再会 筋肉の場合(後編)
聖都外壁沿いにある居住区。
当初は故郷を焼かれた者達や、激しい戦闘が多い地域から避難してきた者の疎開先として急遽用意された、大戦中に増築された無数の簡易住宅が立ち並ぶ其処は、追加の避難民などを受け入れてゆく内に正式な区画となった経緯を持っている。
その内の一つ、やや年季の入った長屋を思わせる建物である孤児院、その敷地内にて。
ややくたびれた犬のぬいぐるみを抱えたちいさな少女が、しゃがみこんだ体勢で地面にぐりぐりと木の枝で絵を描きながら鼻歌を歌っていた。
「ふんふんふ~ん、ふふふんふ~ん♪」
少女は上機嫌な様子で、夢中になって枝で地面を浅く削る。
「おねぇちゃんとー、わんわんとー、しすたー、あとは……ぺとらとおふぃー!」
傍目には歪な丸と曲線が並んでいる様にしか見えないが、彼女としては満足ゆく出来の様である。
地面に並んで描かれた会心の作である似顔絵を、ニコニコと笑顔で眺め、一つ頷いて。
今は院内でシスターの手伝いをしている兄の様な少年に、早速これを見て貰おう。
そう思い立った少女は、ぬいぐるみを小脇に抱えて、砂で汚れた掌をぱんぱんとはたいて払う。
立ち上がってぬいるぐみを抱きしめ直すと、顔をあげ――そこで院の入口に飛び込んで来た人影を見つけて表情を輝かせた。
「あ! べてぃーのおじいちゃ――」
「ミラァァァァァァッ! 大変だぁぁぁぁっ!!」
「ひぅっ!?」
ときたま沢山のお菓子をもって遊びに来てくれる老人は、いつもの様にのんびりと子供達と昼寝を楽しむ穏やかな空気など1ミリグラムも纏っておらず、心なしか目を血走らせて咆哮する。
その普段とあまりに違う様相に、少女が怯えて立ち竦み、腕の中のぬいぐるみを一層強く強く抱きしめ――。
「あらあら、どうか落ち着いて下さい猊……ヴェティ様」
「ヘブォァ!?」
ノーブレーキで爆走する爺は、横手にスゥっと音も無く現れた栗色の髪のシスターによって強制的に止められる事となった。
割と容赦の無い地を削る様な軌道の蹴りによって足首を狩られ、その場で顔面から地面にたたきつけられる。
なんかもう明らかにヤバい感じのコケ方だったのだが、砂埃が舞いあがったきっかり三秒後に老人はバネ仕掛けの人形の如く跳ね起きた。年齢から考えると随分と耐久力の高い爺である。
妙に高いままのテンションを全く切らさずに詰め寄る老人ではあるが、微笑みながら対応するシスターは小動もしない。
「あぁブラン、ミラは何処だい!? 急いで伝えたい事が――」
「まぁ、嫌ですわ。その様な険しい雰囲気では子供達が怯えてしまいます、先ずは落ち着いて下さいませ」
「それは済まなかった、でも本当に緊急なんだ。とにかくミラを……」
「まぁ、嫌ですわ。その様な険しい雰囲気では子供達が怯えてしまいます、先ずは落ち着いて下さいませ」
「いや、だから……」
「まぁ、嫌ですわ。その様な険しい雰囲気では子供達が怯えてしまいます、先ずは落ち着いて下さいませ」
ジャキッ。
そんな音と共に、柄が軋む程の音を立てて握り込まれる黒鉄の鈍器。
一言一句違わぬ台詞が三度目となる際、シスターの手には年季の入った片手鎚があった。
小振りながらも確かな重量感を感じさせる鉄塊が陽光を反射して鈍く輝くのを見て取り、老人――聖殿から爆走を続けて来たヴェネディエの頭も強制的に冷却される。
「あ、ハイ。すいません」
「いえ、御理解頂けた様で何よりですわ」
大人しく頭を下げる老人へとニッコリと笑みを深くして一礼すると、孤児院の責任者であるシスター・ブランは背後を振り返り、幼い少女へと声を掛けた。
「オフィリ、ヴェティ様が来たとミラ様に伝えて来てくれませんか? それが終わったらお絵描きに戻って良いですから」
「どうも驚かせてしまった様だね、ごめんよ……これはお詫びだ、他の子には内緒にね?」
ブランの言葉に付け加える様にして少女……オフィリへと謝罪し、ヴェネディエはその小さな掌に紙に包まれた飴玉をいくつか握らせる。
現金なもので、飴をいそいそとポケットにしまいこんだオフィリは元気よく頷く。
「わかった、おばーちゃんのとこにいってくる! べてぃーおじいちゃんアメありがとー!」
まだまだ歩幅の少ない両足をパタパタと動かして院の中へと駆けてゆく少女の背を眺め、ブランは困った様に溜息をついた。
「もう……猊下、来て下さるのは大変に光栄ですが、あまり頻繁に子供達にお菓子を与えないで下さい。虫歯なんかも心配ですし、最近では下の子達の中には猊下の事を『お菓子のおじいちゃん』で覚えてる子もいるんですよ?」
