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霊峰での各々(前編)


 光も音も通さない真っ暗な闇の中で、揺蕩う。

 ()()なってから、どれだけの時間が過ぎたのか。それとも大して時も経っていないのか。

 時間経過すら曖昧な空間で、薄れた身体の感覚と霞掛かった自我をなんとか保ちながら過去を思い返す。


 ――見た事の無い眷属だった。


 ボクの知識は勿論の事、何度も『繰り返して』いたレティシアすら知らない、未知のソレ。

 自分と同じくこの空間に封じられているであろうソイツは、聖女であるボク達の結界や耐性をしてやっとギリギリで凌げるであろう程の、膨大な邪気による精神汚染を無作為に垂れ流す、邪神の狂気が形を為した様な悪性の塊だった。

 単純な力の格だけで言えば、もっと強力な上位眷属はいたけど。

 おそらく『性質』という面だけで見れば、最も大本に近い――この世界の生きとし生ける者にとって、最悪の猛毒。

 辛うじて互角と言える状況だった戦線で、なんとか状況を好転させようと多くの味方が気炎を上げていた中、揺らめく影の様に頼りない姿で顕現したソレは、瞬きの間に地獄を作り出した。


 一目見た瞬間、確信した。


 コレは放置していてはいけないモノだ。

 野放しにしているだけで、人類側の敗北が確定してしまう。


 一時代に一人しか現れないとされる聖女が、もう一人いるのなら、それは理由がある筈で。

 だから、きっと。今がそうなんだろうって。

 『コレ』を止めるのが、ボクの役割なんだろうって、そう思ったんだ。


 神器である大聖杖を用いた、結界魔法の極致――時空凍結。

 きちんとした準備を以て行えば、ある程度の範囲も確保できるけど、その上位眷属の精神汚染と物理的な攻撃の両方を押さえながら、って事になると、最低限の範囲での発動も難しくて。

 だから、最後は殆ど体当たり同然に自分ごと巻き込むようにして発動範囲に押し込んだ。


 全てが停滞した空間で、ずっと独りぼっちになる事は怖くて堪らなかったけど。

 後悔は無かった。コイツが顕現した理由は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのかもしれない、そう思えば、当然の行為だとすら思った。


 ――でも、それでも。


 術が発動して、全ての事象が遮断される帳が視界を遮る瞬間。

 大切な姉妹(きょうだい)が見せた、悲痛、という言葉では済まされてない表情と、泣き声混じりの悲鳴が、今でも焼き付く様に脳裏に残っている。


 ごめん。

 ごめんなさい、レティシア。

 家族なんだから、ずっと一緒にいようって、そう言ったのはボクだったのに。


 髪を振り乱して、顔をくしゃくしゃに歪めながら必死に伸ばしてくれた手に、掴む処か同じ様に伸ばしてあげることすら出来なかった。

 その事実が、その記憶が齎す胸の痛みが――皮肉な事に、霧散しようとするボクの自意識を繋ぎ留めている。


 それも何時まで保つのか分からないけれど。

 その時が訪れるまで、祈らずにはいられなかった。


 お願いです、女神様。

 どうか、レティシアを。ボクの大切な家族を。

 今度こそ、今回こそ、"しあわせなけつまつ"に導いて下さい。


 時空ごと凍った空間の中で、この祈りが神様に届くのかは分からない。

 それでも願う。それでも想う。




 あぁ、でも。

 必死に祈る合間にも、思い出した様に、酷く利己的な感情が顔を出してしまう。

 聖女として為すべき事を為したのだ、と。どれだけ自分に言い聞かせても。

 分かっていても、覚悟を決めたつもりでいても。

 どうしても、本来の臆病な、ちっぽけな自分が顔を出す。


 このまま独りぼっちで、消えていってしまうのは――怖いなぁ。

 一度、弱虫なボクが顔を出すと、後は次々と押し殺した筈の望みが溢れ出て、頭がいっぱいになる。


 会いたい。

 レティシアに会いたい。

 先生に、シスターに、ヴェティおじいちゃん、ミヤコさんや、アンナさん、教会の皆に。

 会いたい。


 皆に……会いたいよぉ……!




