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新章です








 フラグというか、何かの前触れ的なものだったんだろうか。

 街中に出て、たまたま一緒になった副官ちゃんとくっちゃべりながら、食い歩きをしていたときである。


「なんか、本国の方でバタバタしてるらしいんだよね」


 彼女が屋台の串焼きをもりもり頬張りながら、思い出した様に唐突に切り出した。


 霊峰から帰って来て、暫しの後。

 帰って来た当初は土産話だけではなく、きちんとした報告やら何やらもあって、暫くバタバタしていたんだが、今ではすっかり落ち着いてのんびりとした日々を過ごしている。


 シアや副官ちゃんにも道中で仕入れた土産や、新たな友人に関する話は喜んでもらえたのは何よりだ。話の途中、お師匠へのやらかしについてとかで俺が正座させられたり正座させられたり正座させられたりしたけど。


 あれは怖かった……何が酷いってこの手のパターンだと普段は関わって来ないミラ婆ちゃんまで加わってきたのがひどい。

 膝の上に積み上げられた石板が高くなりすぎて、後半は御説教してる面子の顔が遮られ、目の前の石板側面しか見えないっていうね。容赦なく積みすぎだと思うの。

 まぁお師匠相手にやらかしたのは姉弟子的にはアウトだったんだろう。我ながら残当だった(白目


 ……命があっただけ幸運だと思っておこう。

 あんまり鮮明に思い出すとそれだけで足が痺れてきそうなので、その話は一旦脇に置いておくとして。


 副官ちゃんの言に、俺は咥えていた串を空にすると口の中のものを飲み込んだ。

 バタバタとな。まぁ、露店巡りしてる最中にぽろっと漏らすくらいだから、深刻な話じゃないんだろうけど。


 こちらの予想通りだったのか、うん。と、軽く頷いて屋台の側にある屑籠に串を放り込む副官ちゃん。


「部下の定期報告では隊長も忙しくしてるみたいだけど、《刃衆(ウチ)》だけじゃなくて王城全体が慌ただしいみたい。きな臭い感じはしないらしいから、何か終戦記念のイベントでも予定してるのかも」


 あー。二年経って、戦後処理も方々で落ち着いて来ただろうしねぇ。こっちでも何か動きがあるとしたら、合同でデカいお祭りとかになるんだろうか?

 だとしたら楽しみだな、うん。異世界でのデカい祭りとか何気に初めてだわ。別に俺だけじゃなく、近年の転移者とかは基本戦時中だったせいでこっちでの明るいイベントとか殆ど経験無いだろうし。

 何気にこっちのお祭りとか未体験な俺のワクワクした様子に気付いたのか、確定って訳じゃないっての、と、副官ちゃんは軽く笑って肩をすくめた。


「ま、実際には何があるのかなんて、まだ分からないけどね。祭りだとしたら、教国の戦勝記念日の出店は美味しいものばっかりだったから、そこは楽しみだけど」


 相変わらず腹ペコキャラやなぁ。まぁ、副官ちゃんらしいっちゃーらしいけど。


 帝国は現皇帝の開明的な性質もあって、新しいモンをガンガン取り入れてるけど、こと食文化に関しては数世代前から熱心に転移者の知識を取り込んでいた教国が一歩先んじてるってイメージがある。

 最近まで戦争やってる最中だったのだ、あくまで可能な限り、ってレベルではあるけどね。

 でもなぁ、元の世界――とりわけ、俺やシアリアの故郷である日本の食文化に関しては……帝国にブーストかかりそうなんだよなぁ。下手すりゃ数年後には教国が後塵を拝しているかもしれん。


「あぁ、例の学者さんだっけ? 調味料二種類でそんなに変わるの?」


 小首を傾げる彼女の不思議そうな質問に、力強く頷いた。

 俺達の故郷だと、基礎というか根本というか……和食というカテゴリにおいては何作るにしても味噌と醤油は付いて回る代物だったぞ。特に醤油。

 こっちだと魚醤くらいしかないけど、たまり醤油とかやべーぞ。具体的には、聖殿の食堂でたまに出る照り焼き擬きの味が二段はあがる。


「うわなにそれ、めちゃくちゃ食べてみたい。料理長が聞いたらなんとしても欲しがりそうね」


 欲しがるだろうなぁ……気持ちは分かる。俺も欲しい。

 料理長は基本、寡黙な職人って感じの人だけど、料理に関してはネジ外れてるからなぁ……生産主とは個人的に知り合いでもあるし、なんとか優先してもらって手に入れるつもりではあるから、味噌と醤油のために帝国に行くのは辞めて欲しい、マジで。


