11話:探索資格をゲット!
行政府のキャンプを旅立ち、僕達は出発した。目的地は『探索者ギルド』。ただし、そこまでの道中で『探索資格』を得るための魔物を倒しながらだ。
『フォレストピッグ』などの魔物が出て倒しても、こんどは肉を取らない。全部ギルドに回して素材は現金化する。あの魔法陣はそういう設定にもできるらしい。
「おっ! 見つけましたヨ~♪」
歩いていると、ジェニーがリボルバーを構え、一発の弾丸を放つ。それは、遠くにあった植物の花を吹き飛ばした。
「こいつでよかったのですよネ~。よっと!」
茎をつかみ、地面から引っこ抜くと、根には黄色に輝くクリスタルが付いていた。
「これで、ワタシも資格ゲットデ~ス♪」
あれが、『探索者資格』となる素材。ハートの葉っぱの間から生えてる茎と花。その花にペンで書いたような顔が付いている
あのクリスタルには花を倒した者のデータが記録されており、それをギルドが調べるという仕組みらしい。
「まあ、あれを持ってきた時点でほぼ合格じゃ。ギルドが調べるのは犯罪歴とかの確認じゃ。あれには魂の記録が刻まれると言われておるからのう……」
実際は、ギルドの企業秘密らしくて原理はわからない。ただ、提出したときに、その人がどんな特性かなど調べどう鍛えればいいかも教えてくれるという。
「だから、こいつを採る際にはその者しか戦ってはならぬ。それ以外の者が助けると、そっちの情報も交じって使い物にならぬのじゃ」
オーベンバッハの説明により、見つけたものが倒すということになった。その結果……タマやメイロン、アリュミールやジェニーはあっさり、クリスタルを確保できた。しかし、肝心の僕は……。
「とりゃ! ……ああ! また!」
僕が突きだした槍をその花は茎をくねらせ回避する。今度は横なぎをすると、花は茎ごと地面に引っ込み攻撃は空振りをする。その後再び花を出して、こちらをあざ笑うように左右に動く。
次の瞬間、その花の茎をタマの斬撃が斬り落とした。
「………」
「はっ! すいません! ユウ殿! あまりにも無礼だったので……」
「あ……うん……。いや……僕が悪いんだし……」
メイロンに首根っこをつかまれ、猫のようにタマ引き離された。こんな感じで、全然倒せず、代わりに4人のクリスタルばかり溜まってくる。
「はぁ……はぁ……」
「ユウよ……。もう諦めたらどうじゃ? お主は戦闘はできん。なに! 戦闘はできなくても、ここの一階にはいって『探索者ギルド』のそばにある市場で買い出しとか……そうそう! 店で待つ人材も必要……」
「いやだ!! ……あっ! ごめん! でも……大丈夫……大分コツがわかってきたから……」
「へたり込んで、肩で息をしておる奴が何を言っておる! 別に戦えないことは恥ではないぞ? 後方支援も立派な役目じゃ!」
オーベンバッハが聞き分けのない子供に言い聞かせるように話してくる。
「……いや……そういうことじゃあ……。ただ……もう嫌なんだ……置いていかれるのは……」
そう、置いていかれたら……。また、両親みたいに帰ってこないんじゃないかと……。一人、あの家にずっと待ち続ける……。頭を振って、浮かんだ嫌な光景を振り払う。
「もうちょっと……やらせてほしいんだ……!」
「あ……待つのじゃ! も~! おい! お前ら! あれでいいのか?」
オーベンバッハは、タマ達に突っかかっていく。
「いいわけないじゃない! でも、あいつが……」
「あきらめてほしいのが本心ネ……。でも……私達に坊やのやることを止めることはできないネ。私達はユウの望みを叶える為に存在するネ」
手を貸せるなら手を貸している。あきらめるなら、慰めて助ける。だが、それはユウが望んでいることが前提。なぜなら、彼女達はそのために具現化した付喪神なのだから。
「はぁ~……。お前らは配下としては3流じゃな……。自分の意見も言わず……主の言う通りなぞ……。なら、せめてユウが望みをかなえられるよう助言でもしてくるのじゃ! ただ見守るだけなぞ置物でもできるぞ!」
めんどくさくなったのか、オーベンバッハは預かっている荷物の中からカンヅメを取り出し始めた。いつもなら、止めるところだが……タマは意を決してユウのそばに歩いていく。
「ユウ殿……」
「え? ああ……ごめん。もうちょっと……」
「いえ……違います。少しお話が……。実は言っていませんでしたが……私達はユウ殿と離れすぎると……力が使えません。もしかしたら、ただの招き猫に戻るかも……」
「……えっ? そうなの? それじゃあ……僕が家で待っている状態でダンジョンに行ったら……」
「はい。私達が探索資格を持っていても意味がないかと……ですので……」
4人がいくら強くても、意味がない。そうなると、僕が何としても探索資格を取るしかない。目の前の憎たらしく笑っている花を何としても倒さなければ!