 触覚すら曖昧になった頬を、何かが伝った気がした。


 そうして、ボクは暗闇を揺蕩う。

 『そのとき』が来る、最期まで。






 ――そう、思っていた。







 唐突に、誰かに腕を掴まれる。


 全てが曖昧になっていた、ボクが、形を取り戻す。

 突然の、そしてあり得ない事態に混乱して眼を白黒させている間に、暗闇の中でしっかりと誰かに抱え込まれた。


 ――おっしゃぁ捕まえたぁ! シア! ()()()!!


 音なんて通る筈の無い空間で、そんな声がはっきりと響いて。

 急激に、何かに引っ張り上げられるような感覚と共に、ボクの意識は一旦そこで途絶えた。







「――――ァ――」


 こえが、きこえる。


「――――リア――」


 ずぅっと、ききたかった、こえ。


「――アリア!」


 あぁ、そうだ。

 これは、ボクの、かぞくの。







 声に応えたくて、重い瞼をなんとか開く。

 久しぶりに感じる光は眼に突き刺さる様で、視界が白んで、明滅する。

 どうやら身を横たえているらしいボクを抱きかかえて、必死に名前を呼んでくれる、その声の主の姿もボヤけてしまって分からない。


 でも、分かる。

 ずっと一緒にいたんだ。

 滲んだ視界でだって、キラキラと淡く輝く金色の髪も。

 額がくっつく様な距離で、覗き込んでくる不安気な――ボクとお揃いの空色の瞳も。


 白く染まった視界が色を取り戻して、ボヤけた焦点が像を結んだ。


 ――あぁ。

 あぁ、あぁ……!


 どうして、どうやって、今、封を解いてしまったら、なんて。


 そんな浮かんで当然の疑問は、これっぽっちも頭の中にかすめもしなかった。

 だって、レティシアがいる。

 ずっと会いたいと思っていた家族が、目の前にいるんだ。


「……ぁ、れ、てぃ……」


 長らく使っていなかった声帯は、掠れた声しか出してくれなくて。

 それでも、ボクが名前を呼ぼうとしたことを理解したのか、レティシアは何時かの様に、顔をくしゃくしゃにして、その瞳に大粒の涙を浮かべた。


「――ッ、ぅあ……アリ、アぁ……よかっ……た……!」


 最期だと思っていた、脳裏に焼き付いていたあのときの姿より、ちょっとだけ大人びた顔立ちになった自慢の(あに)は。

 成長した姿かたちとは真逆の、ちいさな子供に戻ってしまった様に、ボクを抱き締めてぽろぽろと涙を零し続ける。


 でも、ボクも人の事は言えなかった。


 光に慣れた筈の視界が、再び滲む。

 力の入らない腕を持ち上げて、なんとかレティシアの着ている僧服の襟元を掴んで、頭を押し付ける。


 もう一度、会えた喜びと安堵に胸を掻き乱され、涙腺は簡単に決壊を始めた。


「……ごめ……な、さぃ……あぃたか……た」

「うん……うん……! いいんだ、もう、いいんだよ。オレも、会いたかった……!」


 お互いに、しゃくりあげる様な嗚咽混じりの声で、言葉を交わし合って。







 ――いいシーンなんだから、無粋な真似すんなや三下。


 そんな声と共に、何かを叩き潰すような水音が聞こえて――ボクは漸く、誰かがボク達の前に立っている事に気付いた。

 こっちに背を向けて、前方に対して立ち塞がるその人は、元いた世界ではありふれた、黒髪の男性だった。


「――ッ! あり、がとう、お前の御蔭で、やっと、オレは……」


 ――礼は後で聞くわ。おいでなすったぞ。


 レティシアの知り合いらしきその人は、涙を拭って感謝の言葉を伝えようとした(あに)の言葉を遮ると、半身になって腰を落とす。


 黒髪の人の向こうには、封を解かれた時空凍結の名残り。

 其処から、ボクが自身諸共に封じたアレが、ゆっくりと這い出ようとしていた。

 先程の水音は、アレが伸ばした触腕を彼が打ち落としたものだったみたいだ。


 あぁ……そうだ、どうして僅かな間でも忘れてしまったんだろう……!

 やっぱり、多少の年月を封印された位では、消滅どころか弱体化すらしていない。

 封を解いてしまったら、こうなるってレティシアが理解して無い筈が無いのに……!


