表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/134

再会 駄犬の場合(前編)




敢えて言うのなら…今回はおっぱい回。







 いやぁ、この間はビックリした。ほんとに、マジで。

 サルビアとガンテスのおっさんの意外な関りが判明して更に数日。


 いよいよ以てお祭り開催が近づく中、帝国所属の隊長ちゃん達が忙しいのは勿論の事、ウチの聖女様達も最後のお仕事として準備に関わった多くのお偉いさんやら騎士達と面通し――というか半分慰撫だな――したりと、手伝いも詰めに入っている。


 こうなってくると俺に手伝えることは余り無い。精々が雑用程度だが……単独だと一介の傭兵でしかない身ではマジで一労働力以上の事は出来そうにない。

 じゃぁ普通に護衛としてシアとリアに着いて行くか、と思ってたんだが……当の二人に却下されてしまった。


 いや、一応文句というか理由は聞いたよ?


 なんでも今回お呼ばれした会場が帝国貴族の御令嬢も多く集まる場であるらしく、二人は特別ゲストとして招かれているらしい。前夜祭と社交パーティーを足して二で割った様な感じなんやろか? 知らんけど。


 そんな場所なら尚の事護衛の一人や二人は居た方が良いだろ、と主張したのだが、華やか淑やかなお嬢様方が集まる場所でも躊躇なく鎧ちゃんを起動する様な真似をされたら、数多くの御令嬢達に消えないトラウマを植え付けかねないと逆に叱られてしまった。


 どんだけ信用ないねん、泣くぞコラ。


 そういった場で毎回問題起こしてる訳じゃ無いでしょ!

 どっちかというとお前らに絡んできて問題起こそうとした貴族のぼんぼんとかを諫める側だったでしょ!

 鎧ちゃんを起動するレベルまで話が拗れたのなんて二、三……五……とにかく毎回じゃないでしょ!


 だがまぁ、そういった場に同行した回数はそれなりにあれど、鉄火場の経験が全く無い人間が多く集まる種類のパーティって、あんまり参加した事ないんだよな、俺。

 シア達に護衛として同行するときも、そこの戦域で勝利を収めた後の祝勝会だったり、戦地で関わった人間からの招待を受けたりっていう、パーティーだの催しだの言っても戦争が絡むものばっかりだったし。


 そもそも『聖女と繋がりを得たい』だの『聖女を招く事で箔が付く』だの、御貴族様の面子や見栄、権威権益争いのアレコレが主旨の催しなんぞ、ンな暇はねぇと、ウチの金銀もお断りしてた訳で。


 そういう意味では、今回ゲストで招かれたぱーちーとやらが本当の意味での聖女様社交界デビューって事なのか? 

 ……それでも、俺がハブられる理由ってのが弱い気がするがなぁ。鎧ちゃん云々とか今更やろ。


 二人でボソボソと「下手なファン」だの「これ以上増えるのは」だの、変なのに絡まれるのを危惧してるなら尚の事護衛を連れて行けよ。最悪、俺じゃなくてガンテスとかでも良いから……その場合はサルビアも誘ったれよ?

 とはいえ、本人達にノーセンキューされてしまった現状が変わる訳も無く。

 一応、スカラにも連絡を取ってみて、なんか仕事無いかと聞いてみたんだけど、大枠は片付いてるから教国からの人員は半数がお休みになってる、と何とも頼もしい仕事っぷりを示すお返事が帰って来た。

 なので、最近では珍しいことに完全に一人で丸一日暇になってしまったのである。


 いっそ一日中ゴロ寝して過ごそうかとも考えたが、ここ数日はカラっとした秋晴れだ。

 流石に勿体ないので、外出することにした。






 あちこちに飾られた旗やら花輪、建物に掛かる横断幕やらカラフルなのぼりなんかで、すっかりお祭りカラーとなった帝都をブラブラと歩く。

 いいお天気だからお散歩にいってくりゅ! と屋敷の執事さんに言ったら「お弁当などお持ちになられますか?」なんて笑顔で提案してくれたので、お願いしたらサンドイッチを持たせてくれた。

 まだほんのりパンが暖かい出来立てのサンドイッチの誘惑に負け、散策開始10分で即行で食い始めたのは仕方ないね。

 お、BLTサンドだ。この間何の気無しに話したやつを早速作ってくれるとか有能かよ。

 そういえばホットサンドってこっちでは見ないな。似通った物が無いわけじゃないが。帰ったらホットサンドメーカーとか探して……いや待て、帝都なら普通にありそうだ。探してみるか?