「料理長が帝国に入ったら、陛下が全力で引き抜きにかかりそうだねぇ……将来的には帝国にとって良い事なんだろうけど、今の私の食事の質が下がるのは勘弁してほしいわ」


 聖殿(ウチ)にとっても阿鼻叫喚だよ。俺や聖女姉妹(ブラザーズ)どころか、トイルのおっさん辺りも腰を上げる事態になりかねんぞ。あの人、朝に料理長のパンケーキ食わないと仕事の能率落ちるとか言ってたし。

 真面目くさった顔で言う俺に、副官ちゃんは半分呆れた様な、だけど、もう半分は理解できなくも無いといった様な、複雑な表情を浮かべた。


「食事は大事だけど、ストラグル枢機卿まで動き出すとかおおごと過ぎるでしょ……そんなアホな理由で帝国と教国の間に緊張が走るとか想像したくないんだけど」


 人間、飯が関わるとガチになるのは昔からのあるあるやろ。特に転移・転生者の元・日本人組はその気が強いと思う。


「マジか。隊長もそうなのかなぁ……あんまり想像つかないけど」


 全員が全員って訳じゃないだろうけど、味噌と醤油があるって知ったら大なり小なり反応するのは間違いない(断言


 他愛もないお喋りに興じながら、互いの買い込んだ串焼きを片付けると空の串をくず入れに放り、俺達は次のメニューを物色しにかかった。


「う~ん、屋台も悪くないけど、なにか甘味が欲しい感じねぇ」


 屋台通りに並ぶ店舗をざっと見渡しながら、副官ちゃんが腹具合を確かめているのか、軽くお腹を擦りながら呟いた。

 ふむ。甘いモノか……ちょいと歩くが、パンなんてどうよ? この間、ジャムサンドとか置いてある良さげなパン屋を発見したんだが。


「おぉ、アンタ達のいう処の菓子パンってやつね。いいじゃない、行ってみましょう」


 目をキラーンとさせて興味深そうに首肯した副官ちゃんの食い付きの良さもあって、俺達は食欲の赴くままに目的地を決定する。

 おk、じゃぁ行こうか。ついでにシアとリアに何か買って行ってやるべ。


「良い品があるなら、私も今日の夜食用に多めに買っていこーっと……手ぶらじゃ心許ないわね、バスケットも売ってくれるかな?」


 どんだけ買う気やねん、そんなに買っても今日の内に食いきれないでしょ。


「女の子は甘いモノを食べると幸せに変換されるから問題ないのよ」


 幸せ(熱量(カロリー))。


「やかましいわ駄犬」


 顰め面になった副官ちゃんにビシっと脳天にチョップを入れられながら、俺は彼女を先導してパン屋への道を歩き出したのだった。







◆◆◆



 思ったよりパンを買い込むことになったので、街の散策を切り上げてそのまま聖殿に戻って来たんだが。

 入って直ぐに、此方を待っていたらしきミラ婆ちゃんにつかまる事となった。


「帰って来ましたか――遅ければ迎えに人を送ろうと思っていましたが、丁度良かったですね」


 相も変わらずの鉄面皮で、鼻梁に乗った眼鏡の位置を指で調節する。

 迎えって……何かあったんかな? シアリアにお土産あるんだけど……渡してからでも大丈夫なやつだろうか?


「いえ。レティシア様とアリア様、御二方とも同じ要件で貴方を待っている筈です。急ぎ、奥ノ院へ向かう様に」


 姉弟子殿のお言葉に、無意識に眉間に皺が寄る。

 うえぇ……奥ノ院って……。

 聖女が揃って大聖殿の最奥に呼び出されてるとか、絶対めんどくさい案件確定じゃないですかやだー。

 そもそも、ミラ婆ちゃんが此処にいる時点で、奥院で聖女を呼びつける人物って一人しかいねーじゃん。


「あ、込み入った話になりそうだから私は先に部屋に戻らせてもらうから、じゃ」


 面倒事たっぷりな気配を放つ呼び出し場所を耳にして、直ぐに察した副官ちゃんがシュタッと手を挙げて、即行でこの場からの離脱を図る。

 いやまぁ、気持ちは分かるけどさ。実際、他国の出向人員である彼女は関わってはいけない類の話な可能性だってあるし。

 部屋に戻るといいつつ、食堂の方へ向かう――おそらく、茶でも淹れて買って来たパンに舌鼓を打つんだろう――副官ちゃんの背を見送ると、俺は溜息を噛み殺してパン屋のおばちゃんから借りて来たバスケットを持ち上げた。

