大豊穣祭
秋晴れの帝都の空に、軽快な火薬の破裂音と共に花火が上がる。
実際には打たれているのは空砲で、空にあがる光の華は幻惑魔法で再現したものらしい。日の高い内に本物を打ち上げても夜に比べて映えないからね。一方、魔法による再現なら日中でも結構綺麗なので良い采配だと思う。
陽が落ちたら本物を打ち上げるらしい。これまでは大砲や爆薬に全振りジャブジャブで注ぎ込まれていた火薬だが、こういった平和な使い方にもリソースが割かれるようになったってのは感慨深いものがある。
大豊穣祭、開催当日。
城下を見渡せる王城のバルコニーから、皇帝陛下を筆頭に教国の教皇やら各国や各種族のお偉いさんやらが一同に集まり、開催宣言をするということで、それを眼にしようと王城近くの区画には大勢の人達が詰めかけていた。
元から人口という点では人類種国家においてぶっちぎりだった帝国の首都だが、今は観光客も合わさってどっから湧いて出て来たんだと思う程に街中がごった返しとるな。どこぞの夢の国みたい。
当然と言うか、我らが聖女様二人もお偉いさん達と一緒に開催宣言の場に出席する。
大勢の要人が集まる場だ。邪神の信奉者達は勿論の事、普通の人間相手にだってテロの類を警戒せにゃならん。
そういう点では、参加者にシアとリアが混じってるのは多くの人間にとって安心要素の一つとなるだろう。聖女の護りの硬さと圧倒的な回復魔法は、邪神の上位眷属にだって容易に崩せるものじゃないしね。
何かあった場合のガードもそうだが、反撃の攻め手も問題無い。
だってお偉いさんの中には《魔王》と《亡霊》まで混じってるし。《亡霊》の方は今日中に魔族領に帰るって言ってたけど。
ウチの聖女二人とあの鳥と兜が揃ってる時点で信奉者でも「クソゲー乙」つって踵を返しそうな戦力ではあるが……アイツらはゲスト側であるし、お偉方の警護を任せる、なんてことをする筈も無く。
王城では騎士達が厳戒態勢で警護に当たってるし、俺も現在進行形で警備に参加中だ。
と言っても、俺が現在待機してるのはバルコニーどころか王城ですらない。
じゃぁ何処か、と言うと……王城にほど近い位置に建てられた大きな聖堂――そこにある尖塔の天辺に鎧ちゃんを完全起動した状態でお座り中であります。
聖都の大聖堂ほどでは無いとはいえ、ここの教会施設も相当に大規模だ。そこのいっちゃん高い塔の先端なんだから、そら見晴らしも良い。王城やその周辺を警戒するのにはうってつけの場所だ。
直線距離ならシア達が出て来るバルコニーとそう距離も無いし、完全起動状態なら跳躍して秒で駆けつける事が出来るだろう。
此処を待機場所に指定されたときはテクニカルないじめかと思ったが、鎧ちゃん込みの俺の能力を加味してみれば中々良いポジションではなかろうか。
難点を上げるとすれば、人目につきやすいって事だな!
尖塔のてっぺんに人が立ってりゃそら目立つ。平時ならそこまででも無いかもしれんが、祭りの開催を報せる花火が上がってる今、空を見上げる人は多いし。
今も眼下にいる大勢の民衆や観光客――こっちを指さして声をあげてる人達の多いこと多いこと。
俺だけだったらやっぱり羞恥プレイ目的のイジメじゃねーのこれ、と思う処だが、やや離れた位置に建つ、別の建物の尖塔には隊長ちゃんの姿がある。
腰に佩いた湾刀に手を当てて静かに佇み、凛とした表情で王城を見据えるその姿は、尖塔の上なんていう藁の上にダイブする暗殺者くらいしか縁の無い場所の特異性もあって、強キャラ感半端無い。
名の知れた自国の英雄というのもあって、足元の民衆の中には歓声やら黄色い声を上げて隊長ちゃんの名を叫んでいる奴もいた。
一切が耳に入らない、と言わんばかりに、キリッとした表情でバルコニーから視線を外さず、待機を続ける隊長ちゃんであるが……うん、あれは恥ずかしさを職務に集中して誤魔化してるだけやな!