 モッシャモッシャとサンドイッチを喰いながら、適当に今日の散策の目的を決めてみる。

 なんなら二つ買って、片方は聖殿の料理長にプレゼントしても良い。あの人、料理関連の器具なら自分の持ってないやつはなんでも喜ぶし。


 とりあえず、露店が出てる通りなんかで金物を出してるとこなんかを覗いてみるか。無かったら鍛冶屋にでも行ってみるべ。

 サンドイッチを食いきると、そのまま中央広場に向かった。

 数日前にはリアと一緒に来た、女神様の噴水像が設置された場所に到着すると、厚手の紙箱を潰して通りすがりの屋台の屑かごに放り込む。ただゴミを捨てるだけも悪いので、レモネードっぽい飲み物を売ってるその店で一杯購入し、水分補給。

 何気に製紙技術ひとつ取っても、流石帝国って感じだよな。流石にある程度裕福な家だけだろうが、紙の箱が普及してるんだから。


 大ぶりの木の杯に満たされたレモネード擬きで喉を潤しながら、この前と同じように噴水の縁へとどっかり腰を下ろした。

 さて、この半月ばかりの帝都散策で、大まかに区画ごとの特色の把握は出来ている。

 露店の類は東区以外なら結構あちこちで見るが、ここは北区――各職業の工房やそれに関係する店舗が多く並ぶ方面に言ってみるべきだろう。

 いうて、ホットサンドメーカーって構造自体はシンプルだから、いざとなったら普通に鍛冶屋に注文すれば手に入りそうだけどな……帝都(ココ)にも知り合いの鍛冶師――なんなら大陸最高クラスの腕の持ち主がいるし。


 こいつに関しては今更言う迄も無いだろう、現在は帝国の工房に腰を落ち着けているドワーフ……ファーネス=マイン率いるマイン氏族の事だ。

 問題は、そんな超一流の鍛冶職人にフライパンの改造品みたいな品を作らせる訳にもいかんという事です。


 いや、多分だけど俺が頼めば普通に作ってくれるとは思う。それ処かタダでやってくれるまである。

 ただし、金の代替とされるものがおそろしい。なので選択肢からは外したいです、ハイ。


 この間、どうしても彼らの力が必要となる用事を片付ける為に、副官ちゃんにお願いして一緒にマイン氏族の工房に向かったときの記憶を思い出して、俺は一人身震いした。

 冷たい飲み物を口にしてる時に、背筋が震える記憶を反芻するもんじゃないね、うん。


 ややペースを落としてコップの中身をちびちびと啜っていると、隣に観光客らしき人が座って小さく唸り声をあげだした。


「うぅん……あれ? 王城がこっちだから……あ、ひょっとして北……?」


 大きな日除けの帽子を被ったその人物は、きょろきょろと周囲を見回しながら現在地と、おそらくは目的地の場所について頭の中で情報整理している。

 なんとも悩ましそうだ。まぁデカい街って最初はやっぱ迷うよね。多少手間でも地図を手元にしっかり確認しながら移動した方が、結果的には時間が掛からないもんよ。

 横目でチラ見した処、お隣のお嬢さんは地図をもっていないようだ。

 これは大変に良くない。帝都は他国の都市と比べればぶっちぎりで治安が良いとはいえ、それでも悪所の類が無い訳じゃ無いからな。

 うっかりそういった場所に迷い込んだ一般人がどうなるのか、なんてあんまり聞きたくない話だ。年若い女の子なら猶更に。


 ……しゃーない、見て見ぬフリして何かあったらケツの座りが悪いなんてもんじゃねーし、声掛けてみるか。


 野郎が見知らぬ困ってる女の子に声を掛ける場合、柔らかく対応してもらえるのはイケメンと子供だけの特権なのでちょっと遠慮したかったのだが(非モテ特有の僻み思考

 巡回中の衛兵さんや騎士が居れば彼らに丸投げできたのだが、ざっと周囲を見てもそう都合よく見つかる筈も無かった。


 あー、そこのお嬢さん。道に迷ってる感じですか? 時間に余裕があるなら街の入口で販売してる帝都案内を買いに行くというのも一つの手ですよ?


