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おとぎ話は願いごとのあとで  作者: 枕野くろす
第一章 月へ還る麗しき姫
1/8

プロローグ 2人ぼっちのゆめ

 それは、ある一時の光景だった。

 馬鹿みたいにテキストとにらめっこしながら、休むことなくノートに殴り書き。

 おかしなくらい集中していた姿が目に焼き付いたのだ。

 たぶん誰が見ても同じことを思っただろう。

 思わず笑みを浮かべてしまうくらいなんだか面白くて、

 そしてこんな、何でもないことをいつまでもずっと覚えていられたなら。


 私の世界は、ズレている。

 底の空いたコップのように、何を入れても溢れることはなく、ただ漏れるばかり。

 飽和の真逆。私の中にはきっと、ブラックホールが存在するのだ。

 だっておかしい。

 どんなに楽しくても。

 どんなにうれしくても。

 どんなに悲しくても。

 どんなに、好きになっても。

 どんなに、嫌いになっても。

 それは何にもならない、ただの虚ろにもどるばかり。


 だからだろう。

 一瞬を必死に生きる。その一瞬にとんでもない熱量で挑む。

 多分意味はないのに。

 どれだけ頑張っても、果たされることはないのに。

 それを羨ましいと思ったのは。


 あの一時の光景が、私の中に焼き付いている。

 いずれまた、元に戻るとわかっていながら、焼き付いているのだ。

 実に不思議だ。無駄なことを、無駄と分かっていながら……

 ちょっとだけ、期待する。

 だって不公平だ。

 私にだって、奇跡を描く自由が欲しい。


 だけどそれすらも無駄なことである、と落ち着く。

 バランスだ。私がこんなに不幸なのは、誰かが幸せになるため。

 誰とも知らない他人のためではあるが、その幸福の糧となれているのなら。


 それでもいい、と?

 そんなことが、許せるはずないだろう。

 私の自由はどこにある。

 私の満足はどこにある。

 私の未来はどこにある。

 私の過去はどこにある。


 ただ普通でありたかった私には、あなたはとても眩しかった――――――――


 どこからどう見ても、普通の人だった。

 身の丈以上の努力をしているところなんて、自分からそうですと言っているようなもの。

 だって、それが結びついていない。

 誰がどう見ても、彼は努力してるし、頑張っている。

 なのに、結びつかないのだ。

 そんなの、普通過ぎて、普通過ぎて、忘れ去ったはずの憧れがよみがえってしまう。


 昔。もうすでにあなたの中にはない、私の話。

 書くことでしか紡げなくなってしまった、不幸で不憫なあなたの話。


 私はもう限界に近いけど、大丈夫。

 これなら、耐えられる。

 あなたのために、維持できる。

 だからもう、揺れないで――――――


 あなただって一度くらい、報われるべきでしょう?


 私の中の私は、背反している。

 気を抜けばきっと、簡単に支配されてしまうようなそんな予感。

 だってほら、私は何も言ってないんだもの……!



 不変のあなたと、不安定な私。

 同じように、このままだと未来を諦めるしかない不幸の化身。

 せめて、あなただけでも、報われるべきだと―――――――――――


 何もない。ブラックホールの真ん中で、私は一人、息をする。

 来客はいない。

 そこには、私だけが在る。


「や―――――――めて」


 音もない。

 感覚自体がない。

 思考だけが、渦を巻いている。


「あなたを幸せにするために、私は生まれたのに――――――――――」


 それじゃあ、あなたはどうあっても。

 本当に奇跡でも起きない限り。

 だから私は、最後の抵抗を残した。


「ごめん、なさい。でも、あなたのため―――――だから」


 願いを叶えて。


「うん―――――。未練は、ないはず」


 願いを叶えないで。


「ごめん――――お別れ、だね」


 誰かがきっと、あなたを迎えに行くと、信じていて―――――――

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