ガワこそ凛々しさを保ってるが、俺的には非常に可愛らしい。眼福眼福。
ぐるりと周囲を見回してみれば、王城周辺に存在する高さのある建物の頂上部分には、俺達みたいに何人かの人間が待機してるのが見えた。
お、あそこに居るのはネイトかな? 更にその向こう……ありゃ《狂槍》か。こっからじゃ遠すぎて表情までは分からんが、死ぬほど不本意そうでワロス。屋上の縁でダルそうにウンコ座りしとるわ。
位置と距離的な問題で他に誰がいるのかは把握しきれんが、ひょっとしたら副官ちゃんとか他の《災禍》もいるのかもしれん。
まぁー、此処まで露骨だと帝国……というより皇帝陛下の意図も分かる。
護衛というより、示威行為――この《大豊穣祭》には、これだけの面子、これだけの戦力が常駐してるんだぞ、というアピールだ。
開催国である帝国を筆頭に、各国の人外級やそれに近いレベルの名の知れた強者がこの祭りに関わっている。
邪神の軍勢の残党にしろ、何某かの反意を抱く人間の集団にしろ、妙な真似してくるなら友好関係にある国の、これだけの面子が総出で潰しに行くぞコラ、という分かり易い脅しだった。
わざわざ高い場所で強キャラムーヴさせてるのは……なんじゃろ、民衆への受けが良いのもあるだろうが……意外と陛下の茶目っ気とかかもしれんな。あの人、ちゃんとメリットがある提案ならば、面白そうだから採用、とかノリの良い一面もあるし。
実際、ここからバルコニーとその周辺を見張るってのは位置的にも結構悪くないんだよな。人外級の実力者なら方法は個々に違えど、この程度の距離は即座に潰せるか、そもそも攻撃の射程圏内だったりするし。
ちなみにガンテスは現在教皇の爺さんの後ろに控えてる。すぐ傍で侍る護衛も必要だろうし、そもそもあのおっさんでは尖塔の上とかには立てない。重量的な問題で。
後は……開催式の場にはサルビアも参加している、というのもあるだろう。帝都に到着するなり、二人の出会いを根掘り葉掘りウキウキ顔で聞いていた教皇が気を廻したのであろうことは容易に知れる。
午後にパレードの予定もあるけど、そっちは個人の武力に依らない軍事力や兵力のアピール、って事なんだろう。というか、現在高所に待機してる面々だとパレードへの参加とかは普通に嫌がる奴も多そうだしね。俺もそうだけど魔族領の面々とかは特に。
暇つぶしも兼ねてつらつらとそんな事を考えていると、その間にも広げていた知覚の網に異色の感覚が掛かった気がして、そちらに視線を向ける。
大まかな方向へ適当に送った視線が、彷徨う事無くその人物を捉えたのは、単なる偶然だったのか、それとも――。
地上にいる民衆……尖塔の頂上にて鎧ちゃんフル装備で待機する俺を発見して、騒ぐ人々の一人と眼が合う。
旅人が好むフード付きの地味なマントを羽織ったその人物は、あり触れたブラウンの髪と青みがかった瞳をした、一見してただの旅してきた観光客、といった出で立ちの男だ。
周囲と違うのは、此方を見るその目付き。
その双眸は他の大勢――珍しいポ〇モン見つけたみたいなノリで興奮した様子だったり、はしゃいでいたりする多くの面々とは違い、何かを品定めするような、探るような光を灯していた。
敵意や悪意とは違う、興味深い、面白い物を観察するようなその目付きに、俺が反応して見返している事に気付いたのか。
男は自然な動作で目を逸らすと、フードを深くかぶり直し、ごった返す民衆の隙間を縫う様に進んで人込みに紛れ、姿を消す。
過去にもあまり向けられた事の無い類いの視線――それを向けた男が奇妙な位に引っかかり、人の波の中に消えたその姿を探そうと、その周辺を意識して探知しようとした処で――王城前から大きな歓声があがり、そちらに視線を送った。