 なるべく平坦な口調で、変な下心なんかがあると取られない様に事務的に助言してみる。

 自分の目付きがあまりよくない事くらいは自覚しているので、露骨に警戒されたり脅えられたりなんてパターンも考慮してたのだが、幸いにもそういった事は無く。



「あ、そうなんですか。ありがとうございます……地元もそれなり以上に大きな街なので、慣れてると思ってたんですけど……ちょっと甘く見てたみたいで」


 つば広の白い帽子を指先で押し上げ、困った様に微笑んだ顔が此方を振りむく。




 ――帽子から覗くやや癖っ毛の蜂蜜色の髪と、そのはにかむ顔に、俺は見覚えがあった。




 向こうも同じだったのか、此方の顔をみて軽く目を見開く。

 白いブラウスと黒のロングスカートに淡い色合いのケープという、普通の町娘みたいな格好のそのお嬢さんは。

 何年か前に魔族領で知り合い、そこで友誼を結び、戦場で何度か一緒に戦った事もある同性――の、《《筈だった》》友人。

 魔族領の大家、女公爵の側役を務める半吸血鬼(ダンピール)クインに違いなかった。


 前回のノエル君といい、この場所での思いもよらないエンカウントが多すぎる。どんな確率だこれ。

 実は中に降りて来てこっそり眺めてたりしてません? 女神様。


 思わず背後の噴水へと振り向き、その中心に立っている像をじーっと注視したのも仕方ない事だと思うんだ(白目







 お互い、思いもよらぬタイミングでの再会に固まる事暫し。


「……えーと、その地図、というのは帝都入り口の案内処で買えるものなのかな?」


 え、なにこの反応、と一瞬面食らったものの、直ぐに思い直す。

 どうやらクインは俺が彼……いや、もうこれどう見ても違うな……彼女、の、事に気が付いてないと思っているみたいだ。

 普通に指摘した方がいいんやろか?

 だが、クインが気付かれたくない、と考えていた場合、不用意にツッコミいれるのは友人を傷付ける結果となりかねない。


 顔を見て、直ぐに眼前の美人さんが元から中性的な容姿ではあった友人だと気が付いた瞬間は、すわ女装趣味があったのかと二重の驚愕を受けたが……身体ごとこっちを向いたクインを見て、直ぐにその考えは霧散した。

 いや、だってなぁ……。


 どたぷーん。


 そんな音が聞こえてきそうというかなんというか。

 ケープから覗く彼女のブラウスは、ショルダーオフで肩から胸元がやや開いているんだが……そこには大変にご立派かつ深い峡谷が存在している。

 記憶にある友人の体型とはあまりにもかけ離れたソレを見て、驚愕のあまり二度見しそうになった。下手をしなくてもセクハラになりかねないので咄嗟に顔にむけて視線を固定したのは我ながらナイス判断だと思う。


 どういう ことなの ほんと(白目


 確かにちょっと華奢に過ぎるくらいだったクインだが、それでも骨格という点から見ても男である事を疑った事なんぞ無かった。

 それがどうだ。今となってはじろじろと注視する訳にもいかんが、少なくともパッと見では間違いなく肉付きも骨格も女性のソレである。

 こんな目の毒なモンだって付いて無かった筈やろ。布の類で隠してたにしても限度があるわ、というか絶対隠し切れるサイズじゃねぇだろコレ。


 ……この二年で成長した、という事だろうか? 

 成長期ってレベルじゃねぇぞ。何があったらシアと大差ないであろうサイズから彼女の主である女公爵にも迫るレベルに育つってんだ。

 骨格にしてもそうだ。かろうじて、という注釈は付くが、一応は男と言っても良い体格だったのにそれすら変わるってどういう変化なんだよ。

 半吸血鬼(ダンピール)と獣人――魔族同士のハーフだから、人間の成長基準を参考にするのが間違い、と言われたらそれまでなんだが。


 ちょっとクセっ毛の蜂蜜色の髪がすっかり伸びてるのも見目のイメージがガラっと変わる要因だ。

 前はベリーショートに近いくらいで、それが本人の中性的な雰囲気と相まって如何にも貴公子然とした感じだったんだが……今はセミロングくらいはある。美形なのは据え置きだけど、なんかもう普通に隊長ちゃんや副官ちゃんといった美少女カテゴリに入る方々と同じ、立派なレディにしか見えません。


 ……まぁ、なんだ。長々と友人の変化について語りはしたが。

 大事なのは、男だろうが女だろうがクインはクインで――そんな少しばかり女性らしくなった友人の性別を、今の今まで誤認したまま気付きもしなかったアホがいるという点である。


 脳内で議論する必要すらない、誰に聞いても満場一致の有罪判決が出そうなやらかしなんですけど(白目

 どうしよう、土下座したほうがいい? それとも腹切った方がいい? 


