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おとぎ話は願いごとのあとで  作者: 枕野くろす
第一章 月へ還る麗しき姫
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第4話 脆くか弱いこのセカイ②

遅筆を許してください…

なんか前の話を読んでみてこれほんとに自分が書いてたのって状態に陥る時ってありませんか?

ないですかね。

 合宿一日目。1205室にたどり着いた僕ら三人は、各々荷物の整理を行っていた。

 そして、こういう宿泊の時にまず交わされる会話といえば相場は決まっている。

 そう、誰がどこで寝るか、という問題だ。

 まず、一番そういうことを気にしていなそうな稗田が口を開いた。


「ベッドは二つ、か。一人は敷布団を利用することになりそうだな」


 建物の外観からして、高級ホテルとはいかないまでもかなり豪華な印象を受けたが、実際に一室を確認してみるととても綺麗だった。

 こういう合宿は二段ベッドの印象が強かったのだが、この部屋では清潔感を維持したようなシングルベッドが2つ、等間隔で設置されている。

 部屋割りで3人となった班はどこも同じ内装なのだろう。

 さっき自分の部屋割りを確認していて3人部屋だとぱっと気づいたのが、僕たちだけだったくらいにはマイノリティのはずだ。

 もしかしたらほとんどの生徒は二段ベッド利用なのかもしれない。

 それはそれで楽しいとは思うけど。


「あー、僕が布団でいいよ。家でもベッドじゃないし」


「伯川が良いなら俺は構わないが、中川はどうだ」


「や。俺もベッドより布団をとるつもりはないよ。でっかいしなこのベッド」


 まぁ、そもそもの話こいつら二人ともすでに各々がベッドの上で鞄広げてるから、それを片付けさせてまで自分が利用する、という気にならなかっただけなのだ。

 もう陣地確保してるようなものじゃんね。


「18時には活動班の顔合わせだ。あと20分くらいだし、そろそろだな」


 献一は言いながら、筆記用具やら教科書やらを持参するためにまとめていた。

 合宿一日目に限ったことではないが、その時間割はかなりざっくりしたものとなっている。

 今日で言えば、18時から22時までが顔合わせ・グループ学習の時間となっている。

 もっと厳密にいえば、22時が消灯なので実質21時50分やそこらへんまでだろう。その指示は各学習部屋を監督する教師が出すと思われる。

 そしてその4時間の中で1時間だけ休憩を得ることができ、その間に食事や入浴を済ませなければならない。

 一時間ぶっ続けじゃなくても構わないらしいけど、浴場や食堂の混雑具合をみて対応しなければ時間を無駄にしてしまう可能性が高い。

 僕はぶっ続けでとるつもりだ。もちろん、グループの方針によって変更するとは思うけど。


「ホールが建物の4Fにいくつかあって、僕たちはAホールなんだよね」


「だな。さっきみたくエレベーター込むのも嫌だし、さっさと行っちゃうか」


「よかろう」


 ということで、僕たち三人は一足さきにAホールへ向かうことになった。

 鍵は一人別の班である稗田に所持してもらうことにした。

 エレベーターの前には生徒数人がちらほらと。

 見かけたことのある顔はあるものの、面識は全くない。

 10分前行動どころか20分前行動である。

 やがてやってきたエレベーターにはちょうど収まるくらいの人数だったようで、誰かが4階のスイッチを押してくれていた。

 動き出すエレベーター。その中は静かだった。わざわざ別のコミュニティも存在する場所で雑談を交わすような生徒は居なかったみたいである。

 まあ、わざわざこんな早めに行動してるような人たちだしな。特待組の中でも特別真面目な人たちなんだろう。

 途中止まることもなく4階に辿り着くとエレベーターのドアが開く。すると、すぐ目の前にある案内板に目がいった。

 A,B,C,Dの4つのホールが階の1箇所に集中してある訳もなく、AとBはエレベーターから出て右に歩くと見えてくるようだった。

 そしてその方向に歩いているのは同じ部屋である僕ら3人と面識のない2人の男子計5人だった。

 廊下を歩く途中、特に会話はなかった。やがて、それらしい扉が見えてくる。


「あれか?Aホールって書いてある」


「Bホールとは真向かいみたいだな」


 僕と献一のそんな会話のあと、2人の男子は僕らとは別方向、つまりBホールへと入っていった。

 あまり気にもせずに、僕らもAホールへと入っていく。


「え、結構広いな」


 思わず口に出していた。

 時期が時期なら宴会とか普通にやっていそうな。