 正直言えば俺一人ならブッチしたい呼び出しではあるんだけど、二人が既に待ってるという時点で行かないという選択肢は無い――この辺りの采配もほんっとやらしいんだよなあの教皇(ジイさん)


 ごねた処でどうしようもないので、ミラ婆ちゃんに買って来たパンのお土産を渡し、二人の部屋に届けてくれるようにお願いするとさっさと参ノ院に向けて歩き出す。

 教皇の居住区であり、聖教会における数々の秘が眠るとされる奥ノ院は、トイルが管理してる参ノ院にある回廊からしか入れない。

 回廊には参ノ院側と奥ノ院側、及び中間地点に警備の人員が配置され、枢機卿や聖女といった役職でもない限り、基本、通過に厳しい制限とチェックが入る。

 当然、警備の僧兵だって一定以上の実力を持つ連中しかいない。具体的には全員、大戦でバリバリ戦ってた猛者揃いだ。


「おや、猟犬殿。聖女様方はもう奥ノ院で御待ちですよ。早く向われた方がよろしいかと」


 うーっす、いつもご苦労様でーす。んじゃ、急ぐとしますか。


「えぇ、ではまた帰りに」


 その厳重な奥ノ院への唯一の回廊を普通に顔パスな傭兵ってどうなんだろうね、ほんと(白目

 参ノ院の回廊入口を守護する僧と軽く挨拶を交わし、彼らが手ずから開けてくれた扉を通って真っ直ぐに進む。

 待たせてるみたいなので、ややペースをあげて石造りの廊下を歩むこと二、三分。

 回廊の中間と出口の警備の連中とも挨拶して奥院へと続く大きな扉を開ければ、高い天井とそれを左右側面に屹立する石柱で支える、全体的に白を基調とした石造りの大広間だ。

 まぁー、大昔からあるこの世界最大の宗教の最重要区画なだけあって、荘厳な感じが半端無い。

 最初に訪れたときは静謐な空間にちょっと気圧されたのが懐かしい。今はそこそこに慣れたもんだけど。


「お、来たか」

「にぃちゃん、こっちだよー」


 大広間の奥……御神体である女神様の天井まで届きそうなでっかい像がどーんと置かれた場所。その足元にいたシアとリアが、振り返ると揃って手招きしてくる。

 こちらも手を挙げて応じ、二人へと歩み寄ると、女神像が設置された足元――そこに備えられた厳かなデザインの座に、今回俺達を呼び出したであろう老人が座っていた。


「やぁ、来たね。時間的にも丁度よい頃合いだよ」


 そう言うと、豪奢な白の僧服に身を包んだ爺様は、真っ白な髭を伸ばした顔に柔和な笑みを浮かべた。

 尤も、ある程度この人の素を知ってる人間からすると、相変わらず腹の底が読めないうさんくせースマイルにしか見えないんですけど。





 ヴェネディエ=フューチ=ヘイロウ




 聖教会の主権である教皇の座に就く人物であり、大戦において未来を見通すとまで言われた千里眼じみた見識を以て、人類の勝利への布石を示してきた御仁だ。

 近年はもっぱら三枢機卿に実務を放り投げ、奥ノ院で半引き籠りと化してるらしいが……若い頃はミラ婆ちゃんやガンテスと前線で活躍してた事もあると聞く。

 愛用の揺り椅子と同化してるんじゃねーかって言う位の今のインドアっぷりからすると、どうにも想像がしにくいが。


「急に呼び出してすまないね。とはいえ、君も関わる事だからこの場に居てもらった方が良いと思ってね」


 普段使いしてる揺り椅子ではなく、広間に設えられた……通常の国家ならば玉座に相当する石造りのソレに腰掛けた老人は、()()()もあるからねぇ、と意味深な事を呟いた。