「あの……大丈夫かい? 顔色が良くないような気がするけど」


 いつぞやのノエル君をどうこう言えない程度には罪悪感やら申し訳なさでエラい事になってる俺だったが、無言になった此方をみて心配そうに眉根をよせたクインを見て気持ちを切り替える。

 取り敢えずこうして再会出来た訳だし、彼――じゃねぇ、彼女だ、何時まで間違えてんだ俺は。とにかく、クインが困っている様なら手を貸してやろう。

 その上で、本来の性別を隠したがっている、と判断出来ればこのまま気付かないフリをして、単に俺が気付かなかっただけなら五体投地して謝罪しよう。


 そんな風に決意しつつ、美人さんなんでちょっとビックリしただけだ、と誤魔化しではあるが嘘では無い言葉で彼女に応えたのであった。







 話を聞いた限りだと、どうやらクインは北区方面に用事があったらしい。

 正確には其処に居を構えている工房を覗いてみたかった、という事らしいが、本人が最初に言った通り、地図無しでも行けると思ったら普通に道を間違えて、中央の噴水広場に戻って来た処を、俺と顔を合わせるに至った、という訳だ。


 偶然ではあるが、俺も本日は北区に足を延ばしてみようと思っていた処だ。

 それほど帝都を知悉している訳でも無いが、よければ地図代わりに同行すると申し出た処、クインさんは御顔を輝かせて喜んで下さった。まぶしい、浄化されそう。相も変わらず半分は吸血鬼(ヴァンパイア)とは思えない聖属性な笑顔や。


「では早速行こう! ほらほら、時間は有限だ! 一人で過ごす休日に逢び……同行者が出来たんだ、楽しむとしようよ!」


 こちらの手とってご機嫌な様子の友人に引っ張られながら、噴水広場を早速移動する事になったが……ちょっとだけ待ってくれ、このレモネード擬きをやっつけて杯を屋台に返さないと。

 正直、精神的におなかいっぱいになったせいで飲む気は失せていたのだが、残すのも勿体ない。

 まだ半分程残っているコップの中身を、多少無理にでも飲み干そうとして……なにやらジーッと見ているクインに気付いた。


 あー……ひょっとして、いる?


「! き、キミが良いなら、欲しいな」


 いや、ちょっとだけ喉が渇いていてね! なんて慌てた様に付け足すが、別にいやしんぼめ、なんて思ったりはしねーよマイフレンド。

 まぁ、お値段の割には結構な量だしなコレ。新しいの奢ってもいいんだが女性が一杯飲むにはちと多い。そこそこに貴重である砂糖はあんまり入ってないので、甘さ控えめで個人的には飲みやすいんだが。

 戦場でも無いのに女の子と飲み物のシェアというのもどうなんだ、なんて思わなくも無かったが……考えてみればクインとは過去に散々回し飲みだの食い物の分け合いだのはしてる。今更に過ぎるわその節は大変デリカシーに欠けていましたすいません(低頭


 俺が差し出したコップを妙に神妙な手つきで受け取ると、彼女は「では」と、気合を入れる様に前置きし、両の手でもったソレを一気に呷った。

 よっぽど喉が渇いてたんやろか? ぐーっと中身をイッキして、残さず喉に落とし込むと大変満足気に一息つく。


「――ッ、はぁ。御馳走様でした」


 おぉい、クインさんや、ただのレモネードを飲むのに変に艶っぽい感じ出すのやめてくれない? 非常に眼の毒なんですよ。

 ちょっと口から零れたのが谷間に落ちて吸い込まれてんだよぉ! 俺の目まで吸い寄せられそうになるわ! 勘弁してくださいマジで!