 動かない全身を叱咤して、なんとか身を起こそうとするけど、長い間封印に巻き込まれていた身体は魔力が枯渇し切って衰弱が激しく、立ち上がろうとする意思にまるで応えてくれない。

 ダメだ、逃げて。ソレは、戦う処か、目視するだけでも危険なんだ。


 干上がった喉を震わせて、なんとか男の人に声を掛けようとする。

 なのに――。


 ――雑な影絵みたいなナリしてる癖に、ひっでぇ臭いしてんなぁ。夏場の肥溜めだってもうちょっと慎ましやかな香りじゃね?


 おぉ、くせーくせー。なんて、おどける様に肩を竦めるその人は、邪気の影響を受けているようには全く見えなくて、ボクは唖然とする。


「……気を付けろ、ソイツは精神汚染の特性だけじゃない、曲がりなりにも上位眷属だ。なんとかオレもサポートするから、一旦――」


 ――いらねーよ、いいからそのまま妹ちゃんの治療と自分達の結界だけ維持しとけ。

 折角の再会なんだから、もうちょっと浸ればえぇねん。それくらいは許されて然るべきだろ、お前は。


 レティシアの提案を蹴って、なんでもない事の様にそう言うと。

 背を向けたまま、手をヒラヒラと振ってその人は肩越しに振り返って――ちょっと笑った。


「……大丈夫なのかよ、手はあるって言ってたけど、お前の力じゃ……」


 ――妹ちゃんも、言った通りに引っ張りだせたやろ? ちったぁ信用しろって。いいから姉妹(きょうだい)仲良く、再会のお喋りでもしてな――()の一跳ねも通さねぇよ。


 一体、何者なんだろう、この人は。

 放っておけば人類を敗北に追い込むとすら思えた、邪神の悪性の具現にも全く怯まない、精神干渉を受けない。

 レティシアとも妙に親し気だけど……ボクはこんな人知らない。


 次々と疑問と困惑が湧いて、つい、掠れてまともに出ない声のままに、ボクは問いかけていた。


「…………だ、れ……?」


 ――通りすがりの、ただのにぎやかし要員だよ、銀の聖女様。


 そう、飄々とした笑みを彼は返して、正面へと向き直る。


 ――さて、コレが初お披露目……()()()()の、号砲だ。首洗って待ってろ邪神と取り巻き(クソッタレ)共。




 ――《起動(イグニッション)




