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ワット・アイ・メイド・オブ  作者: 山木 拓
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ワット・アイ・メイド・オブ 2話 ①

 とりあえず大学にはきちんと通い続けよう、そう思っていた。正直なところ当然ながらかなり参っているけど、部屋に引きこもっていても体に良くない。友人も知り合いも俺に気を遣ってくれて、講義に来いと何度も連絡が来た。

 「以前K市で起きた火事ですが、警察の調べによるとタバコの火がゴミに燃え移ったのが原因とみられ」新たな情報が報道されていた。それを聞いて、俺は話をこじつけに近い物語が頭に浮かんだのだ。商店街は基本的に禁煙だ。だがある程度そのルールを破る者はいる。あのヤンキーの奴らもその同種だ。例えばあいつらが深夜店の近くで吸って、きちんと火を消さずに放り捨て、店の前に出してあったゴミに燃え移った、そんなふうにも考えられる。商店街の街頭や店の入り口には監視カメラがついているし、それを確認すれば犯人とすぐに分かるだろう。講義の帰り、路上で酒を飲んで騒いでいる奴らを見かけた。あんなふうに自由に過ごせる時間も終わり、じきに逮捕されるだろう。俺はそれを待ち続けた。

 しかし、何日経っても奴らは街中にいた。時々コンビニでたむろしているのを見かけた。捕まりもしていないし、肩身が狭いふうな立ち振る舞いでも無い。まるで自分たちが犯人ではないかのようだ。いや、実際そうだったのかもしれない。だからといって本当の犯人が捕まったという報道も無い。テレビ以外の新聞、ネットニュース、週刊誌、地域の掲示板にも目を通したのだが情報が得られなかった。まさか監視カメラの事を知らないのか、そう思ったので、講義にも出ずに交番に行った。財布を届けた時と同じ警官がいた。

「あの、ちょっとよろしいですか」

「はい、どうされました。道に迷いましたかな」

 相手はこちらの事を全く覚えていない様子だった。俺はパイプ椅子に勝手に座り、話し始めた。

「この間商店街で起きた火事なんですけども」

 「ん、ああ、あったね火事」どこか他人事のような聞き方だった。

「あれ放火ってニュースを見たんですけど、俺犯人かもしれない人を知っていて」

 「…そうなんだ」鼻で笑ったかのように見えた。しかしそんな事には気に留めないようにして、話を続けた。

「そこの商店街って禁煙じゃないですか。けど夜になるとルールを無視してタバコ吸ってる人が一定数いるんです。んでそれって…えっと、火事になった店の前にもいたんです。そいつらが犯人じゃないかなと」

「うん、確かにその人たち怪しいね。でもどうやって特定するんだい」

「正面が本屋で隣が薬局なんですけど、店の入り口に監視カメラが設置されてるんです。そこで確認できるはずです」

「いやー、調査もそのぐらいはチェックしてるはずだよ。そこ調べても分からないっていうことは、何も情報が無かったんでしょ」

「でも店の正面から放火されてるんですよ。何も映っていない訳が」

 「あのね」気だるそうにしていた態度が変わった。

「交番のイチ警官が、捜査情報を全部知る訳ないでしょう、それぐらい分かって。それに、ここで私にそれを説明されても意味がないから」

 「すみません」俺は何故か謝っていた。話を続けられる空気でも無かったので、パイプ椅子を戻して交番から出た。でも、確かにその通りだ。監視カメラに映っているなら簡単に犯人が見つかる。それでも見つからないなら、顔が確認出来なかったとか、あるいは本当に誰も映っていなかったのかもしれない。俺は焼け焦げた店を遠巻きに眺めた。そしてカメラの位置も確認した。いやあり得ない、そう思った。アングルから考えて死角は無さそうだ。映っていない訳がない。警察の調査が信用出来ないなら、やる事は一つだ、自分で調べる。俺は本屋に入った。平日の昼間なので人は殆どいなかった。中年の店員に声をかけようとしたら、向こうから喋りかけてきた。

「君、喫茶店の子だよね、時々ウチでも本買ってくれてる。大丈夫だった?」

「すみません、ご心配をおかけしてます」

 店員さんは俺を知ってくれていた。「いや最近見なかったからさ」すぐに話題が止まった。特に聞きたい事がある訳では無かったらしい。

 「あの、店の前にカメラありますよね」俺は事情を説明した。「いいよそれぐらい見せてあげるよ」快く引き受けてくれた。レジの横にあった『従業員専用』と書いてあった小さい看板を避けて、休憩室に入った。「ごめんちょっと店出といてくれないか」そこにいた男に声をかけてから、中年の店員さんは俺を中に通してくれた。部屋の端にモニターがあった。

「一応5箇所設置していて、これとこれが店の前のやつね。で、こっちが引きで広めに映してる方」

 そう言いながらパソコンを操作して、火事のあった日の映像を出した。「早回しするね」殆どの人が駅から住宅街の方へ歩いていた。しばらく回して、店長がゴミ袋を3つ抱えて店の前に置いていた。その時刻のあたりから人が減ってきて、ついに奴らが店の前でたむろしている様子が映し出された。俺は、火を付ける事に期待していた。犯人であってくれ、そう願っていた。しかしタバコを吸ったり火をつけたりする仕草は無かった。結局何もせずに立ち去った。俺はそれが信じられなかった。

「あの、これ間違えてないですか。違う日とか」

「いやこれで合ってるよ。もう少し待ってて」

 言われた通り、早回しされているモニターを見ていると、一人のホームレスらしき男が画面の中に現れた。出立ちは小汚く、髭や髪も伸び切っていた。歩く速度は遅い。そのホームレスは店の前でタバコを吸い始め、しばらくウロウロしてからその火種を捨てた。ゴミ袋に火がついて、少しづつ火の手が強くなった。ここで、映像は止められた。

「これがあの日起きた事だよ。警察は、この男を探している」

 店員さんの言う通りだ。この画面に映っていた内容こそが真実だ。それ以上でもそれ以下でもない。けれども俺はそれを、信じなかった。いや信じたくなかった。


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