……しかし、気合を入れても能力が上がるわけではない。完全に振り回されて時間と体力を浪費してしまった。
「はぁ……はぁ……。た……タマ……。もうちょっと時間がかかりそうだから……向こうで休んで……」
「いいえ。ここから離れません。ユウ殿が成功するまで! 死んでも待ち続けます!」
そうして正座をして、ずっとこちらを睨んでくる。……本気の目だ。
「(……もしかして、僕をあきらめさせるため? いや、そんな……って……あれ?)」
ふと、相手の花を見ると僕を見ていない。というか……タマを見ている。まるでネコににらまれたネズミみたいに……。僕は急いで槍を突く。
すると、槍の穂先が葉っぱにかすった。今まであたりもしなかったのに……。なんで、地面に潜って逃げないんだ?
「(……っていうか、あいつ。この状況でも僕を見ない……。そういえば、タマって斬撃飛ばせるよな……)」
ここに来るまで、そういう光景を何度も見た。
「もしかして……逃げ出したらやられるってわかってるから?」
あの斬撃は地面に潜った程度では避けられない。だから動けないんだ!
「み……みんな! ちょっとお願いが!! あいつを囲んで睨みつけてくれない?」
その言葉に残りの3人が花を囲んで睨みつける。花は4方向から睨みつけられてどっちを向けばいいか混乱しているように見えた。
「こ……これなら……でも、これは手伝ってもらうことに……」
「いんや? 大丈夫だぞ? 攻撃したりしなければ……ユウよ……花を狙うなよ? 狙うは根本じゃ!」
オーベンバッハがいつの間にか後ろに来てアドバイスしてくれた。確かに、根本は動けない。僕は狙いをつけて槍を突きだす。
花の顔は驚愕。4人ににらまれて動けなかったので完全に対応ができていない。いける! そう思った瞬間……花は葉っぱを手のように動かし、槍の穂先を受け流した。
「うそ!? (やっぱり『魔物』で普通の植物じゃないのか? こ……ここまでして! いや! まだ!)」
みんなが協力してここまでできたんだ。ここであきらめたくない! 僕は槍を手放し、花の茎をつかんだ。
「ぐっ! ぐぐぐぐぐううぅう~!!」
手の中でじたばた暴れる。だが、逃がさない。思いっきり力を込めて引っ張った。その結果、花は地面から引っこ抜かれ、根元から透明なクリスタルが飛び出した……。
「はあ……はぁ……や……やった……?」
「オー! やりました!」
「お見事です! ユウ殿!!」
4人が、僕に抱き着いてくる。僕の手には地面から引き抜かれてぐったりとしている花の根に、澄み切った透明のクリスタルが光り輝いていた。
「ふむ……見事な……これなら大丈夫じゃろ? よくやったな! ユウよ!」
オーベンバッハの言葉に、僕はほっとする。
「よかった……。これで僕も一緒に行ける……あっ!」
安堵と主にお腹の鳴る音が響いた……。