どうやら皇帝陛下による開催宣言が始まるようだ。直ぐ後ろにレーヴェ将軍を控えさせ、バルコニーへと進み出るその背後には、教皇の爺さんと三枢機卿代表としてシルヴィーさん、更にシアにリア、サルビアに《魔王》やら《亡霊》やらと、その他にも各国の重鎮が続々と続く。
繰り返すが敵意・悪意の類は感じなかったし、一旦置いておくか。
とりあえず先程の男の事は頭の隅に追いやり、警備に集中する。
バルコニーとその周辺へと意識を戻すと、開催宣言前の軽い演説が行われている最中みたいだ。
「……二年前まで、我らは戦争という名の種としての存続を掛けた戦いにひたすらに身を投じていた。父や祖父、更にその前の父祖より続く凄惨な戦いに終止符を打つことが出来たのは、身分・出自を問わず、あの戦いにおいて身を粉にして己が為すべき事を為していた、全ての兵、全ての民、全ての者達のたゆまぬ努力あっての事だ」
魔法を使った拡声効果を抜きにしても、陛下の声はよく通る。
しかも今回は帝都全域に声が届く様、魔道具や魔導士を各区画や郊外にまで配備して拡声された演説が届く様に取り計らっているのだとか。
間の取り方、声の抑揚、身振り手振り、警護に集中せんといかんと思ってもついつい目が引き寄せられるそれらは、スヴェリア=ヴィアード=アーセナルという男の才覚と、それを活かさんとする計算された立ち振る舞いが齎す、王の威風とでもいうべきカリスマ性があった。
こうやって演説を聞いてると、髭の長さがちゃんと生え揃って左右均等になったか気にしてる面白おじさんな一面はあれど、やはり人類種最大国家を自身の代でまとめあげた傑物なのだとしみじみ思うね。
「未だ戦いの爪痕は深く、その傷跡癒えぬ地もあろう。或いは、生涯癒えぬ傷を心身に抱えるものもいるだろう――だが、それでも……それでも我らには明日がある! 薄氷のごとき、いつ砕けるかも知れぬものではない、当たり前に続く未来が! 忌まわしき呪詛や汚泥を吹き払った、確かな《《先》》がある!」
皇帝陛下の演説に引き込まれた民衆は、黙して聞き入りながらも静かにそのボルテージを上げているのが見て取れる。
こら〆に入った時の爆発っぷりが凄い事になりそうだ。城下で人の波を整理してる衛兵さん達は大変そうだね。その衛兵も今は陛下の言葉にめっちゃ集中してる人が多いけど。
「此度の大祭はただの催しでは無い! 帝国の、大陸中の人類種国家の、勝利を告げる雄叫びなのだ! 傷を負っても、喪っても、それでも耐え……戦い抜いた末に掴み取った未来と、より強く齎されるであろう世界の恵みを享受し、その感謝と祈りを女神に奉る! それを高らかに謳いあげる場なのだ――故に!!」
最後に、ニヤリと笑った陛下は拳を天に突き上げ、開いた掌で振り下ろす様に横へと宙を切ると、高らかに宣言する。
「存分に楽しみ、歓び、騒げ! 余が許す! ――これより《大豊穣祭》を開催する!!」
――瞬間、帝都中が水を打ったように静まり返り。
一拍おいて、怒号の如き歓声と歓喜の叫びが爆発した。
うおぉ……こりゃスゲェ。文字通り街中、国中がお祭り騒ぎってか。
終戦直後にも喜んで大騒ぎは大陸中で起こった事なんだろうが、そのときは普通に死んでた我が身としては今回のコレが初体験である。
膨れ上がる歓声と熱気の波が、尖塔のてっぺんである此処にまで伝わって来る様だ。
演説が終わると、バルコニーの縁周には招かれた各国代表が進み出て並び立ち、歓声を上げる帝国臣民や観光客達に向けて手を振っている。
教国を筆頭に今回の《大豊穣祭》に協賛した国々の面々だ。面識や見覚えの無い顔も結構いるが、そういった御仁にも少なからず歓声が届けられ、賞賛の声と共に名が叫ばれていた。
まぁ、一際大きな歓声を集めているのはウチの聖女様達なんですけどね!(自慢
