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人類種首脳会談(前編)




 教皇の宣言の後、口火を切ったのは赤髪の女性だった。


『ま、全員が全員、見知った顔だ。今更畏まった挨拶も無いだろうよ――それより』


 宙に映し出された映像へと顔が近づけられ、その視線は俺へと固定される。


『よぉ、久しぶりだね猟犬の! くたばったと聞いてたが本当に蘇ってくるとは……やっぱり面白い奴だねアンタは!』


 ……まぁ、事ここに至って変に緊張したり、鯱張ったりしても無意味、か。

 ニヤリと笑う女性に軽く会釈を返して、開き直りにも似た心境で今回の会談とやらに臨む事にした。

 それはそれとして悪戯爺のいらん茶目っ気については後で姉弟子に報告する。絶対にだ(決意


 彼女が前述した通り、魔道具によって映し出されたこの場の面子は全員顔見知りだ。其々、個々によって友好関係の差異や度合いはあるけどね。


 今も座った敷物から身を乗り出して笑う赤髪褐色肌の彼女の名は、ファーネス=マイン。

 俺達現代日本人の若い世代が、異世界と聞いてパっと思い浮かべる種族の一つ――ドワーフと呼ばれる長命種達を代表する人物だ。


 この世界におけるドワーフの特徴は、日本人が思い浮かべそうなフワっとしたイメージからそこまで乖離することは無い。

 種族として全体的に小柄で、男性は立派なお髭が自慢とされる。

 老若男女、無類の酒好き。手先が器用で鍛冶や細工物、工作全般を得意としていて。

特に鍛冶仕事に秀でている氏族は、代々人生の殆どを鍛冶場で過ごしてきた為か、高炉の熱に炙られた様な灼けた肌の色を持つ者達が多い。


 ファーネスの一族であるマイン氏族も、彼女の褐色肌から察せられる通り、武具に関連した鍛冶仕事を生業としている。

 ドワーフ自体がそれほど数の多い種族ではなく、其々の氏族ごとに様々な国で得意な産業に関わっている、という体なんだが……長年の戦争の御蔭で、需要の高い高品質の武具の生産に携わり、帝国や教国、魔族領といった強大な国力を有する国との太いパイプを維持してるマインの氏族が、ドワーフの代表となっている形だ。

 なので、正確には彼女は国家の首脳、という訳では無いのだが……ファーネスが一声あげれば様々な国の生産業に深く食い込んでいるドワーフ達が一斉にそっぽを向くも、逆に一丸となって協力するのも有り得る。

 下手な小国の王族なんぞより影響力があるのは確実だ。なので『種族』の首脳、人類種としての発言力という点においてこの場にいるのは当然と言えた。


 しかし、だ。

 声をあげれば影響力が云々、とは言ったものの――少なくとも俺の知りうる限りでは、ドワーフという種族は自分達の得意な仕事に関してひたすら没頭出来ていれば幸せ、という連中ばかりだ。

 使い潰す気満々の悪辣な職場でもない限り、勝手に環境を整えてガンガン物作りに励みだすので、ドワーフを最大限に働かせたいなら資金と資源だけ用意して、必要なとき以外は本人達に丸投げしておけ。なんていうのがこの世界での共通認識だったりする。


 そんな種族総員、職人という名の物作りキチみたいなドワーフが自分たちの代表と認める女傑だ。ファーネスに鍛えられた武具は、神器などの古の時代からの霊具を除けば最高峰の逸品であり、この場にいる何人かも彼女に制作を依頼した装備を愛用している。

 シアが杖代わりに魔法の発動体にしてる指輪や、隊長ちゃんの湾刀なんかもそうだ。翻って、俺は特に何かを作ってもらった、という事は無いのだが……。


『アンタがクソったれ共の首魁を仕留めたって聞いたときにゃ、アタイもらしくもなく胸をときめかせたもんだよ――なぁ、やっぱりアレかい? アンタの魔鎧(あいぼう)の力あってこそ、ってやつかい? あぁ、やっぱり一度じっくり見てみたいねぇ、呪物とは言っても邪神を討伐したとくればソイツはもう神器に匹敵する伝説の武具そのものだ、是非とも間近で見たい、駄目かい?』