「いやぁ、あまり頻度が高いのは良くないとは分かってはいるんだけどねぇ……強請られてしまうとつい……やはり子供というのは難敵だ、下手な他国の要請なんかよりよほど突っぱねるのが難しいよ」
本日二度目のヘッドスライディングを決めていい加減汚れの目立ってきた僧衣――奥ノ院を飛び出してくる前に大慌てで着替えて来たお忍び用のソレに浄化魔法をかけつつ、取り敢えず表面上は落ち着いたヴェネディエはブランと並んで歩き出す。
「急に押しかけてすまないね。急いでミラに直接伝えたい事があったんだ」
「まぁ……お仕事を枢機卿の方々に押し付けたのが発見されましたか? トイルさんやシルヴィーさんに負担をかけるばかりなのは如何なものかと思いますが?」
「やっぱり僕の周りの子達は辛辣だなぁ……!」
唐突な来院の理由をざっくりと語りながら歩を進めれば、来客があったとオフィリより伝えられた院内の子供達がわらわらと窓際に集まり、「おかしのじいちゃんだ!」などと叫んで目を輝かせている。
「……持って来た菓子類はキミに預けておくとするよ。傷みやすいものだけ、明日中には食べる様にしておくれ」
「はい、ではお預かりしますね。いつもありがとうございます」
苦笑いしてブランに向けて懐から出した袋を渡すヴェネディエは、着替えだけでなく孤児院へのお土産も引っ掴んで聖殿を飛び出して来た様だ。何気にマメな老人である。
『お菓子のおじいちゃん』の何時ものお土産を受け取りつつ、ブランは笑いを堪えて一礼したのであった。
「……それで、大祭前の大詰めの仕事を投げ出してまで此処に駆け込んで来た理由とは何ですか、ヴェティ」
仕事をサボる口実とかだったら吊るすし、しょーもない悪戯への言い訳でもやっぱり吊るす。
応接間を兼ねた事務仕事用の部屋で、ヴェネディエと向かい合って座る彼と同年代のシスター……自称・只のいちシスター、他称・元教会決戦兵器な女傑のミラ=ヒッチンは分かり易く警告を込めた声色で問い掛けた。
ここ最近、平和になったからといって彼女の弟弟子に悪い遊びを吹き込もうとしていた友人に向けるミラの態度は……有り体に言って塩対応である。
だが、ヴェネディエとしては彼女の弟弟子である青年は、自己の評価や採点が辛過ぎるが故にどうにも自分自身に関しては脇が甘い部分がある。と思っての事なのだ。
異性との適切な『遊び方』を教えようとしたのも、聖女やその他複数の女性陣の不評が発生するのを考慮した上で尚、必要だと判断しての事である。
ぶっちゃけて言ってしまえば一種のハニトラ対策だ。先にも言ったが、彼は自身を低く見がちなせいで周辺国家やら或いは何某かの組織やらからそういったものを仕掛けられることもある立場である、という自覚が薄い。下手をすれば薄い処か全く無い。
戦時中は当人が"そんなもんに時間を割いてる余裕はねぇ"といわんばかりのスケジュールで動いていた上、当時は彼の下半身事情は不全になっていたらしいので心配の必要は無かった訳だが……《大豊穣祭》を皮切りとして青年の存在が改めて注目される事となれば、その手の方法で接触しようとする者も増えるかもしれない。
以上の推測を以て、将来的に発生するかもしれない問題を予防する意味も兼ねて『女の子との遊び方』の話を彼に振った訳だが……彼の傍にいる金銀姉妹より先に、ミラの方が過剰反応を示したのはヴェネディエとしても予想外であった。
とはいえ、過保護とも言えるミラの反応が懐かしいものだったのは確かだ。
老人が知る限り、彼女がここまで感情的になって保護しようとしたのは彼女の唯一の弟子である少女のみであったから。
世話をした教え子、という点ではシルヴィーやスカラもそうなのだが……最初の『弟子』であった少女以降、しっかりと線引きをした態度を崩さなかったミラが青年に対してはひどく入れ込んでいる様は、愉快であり、同時に喜ばしい事でもある。
だが、今回に限ってはミラの事より別の友人の話をすべきだ。
さて、どう伝えても混乱は必至だろうがどうしたものか。
ヴェネディエが内心で話題の切り出し方を悩んでいると、向かい合って座る卓の上にそっと紅茶のカップが置かれる。
「……ブラン、仕事をサボりがてらやって来る不良坊主に茶など出す必要はありませんよ」
「まぁミラ様ったら、そういう訳にも参りません」
女傑の言葉に、トレイを抱えたシスターが少し困った様な、苦笑交じりの微笑みを浮かべた。
