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サルビアの懊悩、聖女の本気。




「……次代の長老候補から外れたとはいえ、お前もまたエルダの血筋であろう。そのような醜態を衆目へと晒すのは感心せんな」

「誰の、せいだと……思って、いる、の、ですか……!」


 呆れを含んだ台詞に、荒れたままの呼吸を繰り返しながら汗だくのエルフのお姉ちゃん――開明派の長を名乗ったサルビアという女性が、言を発した長老を恨みがましい目線で睨めつける。


 俺と《虎嵐》がイチャもんつけられて、さてどうしようかと悩んだのも束の間。

 シアが切れた。

 いやびっくりした。俯いたまんまでちょっと様子がおかしいから心配したんだが、顔を上げたと思ったらマジギレしてるんだもんよ。

 いや、割と酷い罵倒された俺達の為に怒ってくれたっていうのは流石に分かってるし、嬉しいしありがたいんだけどね。

 邪神の信奉者連中と相対したとき並みのガチモードだったのは流石に驚いたけど。

 下手すりゃ本気で目の前のエルフ達を消し飛ばす気だったシアも大概激おこだったが、後ろの女性陣も相当にあったまってるのがもう気配だけで分かる。怖くて振り向けない(白目


 リアとシグジリアも不機嫌丸出しの威圧に近いプレッシャーを隠そうともしなかったけど、隊長ちゃんが何気に一番ヤバかった。

 俺の隣の聖女様が怒ったのと同タイミングくらいで長老――コニファの首に『意』とでもいうべきものを当てだしたからね。

 一応、相手に対して隠す気はあったみたいだけど、うっかり気付いてしまった俺は気が気じゃなかった。険悪な雰囲気になっていた相手とはいえ、眼前の人間の首がまるで斬線目印みたいに線を引かれた様を幻視する状況、想像したことある?

 想像するとちょっと怖いんだけど、シアが俺に武器を突き付けている連中へと魔法を叩き込むと同時に、残ったコニファの首を刎ねる気だったんじゃないだろうかコレ。


 初っ端から喧嘩売られた様なものとはいえ、即座に殲滅で応じようとするとかバーバリアンかい。魔族領の《災禍》の連中じゃないんだから。

 舐められたら取り敢えず殺してから死体に聞いてみる。とか真顔で言っちゃう何人かの特に好戦的な奴らを思い出しつつ、エルフの保守派と開明派、揃った二人の代表者のやり取りを眺める。


「……とにかく、この場は引いて頂きますよコニファ様。彼らは私達の客人です、貴女達ではない」

「ふむ? 外の者共に文を出したのは我らが先である筈だが?」

「童の駆けっこでもあるまいし、書状の先着などで決める話ではないでしょう。大事なのは先方がどういった判断で此方に来訪したのか、です」


 聞いてる限りだと、外交……というか対人関係において至極真っ当な事を言ってるサルビアの言葉に、コニファは眉を顰めるという反応で返した。


「……お前達の他種族にへり下る様は、エルフの誇りを損なう。開明派、などと言う若い者達の火遊び程度は多めに見てやっていたが此度は――」

「それは此方の台詞ですよコニファ様――エルフの未来が掛かっているので、これ以上貴女方の言動を客人に向けさせる気はありません」


 額の汗を拭い、決然と宣言するサルビアの言葉に応じ、背後にいた彼女の供である開明派の戦士達が躊躇なく武器を構え、剣先と矢を保守派へと向けた。

 保守派の連中が先程、案内役の青年達に武器を向けたときのようなただの脅し・ポーズとは違う全員が全員、本気の眼だ。この場で戦いになっても止む無しという決意に満ちている。

 連中は俺に向けていた武器を慌てて開明派の集団に向け直すが……気位が斜め上に天元突破しているとはいえ、同族とのガチ闘争には躊躇いがあるのか、その動きは鈍い。


「……本気か?」

「正気ですよ。少なくとも、数十年前のあのとき、あの日から。私は正気を得ることができました」


 暗にテメーらは気狂いだよ馬鹿野郎、と言ってるも同然のサルビアの真剣な眼光に射竦められ、保守派の長老殿も眼前の開明派(若い衆)が揉める事を厭うていない事をやっと理解した様だ。

 それでも、あくまで若い者の火遊びという認識なのか。

 コニファは溜息を一つ付くと無造作に片手を上げて合図し、自派閥の部下達に武器を下げさせる。


「……この場はお前に譲ってやろう。だが、お前達の戯れで穢れ者まで聖地に入れるとなれば、何かあればお前に責を問うことになるぞ」

「元より覚悟の上です――それが()()()()()()()()()()()()()、喜んで受けて立ちましょう」


 これまた暗に、テメーらのちょっかいが原因ならトコトンまでやったんぞコラという宣言でもあると思うのだが、理解しているのかいないのか。

 あっさりと踵を返したコニファは、首だけを少し此方に向けて最後にもう一度、シアへと話しかける。


「後ほど、人を遣ろう。女神の愛し子よ、我らの同胞に加わる前に知るべき掟や歴史があるのでな。心身を引き締めておく様にせよ」

「二度とツラを見せんな」


 おい、シア。唾でも吐きそうな面構えで中指おっ立てるのやめなさい、一応聖女やろお前。

 流石に品が無いので諫めつつ、後ろの面子にも同意を得ようと振り向いたが、女性陣は概ねシアに賛同するスタンスっぽい上に、男性陣は視線を逸らして彼女たちの怒りに触れないようにしている。

 いや気持ちは分かるけどね。シグジリアは背中の大弓に手を掛けたままだし、一番穏当なリアですら立ち去る保守派連中の背中に舌をだしてさっさと帰れと言わんばかりだ……隊長ちゃん、この場でのドンパチは回避されたんだから、コニファの首から視線外そう、なっ?


 そうしてエルフの長老とその御供達の姿が森の奥へと消えると、漸く辺りから緊迫した空気が霧散し、緑に覆われた昼下がりの森林本来の穏やかな空間が戻って来た。


 しっかし、聞きしに勝るというか、想像以上に想像以下だったというか……マジで会話が嚙み合わなかったなぁ。

 『視た』感覚からして、もう酷かった。あんなん初めてだよ。

 エルフ達は、生来優れた魔力や聖性を有した種族であるので、元は間違いなく大きくて立派な魂なのだ。

 といっても種族単位での優性程度の話なので、俺が人生で一番衝撃を受けた輝く魂の持ち主であるシアとリアには比ぶべくも無いけどね(身内自慢

 まぁとにかく、生来のスペックが人類種の中では魔族と並んで高く、驕らず研磨すれば魂の大きさに負ける事の無い輝きを放つであろう事は容易に知れる。そこにプライドを持つっていうのは、分からん話でもない。

 だというのに、当人達が己の意思で変に捻じれさせてるというか、どこか歪さが目立つというか……本来なら見ていて心動かされる景色や風景のど真ん中に、特大のとぐろを巻いた野グソが湯気を上げて鎮座しているようなガッカリ感がある。