 静かに、だけれど、これ以上無いくらいに闘志を漲らせた声が、戦場の跡地に響いた。













「……懐かしい夢をみたなぁ」


 ここ数日で見慣れてきた天井をぼんやりと眺めながら、つい感慨深い声が洩れる。

 ボクとにぃちゃんが始めて出会ったあの時――最後の『繰り返し』の前に起こった出来事を思い出して、胸が暖かくなった。


 敵ごと封印されていた間の時間は、今思い出しても背筋が寒くなるような、酷く重苦しい記憶だけど。

 大切な人との再会と……大好きな人との邂逅の記憶は、その苦しさを塗りつぶして余りある喜びを齎してくれた。


 今更だけど、いくら消耗が激しかったと言っても、もうちょっと頑張ってにぃちゃんを見ておけば良かった。

 今だったら、最初に見せてくれた笑顔も、その後、ボク達を背にしてあの眷属を相手に一歩も引かずに戦って、勝ったその姿も――全部ぜんぶ、眼に、心に、焼き付けるのに。

 あぁ、勿体ないなぁ。なんでもっと良く見ておかなかったんだろう。


 余りに懐かしく……今になって思い返すと、甘やかな痺れが身体の芯を奔るような、そんな夢だったせいか、未練がましい想いが湧いて止まらない。

 夢に見た感情の名残りが胸に残っているうちに、記憶にある朧気な当時の光景を反芻して、何度も何度も、あのときのにぃちゃんの姿を思い出す。


「ふへへっ……」


 寝起きの茫とした意識の中で、上機嫌なままに自分の顔がだらしなく笑み崩れていくのが分かった。


 あー、いいなぁ。やっぱり好きだなぁ。

 もっと早く好きになればよかった。そうしたら、もっといっぱい素敵な思い出が増えてたに決まってるもんね。


 寝台の掛け布を胸元にひっぱり上げて、抱き枕代わりにだきしめる。

 幸せな気分のまま、そのままうとうとしていると……。


 部屋の外で、空気を裂く鋭い音が響き渡り、一気に意識が覚醒した。


「……うわっ、もう始まってる。準備しなきゃ」


 寝ぼけ眼を擦って窓を見てみれば、微かに空が白んで、夜明けの太陽が朝焼けを生み出そうとしていた。

 あぶないあぶない、二度寝しちゃったら間に合わない処だった。


 掛け布を剥ぎ取ると身を起こして、寝台から降りる。

 いつもより遅めになっちゃったから、急がなきゃ。

 そうしてボクは、《半龍姫》様が用意してくれた客間から、慌ただしく飛び出した。







 手早く髪を後ろで纏めると、三角巾を頭に巻いて、前掛けを身に着けて胴紐を腰で結ぶ。

 ホントは水で顔を洗いたかったけど、ちょっと寝坊しちゃったので浄化魔法でズルをして。


「――よしっ、始めよう」


 軽く頬を両手でたたいて、気合を入れた。


 厨に入ると真っ先に竈に向かい、魔法で火を付ける。

 薪を何本か追加して、昨日の内に水瓶に汲んでおいた清水を鉄鍋に注ぐと、竈の上に置いた。


 次は米櫃だ。

 個人的にはここに来て、これが一番びっくりしたよ。お米が普通にあるんだもん。

 香りも味も、かつて元の世界で食べていたものと殆ど遜色ない。

 是非ともお土産に――うぅん、種籾を分けてもらって教国で量産体制に入りたかったけど、にぃちゃん曰く、米の品質自体は古代米と大差無い。霊峰のアホみたいに肥沃な土地効果あってこその味、らしいので、ボク達の国で育てた処で出来る品はお察しみたい。すっごく残念。

 米パワーの効果なのか、にぃちゃんがたくさん食べるので、ちょっと多めに笊にあけて、こまめに水を注ぎながらお米を研ぐ。

 糠を落としたら陶器に移して水を張り、米粒に水分を浸透させる。


 それを待っている間に、火にかけた鉄鍋で汁物の出汁を取っておく。

 厨の窓際に吊るされた茸の干し物――は、今日は必要ないかな。昨日多めに作っちゃったから。

 棚に置かれた根菜類を幾つか手に取って、手早く刻むと鉄鍋に放り込んで、少し経ってから小瓶に詰めていた作り置きの出汁を注ぐ。

 茸の出汁だけだとちょっと味気ないから、干し肉を削って少し追加しよっと。


 あとはお米を土鍋に移し替えて、鉄鍋の隣に並べて火にかける。

 鉄鍋の方は、食事の直前に温め直しながら味を調えるので、一旦竈から引き揚げて。

 あとはご飯が炊きあがるのを待つだけ~。


 厨にある床几に腰掛けて、足をブラつかせながら、火にかけた土鍋がぶくぶくと泡を吹いているのを眺める。


 待ってる時間は特に長いとは感じない。


 耳を澄ませば、外からは鋭い息吹や、小気味良い打撃音。

 にぃちゃんも、《半龍姫》様との朝稽古を頑張ってるみたい。


 二人が早朝から稽古を始める間に、ボクが朝ごはんの準備をしておくのも、大分慣れた。

 最初の三日くらいは、《半龍姫》様に厨の使い方を教えてもらったり、妙に土鍋でお米を炊くのが上手だったにぃちゃんにコツを聞いたりしたけど、結構上達したと思うんだよね。

