医者の名前は
「すみません、勇者さん。またまた急患で」
助手がそう声をかけた相手。
勇者と助手は呼んだが、はたから見ればそこらのごろつきと大差ない格好をした男だ。
鍛えているのがわかるくらいに体格はいいが、顔は人当たりの良さそうなもので取っ付きやすい。
「あぁ、構いませんよ。俺なんかいつでもいいんです。先に重症の方を診てあげてください」
そう言ってしまうくらい人が良い。
そこはさすが勇者を名乗るだけはあるというものだろう。
しかし、本日もそんな彼の順番が回ってくることはなさそうだ。
「また来ます」
「はい!お大事になさってくださ〜い!」
助手がそう言って見送った彼はいつだったかにこの世界に飛ばされてきた…もとい、転生してきたどこぞの世界で勇者をしていたという青年だ。
ここ、転生クリニックは"転生病"という病を発症した者たちの駆け込み寺と化している。
別に、それを専門として診ているわけではないが、いつの間にかこのクリニックには"転生病"を患った患者が集まってくるようになった。
まぁ、それはそれで色んな世界の話が聞けて面白いし別にいいか、と思っているのがこのクリニックの開業医、院長の天清だ。
ちなみに、クリニックの名前は【てんせいクリニック】という。天清を「てんせい」と読み間違える人が多いからいっそのこと、とひらがなで【てんせいクリニック】としたのだが、それに勝手に【転生】という字を充ててやってくる"転生病"患者が多いのだ。
お陰でここはいつからか異世界、現世を問わず"転生病"に悩まされる患者が集まってくるようになった。
というのがこのクリニックの成り立ちだ。
ちなみに天清の専門は精神科だったりする。
彼が考える"転生病"の原因からするとあながち精神科に来るのも間違いではない気もするので今の現状が成り立っているというわけだ。