 同行しているシグジリアや、後からやって来たサルビア達なんかは普通に『視た』感じフェチ的に推せる人達な分、感動と落胆の乱高下が酷い。酔いそう。


 一部の者達に出会っただけでこれだ。聖地――エルフ達の集落に入って保守派と開明派が入り乱れて生活している空間に入ったら酷い船酔いみたいなことになる気がする……魂知覚はちょっと控えておこう。精神的なもんだから酔い止めとか効かないだろうし。

 邪神やその配下みたいなレベルで糞を汚物に漬け込んだみたいな酷い物体Xだったら、いっそ気合が入るんだけどね。欠片も残さず消毒しなくちゃ(使命感


 ともあれ、大森林入りして100メートルも進まん内に血煙と肉片が舞う殺伐大劇場の開幕は回避された。

 全速力で駆けつけて来たらしい開明派の人達にはお疲れ様といってあげたいね。

 そんな彼らは、保守派の姿が見えなくなると疲れた様に武器を収め、改めてこちらの一団に向き直る。

 俺達の案内をしていた青年達が申し訳なさそうに進み出て、サルビアへと頭を垂れた。


「我らが居ながら、老人たちの強引な行いを止める事も出来ず、面目次第もございません……」

「サルビア様が急ぎ駆けつけてくださらなければ、どうなっていた事か……如何様にも罰を受けます」


 ほっといたら自刃しそうな位にヘコんでる二人に、サルビアが優し気な表情で頭を振り、肩に手を置く。


「咎める事などありません、寧ろ長老が直接出向く事を予想できなかった私にも落ち度があります」

「サルビア様……」


 感激した面持ちで彼女を見つめる案内役のエルフ達であったが、良い感じのシーンだったのはそこまでだった。

 うっすらと微笑みを浮かべていた開明派の長の動きが唐突に止まり、次の瞬間――。


「オボァ」


 あ、吐血した。


「サ、サルビア様ァァァァァッ!?」

「ちょっ、伯母上!?」


 緊迫した場面を切り抜け、自省激しい部下にフォローを入れて、一段落したせいだろうか。

 サルビアの肩からフッと力が抜けたと思った瞬間、その口からトプっと赤い液体が噴き出て、彼女は笑顔のままで白目を剥いて失神した。

 悲鳴を上げて介抱を始めるエルフ達。それと流石に身内が血ぃ吐いてぶっ倒れたのを看過できなかったシグジリアが、慌てて傍に駆け寄る。


 本人達からすれば阿鼻叫喚なのだろうがシリアスな空気とは程遠い展開に、皆、保守派のせいで煮えた腹もすっかり冷めたみたいだ。

 毒気を抜かれた様子でシアが俺と顔を見合わせ、呟く。


「あー……取り敢えず、回復魔法かけてあげた方がいいよなアレ」


 その方が良いと思うなぁ……まだ会話してすらいないけど、物凄く苦労してる人だっていうのは何となく察せられたし。丁寧に治したれよ。


「ボクはにぃちゃんに賛成かな。開明派の人達ってさっきの連中より全然まともだし」

「……妻が己の伯母を案じている。ならば是非も無い」

「侮辱を受けた先輩と《虎嵐》さんがそう仰るなら、私からは特に異は有りません。元凶は引き下がりましたし」

「自分的には帰ろうが留まろうがどっちでも良いっスすけど、あの開明派のトップの人は治療してもらいたいッスねぇ。現時点で既に親近感が半端ねぇ」


 全員、特に反対意見は無い様だ。

 シアはこっくり頷くと、「じゃ、ちょっくら治してくる」と一言告げて、大騒ぎしながらブッ倒れたサルビアを囲んでいるエルフ達の下へと歩み寄った。








◆◆◆




「……お客人の前で意識を失うなどと言う粗相をした上に、手ずから癒しを施して頂いた事、どれほど礼と謝罪を重ねれば良いのか」

「あぁ、良いですって。ささっと済んだ事ですし、そこまで気に病まないで下さい」


 木造りの床に深々と額をつけるシグジリアの伯母さんに、オレは努めて軽い口調で手を振って応える。

 軽く診た結果、急性のストレス性胃炎か潰瘍って感じだったので、彼女の胃を丸ごと再生させる位のつもりで丁寧に癒したその後。

 意識を失ったままのサルビアをエルフの住居へと運ぶついでになった感はあったが、オレたちは開明派のエルフに案内され、いよいよ彼らの郷――聖地へと足を踏み入れた。


 通常の森の樹々より遥かに高く、立派な樹木の群れを利用したツリーハウスやウッドハウス。

 中には大樹同士が絡まり合い、その木の根の隙間や、古木自体の空洞を利用したらしき御伽噺に出てきそうな外観の家も並んでいる。


 開明派がオレ達の宿泊施設として用意してくれていたのは、比較的大森林の外で普及しているログハウスやコテージに近い外観の、丸太組の大きめの建物だった。

 なるべく馴染みのある建物を選んでくれた彼らの気遣いというやつなんだろうが……アリアなんかは妖精が住んでいそうな古木の空洞を丸ごと改装した家を見て、ちょっと羨ましそうにしてた。正直、オレもそっちに興味があったけど、向こうも親切心や配慮で選んでくれた訳だしな。

 部屋数の問題で宿泊場所は男女別にした、ということで相棒達と一旦分かれて荷物を運び入れ、馬車を外に繋いで馬達は開けた場所に放牧。

 やや狭いながらも寝所は個室に分けられているので、パパっと部屋割りなんかを決めていると意識を取り戻したらしい伯母上殿がやってきた、という訳だ。


 供に付いて来た者達をログハウスの入口に待たせ、一人屋内に招かれた彼女は、今この建物内にいる全員――使者として来た七人の内、女衆四人が中央の大部屋に集まると、まずは丁寧な謝罪を以て口火を切った。

 それが冒頭のやり取りという訳である。腰の低さといい、真摯な態度といい、あの若作り婆と引き連れた子分共とは別物すぎて同じエルフだとは信じがたいな。


 下げていた頭を上げた彼女――サルビアはオレ達の顔を見回して言葉の通り、気にしている者はいない事を確認すると、安堵した様子で息をついた。


「愛し子殿……いえ、聖女殿の慈悲に感謝を。改めて名乗らせて頂きます、エルフ達の間で開明派と呼ばれる集団のまとめ役をしております、サルビア=エルダです。急な嘆願に応じて頂いたばかりか、長老衆の非礼の数々、なんとお詫びしてよいものか……」

「私としては爺婆の老害っぷりなぞ見慣れたものだ。それより伯母上の変わり様の方が余程衝撃的なんだが……」


 シグジリアがボソリと呟いた言葉をサルビアが拾い、姪御と伯母殿は改めて目線を合わせて再会の言葉を伝え合う。


「……本当に久しぶりですねシグジリア。貴女が伴侶を得て再び我らの前に姿をみせてくれたのは望外の喜びです……立派になりましたね」

「あぁ、うん。ありがとう……正直、こうして話してる今でも『誰だお前』って感じが止まらないが……」


 聞いていた話だと、自身の伯母には決して良い印象を持っている訳ではなかったシグジリアだが、経緯は知らずとも保守派のエルフ然としていた肉親が大きく変わった事自体は、喜ばしいらしい。