ミラにしては珍しい事ではあるが、ちょっとした軽口のようなものなのだろう。ヴェネディエの前に置かれた紅茶にそれ以上言及することは無く、自身の前に置かれたカップを摘まんで持ち上げる。
「――絵本の修繕は先程済ませましたが、やはり傷んでいる物が多いですね。絵や文字が大きく掠れてしまっている本が何冊かあったので、そちらは処分してしまうしかないと思います」
「……やはりそろそろ駄目になってしまう物は出てきますね。寄付品なので丁寧に扱う様に言い含めてはいるのですが」
「擦り切れる程に読み込まれたのであれば絵本も本望というものでしょう。丁度帝国に行く事ですし、良い品が無いか探してみるとしましょう」
シスター二人の会話を聞く限り、どうやらミラは子供達の面倒の他にも細々とした事を手伝っている様だ。
現役時代、「戦う事しか得手が無い」とひたすらに戦地と聖都を往復する日々であった頃に比べれば、友人としては安心できる話ではある。
そんな風にしみじみと老人が思いを馳せていると、茶を一口含み、喉を湿らせたミラはカップをソーサーに戻して対面のヴェネディエへと視線を固定させた。
「さて、私達も帝国への旅行の準備で忙しい。長くお茶の時間は取れません、用件とやらを早く言いなさい」
じろり、という擬音が聞こえてきそうな目付きで見据えられ、老人はやはりどう伝えたものかと頭を捻り――結局はそのまま伝えるしかないな、と思考を投げ出した。
自身の前に置かれた紅茶で喉を潤し、ヴェネディエは何度口にしても現実感の薄い一大事件を友人に報告する。
「いいかいミラ、驚かない……のは多分無理だろうが、落ち着いて聞いてくれ」
「前置きは結構。早く本題に入りなさい」
「帝国に向かったガンテスが、大森林から来たエルフにプロポーズされたらしい」
聴覚がその発言を拾った瞬間、ミラは紅茶のカップを口に運ぼうとした動作のまま硬直した。
聖殿で話を聞いたシルヴィーと同じく、石化の呪を喰らったが如く完全に動きを停止させる。急停止に唯一ついてこれないカップの中身がビシャーっとテーブルの上にぶちまけられた。
ミラの隣に控える様にして話を聞いていたブランも、目を見開いて唖然としてる。
やっぱりこうなったか、と思いつつ老人が手を伸ばして卓の上に飛び散った紅茶を布巾で拭いていると、ややあって我に返ったらしき女傑は無言で席を立った。
唐突に立ち上がったミラを不思議そうに眺める他二名を他所に、ズカズカと大股の急ぎ足で応接間の窓辺へと向かう。
そのまま格子状の雨戸部分を押し上げると、彼女は晴れ渡った空を警戒する様に睨め上げた。
「……何してるんだい?」
「いえ。雹か槍でも降ってくるのでは、と」
訂正。我に返ったと思ったのは気のせいだった。現在進行形で混乱中の様だ。
どうでもいいがこの女傑、現在は遠く異国の地にいる弟弟子と反応が同じである。
まだ油断はできねぇ! と言わんばかりに上空を警戒し続けるミラに対して、ヴェネディエがその気持ちは理解出来ると厳かに頷いた。
「うん、天変地異を見張るのも良いんだけどね、ミラ」
全く良くないのだが、寝耳に水を通り越して脳の処理能力を超過する濁流を流し込まれて混乱+テンションが妙な事になっている老人と女傑は、それをおかしいと思う事も無い。
「僕はこの報を聞いて真っ先に此処へ来た……つまり、だ――ラックはまだこの事を知らないんだよ」
「直ぐに宿屋へ向かいましょう」
ミラから返って来た反応は清々しい程の即断即決である。互いに忙しい筈だと最初にヴェネディエに刺した釘は、濁流に流されてどっかにいったらしい。
現教皇と元教会最高戦力は、自分のカップに残った紅茶を一息に飲み干すとこの場所の運営者に向けて揃って頭を下げる。
「申し訳ありませんブラン。二、三時間ほど出てきます――絵本を読む約束をしていた子供達には、帝国旅行の際に新たな本を買うので許して欲しいと伝えて下さい」
「慌ただしくしてごめんよ、次に来るときには菓子以外に詫びの品を持ってくるからね」
単に伝えるだけならば、二人で行く意味も無ければそもそも自分達が直接伝えに行く必要すら無いのだが、そんな尤もな結論に思い至らない程度には二人とも惑乱しているようであった。
自身の口から伝えねば収まらず、単に分かっていても他人に任せる選択を却下した可能性もあるが。
ヴェネディエから語られた話にはブランも中々に衝撃を受けていた。