 別に彼女からすれば、以前と変わらない挙動のつもりなんだろう。実際、過去の俺の記憶と比べても大きな差異は無い。


 だが、今のクインには男の浪漫を刺激してやまない凶悪な凶器が搭載されている。視線を集める、という点においては嘗ての比では無いのだ。


 広場周辺にいる男連中も、ちらちらと視線を向けているのが多いこと多いこと――俺と会う前に変な男にナンパとかされなかったのは奇跡に近いだろコレ。

 過去に男装してたときは、他国の御婦人や御令嬢の類から黄色い声を一身に集めていたイケメンだったというのに、この変わり様よ……いや、見る目を勝手に変えるのは周囲な訳で、それを本人のせいみたいに言うのは筋違いではあるんだけど。


 その当人は豊かな双丘に落ちた滴を慌てて拭っている。

 自身の谷間に乱雑にハンカチを突っ込んでぐにぐにと水気を拭き取ろうとしているのを見て、俺は即座に首を九十度にひん曲げた。

 この手の眼福な光景に対して瞬時に視線を外すのは、もう条件反射で染み付いた性だ。

 この世界の美人はおっかない人が多すぎるからね、下手にガン見して不興を買おうものなら、どんな惨劇が身に降り注ぐか分かったもんじゃねぇんだよぉ!


「あぁもうっ……! やっぱりさらし布が無いと不便だなぁ……! っと、ご、ごめんよみっともない処を見せて。キミと会う前に、胸元を押さえていた布が真ん中から切れてしまってね、今まで伸びて千切れるなんてことは無かったんだけど……」


 多少恥ずかしそうではあるが、それでも女の子が野郎に話すにはあんまりな内容をあっけらかんと告げるクインさん。

 ……あまり説教の類はしたくないが、それでもここは友達として言わせてもらいたい。

 実際には言える筈も無いんだが、それでも声を大にして言いたい。

 お前さんはとんでもない凶器をぶら下げていると、少し自覚しろコラァ!


 ――っていうか今スゲェ事聞いちゃった気がするぞ、そのサイズでさらしってのも問題あるが、それが切れたって言ってなかったか!?


「え、う、うん。参ったよ、無いとこんなにも動きづらいとは思わなくてね。いっそ一度宿に戻ろうかと思った位さ」


 お前、アホだろ(真顔


 俺は手を伸ばし、彼女の羽織るケープの前をしっかりと閉じる。

 引っかけて出て来た旅行用の外套を脱ぐと、当惑しているクインに半ば無理矢理袖を通させた。

 北区に用事があるって言っとったな、急いで向かうぞ。互いの目的の前に真っ先に行く場所が出来た。


「どうしたんだい、急に? いや、キミに危急の用事が出来たというなら、そちらを優先してくれて構わないけど」


 何故か嬉しそうな表情で着せた外套を見回していた友人が、不思議そうに首を傾げる。


 ンなもん決まってるやろがい――先ずは服飾関係の工房か店舗に行くんだよ!

 急激に成長というか、変化した身体に自覚が追っついて無いのか、とにかくクインは無防備に過ぎる。

 彼女の実力を考えれば杞憂であるというのは分かっているのだが、なんか悪漢の類にいきなり路地裏に引きずり込まれそうで心配になるわ。


 なんで俺がこんな事を言い出したのかも分かって無い、と言った表情でやはり不思議そうな儘の友人の手を引っ掴むと、そのまま足早に北区へ向けて歩き出した。







 北区に近づくと、道行く人に最寄りの服飾店――特に女性向けの品が充実している店舗を場所を聞く。

 幸いにして近場に人気の店があるとの事なので、クインを引っ張って真っ直ぐにそこに向かうと、正に渡りに船。

 服飾店というより、そこは下着販売店――所謂ランジェリーショップだった。

 まぁ、言う迄も無く転移・転生者の知識でテコ入れして出来た店だろうな。

 最大国家である帝国なら当然、流行も再先端を走る場合が多い。が、女性用の下着に絞ったジャンルというのは競合相手もまだまだ少ないだろうし、良い着眼点なんじゃなかろうか。


 足を止める事無く店の扉を押し開けると、即行でそこに彼女を放り込む。


 ひたすらに困惑している巨乳でノーブラで無自覚という属性過積載過ぎる娘にそこで待ってろ! とピシャリと言いつけると、女性向けの店に勢い良く入り込んで来た闖入者()を警戒する様に声を掛けて来た店員さんに、口早に簡単な経緯を告げる。