 困惑も大きいみたいだけど、面映ゆそうに頬を緩めながら再開の挨拶を交わしていた。


「あの……ところでサルビアさん?」

「はい? なんでしょうか銀の聖女殿」


 おずおずと言った様子で切り出したアリアの言葉に、首を傾げる開明派の長殿だが、(おとうと)から放たれた疑問の言葉はオレもさっきから地味に気になっている内容であった。


「その、服がさっきの吐血で凄い血糊が付いたままだけど……良かったらボクが浄化魔法を掛けましょうか?」

「……? あぁ! も、申し訳ありません。見苦しい姿をお見せしました……!」


 そう。彼女は先程の服装のまま、襟から胸元にかけて赤斑の染みが点々と広がったままの姿である。

 最初は不思議そうに首を傾げていたが、指摘されてやっと気付いたみたいで、サルビアは恥じらいに頬を染めながら自身で浄化魔法を発動させ、あっという間に血の染みを消し去った。エルフのお偉いさんというだけあって中々に手際の良い魔法行使だ。


「恥ずかしながら普段はどうせまた吐血するし、このままでも良いか。と放置してしまうこともしばしばありまして……客人を前にしてそのままにしてよい格好ではありませんでしたね」

「伯母上ェ……!」


 照れた様にちょっと笑いながら言うあんまりなその言葉に、目頭が熱くなったのかシグジリアが目元を押さえながら俯いていた。


(どうしましょうレティシア。保守派の連中は正直今でも斬って捨てたいけれど、この人はちょっと嫌いになれないわ)

(……同感だ。トニーじゃないけど、不憫過ぎて悪感情が湧きづらい)


 ヒソヒソと、ミヤコと小声でやり取りする。

 森の入口で彼女の身体に魔力を走らせて診た結果、病巣や疾患の類は見受けられなかった。

 にも拘わらず頻繁に吐血しているということは、先程の症状と同じくストレスや心因性によるものである可能性が高い。

 先程の浄化の手際からして、本人も相当な回復や補助の魔法の使い手なのだろう。

 意識を失うようなレベルでない限り、自分でさっさと癒してしまっているから大事にはなっていない様だが……本来ならベッドに叩き込まれて当分の間はストレスフリーの環境で安静にしていなければいけないと思う。


 ……ストラグル枢機卿や《亡霊》みたいな苦労人枠か。エルフにもいるんだな……。

 オレ達の生暖かさを伴った視線に気付いたのか、バツの悪さと羞恥を半々にした表情でサルビアはぱたぱたと顔の前で手を振った。


「あ、いえ、ここ最近の話ですよ? 前からちょっとお腹痛いなーとか思うときはありましたが、血が口からでたりお花を摘むときになんか赤いなーとか思う様になったのは、長老衆が例の書状を皆様の国元に送り付けたと知って以降なので、それほど長期間という訳では……」


 ――もういい……休め……っ! 休めっ……!!


 何故かこの場にいない相棒の声で幻聴が聞こえた気がした。

 シグジリアの話では、目の前の彼女はあの長老やその同輩達と似たり寄ったりの言動と思考だったという話だが、一体何があったらここまで変わるんだろうな。正直、滅茶苦茶気になるぞ。


「……サルビア殿は現在のまとめ役というだけではなく、長らく保守派のみだったエルフ達の間で開明派を立ち上げた当人だとお伺いしましたが……差し支えなければ経緯などをお伺いしても?」


 おぉ、ナイスだミヤコ。

 全員が気になって仕方なかった事を、さり気ない形で質問にしてのけた友人に内心で喝采を送る。

 今回の主題である界樹については、相棒達がこちらにやってきて全員揃ってから話すべきだろうし、待つ間の時間を潰す話題としては丁度良い。


 この場に居る皆――特にシグジリアの興味津々といった視線に晒されて、サルビアは困惑しながらも頷いてくれた。


「え、えぇ。我が事ながら、少々お恥ずかしい話でもあるのですが……それでも宜しいのであれば……」


 言葉の通り、何処か恥ずかし気な様子を見せながら咳払い一つすると、彼女は居住まいを正して語りだした。







 ――数十年前、大戦真っ只中であった……界樹が信奉者達によって穢されておらず、エルフが僅かではあるが外界と関りを保っていた時代――とは言っても、長命種にとってはそう昔の話でも無いんだろうが。

 各国の要請を受け、大森林の周辺や近辺の都市を主としてエルフの戦士達が派遣され、次世代の長老衆の一人として育てられていたサルビアはその戦士団を纏める立場として戦線に加わっていたんだそうだ。

 今でこそ言える話だが、当時のサルビアは聖地から出奔したばかりのシグジリアを、可能なら発見・連れ戻す役目も担っていたらしい。

 長らく女神の強い加護を受けた存在が現れず、そこに産まれたとびっきりの転生者(加護持ち)

 外界などに触れさせず、囲っておきたいというのが長老連中の意向だったそうだが……当のシグジリアは、エルフ達が既に当時からあまり良い目で見ていなかった魔族達の勢力圏にまで移動していたらしいので、そんな場所まで手を伸ばすつもりが全くなかったエルフにはどうやっても見つけるのは不可能だったみたいだな。

 だが、それはあくまで副次的な話。

 あくまで、邪神の軍勢と矛を交える為、ひいては大森林と界樹に近づけさせない為の防衛線を保つのが彼女たちの目的だった。


 種族的な平均値、という視点でみれば他種族より魔力に秀で、生まれながらに聖気を宿したエルフ達は、少ない戦線の中ではあるものの、大きな役割を担い、活躍していたそうだ。

 サルビア自身もその戦果を当然のものと認識していたし、優れた始原の民たるエルフが外界の哀れな他種族に慈悲の手を差し出してやるのも、まぁ悪くない事だ、なんて思っていたらしい。


「故郷を、民を護る為に生命すら投げ捨てて戦う。そこに種族の違いや貴賤など無いにも関わらず、愚かにも私は『女神の寵愛篤きエルフが、大した魔力も聖性も持たぬ劣った種族に慈悲と寛容、威を示してやろう』などと思っていたのです……」


 当時、というか嘗ての自分は冗談抜きの黒歴史扱いらしい。

 独白するサルビアの顔は、羞恥心を通り越して暗澹とした面持ちですらあった。

 シグジリアが、「うん、前の伯母上だな」と納得したように首肯している事からみても、長老衆のコピーロボット扱いも的を射た評価だったみたいだ。今の彼女の様子からはマジで想像つかないけどな。


 そんな彼女の価値観にヒビが入ったのは、順調に戦線を維持し、僅かながら押し上げてすらいたとある戦場での事だ。


 邪神の上位眷属が顕現した。


 信奉者達を贄として現界したソイツは、何体かの下位の眷属を引き連れて戦場を蹂躙して回ったらしい。

 初めて相対する、邪神の性質と力を色濃く宿した最悪の呪と暴威の塊に、戦場においてすら『エルフの中でも指折りの力を持つ己が不覚をとる筈も無し』と妄信を抱いていたサルビアの精神に亀裂が走った。