 中学の家庭科室(市立)より少し広い感じだ。

 ホールと言われれば横にも縦にも広い印象を受けるが、天井の高さはそれほどでもなかった。言ってしまえば予想通りというやつだ。

 ただ、横の広さは予想以上だった。

 十分なスペースを確保したとしても3人は優に座れるであろう長机が3×6の形で配置されている。

 おそらく、この机2つをくっつけて1班で利用するのだろう。4人班だとすこし余裕があるくらいだ。

 それでいてまだ部屋自体にスペースの余裕がありそうだった。

 この感じの部屋があと3つ別の場所にある、というのが正直いうとあまり想像しにくかったのである。

 めちゃくちゃ大きな広間が1つ、ドカンと設置してある、っていうのが事前に持ってたイメージだったし。


「あれ、もう来てるみたいだ」


 生徒自体はちらほら待機しているようだったけど、一際目を引かれたのは僕らの班の場所。

 僕と献一の班があてられている机には既に二人、隣り合って女子が席に着いていた。

 ということは、だ。

 僕たちの班は4人班なので、全員揃ったということになる。

 そして、正体不明だった播磨さんは女子だということも判明した。


「失礼します」


「え…?」


 僕たちはそう言って二人の席の後ろに腰を下ろす。

 女子二人は特段驚く様子もなく…、いや驚いてるな、これ。

 特に推定だけど播磨さん。声を漏らしてた。

 そりゃ初対面だし。いきなり声かけられたらびっくりするか。

 一方の月夜さんは表情を変えてはいなかった。

 彼女と会うのは一昨日ぶりである。


「おい、お前月夜と面識あるんじゃなかったのかよ」


 小声で献一がつついてきた。

 もちろん面識はあるはずだ。あれが夢だとしたら僕は相当やばい。

 けど献一がそうやって気にかけるのも頷けるくらい、月夜さんはおとなしかった。

 というか無視されてるような…。


「あ、もしかして中川くんと伯川くん…であってる?」


「ああ、あってるよ。俺が中川で、こっちが伯川」


 僕から特に言葉を発さずとも会話が成り立っていた。

 まあ、返答しようとしたら先に献一が返事してたから被らないように口を閉じただけなんだけど。

 ほんとだよ。

 決して、初対面だから敬語使った方が良いかなとか迷ってたわけじゃないよ。

 とまあ、そんなこんなで僕らが彼女たちの対面に腰を下ろそうとした時だった。

 ふと、月夜さんと目が合った。ような気がした。


「はじめまして、だね。私は1-Bの播磨重音(はりま かさね)。よろしくね」


「こちらこそ。僕は伯川露音、1-C所属です」


「中川献一。こいつと同じ1-Cで…実は中学から一緒だったりする」


「すごい。運命的だね」


 腐れ縁である。

 播磨さんは少し上気させた頬に両手をあてて、だいぶ顔を緩めていた。いわゆる、可愛い系の顔という奴だろうか。多分、後輩ですと自己紹介されても信じてしまうだろう。それくらい、彼女の容姿には幼さが残っていた。

 いや、高校生になりたてのやつが何を言ってんだという話ではあるけど。

 でも、そうか。もしかして、この中で面識があるのって僕と献一だけだったりするんだろうか。

 入学してまだそんなに経ったわけじゃないし、別のクラスと交友を深めている生徒もそんなには居ないだろう。

 そういう時期だからこそ、オリエンテーリングなことも期待してのグループメイクになっているとは思うけど。


「伯川君…」


 それは、ふと漏れたかのような呟き。正しくは漏れてしまったかのような、か。

 少なくとも僕にはそんな風に聞こえた。

 僕の名前を呼んだのは月夜さん。けれどその呟きは、ただ名前を呼んだだけではなく、その後に何か言葉をつなげようとしていたのではないか、と。

 なぜか、そんな風に感じた。

 その呟きからわずか2秒ほど。

 彼女はすぐに別の言葉を発していた。


「私は月夜望心。1-A所属、です。よろしくお願い、します」


 彼女の言葉には不自然な間があったように聞こえたけど、それを誰かが口にすることはなかった。

 特に僕は、そんなことはどうでもよかったから。

 また、彼女と会えたこと。それがなぜか、無性に嬉しく感じたから。

 わけなんてわからない。

 もう二度と会えないのではないかというあの予感が、錯覚であったことがうれしかったのだと思う。

 気づけば時計が18時を示す頃。

 1日を挟んでの彼女との再会をもって、合宿一日目のグループ学習の始まりの火ぶたが切られるのだった。

次回、第5話 脆くか弱いこのセカイ③ に続きます。

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