 近い近い。画面に近い。もうぐいぐい来過ぎて彼女の居る場所を映す魔力の虚像には、顎下と小柄な体躯に反して大変ご立派である双丘しか映ってない。

 見えていないが、多分その眼は、欲しくてたまらないトランペットをショーウィンドウ越しに眺める少年の如き輝きを灯しているのだろう。

 或いは極上の美女の艶姿を目の前にした禁欲中の中年親父の眼かもしれんが。

 うん、まぁ。

 ここまで言えば既に察せられるだろうが、ファーネス……というかマイン氏族にとって、鎧ちゃんは特級呪物という凶悪なラベルを加味しても『刺さる』武装らしく、完全に起動しても呪詛に引きずられて暴れることもない俺は長年の氏族の欲求を叶えてくれるかもしれない人物と認定されてしまっている。

 毎回毎回会うたびに、鎧ちゃんを見せてくれとせがまれていたんだよね。のらりくらりと躱し続けてはいるけど。

 ちょっと見せてやるくらい良いだろって? だってなぁ……。


『何度頼んでも目の前で見せてくれないってんだから、アンタも大概いけずだよ。あぁ、あの機動性の高そうなフォルム……イカれてるとしか思えない量の魔力導線……図面に起こしてみたいよぉ……あとちょっとだけでいいから舐めたりかじったりしてみたい』


 こわい(白目

 気のせいか、俺の内で待機状態にあるラブリーマイバディも嫌がってる感じすらある。

 少しだけ画面から身を離して、めちゃくちゃ早口で鎧ちゃんについて語りだすファーネスの顔は、頬が赤らんで恍惚としていた。

 艶っぽい吐息を洩らしながら身をくねらせるその姿は……本来、男なら思わず前のめりに凝視してしまうほどに色っぽい姿なんだろうが……こわい(二度目


 顔を引き攣らせながらも、どうにか後ずさりするのを耐えていた俺の前にシアとリアが壁になるように立ち塞がってくれる。


「ファーネス、その話は何度も断ってるだろ? 精神侵食を無視できても、肉体にかかる負荷は据え置きなんだ。徒にコイツにあの鎧を使わせるのは止めてくれ。あと相棒はオレだから」

「会談の趣旨とは外れた話だろうし、ここまでにしておこうよファーネスさん。他の参加者の方も苦笑いしてるよ?」

『……どうしても駄目か? 引き受けてくれるなら、猟犬の坊相手ならちょいとイイコトしてやっても――』

「「絶対に駄目」」


 もう殆ど被せるようにして笑顔で断言した二人の言葉に、ファーネスは『いけずだねぇ……』とショボくれた様子で敷物に座り直した。

 なにやら魅力的なお誘いもあったが、正直捕食される感が強くて怖さが勝る。

 二人がカット掛けてくれて助かった……鎧ちゃんの変化については絶対気取られないようにしないとアカンな。


 そんな事を考えつつ、皇帝の後ろで何故か力強く頷いている隊長ちゃんが見えたので、挨拶代わりに軽く手を振った。

 彼女もそれに気付いてちょっと恥ずかしそうに手を振り返してくれる。


『おいおい、猟犬。目の前の余を放っておいて、後ろにいる部下とイチャコラすんのはどうなんだ? 余ってば、一応皇帝なんだが』


 おぉう、そりゃそうだ。大変失礼しました。

 壮年の男性が揶揄いを多分に含んだ声色と共に、顔をずずいっと近づける。

 隊長ちゃんが頬を赤らめて『陛下っ』と文句を飛ばしているが、それには頓着せず男性――帝国の現皇帝陛下は、そのままマジマジと俺の姿を頭からつま先まで眺めまわした。


『ふぅん……マジで復活したのか。報告によれば、まともな死体も残ってなかったって話だったが……伝承にあった神による復活なんぞ、眉唾だと思っていたんだがな。人間の身で体現するヤツが顕れるとはいやはや……』


 感心した様子で珍獣を眺める様な視線を向け続ける皇帝ではあるが、死体うんぬんの下りでシアとリアが俺の衣類の裾に手を伸ばし、キュッと掴んだのを目にとめると、彼は肩を竦めた。