 多くの信奉者を薙ぎ払ってきた己の魔法が、大した痛痒にもなっていない。

 持って生まれた優れた聖性をして、かろうじて精神の均衡を保つのがやっとの、存在するだけで無作為にばら撒かれる呪詛汚染。

 既に何度か打倒していた下位眷属も、上位眷属相手に防戦が精一杯の自分では相手にする余裕が無く、ともに戦場に立っていたエルフ達が次々と犠牲になってゆく。


 背に、足元に。敗北と――魂さえ呪詛に侵され尽くした末に訪れる最悪の死の予感が、恐怖となって這い寄り、心と身体を鷲掴みにし、その場に縛り付ける。


 その戦場において最も優れた聖気によって護られている身でありながら。

 膝を折り、悲鳴を上げて幼子の様に身を丸めてしまいそうになった彼女を救ったのは――彼女が劣っていると見なしていた他種族の戦士達であった。

 有効打を与える為の魔力も、邪神の呪より身を護る聖性も。

 上位眷属と戦う術がエルフ達より圧倒的に不足している筈の彼らは、呪詛を受けて助からぬ者が出ることすら前提にした戦法・戦術を以て、文字通り死にもの狂いで邪神の眷属達に喰らいつく。

 既に全身を汚染され、手遅れとなった剣士が身体中の穴という穴から赤黒い血をまき散らしながらも、雄叫びをあげて眷属へと突撃、剣を叩きつけ。

 一矢報いることすら出来ずに全身を触腕によって串刺しにされ――剣士は己を串刺しにした触手を抑え込み、そこに躊躇なく彼ごと巻き込む最大火力の魔法が叩きこまれる。

 右腕を付け根から捥がれ、腹に空いた風穴から飛び出る腸を押さえた魔導士が、死相に決死の表情を浮かべ、魔力暴走(オーバーロード)を起こした状態で息絶える瞬間まで魔法を連発し続けていた。

 魔法行使に反応した眷属が後衛の魔導士達を薙ぎ払おうとするのに対し、大盾を構えた壁役の者達が立ち塞がり、一撃で盾を粉砕され、腕を潰されながらも詠唱までの数秒を稼ぎ。

 それでも尚、足りない時間を弓兵達が矢を打ち込むことで補填し、視線を向けられた弓使いが放たれた触手で頭部を抉られ、物言わぬ躯に変わる。


 酸鼻極まる、地獄の様な光景だ。

 だというのに、其処で戦う他種族の戦士達の瞳に絶望など無く。

 ただひたすらに、か細い希望(しょうり)の光を手繰り寄せようと、全てを賭けて邪神の眷属へと挑み掛かる。


 その姿に。己の死すら厭わずに、背にした街を、故郷を、人々を護ろうとする、燃え上がる意思の炎を宿した瞳に。


 サルビアは呑まれた。

 その炎(意思)の放つ熱に、恐れに凍り付いていた精神(こころ)を炙られたが如く、震える手足を叱咤し、未だ纏わりつく恐怖を振り払いながら立ち上がる。

 これまでは同族にのみ行使していた、聖性による補助魔法をその場にいた全ての戦士達へとばら撒き、負傷や呪詛汚染を負っても助かる可能性のある者には回復魔法を飛ばす。

 何かを言葉にする事がなくとも、彼女が味方内で最大の魔力の持ち主であると察した人類側の者達は、サルビアが最大限に力を奮える様に陣形を整えつつ、攻勢に転じる為の機会を探り続けた。

 何時しか彼女だけではない、戦場にいた全てのエルフ達が他種族の戦士達と肩を並べ、手を貸し合い、眼前の圧倒的な暴威に抗うべく意思を一つにして。


 ――そうして、犠牲を積み上げ、か細い望みを繋げ続けた果てに。




『――死地において屈することなく、よくぞ耐えられた! 皆々様の勇威と戦武が確かな希望を繋げた事、我が身を以て示しましょうぞ!!』




 待ち望んだ希望はやってきたのだ。







「……凄まじい戦いでした。その御方が邪神の眷属達の苛烈な攻めをものともせず、拳一つで立ち向かう雄姿は今でも目に焼き付いています」


 後半からはなるべく感情を挟まないように、努めて冷静に語っていたらしいサルビアの表情に、微かな色が灯る。


「あの圧倒的な剛力もさることながら、丹念に、丁寧に磨き上げ、鍛えられたであろう聖気――あれ程に真摯に己の聖性と向かい合い、練磨された方を、私は他に知り得ません」


 色付いた感情のままに溜息を洩らしたサルビアの表情を見て、シグジリアが「お、伯母上が雌の顔をしている……」と、戦慄したように呟いていた。

 最後の最後でちょっとした恋バナみたいな空気になったのは、オレ達も気になるところだ。特に瞳を輝かせて聞き入っていたアリアが、身を乗り出して彼女に問いかける。


「それで、その助けに入った人とはそれからどうなったんですか? 上位眷属を倒せるってことは、間違いなく何処かの国の最精鋭だと思うんだけどなぁ」

「……御名前すら聞けませんでした……暫く同じ戦場に留まるとの事でしたので、後日御礼に伺おうと思っていたのですが……予定が合わなくて……」


 ずぅん、と沈み込んでいきそうな重い口調で、ぼそぼそと質問に答えるサルビア。その恩人とやらの名前すら聞けなかった事は、彼女の中で痛恨の記憶として焼き付いているらしい。

 彼女にどれだけ自覚があるのかは分からないが、明らかに()()()()()感情が見て取れるしな。こんな事を言うのは残酷だが、その人が大戦を終えた今も生き残っているのかも分からないし……。

 命の恩人で、己の蒙を開く切欠にもなった人で――多分だけど、初恋の人。

 そんな相手の名すら分からないっていうのは、確かにしんどい話だろう。


「それから季節が幾つか過ぎた頃、邪神の軍勢による界樹の汚染が起こり、長老衆の厳命により我らは聖地へと戻ることになりました」


 気持ちを切り替えたのか、サルビアが思い切り俯いていた顔を上げたときには、最初に顔合わせをしたときのような強い意志を宿した光が再び眼に灯っていた。


「『これだから外界の種族など野蛮で愚かで救えぬ』そう、断じて界樹の穢れを払う事のみに執心する長老達や、それに賛同する者達をみて、私は酷い違和感を覚えたのです」


 大部屋の窓から覗く外の景色へと目を遣る彼女の視線は、森の中ではなく更にその先にある外界か――或いは、彼女にとっての分岐点(ターニングポイント)となった、嘗ての戦場へと思いを馳せているのだろうか。


「あのとき、あの場所で共に戦った者達は、間違いなく私達にとっての戦友でした……種族が違う、魔力や聖気の大小、それのみで優劣を語り、見下げる。それはあのとき恐怖に凍り付いていた私を立ち上がらせた、あの意思(ほのお)を否定することになる――それが、どうしても納得できなかった」