――が、普段は泰然とした立ち振る舞いであったり、滅多な事では動揺の欠片すら見せない鉄面皮であったりする老兵達が、混乱著しい見た事無いテンションになってるのを目の当たりにした事で、一周廻ってある程度の冷静さを取り戻す。
「えぇ、お気になさらず。お時間が掛かるようでしたら、そのまま帰宅なさって大丈夫ですよ。子供達には言って聞かせますので」
「感謝します、それでは」
言葉短かに礼をすると、老人と女傑は慌ただしく移動を開始した。
あーでもないこーでもないと、もう一人の友人である宿屋の主人にどう話題を切り出すかと話し合って、急ぎ足で孤児院を後にする向かう二人を見送る為、ブランも院の門前まで同行する。
子供達としては、偶にやって来ては遊んでくれたり本を読んでくれるおじいちゃんとおばあちゃんが揃って早々に帰ってしまった事を不満に思うだろうが、今回は仕方ないだろう。何せ二人にとっては数十年来の戦友に関するとんでもない大事件だ。
院を出た途端に魔力強化を用いて自重なく走り出した教国の嘗ての英雄達を、何となく、微笑ましい気分で見送る。
「あー、シスター・ヒッチン行っちゃったか……昼寝の時間の寝かしつけが大変になるな」
「う~……おばあちゃん、えほんよんでくれなかった……」
背後から聞こえた声に振り返ると、其処には子供達のまとめ役である少年――ペトラと、彼に手を繋いで連れられたオフィリの姿があった。
「御二人に応対してる間、子供達を見てくれてありがとうペトラ。何かありましたか?」
「そろそろ年長組だけじゃ騒いでるチビ達を押さえきれないよシスター。戻って来てって言いに来た」
いつの間にかそれなりに時間が経っていた様だ。色々と受けた衝撃も加味すれば嵐の如き時間だったと、ブランは微笑を苦笑で上塗りした。
では戻りましょうか、と子供達に応えて、老人達が急遽帰ってしまったことで若干不機嫌なオフィリの頭を撫でる。
「ミラ様達を許してあげて下さいねオフィリ。御二人の御友達にとても驚く事が起こったらしいの。だから別の御友達にそれを伝えに行くって」
母代わりのシスターの言葉に、少しだけ不安そうに眉根を寄せたのは年長のペトラの方だ。
「……ひょっとして、司祭様の事? 帝国に行くって聞いたけど……何かあったの?」
「いえ、悪い事ではありませんよ――色々と衝撃的な話ではありましたが、寧ろ吉報……良い話? だと思います」
戦時を経験している孤児であるが故に、両親や、或いは面識のある大人達がある日唐突にいなくなる、というしたくもない経験をしている少年の危惧を笑って否定する。
当の少年は「なんで疑問形なんだよ……」などと言って照れ隠しに不貞腐れた顔をしていたが。
兄代わりと繋いだ手とは逆の手で、不機嫌さを表す様に犬のぬいぐるみを締め上げていた少女は、二人の会話を聞いてきょとんとした顔でブランを見上げた。
「……おともだちにいいことがあったの?」
「えぇ、そうみたいですね……周囲に大混乱を齎す吉報というのも中々聞かない話ではありますが」
「ふーん……そっか。だからおばーちゃんたち、帰るときにうれしそうだったんだ」
「嬉しそう、ですか?」
今度は聞き返す形となったブランの言葉に、オフィリは「うん」と深く頷く。
違うのか? と見上げる眼で不思議そうに問いかけて来る声なき疑問に、少しばかり考え込んで――。
「そう、ですね。少々分かり辛かったですが、きっと御二人とも喜んでいたのでしょう」
ちいさな少女の言葉を肯定した孤児院のシスターは何処となく楽しそうに笑みを深くし、再び少女の頭を優しく撫でたのであった。
――冒険者を主な客層とする宿屋《武器掛け棚亭》。
引退しているとは思えない巌の如き鍛えた体躯と、これまた巌の如き厳めしい面構えの店主は、訝し気な表情で眼前の友人二人に聞き返した。
「……誰が、なんだって?」
「いや、だから。ガンテスがプロポーズされたんだよ」
「私も聞かされたのはヴェティからの又聞きではありますが、事実の様です。遠話の魔道具を用いて直に伝えられた話らしいので」
非常に珍しいことに、日も高い午前様から突撃して来た旧友二人。
何時もより奇妙に浮足立っている彼らをカウンター席に座らせ、落ち着かせる意味も込めてかけつけ一杯とばかりに酒を出したのだが。
教皇などという立場に似合わず稚気に溢れたヴェネディエの方は兎も角、生真面目と堅物を足して二を掛けた様なミラまで躊躇わず飲み干してしてグラスの底をカウンターに叩きつけた光景に、店主は目を剥いて驚愕する事となった。
だが、そこから聞かされた話はその驚きを容易く上回る。