 こういった店に入った経験も無いのか、興味深そうに周囲を見回すクインを指さし、そんな訳で彼女の体型に合わせた下着をオナシャス! と勢いを殺さずに店員さんに注文した。


 つーか勢いが無いとこんなん出来るか! つい先日まで男だと思ってたとはいえ、今では完全にナイスバディな美人になってる友達の下着を本人の代わりに注文しとるんやぞ。意味が分らんわ糞ァ!(逆ギレ感


 羞恥やら葛藤やら意味不明な流れに対する理不尽感やらで割とあっぷあっぷしている俺の苦悩を、なんとなく店員さんも察してくれたのか。

 最初の警戒感は何処へやら、俺の肩をたたいて「お任せ下さい」と、力強く頷いて請け負ってくれた。やだ、頼もし過ぎて涙出てきそう。


「……なんでこんな事になってるんだろう? ちょっと展開が急すぎて理解が追い付かないよ」


 あれよあれよという間にお店の人達に囲まれて外套とケープを脱がされ、採寸の始まったクインが呆然とそんな言葉を洩らしていたが……だまらっしゃい、マイフレンド。今回に限り、文句も拒否も受け付けんぞ。

 これに関してはお前さんの主である女公爵も文句なんか言ってこないっていう確信があるからな。寧ろ腹抱えて笑いそうでまである。


 なんか「あ、ちょっ」だの「ひゃん!?」だのと、可愛らしく上がる声に背を向け、外で待ってる、と端的に言い残して俺は店の外に出た。

 本来ならこっ恥ずかしさが勝って出来そうにもない難事を、勢い任せで終わらせた事になんともいない疲労感がこみあげて来る。




 ……成し遂げたぜ……やったよ俺ァよ……クッソ疲れた……。

 頑張ったよな俺……なんかもう色々と我慢して頑張ったよ……誰か褒めて……。




 ショップの壁に寄りかかり、ずるずると腰を落とす。

 ……改めて思い返すと、マジで何やってんだろうなぁ、俺は……。


 二年ぶりに友達と再会して、男だと思っていた友達は女の子で。

 正体を隠す友達に付き合って、一緒に観光に繰り出そうと思ったら、何の因果かその友達の下着を買い揃える羽目になっている。


 本気で意味が分からねぇ。なぁにこれぇ(白目


 出掛ける前の自分に教えたら、妄想乙wwwwと指さして笑われそうなシチュエーションが今も続く中。

 それでも、二年前にこれが最後で、もう会う事も無いのだろう、と。そう寂寥を覚えながらも別れた友人に、図らずとも再会出来た喜びを噛みしめて。


 浮かんで来る苦笑を堪えながら、俺は秋晴れの空を見上げたのであった。








金銀


お祭り前の最後のお仕事中。

聖女様は勿論の事、戦場に出た父や兄弟から散々に聞かされていた聖女の猟犬にも一目あってみたいと期待を寄せる貴族の御令嬢達を警戒し、パーティーでは駄犬の参加を却下した。

結果、御令嬢なんぞ目じゃない位の相手と再会させてしまう。



駄犬


再会した男友達は実はおっぱいでした(白目

自分の事を隠したいのかそうでないのかと悶々しているのに加え、スタイルが変わり過ぎてるのに無防備すぎる友達にゴリゴリと精神を削られる。

掛かっている心労は間違いなく同情に値するものなのだが、全く可哀想に思えない。〇ね。もげ爆ぜろ。



クインちゃん


彼も帝国に来てるし、祭りが開催されたら公的な場で再会できそう。

そんな風に期待してたら思ったより早く再会できてテンション爆上がり。

咄嗟に別人のフリしちゃったけど、これはこれでロマンチックなシチュじゃないか、なんて思ってそう。

以前から駄犬と一緒に飲み食いする際は男友達(笑)の距離感を利用してよくシェアしていた。

特に飲み物。これは吸血の中でも性的側面を伴ったソレの代償行為に近い。

爽やか貴公子みたいな見た目だった当時から相当ムッツリ。でも急成長したおっぱい周りに関してはマジで無自覚。やはり属性過積載過ぎる。


現状では駄犬に下着を選んでもらった唯一の女子となった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