 ちょっと大変だったけど、かなり本気で、必死になって取り組んだおかげかな。

 だって、さ。

 こうやって、朝に早起きしてご飯の準備して待ってるのって……なんだかボクが、にぃちゃんの……。


 竈の薪が弾ける音がして、我に返る。

 気恥ずかしい想像を振り払いながら、土鍋の蓋をちょっと開けて中身を確認すると……うん、いい感じだ。

 竈から土鍋を下ろすと、蒸らしと保温を兼ねて、風呂敷みたいなサイズの厚手の布で包み込む。


「よーしっ、準備完了! 二人の稽古を見にいこう!」


 やっぱり何時もよりは少し遅くなっちゃたけど、今からでも幾らかは見学出来る筈だ。







 前掛けだけは外して食卓の椅子に掛けて、屋敷の入口の扉を開ける。

 外にでて直ぐの開けた空間は、練武場変わりに使われる広場になっていて、そこで二人は熱心に修練を行っていた。


 にぃちゃんは既に黒い鎧を纏っていて――本人が言う処の完全起動で、縦横無尽に広場を駆け巡っている。

 魔鎧を全身に纏ってるという事は、型稽古や技の確認は終わって、朝稽古の最後の〆に移ってるって事だ。


 相対する《半龍姫》様の背後には、幾つかの魔力球が彼女に追随する様に浮遊していて、にぃちゃんが激しく移動を繰り返しながらそれを狙う。

 これは、魔鎧を全力で使用して師に拳を向けるのを嫌がったにぃちゃんに対して、《半龍姫》様が代替案として提案したものだ。


 本人ではなく、その周囲に浮遊させた魔力塊を狙う。師の守りを抜いて、それを破壊すればにぃちゃんの勝ち。

 逆に、壊されなければ《半龍姫》様の勝ちだ。

 なんだかレクリエーションでやるゲームみたいだけど、この二人が本気でやるとなると、ボクの眼からみても見応え処じゃない凄い光景になる。


 正面から相対していたにぃちゃんが、一瞬で彼女の背後に回り込む。

 振り向こうとした《半龍姫》様が身を翻すと、その回転方向に合わせて、にぃちゃんは凄い速度でスライド移動した。

 瞬きよりも短い間に、音の壁を超える加速を二回。

 右、前と魔力噴射で短距離加速し、背後をとった位置関係を維持したまま、魔力球に蹴りを叩き込む。

 直撃して、浮かんだ内の一つが四散するかと思われた瞬間、横手からいつの間にか伸びた繊手が蹴り足を絡め取って優しく逸らす。

 それだけで、にぃちゃんの身体は明後日の方向へと錐もみしながら吹き飛んだ。


 でも、鎧の全力を引き出した今のにぃちゃんがその位で止まる訳がない。


 空中で魔力を高速放出して、一瞬で静止する。

 そのまま身を丸めながらぎゅるりと縦に回転して、天から注ぐ落雷のような速度で踵が振り下ろされた。

 頭上から、踵がギリギリ触れる間合いで魔力球を強襲する。

 一連の動作が目にも止まらぬ速さで行われたけど、《半龍姫》様は慌てず騒がず、先ほどと同じように掌を蹴りに添え――その瞬間、黒鎧の痩躯が赤い魔力導線の燐光を引きながら、左、前、右とコの字を描いて超高速移動。

 今度はお互い、背を向け合う体勢で交差し、振り向きもせずににぃちゃんが手刀を振るう。

 魔力強化した視覚ですらかろうじて残影が残るくらいの速度で繰り出された、ボクが知りうる限り、どんな名剣よりも鋭い――魔獣も、"信奉者"も、邪神の上位眷属だって一刀両断してきたソレを、《半龍姫》様は特に表情を変えずに逸らす。


 ……よくよく考えてみれば、どっちも力の収束や操作に長けているとはいっても、にぃちゃんが全開で技を振るって周囲に全く被害が出ないっていうのはおかしいんだよね。

 これ、多分《半龍姫》様が受け流した余波とかも全部散らしてるんだろうなぁ……。


 ボクだって同じ事が出来ない訳じゃない――聖殿の見習いの子達や、そう強くない魔獣相手になら、だけど。

 けど、魔鎧を完全に起こした状態のにぃちゃん相手にそれをやるって……シスターだって一回成功させられるかも怪しいよ。


 手刀を流されたにぃちゃんはそのまま腕を掴まれて、畑の大根を引っこ抜くような動作で無造作に宙へと投げ出される。

 放られたままなら遥か上空まで飛んで行きそうな勢いだったけど、再度魔力噴射して空中制動を掛け――何かを振りかぶる様な動作から、腕を鞭のようにしならせて振りぬいた。

 銃弾を遥かに超える速度で飛来して魔力球を壊さんとする無数のソレを、《半龍姫》様が弧を描く軌道で手をかざし、受け流す。

 最後の一つだけを掌に掴み取って、彼女は手の中の投擲物の正体をしげしげと眺めた。


「成程、装甲の破片ですか……形状も投擲に適していますね」


 わ、これって新技じゃない? 少なくともボクは初めてみた。

 下手な金属より硬いし、魔力があれば復元する魔鎧の装甲。確かに弾として運用するのは理に適ってるのかも。

 感想が述べられる間に地面に着地したにぃちゃんは、そのまま低い姿勢で《半龍姫》様に肉薄して、直前に――ホントにボクの視界から消えた。


 うわぁ、稽古なのに本気も本気の速度だ。万が一にも相手に怪我させる様な内容じゃない分、夢中になってるのかな。ちょっとムキになってないこれ?