二人とも、伊達に教国の看板兼人気職をやってない。
業務用スマイルではあるが、微笑んで手を振るその姿に絶叫染みた喝采を上げる奴も多い。
自身に向けられる視線と熱狂、その数と熱量に姉の方が若干押され気味みたいだが……皮肉無しで人気者の宿命、というやつだ。頑張ってくれレティシア君。
何度も『繰り返してる』割に、シアはこの手の笑って手を振る作業とかが苦手なんだよね。終わった後は大抵、頬が疲れた、とか言って自分の頬っぺたグニグニしてるし。
何気にリアの方がそつなくこなしてる感はある。あいつもあいつで別に得意って訳では無いんだろうけど。
意外と言えば意外なのは《魔王》だ。
戦時中は各国からハブられ気味だった魔族領ではあるが、影響力の強い南部においては何だかんだと魔族の保持している武力に世話になっていた小国も多い。
なので、魔族を中心に南部出身の者から歓声の声が上がるのは別段、不思議なことではないんだが……凄い大人しくしとるな。ふざけてバルコニーから民衆に向けてダイブする、手すりに立って変なポーズ決める、くらいはやるかもと思ってたんだが。
背後に控えてる《亡霊》が理由かね? やらかしたら自分と一緒に強制帰還だ、くらいには脅し付けてるのかもしれん。お疲れさんです、マジで。
あ……《狂槍》が武器に手を掛けてる。此処からでも分かる殺気立った様子からして、あの鳥がなんかやろうとしたら躊躇なく槍を投擲する気だコレ。一応は護衛や警護の立場なのに自分トコの頭領を串刺しにする気満々すぎて草生える。
ちょっと気の毒なのはエルフの最長老殿――サルビアだった。
眼下を埋め尽くす大勢の民衆……これだけの広い場に密集する程の人の数自体、経験が無いだろうに、それが熱狂的な歓声を上げて一斉にその熱量を叩きつけて来るのだ。
普通に気圧された様子でキョドっている。振ってる手もぎこちない。
それでも悪い眼で見られないのは、見目麗しいエルフの女性という強みもあるからだろう。ちょっとでも帝国外の情勢を知ってる人なら、大森林のエルフが外界と交流を開始したばかり、という事も理解してるだろうし。
まぁ、なんだ。何とか手を振りながらもチラチラとガンテスの方を見てるのが此処からだと丸分かりだが、そこはご愛敬、という事で。
バルコニーの方に民衆の視線が集中してる御蔭で、こっちに向けられる眼はほぼ無い。正直、そっちの方がやり易いので助かった。
城下の人々が落ち着いたら、次は手を振ってるお偉方が順繰りに簡単な挨拶をする予定だった筈だ。
それが終わったら、とりあえず開催式は終了。それまでは警備に精を出すとしよう。
なんとなく隊長ちゃんの方を見ると、彼女も偶々こっちに視線向けていたので軽く手を振っておく。
軽く会釈で返してくる彼女は、仕事中の凛々しい表情のままではあったが……祭りの空気に中てられたのか、少しだけ高揚してるようにも見えた。
「よぉーし、終わったぁ! 早速城下に遊びに行くぞ!」
大きな問題が発生する事も無く開催の宣言は終わり、王城でシア達と合流。
開催式で聖女御二人に、という事で宛がわれた一室にて、公的な場での聖女としての正装である繊細な刺繍の施されたヴェールを脱ぎ捨てると、シアは元気よく宣言した。
数日前になにやら知り合いが大勢集まる事となった北区の工房でのごたごた以降、ちょっと機嫌が悪いというか、難しい顔で考え込む事の多かった金色の聖女様だが……悩みは解決したのか、一旦忘れて切り替える事にしたのか。
今ではようやっと始まったお祭りに、軽い足取りを隠す事も無くウキウキとした様子だ。
ふむ。あのときの女性陣を集めた女子会的なものを一昨日の夜にやったみたいだが、それが切欠だろうかね?