 少しだけ過去へと意識を飛ばしたらしきサルビアは、なんだか初めて見るちょっとドロっとした感じの色で眼光を上書きして、低い声で付け足す。


「そもそも、それを言うならば生まれ持った素質に胡坐を掻いて鍛錬を重要視しない聖地のエルフこそ怠惰・怠慢たる愚かな種族です……知りもしない癖にあの御方を侮辱しやがってあの老害どもがぁ……!」


 ……怖っ。

 最後に呟かれた、やたら低くてドスの利いた声にオレ達が少し引いていると、彼女はハッと気づいた様に表情を改め、咳払い一つして語りの〆を終えた。


「オホン。そのような事がありまして、私は新たに郷の中で派閥を作るに至ったのです……幸いにして、私が居た戦場以外でも、多くの同胞達が近い結論に至ったようで。現在ではそれなりの数を開明派として迎え入れる事になっています」


 オ~ッ。と。オレ達全員の口から感嘆混じりの吐息が漏れる。

 うん、聞いて良かったな。まさに人に歴史ありってやつだ。


 こうして話を聞いてしまうと、現金な話ではあるが開明派に協力してやりたくなってしまう。

 ひょっとしたら、その辺りも考えてサルビアも敢えて詳しく過去を語ったのかもしれないけど。

 それだって、オレたちに理解してもらいたい、味方になってもらいたいという、此方を対等以上と見なしてるが故の『交渉』の一貫ってやつだ。

 もう片方の論外っぷりと比べると、どうしたって好印象になる。


「……良い話を聞けました。ありがとうございますサルビア殿――帝国としての今後の協力体制は、まだ確約出来ませんが……私個人としては開明派の皆さんに助力する事に異はありません」


 事実、その通りなんだろう。話を聞き終えたミヤコの表情は、心なしか柔らかい。


「そうだね、今後のエルフの事を考えるなら、サルビアさんに協力した方が良いんじゃないかなって、ボクも思えたよ」

「……私としては、旦那を除けばまともに会話できるようになったほぼ唯一の『身内』だからな。やってる事がまともな以上、特に否は無いさ」


 笑顔でミヤコに相槌を打つアリアと、縁切りした筈の血縁を再び身内と公言する事が気恥ずかしいのか、そっぽを向いて肯定の意思だけは示すシグジリア。

 勿論、オレにも否は無い。結果がどうなるにしろ、最悪、開明派のエルフ達だけは助かる様に立ち回っても良いと思えるくらいには。


 全員が揃った状況では無いとはいえ、皆から好意的な反応があったことが余程嬉しかったのか、サルビアが心底安堵した、といった様子で一息ついた――撫で下ろしてるのが胸じゃなくて腹……胃の辺りなのがまた涙を誘う。


「さて、取り敢えずオレ達は協力しても良い。という感じで意見が纏まったけど、男性陣にも意見を聞かないとな――こっちに合流してくる様に言っておいたんだけど……遅いな?」

「……確かにそうですね、我らが用意した宿泊所は、此処と近所にある場所の二つです。そう時間は掛からない筈なのですが……」


 オレの言葉にサルビアが答え、二人で軽く小首を傾げていると。

 ログハウスの玄関扉がノックされ、アリアがどうぞー、と声を上げると木造りの分厚い扉を押し開けて入って来たのは――相棒達ではなく、入口で警備員の如く控えていたエルフの一人だった。


「御歓談中、失礼致します――男性の使者の方々に用意した住居で、何かあったようです」

「――! 何か、とは? 皆さんは無事なのですか?」


 瞬時に引き締まった表情となったサルビアに、部下の青年は少し困惑した様子で詳細を告げる。


「その、こちらに後ほど合流するというお話でしたので、荷解き等に時間が掛かっているのであればお手伝いしようかと、人を向かわせたのですが……我らの確保していた建物自体が無人で、人が立ち入った形跡自体がなかったそうで」


 おい。

 どういうことだそりゃ。

 話が不穏になって来たのを感じたオレ達は、揃って腰を浮かす。


「そんな馬鹿な事が……! 歩いて二分と掛からぬ距離ですよ、そんっ――!」


 声を荒げかけたサルビアが、ふと気づいた様に沈黙し、数秒経って再び部下へと疑問の声を投げかける。


「……彼らを案内していた者達は、少し前にこちらの派閥へと移った者達でしたね?」

「は、はい。エルダ氏族以外の長老衆の血縁という事ですが、そもそも血筋で派閥入りを拒むのも我らの理念に反するということで……っ、まさか……!?」

「確実ではないですが、可能性はあります――皆さん」


 そこまで聞けば十分だった。

 サルビアがオレ達に声を掛けるより早く、立ち上がるとズカズカと大部屋を横切り、ログハウスのテラス部分に出る。

 近場に三人の魔力は感知出来ない。時間的にそう遠くに移動した訳ではないだろうから、隠蔽の魔法でも使っているのか。


 ――舐められたモンだな、オイ。あっさり引いたように見せかけて、しつこく相棒や《虎嵐》を排除しようとでもしてたのか。


 ぶっちゃけて言ってしまえば、エルフ達にあの三人をどうこう出来るとは思っていない。

《虎嵐》もトニーも、例え大勢に囲まれても逃げるくらいなら余裕でやってのけるだろうし、相棒に至っては、自重をやめれば襲ってきたエルフ達を一人残らず返り討ちにすることだって容易だろう。