プロポーズ……肉体美の類を競う者達の、プロフェッショナルなポージングの略だろうか。転移者達の故郷にはそのような催し物があると聞きかじりで耳にした記憶がある。
「混乱する気持ちは痛い程解かるけど、言葉としてはそのままの意味だよ。お相手は過去に彼が共闘した大森林のエルフだそうだ」
「エルフの戦士達と共に上位眷属を相手にした話は、私がガンテス本人から聞いた事があります――十中八九その際に関わった者かと」
「正気か、そのエルフは」
半ば現実逃避染みた思考に走ろうとするものの、無情にも友人達から追加情報を脳にインプットされた店主――ラック=ラインは頭痛を堪える様に目元を揉み解し、呻いた。
話を聞かされた今では、ミラがノータイムで酒に手を付けたのも理解できようというものだ。衝撃が強すぎる、気付け代わりに飲まなければやってられない。
二人に出した酒をつい先ほどまで磨いていたグラスに注ぎ――いや一杯で足りるかボケ、と言わんばかりにグラスではなく瓶から直接ラッパ飲みを始める。
一気に瓶の中身を半分程空にした処でやっと一息つき、ラックは酒臭い吐息を吐き出した。
「……そのエルフ、何処ぞの国の紐付き、って訳では無いんだな?」
「紐付き処か、エルフの最高指導者らしいよ。その地位に就いたのは教国が関わった最近の件以降だけど」
「何があればそんな女があの筋肉馬鹿に熱を上げる様になるんだ」
「そもそも、その手の背後がある者達ならばレティシア様やアリア様、あるいは『彼』を標的とするでしょう――過去に英雄だ最高戦力だと持て囃されたと言っても、所詮私達は大戦を終わらせる事叶わず、後進に託してしまった人間です」
ミラの言う事も尤もであった。
四英雄、などと持ち上げられていた彼らであるが、大戦終結まで現役として戦場に立っていたのはガンテス一人。
勿論、友人たる筋肉武僧の戦武は古参の兵だけでなく戦場を共にした多くの者達から絶大な信頼を以て称えられてはいるが……教会の大看板たるかの聖女姉妹と、戦場の首狩りなまはげみたいな扱いで半ば伝説になっている『彼』と比べると対外的な知名度はやや控えめだ。
時代が変わったという事だろう。先のミラの言葉通り、後の者達に戦いの趨勢を託した世代の人間が今更ハニートラップの対象となる筈も無い。
……それだけに、ガンテスにプロポーズしたというそのエルフの女性の『ガチ』っぷりを薄々と感じ取り、三人は言葉に出す事無くとも戦慄を感じでいた。
「くそ、このときばかりは店を持ってる自分の身が恨めしいな。現役時代なら帝国にすっ飛んでいって根掘り葉掘り聞いてやるんだが」
「僕は件の祭りの件もあるから、帝国に一度顔を出せるからね。いや、正直祭りそのものより楽しみかもしれないよコレは」
「私も孤児院の引率で、ブランと共に帝国に行く予定ですね。タイミングとしては渡りに船と言える」
「……チッ、奴の帰国を待たなきゃいけないのは俺だけかよ。儘ならんな」
心なしか、ドヤ顔で帝国へ向かうと宣う老人と女傑を見て、舌打ちを一つ。
だが、直ぐに気を取り直した様子で不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ラックはカウンタ―下に身を屈め、新たな酒瓶を取り出した。
封を開けると、琥珀色の液体を友人達の空のグラスへと注ぐ。
明らかに高級品であろう蒸留酒の芳醇な香りに、ヴェネディエが鼻腔をヒクつかせて片眉を上げた。
「おや、これは良い品だね……一足先に祝い酒、といった処かな?」
「ウチで二番目に値の張る品だ。精々味わって飲め」
「ふむ、この香り高さで二番、ですか。一番の品を開封する機会が気になりますね」
普段は滅多に酒を嗜まないミラであっても、相当な上物である事が伺える品。
それを二番と言い切ったラックの秘蔵の一品は、酒飲みでなくとも気になる処ではある。
店主は自身のグラスに同じく酒を注ぐと、その強面にニヤリとした――子供が見たら泣き出しそうな凄味のある笑みを浮かべた。
「ハッ、そいつは勿論――あの筋肉馬鹿の年貢の納め時の日だろうよ。俺の一番のとっておきを飲みたきゃ、精々そのエルフが上手い事やるように祈っておくんだな」
グラスを掲げ、皮肉る様に告げられるそれは捻くれた……だが紛れも無く、初めて浮いた話が出て来た友人の将来を祝し、応援する言葉であり。
相も変わらず妙な処でヒネた友人の言に、ミラとヴェネディエも苦笑してグラスを掲げる。
「――戦友に訪れた春に」