そのときの俺はと言うと、行われるのが年頃の女子ばかりのパジャマパーティーの類だと聞いたので、野郎が同じ屋敷にもいるのもアレだと思ってガンテスを誘って魔族領の連中と夜通し飲みに行ってた。
なので、一堂に介したあの面々がどういうやり取りをしたのかは分からんのだが……シアだけでなくリアも機嫌は悪くない――寧ろ女子会の次の日は、上機嫌だけど挙動不審という訳の分からん状態だった――ので、まー悪い結果では無いのだろう。
姉と同じくヴェールを脱ぐと、リアが手荷物の中から真新しい厚い本……帝都案内書を引っ張り出して笑顔で掲げる。
「じゃーん! これ見てよ、お祭りに併せて限定で特別発行された帝都案内書! 概要とか協賛国について以外にも、見所とかイベント日程とかが分かり易く纏めてあるんだ! 限定品らしくてちょっとお高めだったけどすごく参考になるよ!」
「おぉ、この間、文官の人が言ってたやつか。でかしたぞアリア」
ほう、そんなモンがあるのか。
本を手にしたリアを中心に、三人で長椅子に座って帝都案内特装版を覗き込む。
「やっぱり催し物としては、一番デカい闘技大会が大きく扱われてるな……混雑する、とは言うけどオレ達はゲスト枠の貴賓室から観戦するから、その辺は全然心配はいらないんだけどな」
俺も大会中の警備があるからなぁ……あ、でも、交代時間に観客の中に知り合いを見掛けたら、そっちで見るかもしれん。
「先生も解説実況するって話だし、ボクも皆でワイワイ観戦する方が良いなぁ……立場的に無理なんだけどね」
額を突き合わせて本の頁をめくっていくと、中央の噴水広場を中心として構成される屋台街についての記述が目に留まった。
「ふむふむ……祭りの前から結構レベル高い屋台が多かったけど、やっぱり本番となると気合が違うな……ってオイ、これ! これ見てみろ! レシピ提供の処に聖殿の料理長の名前があるぞ!」
なんですと?
シアの叫びに反応して、俺とリアが指さされた部分の記述に眼を通すと――マジだわ。なんだよ、内緒でこんな事やってたのかよあの人。
「うわ! メニューも凄いよ。日本のお祭りの定番が結構ある!」
続いてリアが上げた驚きの言葉に、シアと二人で何ィ!? と叫んで提供レシピ一覧を食い入るように見つめた。
うおぉ、マジだよ! タコ焼き、お好み焼き、アメリカンドックにかき氷……流石にわたあめは作り方以前に材料の砂糖が高額なので無いが、お祭りに沿うメニューは全ブッパって感じで名を連ねている。
料理長本人は美味けりゃ正義! みたいなスタンスだけど、流石に聖殿の食堂で出してるメニューはある程度場所柄に合わせてるからな。粉もの系はあんまり出ないのよ……それだけに期待が高まる。
俺達とって何年ぶりになるかも分からん懐かし過ぎるラインナップを眺めたシアが、感嘆混じりの唸り声を上げた。
「うぅむ……ここまで大っぴらにレシピを放出したって事は……ソースやマヨネーズの作り方は既に帝国に投げてあるんだろうな」
……全力で協力する代わりに、マメイさんの味噌と醤油を融通してもらうのを条件にしたとか? 料理長ならやるやろ、それくらい。
「かもな。だとするとグッジョブと言わざるを得ない」
三人でうんうんと頷き合う。
ちなみにその味噌であるが、屋台街で使用される事は無いみたいだ。まだ量産の準備に入ったばかりとか聞いたし、来年以降の祭りに期待か。その前に聖殿に届いて欲しいが。
「こうしちゃいられない。物珍しさで売り切れるって可能性も十分にあるぞ」
「そうだね、お祭りの期間、ずっと料理長の提供したメニューが出てるって保障もないし」
うむ、善は急げというやつだ。
シアとリアが立ち上がり、俺も同意を示して席を立ち。
互いに顔を見合わせ、一つ頷き――以心伝心、心を通わせて目的の品を叫ぶ。
「お好み焼き!」
「かき氷!」
――タコ焼きぃ!
……なんか心通わせた割には全員バラバラな答えだったが、ともかく!
取り敢えずは初日は食い気に走るぜヒャッハー! とばかりに、俺達は足早に部屋を飛び出した。
さぁ、祭りの始まりだ!