 再び煮え滾って来た怒りを押さえつけながら、今度は怒りに流されずに冷静に思考する様に努める。

 だからといって、こうまで舐め腐った態度を取られてまで、紳士的に対応してやる義理は此方にはない。


「……サルビアに感謝しろよ、保守派(お花畑)共」


 協力しよう、と言ったばかりだしな。

 今は殺すのだけは勘弁してやる――後になっても学習できないようなら、その限りでは無いが。


 そうして、オレは普段は押さえつけている魔力を、本気も本気で全開にした。


 自分を中心に、爆風が発生する。

 丸太作りのテラスが軋み、悲鳴を上げ。

 飾られていたテーブルや椅子は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて廃材へと変わった。

 突風が収まった後も、魔力の過剰放出によって起きる物理現象は止まず、周囲の建物や樹々を薙ぎ倒しかねない圧を放射しながら、オレはその場に佇んでいた。


「――ッ、これ、が、金色の聖女……世で最も神の加護厚き、女神の愛し子……ッ」


 オレを追ってテラスに出て来たサルビアが、呆けた様に呟いてペタンと床に座り込む。

 初見はこういった反応も珍しくは無いけど……やっぱり何度見ても大袈裟だよな。

 だって、本気になれば似たような事になる奴が、オレの家族にいる。

 苦笑いしながら、その家族――アリアに声を掛けた。


「悪いな、アリア。今回はオレが行くから、我慢してくれ」

「……まぁ、いいよ。その代わり、帰ったらにぃちゃんとボクでお出かけ一回ね」

「ホント抜け目無いよなお前」


 不満を我慢してます、といった表情で頬を膨らませている(おとうと)のちゃっかりした要求に、苦笑が深くなった。


「――レティシア、先輩達の居場所は分かるの?」

「あぁ、オレになら分かる」


 一応、下手な魔獣くらいなら失神するレベルの魔力を放出している程度の自覚はあるのだが、平然とミヤコはオレの側に並び立ち、相棒達の現在地を訪ねて来た。


「……隠蔽魔法を突破してどうやって探知しているのか、今は聞かないでおいてあげる――詳細な位置は?」


 アイツの魂を治療する際にかけた『枷』に関して、薄々は気付いているのであろうミヤコだが、一旦はそれを棚上げしてやる、と言ってくれた。

 状況も手伝っての判断だろうが……悪いな、貸し一つってことにしておいてくれよ。

 オレは、相棒へと施した『枷』を逆探知する形で、魔法によって隠蔽されたその位置を割り出す。

 元より、こういった時の為の『枷』だ。それこそ邪神の手による閉鎖空間越しであっても、その場所を正確に割り出すことを可能にする為に、アリアと二人がかりで作り上げたモノ。


 ――今度こそ、二度と失くさない為に。


 その為だけに持てる魔力も、技術も、ちょっとアレな手段もなりふり構わず注ぎ込んだ代物だ。隠蔽魔法程度、突破は造作も無かった。


「距離300、北西。高低差は無し」

「そう、北西に300ね」


 ミヤコは軽く頷くと、その場で腰を落とし――静かに抜刀の構えを取った。


「進路上は民家から離れ、人の気配は無し――丁度良いわ、280まで()()()を作るから、真っ直ぐに進みなさい」


 言うや否や、その構えた湾刀の鞘内で暴風の如き魔力が圧縮され、数秒と掛けずに刀身に馴染み、一体化した。

 抜き打ちの居合は、オレの眼には映らない。

 しゃりんと、涼やかな音だけが響き渡り、いつの間にかミヤコの手の中には振り切られた形で剣が握られている。

 流れる様な動作を以て、静かに納刀が為され――一連の動作の結果は、すぐに訪れた。


 ボコッと、軽い音を立てて、北西に向けてテラスの手すりが斬り落とされ、地に転がる。

 そのあとは轟音響くドミノ倒しだ。


 相棒の現在地とオレを一直線に結ぶ様に、立ち並んでいた樹々が次々と両断されて順々に倒れ込んでゆく。

 前世で日本に居た頃、林業の伐採作業とかでこんな感じの動画を見た事があるな。スケールが100倍くらい違うけど。

 幅数メートル程の範囲にある、大森林の大木が横一文字に全て切り倒され、居住地からやや離れた森の奥へと一直線に道が出来た。


 オレはミヤコに一つ頷きを返すと飛行魔法を発動させ、宙に浮かび上がる。


 これだけド派手な大伐採をしたんだ、音に釣られて多くのエルフ達が事の次第を見に来るだろう。

 だからこそ、ミヤコが言う様に丁度良い。

 エルフ達に――取り分け、保守派の連中に。自分達がどんな相手を顎で使おうとしているのか、最も優れている、なんて思いこんでる自分達の立ち位置が本来は何処にあるのかを、叩き込む。


 最初に言った様に殺しはしない――だが、御自慢の無数に伸びた鼻は何本か()()()()()()()


 シグジリアに肩を貸されてなんとか立ち上がったサルビアに、オレは空中からとびっきりの笑顔を向けて。

 それを見た彼女が何故か顔を引き攣らせ、何かを言う前に。


「待っ――」

「ちょっとアイツを迎えに行ってくる!」


 最大出力で飛行魔法を展開させ、テラスから矢のように一直線に飛び出した。









◆◆◆




 いやぁ、参ったね。オツムもやべーが、それを起点にした行動力もやべー連中だったとは。

 エルフの郷の中でも、外れにあるクッソボロい廃墟みたいな小屋の中。

 俺と《虎嵐》、トニーは額を突き合わせ、どうしたもんかと其々に頭を捻っていた。


「だから言ったじゃないッスか、案内役の奴ら、なんか怪しいって」

「……だが、保守派を刺激しない為と説明されてしまえば、敵視されている原因である我らに選択肢は無い」


 だよねー、ちょうど男女に分けられた形だったから、トニー君はご愁傷様って感じになったけど。


「完璧自分巻き添えじゃないッスかヤダー!」


 男女に分けられているという宿泊施設へと案内される事、数分。

 明らかに郷の端っこへと移動する案内役にトニーが強い違和感を主張したものの、保守派を刺激しない為であると申し訳なさそうに言う案内役の少年エルフ達に、子供に甘いらしい《虎嵐》が折れる形で付いてゆく事に決め、そのままなし崩しでって感じだ。

 待っていたのは、武装した敵意――というか拒絶感バリバリの保守派らしきエルフの集団と、とっくに棄てられて廃屋と化しているボロ屋。

 武器を突き付けられ、とっとと入れと言わんばかりに背を突かれてボロ小屋に放り込まれると、壁の穴から見える限り、お代わりで人員がやってきてここを取り囲んでいるようで。

 案内役であった少年達が、最後まで申し訳なさそうにしてたのはせめてもの救いかもね。手の平返して唾でも吐かれたら《虎嵐》のメンタルダメージが地味に酷いことになりそうだったし。


 おうおう、小屋自体にも隠蔽系の魔法が掛けられているみたいだし、ガチで排除しに来てる感があるね、こりゃ。

 もう一回、いやー参った。と呟いて笑う俺に、トニーが半眼で文句を垂れる。もとから閉じてるように見える目付きをわざわざ開けて半眼にするとはこれ如何に。


「放っといて下さいよ。それより、どうするンスか? これ、下手したらそのまま小屋に火矢でも撃ち込まれそうな空気ッスけど」

「……聖地のエルフが食の煮炊き以外で火を扱うことは稀……基本、忌避される行為であると、聞いた」


 嫁さん情報か。それならこのまま焼き討ち掛けられてこんがり肉になるのは避けられそうだわな。


「……そもそも、待ち伏せされてた時点で悪意があるのは明らかだったし、なんで応戦しなかったンスか? ぶっちゃけ鎮圧は大して難しくも無いし」


 まぁ、あの場で全員を畳んでこの廃屋に寿司詰めパック580円にしてやってもよかったんだけどね。

 こうして要求を呑んで、待っていれば指示した奴が釣れるんじゃないかなーとか思ったのよ。こなけりゃ来ないでさっさと外の連中張り倒してシア達の処に戻れば良いし。

 最初の接触での、長老の言動とウチの女性陣達のキレっぷりを見たやろ? またあんなことになる前に、連中が俺達にちょっかいかけてくるならそれを期に逆に《《お掃除》》しておくのもアリかなーって。