「その末を楽しみと出来る、平和に」
祈りと、歓びと、そして祝福を込めて。
老兵達は静かにグラスを打ち合わせ、祝杯を挙げたのであった。
「――まぁ、散々に言っておいて俺達も独り身なんだがな」
「ラック、それは言ってはいけません」
――場所は戻り、帝国の賓客を逗留させる屋敷の一角。
「いや、驚いたなぁ……まさかサルビアの言っていた『あの御方』ってのがグラッブス司祭だったとはなぁ……」
「凄い偶然だよねぇ……聞いた内容を思い返してみると、確かに先生の言動と合致する部分もあるけど」
普段使いしている客間では無い、先程までエルフの客人達に応対していた広間でしみじみとした口調で互いに頷き合っているのは、レティシアとアリアの聖女姉妹である。
挨拶にやってきたサルビアが鼻血を噴いて昏倒して、暫し後。
ざっと魔力で精査した限り、興奮やら羞恥やらが限界を超えて意識が飛んだだけであろう、という結果が出た。
という訳で、倒れた本人は空いた部屋のベッドで寝かせ、随伴してきたエルフ達を引き連れて広間に移動する事となった。鼻から血を噴射して倒れるのを『だけ』と表するのも如何なものかとは思うが。
ちなみにサルビアが意識が無いにも関わらず、彼女を寝台まで運んだガンテスの指を掴んで離さなかった為、目を覚ますまで傍で看病すると申し出たかの筋肉武僧この場には居ない。
ぶっ倒れた最長老の代理として改めて挨拶と迷惑を掛けた謝罪を行ったエルフの若者は、形式としてのソレらが終わると同時、土下座せんばかりに頭を低くして懇願を始めた。
「……不躾にも程があるとは理解しております……! ですが、どうかサルビア様と司祭殿の仲を取り持つ――いえ、そこまでは無くとも、我らの最長老が想い人と深く交流を持とうとする事、御目溢しして頂きたいのです……!!」
レティシア達が聞いた話によれば、彼もサルビアが開明派を立ち上げるに至った切欠となった件の戦場にて戦っていたらしい。
共に生命を賭けて戦った他種族の戦友達、その中でも一際彼女の内に深く刻み込まれた巨躯の益荒男。
エルフからすれば瞬きと言ってもいい、ほんの僅かな間だけ交わった道。
その記憶を、想い出を支えとして数十年。開明派の長としてエルフの未来を憂いて立ち回って来たサルビアに、ガンテスとの交流の機会だけでも与えてやって欲しい。
必死の形相でそう訴えかける青年は、彼女が胃を痛めたり吐血したりする様を同じ年月だけ見て来たという事だろう。
ウチの最長老にもそろそろ人生のボーナスタイムがあっても良いだろいい加減にしろ! と、運命か、天命か。何か大きな流れ的なものに噛みつかんばかりの勢いであった。
勿論、レティシア達にも否は無い。
低頭する若者を宥め、力強く快諾するに至ったのであった。
正直、事の次第を把握した際には驚いた、などというレベルでは無かったが。
聖女姉妹やその守護者たる青年にとっても、ガンテス=グラッブスという僧は偉大な先達であり、世話になっている恩人でもあり、尊敬に値する大人なのだ。普段の鍛錬キチっぷりとぶっとんだ筋肉っぷりのせいで、どうにも口にする機会は少ないが。
当人にその手の欲が薄いどころか皆無なせいで、男女の話など生涯無縁だと思われたかの御仁にそういった話が降って湧いたとなれば、その芽を摘む事などとんでもない。寧ろ積極的に応援したいまである。
相手が問題ありそうな人物であればまた話は違ったのであろうが、サルビアであれば人品に文句など無い――強いて挙げれば、その立場が色々と面倒を付随させてきそうではあるが……本人達が良い関係になる意思があるのなら、その辺りは聖女としての権限で存分にフォローする腹積もりだ。
なんなら教国の教皇やご意見番、枢機卿達を巻き込んでも良い。というか、教皇辺りは嬉々として全力で嘴を突っ込んで来そうな話であった。
「まぁ、そうは言っても、サルビアさんが先生を捕まえる事が出来るかどうか、って言うのは大前提ではあるんだよね」
「言ってやるなよアリア……道は険しい処じゃないだろうけど、これまで登頂ルートはおろか、登る山すら見つかってなかったんだ。サルビアの攻略力に期待、ってとこだろ」
攻略難度、という点においては負けず劣らずの駄犬山を一着争いしている少女達としては、難敵に挑むサルビアに同情と共感を覚えることしきりである。競争相手が皆無な事についてだけは羨ましい、と思わなくも無いが。
――何れにせよ、これを逃せばオッサンに春はやって来ない! 全力で応援するぞお前らぁ!!
