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プロローグ〈挿絵あり〉

 『休業中』の札が掛かっているガラスのドアを開けて店内に入る。一見、喫茶店やカフェのようだが、店内は招き猫やフランス人形。色あでやかな龍の置物やワッペンやポスターがずらりと飾られていた。一見すると国外問わずのお土産の見本市。


「ただいま……。帰ってきたよ。父さん……母さん」


 位牌と骨壺をもって2階の居住スペースに上がり、礼服を脱いで着替えた。


「最後のメールが『お土産楽しみにしてね』って……。そんなもんより無事に帰ってきてほしかったよ」


 『日向ヒナタユウ』は形見となってしまったペンダントらしきものをもって1階の店舗スペースに降りる。

 本来なら両親は結婚記念日の客船旅行から帰ってきているはずだった。しかし、到着直前で衝突事故を起こし沈没。亡くなってしまった。


「今度のは今まで以上に怪しい……。外国というよりゲームとかアニメの小物って感じだ」


 お湯を沸かしてコーヒーを入れながら、形見のペンダントを見る。赤い宝石の向こうに紋章みたいなものが見え、周りを銀の装飾で飾られていた。

 両親は一時は救助ボートに乗ったらしいが、小さな子供と母親の代わりに降りたらしい。その際、息子にこれを渡してくれと……。


「……。はぁ……。明日から片付けか……」


 今でもまるで現実味が帯びない。今でも店内で働く両親が思い浮かぶ。しかしそれは幻だ。誰もいない店内を見渡し、ため息が出る。この店は両親が経営していたカフェ『ヒナタ』。それなりに繁盛していたが、両親がいない学生の身ではやっていくことはできない。親戚と話して店を閉じることにした。

 子供の頃から過ごしていたこの店が無くなるのはつらい。ユウも手伝ったこともある。数あるお土産を掃除しながら、それを買った時の話を聞くのが楽しかった。


「処分……いや……どんな安くてもいいから引き取ってくれるような店を探すか……」


 これらの数々は古臭くて、価値があるものではない。でも、子供の頃からずっと一緒だった。ずっと両親と一緒に大事にしてきた。それをゴミとして処分されるのは嫌だ。


「これだけの量は持っていけないから……出張買取か……。いい店があるといいけど……おっと!」


 携帯を取り出す前に、形見のペンダントをなくすわけにはいかない。そう思って、ペンダントを店の神棚に置いた。


「神様……どうか、ちゃんとした人に買われますように……大事にされますように……お願いします」


 このお土産達。ある意味、兄弟も同然だ。もう所持はできないけど次の所有者に大事にされることを願って祈る。

 次の瞬間、神棚に備えた形見のペンダントが赤く光りだした。そして、その光はカフェ『ヒナタ』を包み込んだ……。


「!!! ……? え? いったい何が……」


 一体何が起こったのだろう? 体に異常はない。店内に異常は……電灯が消えている。ブレイカーが落ちたか停電? 外はどうなっているんだと思って窓を見ると……ありえない光景が広がっていた。

 窓の外は日本の住宅街だったはず。だが、目の前にはヨーロッパのような石造りの西洋風の建物が連なっている。見える人々も日本人ではなく、外人ばかり……いや、着ぐるみやコスプレっぽい人ばかりのような……。


「……。今日は何かイベント……いや……違うよな……それに……家の近くにあんなのなかったはず……あんな……『魔王城です』って感じの城……」


 巨大な岩山の上にそびえたつ、黒を基調にした外壁の城。窓の配置が悪魔が笑ったような感じになってるデザインの城がはっきりと見えた。あんなものは生まれてから一度も見たことがない。

 信じられない現実に思わず後ずさった瞬間、バランスを崩して後ろに倒れかけた。


「うわっ! やばっ……!」


 このままだと後頭部を床に叩きつけられる。そう思った時、誰かが僕の体を後ろからやさしく抱きかかえてくれた。


「えっ? あれ? なんで?」


 明らかに人の感覚。おかしい。家には自分以外誰もいなかったはず……。視線を後ろに向けると、そこには招き猫が浮いていた。正確に言えば光の幕が人型になりその中に招き猫があった。


「……え? ……ええ? 何これ……夢……?! いや……うわっ! これ触れる……!」


 光の幕を触ると反発力がある。というか……風船のような感じに見えたが、柔らかいが中身がしっかりつまっている感覚……。というか人肌っぽい……。

 そんなことを思っていると光の幕の中身がだんだん濃くなっていく。やがて白一色だったのが、しっかりと色が付きだし、形もはっきりしてくる。それは人のように動き僕の体を、床におろしてくれた。

 それを確認すると光がはじけた。その後そこには……女の子がいた。黒髪のおかっぱ。ミニスカ着物にカチューシャ。頭の上に鎮座するネコミミ。大正時代の和式ウエイトレスと言った感じの少女が顕現した。

挿絵(By みてみん)

「ユウ殿! ご無事ですか?」


 その少女は僕の名前を呼びながら手を握ってくる。


「……なんで、僕の名前を……? いや違う! ええ? さっきのは? 招き猫が浮かんで……そしたら女の子が出てきて……」


「はい! そうです! 招き猫です。先ほどなぜか徳がたまって付喪神になることができました! 名前は……『小金タマこがねたまひめ』! タマとお呼びください! ユウ殿! これより私はユウ殿とこの店をお守りします!」


 生まれて一番の衝撃。両親が乗っていた船が沈没したという知らせを聞いた以上の混乱をしていると、店内にあった数個のお土産が光り輝き始めた。先ほどと同じ光だ。

 実際に使われていたというアメリカ西部時代の保安官が使っていたカウボーイハットとシェリフバッチ。アンティークのフランス人形。竜の置物。それらのお土産が先ほどの招き猫と同じ光り輝き、人型になっていく。

挿絵(By みてみん)

「ヘ~イ! タマ~! 抜け駆けはいけまセ~ン♪ それはこのジェニーの役目で~す!」

挿絵(By みてみん)

「そんな量産品に頼る必要はないわよ! ここは私! 『アリュミール・オルネット』が守るわ!」

挿絵(By みてみん)

「安心するネ! おぬしを立派に導き守ってやろう! 何せこの守護竜『ロンメイ』がついてるかネ!」


 オレンジの天真爛漫なおさげの女の子。ドリルツインテールのメイド服の女の子。緑の髪のお団子ヘアの中華レストランのウェイトレスみたいな女の子。

 なんでいきなり、女の子があらわれたのか? 誰も説明してくれないまま、僕は女の子に詰め寄られている。

 こうして、僕……『日向ユウ』は両親が経営しているカフェごと不思議な世界に転移された。不思議な女の子一緒に……。

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