《半龍姫》様の周囲で、空気を蹴破る様な音と衝撃が連続で響き、まるで空裂音のドームみたいに彼女を覆う。

 こうなると、身体強化したボクの知覚でも振り切られてしまうので、その姿を捉える事は出来ない。


「速さは素晴らしいですが、歩の出入りが荒いですよ」


 あの速度で攪乱されて、のんびりと感想を述べる《半龍姫》様を見ると、やっぱり言い伝え通りの凄い人なんだろうなぁとしみじみ思う。

 その当人は軽く腰を落としたまま、どこか緩やかですらある動きで軸足を使って円を描き、()()を捌き、避ける動作を行っていた。


 地面が弾ける光景から察するに、多分にぃちゃんは、こっちの視界から消える速度を維持したまま、さっきの投擲を連続で繰り返してるみたい。

 うわー、えっぐいなぁ。これ、大人数で四方八方を囲んで散弾銃で撃たれてる様なものじゃない? なんであんなゆっくりした動きで対応できるんだろう。


 投擲の貫通力にもよるけど、ボクだったら全方位の障壁を張って待ちの態勢になるしかないかなぁ。どのみち見えないし。

 明らかに余裕みたいだし、この方法は《半龍姫》様には有効じゃないみたいだ――多分、魔力球無しの普通の組手だったら棒立ちで受けっぱなしでも平気なんじゃないかな。

 弟子であるにぃちゃんがそれを分かって無い訳がないので、本命があると思うんだけど。


 そして、その本命は直ぐに来た。


 無数に乱れ咲いていた宙を駆け抜ける衝撃音が、一瞬途切れる。

《半龍姫》様がわずかに目を見開いて「あら、上手」と呟くのと同時に、にぃちゃんが音も無く彼女の右方に姿を現して――その像が揺らいだかと思うと、次の瞬間には左から膝を跳ね上げていた。


 ……リアル残〇拳だこれ!?


 夢中になって集中してると思ったらこれがやりたかったのかぁ……にぃちゃんはやっぱりにぃちゃんだったよ。


 ちょっとは意表を突かれたみたいだけど、やっぱり《半龍姫》様は対応を間に合わせる。

 繰り出された魔力球への廻し蹴りが届く前に受け流し――つま先の軌道の先にあった魔力球が、一つ、音を立てて弾けとんだ。


「うわ!?」

「あら?」


 ――やったぜ。


 三者三様、それぞれの呟きがこぼれると同時。

 纏った鎧が突如解除され、生身に戻ったせいで最後の蹴りを捌かれた勢いを殺しきれないにぃちゃんは、凄い速度で上空斜め上に発射されていった。


 ――うぉぉぉぉおぉぉっ!? アカン死ぬぅぅぅぅぅぅぅ!?