 勿論、流石に殺すつもりは無い。相当ヤベー言動の集団ではあるが、シアやリア、隊長ちゃんに対しては女神様の加護厚い存在として、最低限の礼儀は以て接してるしね。

 ただ、ちょっと数日、ベッドから起き上がれないようにしてやるだけだ。なんなら顔に恥ずかしい落書きでもしてやるのも良い。油性で。

 まぁマッキーなんて持ってないけどな! と胸を張る俺であるが、元の世界のネタを絡めた冗談は意味が通じなかったのか、スルーされた。


「……遥か格下と見做す三人に、大勢が打ち倒されたとは公言し難い、か……」

「殺してないってだけで、結構エグい手ッスね。お鼻が霊峰みたいになってる連中には良く効きそうなのは確かだけど」


 せやろ? そうそう長くウチの女性陣達を誤魔化せる筈も無いし、そろそろ向こうからリアクションがあると思うんだけどなぁ。

 苔むした椅子やら机の残骸やらに腰掛けたまま、特に緊張感を持つこともなく。

 ダラダラと旅の最中と変わらん感じのテンションでくっちゃべること数分――外を見張る者達に動きがあった。


 更なる追加の人員を引き連れてやって来たのは、先程森の入口でシアと隊長ちゃんに気付かぬままに殺されかけていたコニファとその御供である。

 あちゃー……なんか俺がシアに呪いをかけたーとか言ってたし、穢れ者ゆるすまじーみたいな感じで来ちゃった感じかな……あんだけの美人をぶっ飛ばしたあとに恥ずかし固め掛けるとか考えると心がぴょ……痛むなぁ!


「すげーイイ笑顔じゃないスか旦那。恥ずかし固めとか隊長に報告せざるを得ない」

「……あの様な者でも妻の血縁だ。辱めるのは感心しない……」


 おいやめろ、ゴミを見る様な目付きはやめろ下さい。冗談に決まってるだルルォ!

 さっきからコニファが「穢れ者共よ、小屋ごと火を掛けられたくなければ頭を垂れ、出てくるがよい」とか呼びかけてるのが聞こえるが、普通に無視して馬鹿話を続ける俺ら。

 最初は怯えて出てこないとでも思ったのか、閉所に逃げ込んだネズミかゴキブリでも見る様な視線で小屋を眺めていた長老様ではあるが、俺達が持っていた荷物から干し肉を取り出してくっちゃくっちゃ頬張りながら壁の穴から彼女達を眺めているのがバレたのか、凄い勢いで穴に矢が飛び込んで来た。


 カリカリしてんなぁ、小魚食えよ(煽り


「……肉を喰うのが気に障ったのだろうか? ……乾し葡萄にするか……」

「自分は干し肉食ってたから、いい加減酒が欲しいっスねぇ……お茶しか無いけど」


 壁に矢がぶっ刺さりまくる音が連続するが、それには頓着せず、ごそごそと荷物を漁る《虎嵐》とトニー君。君らも大概いい根性してると思うんだ。


「で、どうするんスか旦那? いい加減、あちらさんも痺れを切らして矢じゃなくて魔法ぶっぱなして来そうッスけど……あ、意外と合うなコレ」


 水筒を取り出して中身を啜るトニー君が、薬草茶と干し肉がマリアージュしたことに気付いてちょっと嬉しそうにしてる。やっぱり健康マニアかな?

 でっかい掌に小粒の乾した葡萄を載せ、無言で摘まんでいる《虎嵐》も、視線のみでそろそろ出た方が良いんじゃないかと訴えかけてくる。

 そうだなぁ……いっそ俺が鎧ちゃんを完全起動させて地面を掘り抜くから、そこから外に脱出して、連中があったまって小屋をぶっ壊すのを背後から眺めてみようか? 終わったら声かけてあげよう(親切心


「よくもまぁ、そう相手を煽る為の手段をぽんぽん思いつくもんッスねぇ……おっかない部分も含めてマジでタチわりぃッスよ旦那」

「ふむ……だが、幼き頃、友と悪戯を繰り返した時期を思い出す……悪い気は、しない」

「マジっすか。意外とヤンチャだったんスね《虎嵐》サン」


 薬草と葡萄の香りが廃屋に漂う中、いよいよ以て外の連中のボルテージが上がって来たので、先に上げた手段を実行することにする。

 とりあず、鎧ちゃんを完全起動させようとして――離れた場所で凄まじい魔力の放射が始まったのを感じて、全員が硬直した。


 俺達だけではなく、廃屋を囲むエルフ達もだ。彼らの種族で間違いなく最高の魔力を有するであろう二人――コニファやサルビアであっても比較対象にすらならない、圧倒的な大瀑布の如き聖性を宿した魔力。

 あー……ちょっと引き延ばし過ぎたかぁ……。

 考えるまでもない。ウチの聖女様がお怒りである。


「うへぇ……戦場では何度か見た事があるッスけど、レティシア様、本気ッスね。こりゃ今回のエルフとの交渉は物別れで終わるかも」


 シアの自重無しの本気を見た事があるらしきトニーが、怖い怖い、と呟きながら肩を竦め、《虎嵐》が無意識に逆立った二の腕のモフモフ虎毛を撫でながら「凄まじいな……」と零す。

 あいつがこうまでガチになった以上、俺達に出来る事は無い……精々が、保守派に死人が出ないように祈ってやる程度だ。正直、大して熱心に祈る気もしないが。


 轟音が響き渡り、森の一角にある樹々が将棋倒しみたいに次々とぶっ倒れる。

 ありゃぁ、シアの魔法じゃないな。高密度の魔力で範囲を延長された飛ぶ斬撃――この場で出来そうなのは隊長ちゃんしか思い当たらない。


「ちょぉぉおい、何やってんスか隊長ぉぉぉぉぉっ!?」

「見事な絶技……!」


 突っ込み混じりの悲鳴を上げるのが一名、技を称えて感心するのが一名。


 そして、伐採された大量の樹々の道を辿る様、真っ直ぐに。


 圧倒的な魔力を惜しげもなく放出しながら、我らが聖女様は一直線に廃屋に向かって飛翔してきた。

 この場所は保守派によって魔法で隠蔽されてる筈なんだが、その空色の瞳は迷うことなくこの場所を――否、俺を見据えていて。

 壁穴ごしに、どんどんと近づいてくるその姿を見つめる俺とシアの視線が交わり、聖女様はその超美人なかんばせの片頬を持ち上げ、漢前にニヤリと笑ってみせる。

 ――っておい、減速しねーのかいっ、そのまま飛び込んでくるつもりかアイツ!?


 慌てて《流天》を発動させて構えを取り、ジャスト一秒後。


 彗星の如く魔力の尾を牽きながら、シアは俺達が遊び半分で籠城していた廃屋に向け、飛び込んだ。

 半分倒壊しているようなモンだったボロ小屋だ。

 障壁を張って砲弾と化した人間の激突を受け止められる筈も無く、派手な着弾音と粉砕された木片をまき散らし、廃屋は爆散する。トニー君の悲鳴が聞こえた気がした。

 もうもうと上がる土埃と、舞い上がる粉塵にかび臭い家屋の匂い。

 ひでぇ状況に咳き込みそうになりながら、俺は腕の中に飛び込んで来た聖女様を睨みつける。


「よう、迎えに来たぞ」


 飛行魔法で突撃してきたシアは、《流天》で勢いを捌いてそのままお姫様抱っこに移行された態勢のまま、妙に満足気に笑ってアホな事を言ってのけた。

 両手はこの聖女様を抱き上げているので、塞がっている。

 なので俺は、そぉい! と掛け声一発、シアの脳天に頭突きを叩き込んだ。


「痛ってーな! なにすんだよ!?」


 それはこっちのセリフぅ! 助け――が要る状況でも無かったが、心配して来てくれたのは分かる。だが小屋を吹き飛ばす必要が何処にあった!? 言え! 家だけに! 

