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ワット・アイ・メイド・オブ  作者: 山木 拓
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ワット・アイ・メイド・オブ 2話 ②

 そもそも違和感があった。ああいうホームレスの人たちはルーティン的に行動を取るという話を聞いたことがある。自分たちの一日の行動を守り、行動する範囲を守り。見かけない人が急に現れるのはおかしいのではないか。この商店街の近くに彼らが拠点にできるような公園や河川敷は無い。そうなると無理矢理ここに連れてこられたなんていうふうにも考えられる。このホームレスはもしかしたら何か知っているかもしれない。俺はホームレスに接触を試みようと決めた。

 探偵でもないど素人が一人の名前も知らない住所不定の人間を探すのはかなり難しいのではと思っていたのだが、逆だった。普通の住居は町にたくさんあるが、誰にも文句を言われずに居座っても良い場所は限られている。ならばそういう場所を順番に回るだけ。2箇所目の河川敷ですぐに目的は達成された。サッカーのグラウンドが数面並ぶ小汚い場所だった。川縁は雑草が生い茂り、その草はやたら黒を混ぜたような色に見えた。川を超えるための線路の高架下には、何人かのホームレスがいた。一人一人がお互いに話しかけられないような距離感を保っていたので順番に話しかけた。最後に声をかけたブルーシートと段ボールを使って一番寝心地が良さそうな、いやマシであろう寝床を作っていた男が例のホームレスだった。印刷しておいたカメラの静止画と照らし合わせ、同じ服装なので間違いないと確信した。

「あのすみません、この喫茶店に見覚えはありませんか」

 いつだか携帯電話に撮っていた店の写真を見せたのだが、自分が声をかけられたと理解していなかった。

「あの、すみません。この写真の店なんですけど」

 ほんの少しだけ荒い口ぶりになってしまった。男は首を動かして俺を見た。睨むような目線を向けた。

「さあ、知らないな」

 男がほんの僅かに体を動かしただけで、ゴミ袋の中身のような匂いがした。「いや知ってるはずです。知ってなきゃおかしいはずです」そう問い続けたが黙り込むだけだった。「あの、こっちは貴方が知ってることを知っているんですよ」

「うるさいな!」

 濁った唾液が飛んできた。それが服に付着したが、気に留めないようにした。まだブツブツと文句を言っていたが、それに構わずカバンから静止画を取り出して見せつけた。「これ貴方ですよね」表情が一瞬固まったのが分かった。

「誰にも喋るなって言われてるんだよ」

 「誰にも」俺がその部分を聞き返した瞬間、男は口を滑らせた事にやっと気づいた。映っていた男を探し当てた時、俺はどうするかを決めていた。

「何があったのか教えてもらえませんか?」

 何も答えなかった。いや、答えないようにしていた。「大丈夫です、聞いた内容は誰にも漏らしません」「…誰にも話すなって言われてんだよ」「そうですね、でも自分も誰にも話しません。だったら貴方が話した事もバレないじゃないですか」男は固まっていた。

「俺はその事を話してくれたら1万円ぐらいならお渡ししても良いと思っています」

 説得に金を持ち出した途端、目の色が変わった。「そもそも俺が誰にも話を漏らさなければ、貴方が黙っていたのと状況はほぼ同じです。何も変わりません。ということは、貴方は全くのノーリスクで1万円手に入るって事なんですよ」ここで俺はベラベラと喋るのを一旦止めた。風の音が妙にくっきりと聞こえ、その直後電車の通り過ぎる轟音が鳴り響いて、また静かになった。男はそこで口を開いた。

「俺も金で釣られたんだ。ガラの悪そうな若い男どもに、この店の前でタバコを捨ててゴミ袋を燃やせと言われたんだ。ただ、あそこまで燃え広がるとは思わなかった」

「ちなみにそのガラの悪そうな若い男というのは、こんな見た目でしたか」

 もう一枚の、奴らの画像を見せた。男は頷いた。

「…ありがとうございます、助かりました。話してくれたお礼です」

 約束通り、一万円札を渡した。

「あんた、これ聞いてどうするんだ」

「別に、どうもしないですよ」

 俺は違和感のないように柔らかい表情を保ち、もう一度お礼を言ってから立ち去った。


 翌日再び交番に行って、この事を全て話した。


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