『ふむ。ちと迂闊な発言だったな、許せ』

「いえ……壮健そうで何よりです、陛下」


 怒ってる、という訳では無いんだろうが、少しばかり硬い声と共にシアが頭を下げ、(おとうと)分もそれに倣う。ついでに俺も挨拶がてら黙礼しておいた。

 略式ですらない、簡易な挨拶を気にする事も無く、鷹揚に頷く皇帝ではあるが……後ろの部下が先程の発言の瞬間に無表情になったのには気付いていないみたいだ。


『……陛下、あとでお話があります』

『え"っ? いや、謝ったじゃん。判定辛くない?』

『右側と左側、どちらを剃り落とされるのが良いか、決めておいて下さい』

『おいやめろ、やっと伸びて来たばっかりなんだぞ!?』


 笑ってるのに笑ってない笑顔を向ける隊長ちゃんに、悲鳴混じりの抗議の叫びをあげる皇帝をみて聖女二人も溜飲が下がったのか、俺の服から指を離してくれた。


 スヴェリア=ヴィアード=アーセナル。


 元より精強な武力国家として、教国と並んで長らく邪神戦争の矢面に立ってきた帝国の頂点に立つ男だ。

 広大な勢力圏を東西南北、四方のうち西以外を資源豊富な山々に囲まれ、唯一開けた西側は大きく拓かれた平原が続き――教国や北方へとつながる大街道が敷かれている。

 大きくなるべくしてなった、という好条件の揃った帝国であるが、その版図の広さ故に王家と貴族の派閥が別れ、完全な一枚岩とは言い難い状況が歴史上でも長く続いていたのだが……。

 即位と同時――いや、おそらくはそれ以前から着々と準備を進め、皇帝となってから十年と掛けずに国内の殆どを纏めきって、自国を名実ともに人類最大国家として盤石の位置に押し上げたガチの傑物が目の前の御仁だ。


 自身の顎髭を庇う様に両手で押さえながら、部下を必死に宥めている様からは想像しづらいだろうが、マジで歴史の教科書に長々と説明が載るレベルの偉人なんだよ。というか、此処に居る大体の面子はそうだろうけど。


 歴史に記されるような大層な人物ではなさそうなのは、俺と――この会談で最初の顔見せ以外で口を開いてないこの男くらいだろう。

 そんな風に考えながら、この場で最後となった再会の挨拶を黒兜の男へと向けた。


 ――おひさ、《亡霊》。相変わらず常時フルフェイスなんだな、あんたは。


『久しぶりですね、《猟犬》殿。私もそれなりに長く生きてますが、死んだと確信した人間と再会したのは初めての経験ですよ』


 各国のガチのお偉いさんが集まる場であっても、頑なに兜を外さない男に少しばかりの呆れと感心を含んだ言葉を投げかけると、映像越しに丁寧に一礼した黒兜は穏やかに返答してきた。


 魔族領、最高幹部《災禍の席》の第二席。

 筆頭補佐《亡霊》――それが目の前の黒塗りフルフェイスマンの肩書きだった。


 通称以外にもきちんとした名前もあるらしいが……基本、魔族は他者に名前を明かすという事をしない。

 例外も無いわけでは無いらしいが、自身の名――それこそ真名と呼んでもいい程の重要視しているソレを明かすのは、多くの場合伴侶に選んだ相手のみだそうだ。

 この辺りの風習は、遥か古代から残っているものである為、外交相手の国でも問題視してくる奴は殆どいない。

 というか、この風習を引き継いでる一番の古株がお師匠――《半龍姫》だからね。これにいちゃもんつける=お師匠を遠回しにdisってるって事になりかねないので、まともなオツムがあれば出来る訳が無いんだけど。


『聖女の御二方も、お元気そうで何より。彼が生きて貴女方の側に在るのは魔族領としても大変に喜ばしい――どうか末永くそうであって欲しいものです』


 全身黒塗り鎧の、凄腕の殺し屋みたいな見た目の癖に、めちゃくちゃ腰が低くて丁寧な《亡霊》の挨拶に、先程からちょっとテンションが低かったシアとリアも機嫌を上向きにした様だ。