気合の籠った叫びと共に広間の扉を叩き開けて飛び込んで来たのは、つい先刻まで空から雹とか槍とか邪神の眷属が降って来ないかと警戒を続けていた駄犬である。
どうやら上空を睨み続ける間に混乱した精神状態も落ち着いたらしい。単に空を眺め続けるのに飽きただけかもしれないが。
「おかえり、にぃちゃん。槍は降って来た?」
――降って来ませんでした! あと雹も! 気温も40度になったり氷点下になったりしてません!
「するわけねーだろ。どんだけ動揺してんだよお前は」
姉妹からたっぷりと呆れを含んだ視線で頬を抉られるものの、青年は怯みもせずにそれはいいんだ、今は重要じゃない、とあっさり自分の混乱していた時間を切って捨てる。
妙に乗り気でサルビアの恋路に助力しようとする青年に、アリアが不思議そうに小首を傾げた。
「なんか珍しいね。この手の話って本人達の意思が重要、ってにぃちゃんなら言いそうだなぁ、なんて思ってたけど」
――いや、それは確かに思ってる……だが、俺は気付いたんだよアリア君!
掌で顔半分を覆い、絶妙な角度で背を仰け反らせる青年のテンションは若干ウザく感じる程高い。
だが、得意分野とは言い難い恋愛事について、積極的に支援を表明する彼の理由は割と切実なものだった。
――サルビアがガンテスとくっ付けば……そうでなくともあの二人が一緒にいる時間が増えれば……俺が筋肉ゴリラのブートキャンプに巻き込まれる回数が減る!!
「目が血走ってやがる……必死か」
レティシアの感想通り、必死である。勿論、推せる友人達が結婚まで行っちゃうとか最高かよ、その瞬間どんだけ輝くのか見てみたいぞオラァン! という青年独特の趣味も多分に関係しているが。
そんな彼の言葉を聞くと、座っていたソファの背もたれに寄りかかり、金の髪をかき上げた聖女が悪戯っぽく笑いかけた。
「それなら、いっそサルビアの復調を待ってる客間のエルフ達に伝えて来るか? お前が応援するって宣言してやったら感涙のあまり泣き崩れるかもしれないぞ、聖者様?」
――あ、それはやめて下さい……ちょっとはしゃぎ過ぎました、マジスンマセンレティシアさん。
自分にとって黒歴史に近い聖者様呼びされて、青年はスン……とばかりにテンションを鎮火させる。
そんな彼の手をレティシアとアリアは引っ張ると、それぞれが腰を下ろすソファの間に座らせた。
幾らか落ち着いた青年を真ん中に、聖女達とその猟犬は祭りを前に芽吹いたおめでたい話題に、楽しそうに花を咲かせる。
「そうだなぁ……闘技会の解説だっけ? 司祭が請け負った仕事って。それにサルビアも巻き込むってのはどうだ?」
「あ、いいねそれ! 打ち合わせって事で二人で話す時間なんかも増えそう!」
――あー……なら、一応陛下かレーヴェ将軍に話を通しておかんとな。本選出場者の資料とかオッサンだけじゃなくサルビアにも廻してもらわんと。
賑やかに話し合い、話題を楽しみつつも、レティシアとアリアは姉妹故か全く同じことを考えていた。
応援はしたいし、どういう形になるにせよ、幸せになって欲しいとは思う。
けれど……叶う事なら、話題に上げる筋肉とエルフの最長老の二人より早く、自分達の方が関係成就させたい。
そんな、実は何気に青年のブートキャンプ回避と同等か、それ以上に切実な内心の聖女達なのであった。
「う……うぅん……あれ、なんで私、寝て……」
「おぉ、お気づきになられましたか」
寝台の上で小さく呻くと、サルビアは若干フラつく頭を押さえながら身を起こす。
寝起き……というか実際は気絶だったのだが、とにかく起き抜けで呆とする頭に届いた声に、直ぐ隣に視線を転じて――寝台の脇に置かれた椅子へと腰掛ける巨漢を視認して硬直した。
「いや、唐突に意識を失われたので、大層気を揉む事となりました――ですが、何事も無く目を覚まされたというのなら何よりですな」
「うぴぇ!? が、ガンテスしゃま!? な、なんっ……ヒョッ、手っ……!? も、申し訳ありません……!」
自分が眼前の武僧の太く、節くれだった指をしっかりがっちり握りしめていた事に気が付き、サルビアは慌てて手を離す。
昏倒し、そこから目を覚ましたばかりの者の傍に居る為か、普段より格段に抑えた――穏やかさがより感じられる声量で、ガンテスが笑う。
「はっはっはっ、お気になさらず。病身にある際には、平時において気丈である人物も心細さを感じる、と聞き及んでおります。いや、父母より少しばかり頑健な身を賜った拙僧は、物心ついてより風邪というものを引いたことがありませぬが」
