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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編版】クロフォードの逆襲

「そこまで!」


 ルミナス伯爵家の武道殿に当主リュノスの声が響く。


「はぁっ……はぁっ……これで分かったか鉄仮面! 俺がルミナス伯爵家を守る!」


 勝利を収めたシロヴィスの白銀色の髪は汗で額に張りつき、激しい剣戟を物語る。


「シロヴィス。もう良い。お前はもう休め」


「分かりました。父上。お先に失礼いたします」


 剣を握る手は震え、今にも溢れ出しそうな感情を悟られまいと逃げるように武道殿を後にするシロヴィス。彼は知っていた。これが兄との最後の会話だと。


 その背中を見届けたリュノスが、立膝をつき、まだ壁にもたれかかるクロフォードに命ずる。


「クロフォード。立て」


「…………」


 鉄仮面を被ったクロフォードが、リュノスの言葉にワンテンポ遅れて立つ。


「《(ライト)》を唱えてみよ」


「……光よ、我が道を照らせ《(ライト)》」


 抑揚のない声で詠唱するクロフォード。しかし変化はみられなかった。


「もう一度だ。心を込めて、《(ライト)》を信じて(うた)え」


 しかし、クロフォードそれに応えずリュノスの脇を通り過ぎる。


 彼も知っていた。《(ライト)》を唱えられても運命は変わらないと。



 

 昼間でも微細な光さえ拒絶する、暗くカビ臭い部屋に戻ると、クロフォードは鉄仮面を外し、その重みを感じながら座り込んだ。


 光源のない部屋でもはっきりと視認できるクロフォード。右手に持つ鉄仮面を見ながら、明日に希望と憂いを抱く。

 

 明日はクロフォードがルミナス家から追放される日。同時にこの長く付き合ってきた鉄仮面とも別れる日でもある。


 一般人からすればクロフォードがしている鉄仮面は邪魔くさくて不便極まりないものだと思うだろう。しかしこの鉄仮面には大きな意味がある。


 髪の毛の色が魔力を色濃く反映するこの世界。赤なら火、青なら水、白銀であれば光。


 代々ルミナス伯爵家当主は光の剣聖と呼ばれ、民を光魔法と剣で導いてきた。当然光魔法が使えないことには後継者として認められない。


 しかしルミナス伯爵家の嫡男として生まれたクロフォードの髪の毛の色は黒。そして1分後に同じ腹から生まれたシロヴィスの髪の毛は白銀。

 

 過去ルミナス伯爵家に白銀色以外の髪の毛が生まれたことがない。この異例の出来事はルミナス伯爵家にとって深刻な問題であった。伝統に囚われたこの世界で、光の剣聖としての使命を果たす後継者として、髪の色は極めて重要な意味を持っていたのだ。


 さらにクロフォードが持つ黒髪という事実は、問題を複雑にした。この世界では、黒髪は忌み子として忌避され、特に貴族の家系で黒髪の子が生まれると、凶兆とみなされた。黒髪が明らかになれば、幼いとしても追放、または殺害という過酷な手段が取られるのが常識。

 

 当主リュノスはそのどちらも選択せず、シロヴィスを後継に指名し、クロフォードに鉄仮面を被せ、成人するまでは育てると決意した。


 それはクロフォードからも亡き妻、クレアの面影を感じることができたからというものあるかもしれない。


 このことを知っているのはルミナス伯爵家でも一部の者だけである。そのため、鉄仮面の下の顔が、髪の毛の色や目の色を除けばシロヴィスと見分けがつかないということも、さらには鉄仮面がリュノスの息子ということを知る者も少ない。


 ほとんどの者には幼い頃、リュノスが顔に火傷を負わせてしまい、責任を取るためにも成人までは育てると伝えている。


 それほどまでに黒髪はこの世界で迫害されているのである。そのため黒髪の人間に人生の選択肢は少ない。奴隷のように扱われ生きるか、冒険者と命を散らすか……はたまた人の道を踏み外すかだ。

 

 鉄仮面はクロフォードが社会から受ける偏見に対する盾であり、同時に彼を社会から隔てる壁でもあった。

 

 


 そのまま時が過ぎるのを待つこと数時間。部屋の時計が0時を知らせる。


 クロフォードは鉄仮面を被り、自室を後に̪する。手には刃を潰した訓練用の重い剣。


「やはり、この時間を選んだか」


「…………」

 

 クロフォードの目指したエントランスに待ち受けるはリュノス。その顔には後悔の念が現れていた。


 クロフォードは被っていた鉄仮面を取り、リュノスに渡す。鉄仮面を受け取ったリュノスはその代わりにと、一振りの剣をクロフォードに持たせる。


「……生きろ」


「…………」


 何も答えず去ろうとするクロフォードの肩を掴み、再度クロフォードに別れの言葉を告げるリュノス。


「すまなかった――――」


 クロフォードはリュノスの言葉を黙って受け止め、頭を下げるにとどめた。そしてリュノスの震える手を優しく払いのけると、彼は一歩、また一歩とリュノスから遠のき、扉を開けた。




 屋敷を出てルミネスカの街を歩みながら、時刻が0時を回っていることに驚きを隠せないクロフォード。


 彼がルミナス伯爵邸を深夜に出た理由は2つある。


 1つは深夜であれば人の往来は少ないこと。


 もう1つが、夜の闇が自身の髪の色を隠してくれると思ったからである。


 だが、それは違った。魔石灯の灯りが街を照らし、建物や道路、徘徊するルミナス騎士団や街の人々の顔や髪をはっきり映す。


 どこにも逃げ場がない、とクロフォードは思った。彼の髪の色は、灯りの下で鮮やかに浮かび上がっているだろう。


 クロフォードは立ち止まり、深呼吸をした。不安と緊張が心を締めつけたが、決断し、ぼそりと呟く。


「我が身を隠せ《闇霧(ダークフォグ)》」


 ルミネスカの街の一角が闇に染まる。魔石灯の光が遮られ、周囲は完全な暗闇に包まれているが、クロフォードはその暗闇の中で安らぎを感じていた。


 夜風を全身に浴び、ルミナス伯爵邸から遠ざかる。彼は《闇霧(ダークフォグ)の中に身を隠すことで、他人から見られることなく、自由に行動できた。


 今はこの仮初(かりそめ)の自由だけでもいい。しかしいずれは……。


 眼には炎が灯り、未来への希望が胸に宿る。


 彼は、自身の運命を切り開く決意を固め、闇の中を歩み続けた――――


カクコンに出す予定の作品です。1話目を短編として投稿してみました。

まだまだ修正は効く段階なので、感想をいただけたら嬉しいです。

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[良い点] これからの展開を読者に期待させるスタートですね! [気になる点] 自分を棚に置いてあえて辛口で言いますと……。 序盤からカタカナの固有名詞が多すぎて混乱する読者がいるかも知れません。 登…
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