表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

4-3

 両腕をクロスして必死の抵抗虚しく、背後からフェイスロック(顔締め)を雅から決められ痛さで腕が上がった隙にすぽぽぽんと脱がされる。

 上半身、水色のスポブラ1枚になり顔を染めながら雅の前に立つと、背もさることながら、その石膏像のようなきめ細やかな体に圧倒される。


 ーーちゃんと見たことなかったけど雅さん綺麗…。それに比べて私はーー。

 幸は自分の、特に腹周りを重点に触り頭の中でわらび餅を想像し、首を何故と捻った。

「別に気にすることないわよ。ちっとも太ってないじゃない」

 首を捻っていた幸などお構いなしに、雅は幸のわらび餅を無遠慮にもぷにゅうと摘んだ。


「ふ、ふぅうわ!!」

 水を浴びたように驚いた幸を大笑いする雅に対抗すべく定規で引いたかのように真っ直ぐな縦線が入った腹を摘もうとするが、雅にひらりとかわされる。

「なんで、避けるんですか不公平ですよ!」

「だって、幸の手つきイヤらしかったもん」

 一瞬、黙り込んでしまった幸は慌てたように「それじゃあ! パーじゃなくて、グーやチョキならいいですよね! セーフですよね!」とよく分からないことを言い出す。


「急に必死過ぎだって」雅は笑みを浮かべながら、足を開くと自身の下腹部を人差し指で指して「ふふん。そんなに触りたければ力ずくで触りなよ、スケべっち」と言って舌をペッと見せた。

「絶対に雅さんの方が¥;&@@¥&;7ですって!!」

 はっきりと口にするのが恥ずかしく幸はゴニョニョと誤魔化しながら雅に突進した。


 ゴッンンンンンンン!!!


 相撲の立ち合いように瞬間肉体がぶつかり、室内に音が響く。

 そこからロックアップ(相手との組み合い)の体制のまましばし押し合い引き合いの硬直が続くかと思った矢先、「今からエロエロなキャットファイトでもするのかい。お前達」と冷ややかなミナホの声を受けて、2人の頬の熱が上昇しバッとどちらからともなくくっついていた体を離した。


「どうしたの? 続けなよ」

 スマホを傾けるミナホに「早くしまいなさい!見せもんじゃないわよ」とジャージを素早く着た雅が抗議した。

「エログロ映像が見れると思ったのに残念だねー」

「そ、そんな趣味の悪いモノ見せるわけないでしょ!」「そ、そうです!」

「ふーん」ミナホはドーナツの穴から2人を交互に見ながら「でも、エロは無しでもグロはしてくれないと、こっちもいい加減待つの退屈なんだけど」と手に掴んでいたドーナツを半分に割った。


「異世界では日常茶飯事だったかもしれないけど、ここは日本なのよ。金属バットで頭をぶん殴るなんて、普通じゃないんだから、気長にのんびりと待ちなさいよ」

「気長に? もう、十分待ったからクレーム入れてるんだけど? 確か日本人って時間にうるさい民族じゃなかったけ? 電車の時間が少し遅れただけで声を荒げる人達だって学んでたけど」


「そんなことをするのは一部の余裕のない人だけよ。異世界人であるアナタもそんなダメで周囲の迷惑を顧みない人になりたいの? 嫌でしょ? だったら、黙って待ちなさいよ」

「な、ずるい、汚いな、ペッペペぺぺ」

「き、汚いのはどっちよ。ミナホさん、アナタ異世界式計算だと私達と同学年みたいだけど、日本式計算だと、確か2、3歳年上らしいじゃない。人生経験豊富な年上のお姉さんなら、もう少し優しくしてくれてもいいじゃないかしら?」


 雅とミナホの両者が静かに睨み合う。

「え、えーと」とオロオロしていた幸が劣勢であるミナホに助け舟を出すように口を開いた。

「あのー雅さん。ミナホさんは私達の命の恩人でもあり、体の強化をしてくださった立派な人なんですから、もう、その辺でーー」

「よくぞ言った日比谷幸!! そうです! 私、命の恩人ですよ! 本来なら感謝感謝の女神様的ポジションにいる人です!」

 水を得た魚ばりに元気になったミナホは立派な帽子を見せつけるように立ち上がった。


「…そうね。幸の言う通り言い過ぎたわ、ごめんなさい女神様。これからも、私達の体のメンテナンスお願いできるかしら?」

 右手を差し出した雅の手を握るようにミナホも右手を差し出すがーー。

「Fuck off!!!!」と言って手を握らず突然中指を突き立てた。


「あら、アナタ目が悪いのかしら? 私は友好の証として今、握手をしようとしたのだけれど」

 雅は満面の笑みで手を小刻みに振るわせている。

「相手から手を差し出されたら、中指立てろと上米良魔技が言ってた」

「そっかー、あの脳筋先輩が言ってたわけかぁー。それはそれは。ミナホさんさ、一つ教えて欲しいんだけどFuck off!!!!って意味はちゃんと教わっているのかな?」