「それで、猊下。呼びだした面子も揃ったことですし、いい加減招集した理由を教えて欲しいんですけど」


 言葉遣いこそ丁寧だが、割とぞんざいなのが分かるトーンで今回俺達を揃って呼び出した件の趣旨を教皇へと尋ねるシア。

 この分だと、俺だけじゃなくて二人のことも唐突に呼び出したなこの爺さん。明らかに面倒そうな話なんだから事前に話通しとけや。


「二人はともかく、君は本気で嫌がりそうな話なんでね。ギリギリまで伏せておいた次第だよ」


 俺の内心を読み取ったかの如く、のんびりとした口調のまま教皇は告げる。


「にぃちゃんがそこまで嫌がるって……やっぱり政治絡みですか? それなら枢機卿のどなたかも居たほうが良いんじゃ?」

「『偶には自分で事の手綱を取れ』と、けんもほろろに断られてしまったよ。いやぁ、この間、こっそり僕の処に廻って来た仕事を流したのを根に持ってるみたいでねぇ」

「えぇ……またやったんだ……いい加減本気で怒られますよ?」

「あぁ。次はもう少し間を置いてからとするよ。特にトイルは怒ると怖いからねぇ」


 好々爺然とした顔で笑いながら言うセリフは、普通にクソ爺のソレだった。

「揺り椅子を焼却処分してやろうか狸爺……!」と歯ぎしりしながら仕事を捌いている苦労人の姿が思い偲ばれる。

 まぁーこの通り、教皇なんて立場の癖に仕事はサボるわ部下にさり気なく押し付けるわ他人を揶揄って遊ぶのが好きだわと、色々とアレなとこも多い爺さんなんだが、我が(おとうと)分は結構仲良いんだよね。今は仕事中って意識があるのか多少取り繕った態度だけど、普段は親戚のお爺ちゃんみたいな感じで接してるし。

 いや、俺もたまーにボードゲーム全般の勝負相手になったりしてるけど。

 座に深く座り直して、珍しく少しばかり居住まいを正した爺さんは、遅ればせながらシアの言葉に応じ、語りだす。


「そろそろ時間だし、趣旨を説明するとしようか――今日は人と話をする予定があってね。端的にいえば、君たち三人にも同席して欲しいのさ」


 そう言って懐から小さなベルを取り出すと、指先で摘まんで静かに揺らす。

 広々とした空間に澄んだ音が響き渡ると、それに応えて大広間の右手奥にある通路から、大きな鏡の様な物を乗せた台車を押して二人の僧が現れた。


「うぇ……大型の遠話用魔道具に通信官……他の国の高官と会談でもするんですか?」

「うん、まぁそのようなモノだね」


 若干嫌そうな表情を隠す事もないシアの言葉に、相変わらず底の読めない笑顔のままで頷く教皇。

 霊峰に向かった際に借り受けた物は掌サイズの水晶玉――簡易型だったが、これは姿見より更に大きい巨大な鏡……音声だけではなく、相手と自分の姿を互いに向けて投影可能な代物だ。

 まぁ、アレよ。ざっくり言ってしまえば前者が通話オンリーの携帯電話、後者が大画面ライブチャットみたいなもんよ。

 当然動力となるのは電気・電波では無く魔力。特に大型の方はその消費量が馬鹿にならんので、起動する際には専門の担当者が付く。それが通信官だ。


 お勤め中は黒子の如く、顔を隠して魔道具の発動・維持にのみ集中する通信官が教皇の合図を受けて静かに一礼すると、鏡を載せた台の両脇に陣取り、丁寧に魔力を注ぎ込む。


 早速か。外国のお偉いさん相手だ、いつもの身内ノリも不味かろうと、俺達は多少の緊張を以て魔道具の発動に備える。

 今更だけど外交関連の問題だってんなら、爺さんがきちんと謝って酔いどれ枢機卿殿を同席させた方が良かったんじゃないのか。


 内心の疑問をまたまた読んだのか、それとも俺達がよっぽど顔に出していたのか。

 伸ばした長い白髭を片手でしごきながら、教皇は何でもない事の様に――だがどこか、悪戯が成功した子供の様な表情を見せた。




「君たちは議題に直接関わるから招集したのさ。枢機卿(ルヴィ)は頼もしい子だけど、今回の一件だと舵を取るには対外的な《《格》》が足りてないよ――何せ、面子が()()()()()()()()()()()




 ――はい?