一頻り、快活に笑った後。
ふと真面目な表情となり、巨漢は挙動不審なエルフの最長老へと真摯に語り掛ける。
「レティシア様の精査では、これまでの生活の疲労の蓄積、及び此度の外界への遠出による疲れがまとめて噴き出たのであろう、との事。サルビア殿の御立場からして、存分に身を休める機会など早々は訪れぬでありましょうが……どうかくれぐれもご自愛下さい」
実際には好いた男から立ち昇る熱と匂いを力いっぱい吸い込んで興奮してぶっ倒れたのだが、恋する乙女(四桁歳)としては自殺ものの醜態である為、レティシアが気を利かせた診断結果をガンテスに伝えていた、という形だ。
時間経過ではっきりとしてきた頭で、倒れるまでの経緯を思い出したサルビアは普通に死にたくなった。
「……まともに挨拶も出来ない処か、とんだご迷惑を掛けた様で……本当に申し訳ないです……」
「なんの、お気になさらず。悪漢共を打ち倒すのみが能であるこの手が、病身の御婦人の眉間を緩ませる一助となれた事、大変に光栄な経験でありました」
「……打ち倒すのみであるなどと、その様な事はありません」
鍛錬の結晶の如き、見事な肉体と聖気。
凄まじい練度を誇るそれらと相反する様に、その本質は穏やかで他者に慮する在り方である。
サルビアが惹かれたあの頃より、なんら変わらぬ――ともすればより練磨され、より惹かれる様になった御仁だが、それだけにその言に頷き難い部分があった。
そうだ、そんな訳が無い。
あの日、あの戦場で。
あの絶望的な戦況で足掻いていた自分達は、この御仁の手によって、九死に一生を得たのだから。
あのとき、僅かに交わすことのできた言葉の御蔭で、今の自分はあるのだから。
意識した訳でもなく、自然と離した筈の手が伸ばされ、その分厚い掌に、白く、華奢な掌が重ねられる。
「どうか、御自身を卑下なさらないで下さい――ガンテス様は多くのエルフの、ひいてはあの戦場で生き残った者達の恩人なのです。おそらくはそれ以外の、多くの戦場でも」
「……む。これは何とも……面映ゆいものですな」
ポリポリと自身の禿頭の登頂を指先で掻いて、少しばかり気恥ずかしそうに角張った顔に照れ笑いを浮かべる巨漢に対し、ひどく暖かな――けれど少しだけ胸が苦しくなる感情を、明確に覚える。
自身の中にあった淡い感覚が、確かなものに変わったのをサルビアは改めて自覚して。
「……よろしければ、もう少しだけこのままお話をしても構わないでしょうか? お伝えしたい事が沢山あるのです」
「勿論です、聖女様方や猟犬殿に他のお客人を持て成して頂いておりますれば、此度の拙僧の役目はサルビア殿の看病である、と定めていますゆえ」
エルフの最長老は――再会した初恋の人物と、柔らかく微笑み合ったのであった。
聖女(金)と犬
大慌てで取り敢えず爺に連絡しに走った子と、混乱した末に天変地異が起こるっ…! とか馬鹿な警戒を抱いて二時間くらい空を睨みつけていた馬鹿。
今回の件が衝撃的だったのは確かだが、応援&成就の際の祝福する気持ちは本物。
聖女(銀)
何気に一番混乱度合いは低かった。
驚きはしたが「そりゃ先生にそういった話が出る可能性だってあるでしょ、凄い人だもん」で済ませた為、周囲の人間の大混乱っぷりに若干えぇ…ってなってた。
爺・女傑・宿屋の主人
三人揃ってキャラ崩壊しかけるレベルで混乱した。宿屋の主人はまだマシではあったが。
が、おめでたい事には違いないので最終的には友人に春が来るかもしれないと祝杯を挙げる。
尚、調子こいて飲んだ後、女傑は酒臭い状態で孤児院に戻る訳にも行かないのでその日は直帰する羽目になり、爺は上機嫌の千鳥足で帰ってきた処をトイルにドロップキックを喰らった。
サルビアちゃん
念願叶って会いたかった御仁に再会し、今度こそ名を交わすことが出来た。
仄かに灯っていた感情は数十年かけて拗らせたせいか、ややドロっとした物になっていたが、あの頃となんら変わらぬ御仁の言動に触れて極めて真っ当な形で花開いた模様。
スタートは良い形で切れたが、どう決着するかはこれからに期待。
頑張れ最長老。せんさいひしょじょになれるかどうかは自分次第だ。
ちなみに難易度は極めて高い(無情
筋肉さん
祭りは楽しみだし、嘗ての戦友とは再会できるし、やっぱ平和って素晴らしいわ! 筋トレしたろ!