「消えろとか失せろって意味でしょ。知ってる知ってる。こっちに来る前から知ってたよん」


「あの! 一旦皆んなでお茶飲みませんか! 私、入れて来ますよ!」

 笑顔が張り付いた雅とその怖さを微塵も感じていないミナホに代わり、プルプル、あたふたとした表情で休戦を提案するが雅の「電気ケトルでも頑張れば人ぐらい殺せるわよねー、あれ、イケるわよねぇ」とボソッと言った物騒な言葉に幸の動きが止まる。


「あら、怒ったのかい? 雅姫香」

「怒る? ないない。そんな可愛らしいイタズラにいちいち怒っていたら荒んだ日本じゃ暮らせないって。ーーでも、やっぱり握手ぐらいは脳筋式じゃなくて、標準的なシェイクハンドをしたいと思っただけ。ね、いいでしょ女神様」

「ん〜そこまで言うなら仕方ないなぁー。ほら、」

 ミナホが右手を差し出す。「ありがとう」と言い雅も右手を差し出すがーー。

「fuck you!!!」と雅はお約束のように中指を立て「日本式テンプレート名付けて天丼よ、お勉強になったでしょ?」と笑った。


「へーへーへー為になるなー。為になったお礼に異世界式挨拶、ドラゴンアルティメットファイヤー見せてあげるよ!!」

「ドラゴンアルティメットファイヤー? なんだか、痛々しいネーミングねー。あ! もしかして魔法のことかしら? あれ、でも魔法って日本来る時に法律によって制限されて使用できないんじゃなかったかしら? 確か、アナタ達って使えて修復ぐらいだったはずだけど? あれ、あれ、私の勘違いだったかな? 勘違いだったら是非見せて欲しいんだけど」


 雅の煽りに我慢ができなくなったのか、ミナホが尖った帽子をいきなり床に叩きつけ帽子を何度も踏みつけ地団駄を踏んだ。「バカバカバカバカバカ!! こいつ何? ムカつく!! もう、絶対に修復しない! ぐちゃぐちゃになって最悪死んでも知らないからな!!」

 不機嫌になったミナホは腕を組み頬を膨らませてしまう。


「まずいですよ、雅さん。ミナホさんがいないと今後の私達、怪我したらお終いですよ」

「う、大丈夫よ。だってうちの学園まだーー」

 幸はお喋りな雅の口を手で塞ぐと、「ミナホさんに謝りましょう」と言い顔を至近距離で近付けた。

幸の圧に負けた雅は頭を掻き、ため息を吐くとミナホに近付き頭を下げた。

「少し言い過ぎたわ、ごめんなさい。ーー金属バットを頭で受けるってなった時、ピリつて平常でいられなくて、それでイライラしてた…なんにせよ、ごめんなさい」


 雅が頭を下げてもそっぽを向いたまま、向き合うとしないミナホに「ミナホさん!」と幸が強めに声を掛けると、渋々と言った表情で、頭を下げる。

「私も、その状況分かってなくて言い過ぎた。ごめん」

「仲直りしてよかったです。安心しました」

 幸は喜びから頷きながら拍手をパチパチと鳴らした。

「あの、」ミナホがおずおずと言った素振りで何か言いかけるが口をつぐんでしまう。


「何? 吐き出しなさいよ。もう、中指立てて暴言吐いた程度じゃ怒らないから」

「その、」それでも、もじもじとするミナホに幸は「どうしたんですか? 楓ちゃん」と親しみを込めて名前を呼んだ。

「その…私も一緒に参加していいかな。部活に」

「参加って、もうとっくに修復士として入ってるじゃない。それとも何? ミナホさんも筋トレとか叩いたり叩かれたりしたいって言うんじゃないわよね?」

「その…」ミナホは視線を下げながらゆっくりと頷くが、直ぐに頭を左右に振ると「参加したいって言っても、その、筋トレは辛いし、叩かれるのは怖いから、その…叩くのだけーーみたいな…。だ、駄目だよね、そんなの。ずるいよね…」


 自分の発言を恥じるように下を向くミナホを見て、幸はもしかしたら、さっきから噛みついて来ていたのは一緒に部活をしたくてきっかけを探していたのかな? なんて思いが浮かぶ。


 ーー私は楓ちゃんがやりたい箇所だけ参加するのは全然構わないけど、雅さんはどう思うだろう?


 雅をチラリと見た幸は即座に自分の考えを恥じた。

「あーあ、そんなことなら早く言ってくれればいいのに」雅は金属バットを掴むと、視線を下げていたミナホに渡し続ける。「ほら、弱腰の幸の代わりにいっちょ私の頭殴ってくれる?」

「い、いいの?」

「いいも、悪いもないわよ。そのかわり、私が失神するぐらい全力でぶっ叩きなさいよ。それと、壊した箇所は責任もって治してよね」


 ミナホや幸に向けて背中越しに座った雅の顔はきっと照れていたに違いない。

 幸は雅に2、3個小言を言いたくなったが、今はそのアイドルの背中を黙って見つめることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