そんなもんさ。 たまに、魔法の才があるのに剣を持って戦おうとしたりするやつとかね。才能と目指そうとする方向がずれてるやつをいったん立ち止まらせるのが、私の役目さ」
それはちょっとわかる。進みたい道を行くのが一番だが、それが素質とは別物だ。そっちにすすめではなく、そういう才能があるよと教えてくれるところは信用できる気がした。
「そういうことでしたら早速見てくだサーイ! はいこれデース!」
話を聞いていジェニーがカードを渡した。
「はいはい。元気がいい子だねえ……。どれどれ……? ??? ふ~む……」
先ほどと違い、ずいぶん悩んでいる。いったいどうしたのだろう。
「お前さんは、後方からのアタッカーって感じだね。弓矢とか遠距離攻撃が向いている。 能力もいい。 けど……ふむ……ちょっと悪いけど、そこの3人のこのカードも見せてくれないかね?」
タマやアリュミール、ロンメイに向かって手を伸ばしていた。
「いいですけど……?」
別に断る理由はない。でもなんでだろうと思っていると、ふと思い出した。そういえば彼女達は人間に見えるが付喪神。普通ではないのだ。
「……ふむ。能力は高い……。しかし、これほどの魂……まるで何十年も生きてきたみたいな魂の大きさ……。だが……まあいいさ。犯罪を起こした記録はないようだしね」
やっぱり、何か違ったのだろう。だが、スルーしてくれるみたいだ。
「そっちの獣人の子は、武器を持っての前衛だね。そこまで頑丈ではないので回避優先の装備をするといいよ」
タマにカードを返した後は、アリュミールの方を向く。
「あんたは、逆に典型的な後衛タイプ。だが、オーベンバッハと違い、回復や補助などの才能が高い」
そして、最後にロンメイにカードを渡す。
「おまえさんは……前衛でも後衛でもどちらもできるタイプだね。ここに来る前に結構な戦闘経験もありそうだ」
「ふふふ……まあ、そんなこともあったネ。一応、こう見えても一人で旅をしたこともあるヨ。そう……昔ね♪」
ほほ笑みながらカードを受け取ったロンメイは、僕を前に押し出した。
「最後は坊やだね。どれ……」
「(……僕はいったい……。水晶の中の炎……みんなより小さくない? いや……素人考えだから……プロから見れば何か……!)」
今までのことで、今の僕は戦力的には全く役立たないことがわかっている。だが、それでも秘めたる力ってものがあるかもしれない。何か才能が有ったり、こっちの世界に来た時に不思議な力を授かったとか……。やはり期待してしまう。
「むっ……んんん~? これは……! ふむ……!」
水晶から手を放し、一息ついてカードを返してくれる。
「簡単に言うよ。私の経験から坊やにぴったりな担当は『ポーター』だね」
「ぽ……『ポーター』?」
「そう。ぶっちゃけ言うと『荷物持ち』」
「え……え~と……それは荷物がいくらでも入るマジックバックみたいなスキルがあるとか……」
「いんや? 普通の人より力が強い……けどほかの能力は低いから。他の戦闘担当が荷物を持たずに探索できるようにする。これだけで、探索効率が上がるいい素質だよ。というか……戦うのはそっちの嬢ちゃんの方が断然優れているからやめといたほうがいいと思うけど?」
……はっきり言われた。淡い期待が崩れていく音がする。
「なっ? 我の言った通りじゃろ? だが、安心せい! お前がいればダンジョンから持ち出せる量が増える。お前は、我らの後ろでこそこそと隠れておれば……ぶべばっ!」
僕の肩をいい顔で叩いた、オーベンバッハの頭をアリュミールがひっぱたき、引きずっていく。
「だ……大丈夫ですよ! 今は無理でも鍛えれば必ず! あくまで今は戦えるほど実力が無いだけで!」
「デース! 私達がユウより強いのは当たり前デース!」
タマとジェニーが僕を慰めている後ろでオーベンバッハが頭を押さえて痛がっている。
「痛っ! 痛いわぁ! なんじゃ! なんで殴るのじゃ! お前達も、ユウが戦うことを反対しておったじゃろ!」
「言い方ってもんがあるのよ! あんたの言い方じゃあ『ユウは戦うときに才能もないし、邪魔だからひっこんでろ!』っていったようなものなのよ!」
「ふぎゃぁ~! ぽっぺをつねりゅんおぉおあお~!」
オーベンバッハの頬をつねりながら怒ってるアリュミールを、しり目にロンメイが僕の頭をなでてくる。
「坊やよ……戦いたいなら、私達が協力して鍛えてあげるネ。でも、今の実力でダンジョン内で私達と一緒に戦うのは実力不足で危険ネ。そんな危ない目に合わせられないから、私達は後ろに控えていて欲しいネ」
言っていることはわかってる。でも、そのセリフに僕はますます気落ちする。まるで……母親に必要以上に過保護にかわいがられている幼稚園児になったみたいに……。