 最後にとんでもない台詞が聞こえた気がして、俺……というかシアとリアも、三人並んで仲良くアホ面で上座にある教皇の顔を見上げた処で、魔道具が起動した。


 鏡面が光を放ち、飛び出した光は虚空に複数の像を結ぶ。


『――時間通りか。アンタにしては珍しいな昼行燈』


 魔力によって投影された、遠く離れた場所を映し出した景色。

 幾つかに分けて映し出された光景の中、真っ先に口を開いたのは壮年の精悍な男だった。

 肩口あたりまで伸ばした灰色の髪と、蓄えられた顎髭。

 浅黒い肌を包むのは、一目で最高級と分かる豪奢な貴族の装いと、帝国の紋章が刻まれた真紅の円套(マント)だ。

 ふてぶてしい笑みを浮かべて玉座で肘突くその後ろには、軽装の騎士鎧を纏った黒髪の少女――隊長ちゃんが控えている。


『初手から皮肉を飛ばすもんじゃないよ、帝国の。アタイ達としては教国にゃ世話になってるからね、多少の遅参は目を瞑るさ』


 男の言葉を軽く咎めたのは、赤毛に褐色肌の小柄な女性だ。

 若々しい見た目とは裏腹に、振る舞いから感じられる印象は老獪の一言。長命種が持つ独特の雰囲気を色濃く漂わせている。

 武具に刻む魔力導線を模した刺青を入れた二の腕はむき出しで、多少は飾り気があるものの、まるでつい先程まで鍛冶場か何かに出入りしていたかの様な恰好だった。

 玉座や椅子の類でなく、艶のある魔獣の革らしき敷物の上に胡坐をかき、頬杖をついて教皇……ではなく、俺達の方を愉快そうに注視している。


『兎に角、この場を設けられた事は喜ばしい。互いにとって実りある会談になる事を望みますよ』


 最後に口を開いたのは、映像越しの者達を含めて一際に異彩を放つ、男性と思わしき人物だった。

 判然としないのは、あくまで声が男性のものであるからであり、その顔は黒塗りの兜で覆われている。

 上質の鋼と魔獣の角や甲殻を組み合わせて鍛え上げられた装甲は頭部だけでなく全身を覆い、肩には金糸で縁取られた――これまた黒の円套(マント)

 眉庇(バイザー)のスリットから覗く目は獲物を狙う狩人の様に鋭く、一見した印象は国の重鎮というより、凄腕の戦士――或いは暗殺者。


 全員、見知った顔だ。

 というか、その辺にいる子供でも知ってる比率の方が多いであろう面子だった。


「……こんの爺、やりやがった……!」


 隣でシアが苦虫を嚙み潰した様な表情で毒づくのが聞こえる。

 全く以て同感だよ。前情報抜きのドッキリで紹介する面子としては過剰に過ぎるだろ、権力的な意味で。


 微妙に顔を引き攣らせる俺達を見て、満足そうに頷いた教皇が掌を打ち合わせて音頭を取った。


「では問題無く面子も揃った事だし、始めようか。戦後初の《人類種首脳会談》を」


 問題しかねぇよ、後でミラ婆ちゃんにチクったるからな……!

 絶対ロクな話にならねぇ。

 そんな確信を抱きつつ、俺は空を見上げたくなって上方を振り仰ぐ。

 当たり前だが、大広間の染み一つない天井が視界に広がるばかりであり、溜息が洩れた。










ヴェネディエ=フューチ=ヘイロウ


聖教国、現教皇。『ヘイロウ』は代々教皇に与えられる号名。

ちょろっと登場したり、端々で名前が挙がってたけど、やっとまともに名前が出て来た人。スマイル系悪戯大好き腹黒爺。

教皇就任以降、戦時中は発言一つで多くの人命が左右される場合も多く、性質も抑え気味の言動だったが、平和になって大分はっちゃけはじめた。

調子に乗り過ぎて旧友である某シスターにしばかれる事もしばしば。

三枢機卿から『死ぬ迄教皇の座に縛り付けられる呪い』を日々飛ばされているが当人はどこ吹く風といった様子。



料理長


凄腕の料理人。

帝国の王城厨房を仕切る人物が彼の弟子だったりする。

本人曰く、「キッチンじゃ負けた事がないんだ」との事。

多分、本編には出てこない。




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