 見ろ、トニー君とかあそこで犬神家になってるじゃねーか!

 同じく、埃塗れになった《虎嵐》が半分埋まったトニーを引っ張り出してる様を見て、シアはバツが悪そうに目を逸らす。


「ちょ、ちょっと加減を間違えただけだし。ついテンションに任せてお前に向かってダイブしたくなったりしてないし」


 ほーぅ、そうか……俺の眼を見てもう一回行ってみろオラァ!

 お姫様だっこというより、ホールドに近い状態へ再度移行。そのままシアを振り回し、ぐるんぐるんとその場で回ってやる。


「うぉぉぉぉ!? おいやめろ馬鹿! あぶねーだろ!」


 危なかったのは俺達じゃぁ! この人間砲弾聖女様が!


 周りの状況や視線もなんのその。

 全てをブッチしてギャーギャーと言い争いを続ける俺とシアに、やや気後れした様子ながらも声をかける存在があった。


「ま、待て、愛し子よ。如何に女神の加護厚き存在とはいえ、この様な暴挙は……」

「うるさい、邪魔だ」


 俺の腕の中で、声の主――コニファに振り向くことすらせず。

 シアは後方……保守派の連中が遠巻きに眺めている方向に向け、彼らを弾き飛ばすように魔力障壁を展開した。

 ただの障壁と言うなかれ。聖女様の全開の魔力と、それを完璧に制御する精度を以て最速で展開されたその発生速度は、音速を優に超える。

 邪神の上位眷属の攻撃だって正面から受け止める硬度の無音透明の壁が、音越えの速度で叩きつけられるんやぞ。


 俺や《虎嵐》を排斥しようと集っていた保守派のエルフ達は、シアの視界に入る事すら無く車●先生飛びで吹っ飛ぶ。セイ●トかな?

 こちらに近寄って来ていたコニファは一番酷かった。山なりではなく、縦回転でぎゅるんぎゅるん回りながらぶっ飛んで、隊長ちゃんの斬撃によって倒れ込んだ樹に叩きつけられ、めり込み、一瞬で昏倒する。


 アホやなぁ……シアの『本気』の姿を見た時点で、種族だの立場だの関係なく、本能レベルで格付けチェックは済んでいただろうに。聖性や魔力を重視するエルフなら猶更に。

 掘り返されたウチのトニー君の代わりとばかりに、地べたやら倒壊した樹木の間に埋まった犬神家の集団を眺め、ナンマンダブーと唱えておいた。誰も死んではいないみたいだけど、気分の問題だ。




「待ってぇぇぇ、お願いだがらま"っ"でえ"ぇ"ぇ"ぇ"っ"」




 二、三時間程前にも聞いた、切羽詰まった女性の声が伐採された直線コースの向こうから届き、俺達はそちらに眼を向ける。

 初遭遇の焼き直しよろしく、汗だくになりながら必死こいて走って来たのか、フラフラと頼りない足取りで現れたのは開明派の長――サルビアだった。

 酷く息を切らしたまま、彼女はバラバラに吹っ飛んだ廃屋痕を最初に見て唖然とし、次いで総員地面に半分埋まったオブジェと化した保守派の下半身をみて目を剥き、最後にパンツ丸出しで樹にめり込んでいる自分達の長老を見て顎が外れそうなくらいに口をかっ開いた。


「あ~……ちょっと勘違いさせちゃったかコレ」


 ちょっと後ろめたそうに独り言を洩らすシア。どういうつもりだったのか知らんが、ついさっき吐血した胃痛持ちの人の胃に更なる負担をかけるような事はやめたれよ。マジで。


「お、お待ちを聖女殿……! 長老たちの暴挙も、それを止められなかった我らの不手際も、心から謝罪いたします、ですから帰るのだけは――いえ、この際全面戦争だけはホント勘弁してください……!!」


 相変わらず魔力全開状態のままのシアにビビリ散らかしながらも、サルビアは必死の形相で俺に横抱きされたままのシアに向けて懇願する。

 友人の決まり悪そうな顔を見れば、なんとなく察しがついた。彼女を――開明派を見捨てるつもりなんてないのに、説明不足で勘違いさせちゃったやつやろこれ。

 なんかもう、その場で土下座すら始めそうなサルビアに、いたたまれなくなったのかシアは――。


 特に何かを言うでもなく、ただ極上の聖女スマイルを浮かべ、ぎゅっと一際強く、俺に抱き着いた。


 これ公の場とかでたまに見るやつぅ!

 名付けて『なんか説明が難しいし色々めんどくさくなったから取り敢えず笑っとけスマイル』!

 聖女様の美少女フェイスも手伝い、こうかはばつぐんだ! 今回は悪い方にな!


 笑顔とは本来、威嚇の表情である。

 サルビアがそれを知っている訳でもあるまいが、結果的には似たような意味で受け取った様だ。

 顔を真っ青にすると、また吐血するんじゃなかろうかと心配になる表情で、身も世もない絶叫を上げる。


「い、嫌ァァァァァッ!? 死にたくなーい! 処女のままでシニタクナァァァイ!! まだあの御方の名前だって知らないのにぃぃっ!!」


 立て続けに起こった轟音と、一直線に切り開かれた森。そして何より、膨大な魔力を垂れ流したままのシアの存在に。

 聖地に住まうエルフ達が遠巻きながらにこの場に集い始めている。

 そんな中、大量の犬神家の集団と、プライドの高いエルフとしては自殺モンの醜態を晒して失神する長老、同じく後で悶絶確定のカミングアウトを大声で絶叫して嘆き続ける開明派の長。


 大体全ての元凶と言える我が麗しの聖女様は、混沌とした状況のままでも、やっぱり笑顔のままであったが。

 流石にやべーと思ったのか、その頬に一筋の汗が伝ったのを俺は見逃さなかった。


 俺の事をトラブル誘因係みたいに言うけど、お前も大概やぞ。絶対。










サルビア=エルダ


エルフの胃痛枠担当。これで大方各国の苦労人は出揃った形になる。

現状だと、ぶっちぎりに胃への負担が大きいお労しい人。


エルフにとってそう長い月日ではないとはいえ、ウン十年前に一目だけみた命の恩人に仄かな想いを寄せている。

名前すら知らないという事実が熟成に拍車をかけた。今や淡い初恋というにはややネチョっとしてる情感が伴っている。


さるびあちゃんせんさい。しょじょ。





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[良い点] 処女は筋肉に恋してる
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