「あぁ、久しぶり《亡霊》。機会があればウチのストラグル枢機卿とも話をしてやってくれよ――確か仲良かったよな?」

「こんにちわ、《亡霊》さん。にぃちゃんとはこれからも()()()一緒にいるから、心配しなくても大丈夫だよ」


 穏やかに交わされる挨拶……対外的には、一番喧嘩っ早くて血の気が多いと言われてる種族の代表との挨拶が一番無難に終わるってどういうことやねん(白目


『挨拶は終わったか? なら余としても魔族領には聞いておきたいことがある』


 隊長ちゃんの説得を無事終えたのか、それとも自身の髭を諦めたのか。

 皇帝が表情を引き締めて、《亡霊》へと向かい、厳しい視線を投げかけた。


『此度の会合は人類種の()()()が集う会談だ。余は勿論の事、各参加者もその認識でいる――そうだな?』

『えぇ、魔族領としてもその認識で会談に臨んでいます』


 詰問に近い皇帝の口調にも動ぜず、あくまで穏やかに、紳士的な振る舞いを崩さずに頷く《亡霊》。

 余裕を保った態度が気に障ったのか、舌打ちを堪えてそうな表情で皇帝は僅かに声を荒げた。


『ならば、何故第二席(オマエ)がこの場にいる。補佐として立つならばともかく、だ。筆頭は――《魔王》の奴はどうした?』

『それに関しては、アタイも気になっていた処だねぇ』


 ファーネスも同調し、探るような視線を映像越しに黒兜へと向ける。


『アタイだって面倒な会議なんざ誰かに放り投げて鍛冶場に籠って居たかったさ。他の参加陣営がしっかりと頭を揃えてくるっていうから、筋を通すためにも出張って来たんだ。アンタ達の処だけ名代が務めるってのはどうにもケツの据わりが悪い話だよ』


 人類種の代表二名に、誤魔化しは許さんとばかりに強い眼差しで見据えられ、《亡霊》は束の間、考え込むように無言になった。

 会談が始まって直ぐのバチバチした空気に、うへぇ、といった表情のシア。

 剣呑な雰囲気のやり取りに、ハラハラとした様子でそれを見守るリア。

 皇帝の背後に控える隊長ちゃんも、手を後ろに組んで不動のままではあるが、会合の雲行きを案じているのか、微かに眉間に皺が寄っている。

 平然としていつも通りにニコニコと笑ってるのは、教皇の爺さんくらいだった。

 一方で俺はと言うと――ぶっちゃけ魔族領が《亡霊》を代表としてきた理由に察しがついている。

 いや、だってさぁ……。


 あの《魔王(ロ〇コン)》に座って大人しく会議とか無理じゃね?


 ぶっちゃけた思考を脳裏に走らせたと同時だった。

《亡霊》の執務室を映したらしき映像から豪快に扉をあけ放つ音が届き、次いで慌てた様な誰かの声が響いてくる。


『筆頭補佐ぁ! 大変です! 筆頭が拘束を破壊して抜け出しました!』

『――! ちょ、ちょっと失礼、直ぐに戻ります』


 泰然とした態度を崩さなかった《亡霊》が動揺した様子を見せ、席から立ち上がって画面から姿を消した。

 残された者達はそれぞれに困惑した顔を見合わせて、バタバタとした喧噪と共に聞こえる音声に耳を傾ける。




『あと半日は動けないと思いましたが……見積りが甘すぎたか……! 対竜兵装を全て起動しろ! 必要なら区画ごと灰にして構わん!』

『もうとっくに起動しましたけど、全部ぶっ壊されましたぁ! 城を出て街に出ちまいそうです!』

『行先は!?』

『昨日と同じ、孤児院の視察()です! 可愛い幼女が入園したとかクソ嬉しそうにほざいてました!!』

『……あの腐れロ〇コンフェニックスがぁぁぁぁぁぁっ!! こうならない様に大型魔獣の致死量六十倍の麻痺毒を打ち込んでおいたというのに、台無しだよ糞ァ!!』

『補佐! 医務室から急伝です! 第五席(狂槍)殿と第六席(赤剣)殿が足止めに出てくれました!』

『……ッ! 無理をさせますね! 他の《災禍》は!?』

第三席(万器)が首都外周から王城に向け、現在猛ダッシュで向かっているそうです! 殲滅級の極大魔法を用意しろと指示が来ましたが……如何なさいますか!?』

『速やかに用意を! あの三名なら足止めも可能です! 城門前で動きを止めさせて、城門周辺ごと消し飛ばすつもりで撃ち込め! それなら鎮圧できる筈!』




 キレ散らかした《亡霊》の怒声混じりの指示が、遠話ごしに暫し響き。




『――大変お待たせしました、重要な会談だというのに身勝手な中座の程、まことに申し訳ありません』


 数分後、画面越しでも空気が震える様な轟音が聞こえると、ようやく戻って来た《亡霊》が再度、席に着く前に深々と頭を下げた。


『あ、うん。なんというか、お疲れ』


 先程までの苛立ちが遥か彼方に消し飛んだ様子で、下げられたままの黒兜に包まれた頭部へと、どこか優しい口調で声をかける皇帝陛下。

 ファーネスが目頭を押さえながら、もし互いが同じ場所にいれば軽く肩でもたたいてやりそうな慈愛に満ちた所作と共に、《亡霊》へと暖かな眼差しを向ける。


『アタイに出来る事なんて鍛冶仕事くらいだけど、まぁ、なんだ……今度アンタの武具を見てやるよ。今は帝国の工房にいるから、そのうち魔族領にも顔を出してやるさ』

『は、はぁ……どうも、お気遣いありがとうございます?』


 急に軟化した二人の態度に面食らったのか、困惑した様子で《亡霊》が礼を述べた――先程漏れ聞こえたドタバタは、おそらく彼にとっては日常的な事なのだろう。こんなんファーネスじゃなくても目頭が熱くなるわ。

