転生する者
完全に思いつきで描き始めたモノです。コメディ予定。
行き着く先も、終着点も決めていませんが、どうぞよろしくお願いします!
「あー、最近流行ってますからね」
その医者はオレに向かってそう言った。
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最近巷で流行っているというその病の名は"転生病"。ある日突然発症し、本人の意思はもちろん、次元を無視して異世界、現世関係なしに飛び回ってしまうというやっかいなモノだ。
確かに最近、異世界転生モノが流行っているのにも納得できる。
まさか、それに自分が巻き込まれてしまうことになるとは思ってもみなかったが。
なんてことを言っている場合ではない!
「原因とかあるんすか?」
しかし、呑気なことにオレはそう医者に聞いていた。
「うーん、ハッキリとした原因はわかってないんだけど。ここにくる患者さんに共通することならある」
もったいをつけるように医者は言葉を切った。
「共通すること?」
オレは聞き返す。
医者はカルテに記入していた手を止めてオレの方へと体を向けた。
「ずばり、…」
医者の言葉を俺は聞くことができなかった。
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視界は一転。
目の前には原生林が広がっていた。
「は…ぁ…」
ため息のなりそこないみたいな声が出た。
さて、どうしたものか。
「ひとまず、探索…」
そう一歩を踏み出した瞬間。
またまた景色が一転する。
今度は周囲が騒がしい。
どうやら人混みの中に飛ばされたようだ。
と、影が俺を頭上から覆う。
屋内のようだが、雲でも出る仕様なのだろうか?
そう思いつつ見上げた先にあった一対のギョロリとした鋭い眼。
「おいおい、にいちゃん。人の喧嘩に割って入るたぁ、よっぽど死に急ぎたいらしいなぁ?おい」
なんてドスの効いた声が降ってくる。
「えっ?」
状況把握のために走らせた視線。
ここはどこぞの世界のギルド的な場所らしい。
受付と思しきカウンター。
壁には依頼書らしき紙切れがやたらめったらに貼り付けてある。
俺たちを取り囲むように見守る奴らの装いはどれも戦闘や防御に重きをおいたモノで剣や弓、キラキラと不思議な光を宿している石を嵌め込んだ杖などを背負ったり持ったりしている。
冒険者とか呼ばれるキャラクターを想像してもらえればわかりやすいだろうか。
そして足元にずっと感じていた違和感に視線を下げる。
俺の足元には完全に伸び切った優男が1人。
そして見下ろしてくる大男。
否。
そいつは人間じゃなかった。
顔全体が毛むくじゃらで豚鼻の横にはツノが生えている。
「いのしし…?」
思わずそう呟いていた。
もちろん、その後の展開はお約束。
定番中の定番、と言っても過言ではないだろう。
激昂したイノシシ男に胸ぐらを掴み上げられ…、
た、ところで俺の視界はまたもや一転。
俺の足元で転がっていたヤツには悪いし自慢じゃないが、俺は俺自身が1番かわいい。
そんなわけで、俺は行く先も分からずまたまた異世界に飛ばされることとなった。
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「あらら。彼、行っちゃいましたね」
診察室に顔を出した助手に医者は感情のこもっていない声で返す。
「そうだね」
それにめげずに、助手はさらに言葉を重ねる。
「大丈夫ですかね?」
「大丈夫でしょ」
何を根拠に、と思わなくもないが、心配したところで自分たちに何ができるでもないことはわかっている。
「次、また彼がここに辿り着けたら手を差し伸べてやればいい」
いつになるかは知らんけど。
医者は無責任にそう言った。
しかし、それが事実なので助手も素直に頷いた。
「はい!」
「ほら、次の患者さん案内して」
しっし、と助手を追い払うようにして医者が言う。
「はーい!」
元気よく返事をした助手が待合室に消えていく。
「次の方どうぞー!」
そんなのほほんとした声で助手に呼ばれた次の患者が診察室へと向かってくる。
「さてさて、次はどんな患者が現れるかな、っと」
どこか楽しげな声がそう言った。
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