 トイルと仲が良いらしい筆頭補佐殿だが、その理由に大いに納得が行った。

 遠く離れた聖都からでは応援することしか出来んが……うん、無理のない範囲で頑張ってくれ。魔族は頑丈だとよく聞くけど、必要なら胃薬とかも処方してもらってな?


 一連のやり取りを眺めていた教皇が、満足そうに一つ頷き、「さて」と切り出す。


「各々の挨拶も終わった事だし、今回の議題に入っても良いかな? ――あぁ、一応確認しておくけど、帝国とドワーフ氏族の御二人も今の顔触れに不服は無いということでよいだろうか?」

『無いな。むしろ《亡霊(コイツ)》で良かった……いやマジで』

『アタイも無いよ。文句がある奴がいるなら黙らせてやるさ』


 その会話を聞いていたリアが、ちょいちょいと俺の袖を引っ張った。


「ねぇ、にぃちゃんにぃちゃん」


 なんだい、アリアくん。


「さっきの《亡霊》さんのとこのゴタゴタ……《魔王》様って普段からあんな感じなのかなぁ?」


 あぁ、リアは会った事無かったな……うん、まぁあんな感じです。それほど深い交流ある訳じゃ無いけど、以前会ったときもマジでさっき漏れ聞こえた内容のままの言動だったぞ。


「いや、ボクが《魔王》様と会った事ないのって、にぃちゃんとレティシアが二人して魔族領に連れて行ってくれなかったからじゃん……今日、なんとなく理由がわかったけど」


 おう。まぁ今のお前さんなら、顔を会わせても大丈夫だと思うけどな。年齢的な意味で。

 大戦中にもし奴とリアが顔を会わせていたら――最悪の場合、俺は邪神の前に《魔王》を命がけで討伐せねばならなかったかもしれない(真顔

 あの野郎の理不尽な不死身っぷりとバグキャラっぷりは人外級の中でも更に飛びぬけている。殺るなら切り札の運用を視野にいれないといけないレベルで。

 なので、何としてでも俺とシアは《魔王》と可愛い(おとうと)分を会わせる訳にはいかなかったのである。


「……《亡霊》も大変だよな。あの変態の代わりに魔族領を仕切って、定期的な奴の暴走を鎮圧してるんだから」


 俺とリアの会話を聞いていたシアが、ぼそりと呟いて話に加わって来た。

 魔族領のお偉いさんといえば、女侯爵もそうだったが……あそこの連中はとにかく濃ゆい。だからこそ、比較的常識人な《亡霊》みたいな奴が苦労するポジションにはめ込まれるんだろうね。


「……やっぱり、オレとしてはアリアを魔族領には連れて行きたくないな。前にお前と領内に入ったときも、「ちょっとコレ飲んでみないか?」とかいって若返りの薬とやらを渡されたし……本物かどうか分からなかったし、その場で地面に捨てて魔法で焼き払ってやったけど」


 よーし、あのクソ鳥、いつか●す。自分の腸で縄跳びさせた後に樹の枝から『ぶら下がり運動』させてやる。


 遠く離れた変態から庇おうと無意識に二人を抱き寄せようとして――はたと気付いて慌てて身を離した。危ねぇ、会談の真っ最中だよそういえば。

 何故か不満そうな顔になった二人から、会談の進行役である爺様へと視線を向ける。


 偶然か、それとも此方を見ていたのか。

 俺と教皇の視線が一瞬交差し、いつもののんびりとした――だが、腹の底の読めない笑顔のまま、爺さんは本日の議題……今回の会談の発端となったらしき書面を取り出し、前置きを一つ。


「さて、本日こうして人類種の代表枠たる方々に集まってもらったのは他でもない――この場に唯一、揃っていない種族、エルフについてだよ」


 そうして、書状――おそらくはエルフ達から送られた親書の類であろうソレの内容を、端的に告げた。


「戦時中に彼らの聖地たる大陸中央の大森林に引っ込んでしまったエルフだけど、最近、動きがあった。聖地の中心……嘗て女神が降臨されたと言われる界樹の異変を、可能なら止めて欲しい、との事だ」










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