「に、にぃちゃーーーん!?」

「……流石にあの高さは危険ですね」


 この後、無茶苦茶お姫様だっこで助けられた。

 むぅ、ボクがしてみたかった。







 二人が稽古を終え、準備していた朝餉を手早く仕上げて。

 いつもの様に三人で卓を囲んで、ボク達は朝食を摂りはじめた。

 ボクと《半龍姫》様は体格もあってか、そんなに量は食べないんだけど、にぃちゃんが凄い。猛稽古でお腹を空かせてるのもあって、よく食べた。

 何杯もおかわりするので、すぐにご飯や汁物をよそってあげられるように椅子をなるべく寄せて近くで一緒に食べる――色々と、役得だよね。


「これまでの稽古から判断するに、最大出力が多少落ち、代わりに扱い易さが向上している、と言った処でしょうか?」


 汁物を啜っていた唇を椀から離し、《半龍姫》様が現状で分かった魔鎧の変化について考察する。


 ――そんな感じっすねぇ。力の収束全般が楽になったんで、攻撃の威力はそう変わらん感じですけど。


 口いっぱいにご飯を頬張りながら、にぃちゃんが首肯した。駄目だよ、飲み込んでから喋らないと。

 行儀が良くないとは思うんだけど、美味しそうにもりもり食べておかわりを要求してくるのが嬉しくて、ついつい笑顔でご飯をよそって渡してしまう。


「はい、まだおかわりはあるから、慌てないでね」


 ――おう、ありがとう。あー、うめぇ。やっぱ米はいいよなぁ。


「《半龍姫》様は、おかわりはどうですか?」

「ありがとう。でも、今日は大丈夫ですよ」


 しゃもじを置く前におかわりが必要か確認してみたけど、今回は無しみたい。

 優しく頷いてくれる彼女に、同じく頷き返すと、ボクも箸を手に取って食事の続きを再開する。


「問題は継戦能力ですね。肉体への反動を大きく減衰させる代わりに、どうやら魔力の消耗が激しい場合は鎧が解除されてしまうようですが?」


 ――それな。前は魔力切れ起こしても、体力生命力とバーター出来たんですけどねぇ。


 何でもない事の様ににぃちゃんが言うけど……そんな機能が無くなったっていうならその方が絶対いいよ。


 ――いや、そうでもないぞ? 魔力枯渇は撤退の目安の一つだしな。空っけつになったら体力を代替にして鎧ちゃんを維持したまま退くってのが出来なくなったって事だし。


「普通は枯渇する前に撤退するし、そもそもにぃちゃんは生命力に切り替えても戦い続ける事の方が多かったじゃん……あんなのは、もう嫌だよ」


 にぃちゃんが戦うところを見るのが嫌いって訳じゃないよ。

 寧ろ逆かもしれない。格好良いところを見ればドキドキする、それがボクを――ボク達を守るためだというなら猶更に。

 でも、やっぱり自分の血で真っ赤になったり、傷だらけで意識を失うような目に合ってるのを見るのは……辛かった。嫌だった。

 自分でも矛盾してると思う。それでも、嫌なんだ。


 そんな思いを込めてジッと顔を見つめたせいか、にぃちゃんはバツが悪そうに顔を逸らす。

 空気が気まずくなる前に、茶碗を空にした《半龍姫》様が、そっと箸を置いて再度口を開いた。


「機能を喪失した、というより魔鎧側の方で制限を掛けた、といった方が正しいのでしょう。主である貴方が強く望むか、危機に陥って必要とすれば嘗ての使い方も可能な筈です」


 お茶を淹れた椀を手に取り、それを一口啜ると、一息ついて続ける。


「そちらに気を割くよりも、使用時間自体を延ばす方が賢明でしょう。やはり、貴方の拳の精度を上げる事が重要になりますね」


 ――あー……鎧ちゃんの魔力奪取と《地巡》で随時燃料補給していく感じになるんですかね。


「そうなりますね。意識して、魔力の循環を合間に挟む立ち回りを身に着けるように」


 うぃ、りょーかいしました。なんて渋い顔で頷くにぃちゃんに、《半龍姫》様は微かに口の端を引いて目を細めた。


「その魔鎧は既に貴方だけの物です。年月を経れば、貴方の持つ力や技能に合わせて細やかに最適化されてゆく筈――《報復(ヴェンジェンス)》という通称では無く、いずれは正式な銘を与えるべきでしょうね」


 ――そういえば、そうかぁ。相棒の名前とかプレッシャーやなぁ……ネーミングセンスが問われるとか今まで無かったから、クッソ不安なんですけど。


「貴方の発想力は奇妙ですが、悪くないと思いますよ。先ほどの稽古の最後の攻防、()()()()()()()使()()()()()もあのルールの中では妙手でした」


 いやぁ、ちょっとやってみたらイケただけですけど。と、食事の手を止めて頭をかくにぃちゃん。

 けどさ、アレって《半龍姫》様だからちょっとユニークな発想って評価に落ち着くけど、普通に接近戦では厄介極まり無いよ?

 拳速や蹴撃の加速を利用して、装甲を魔力噴射で鋭利な破片として飛ばす。シンプルだけど、これ、全部の攻撃に連動されて散弾とか、大口径の銃弾が追加発射されてくる様なものじゃない? しかも直接攻撃力は据え置きのままで。下手すると防御の時にも応用できるだろうし。

 先生みたいな素の防御が硬い人には効果も薄いんだろうけど……速度型の人がカウンターでくらったらちょっと洒落にならない事になると思うんだ。


 にぃちゃんの事だから、対人性能寄りの攻撃なんて大して重要視して無いんだろうけど。


「なんにせよ、貴方たちもあまり長期に渡って国を留守には出来ないでしょう。あと幾日かの間に多少なりとも拳の修練を進められる様、何か考えてみましょうか」


 そう締めくくった《半龍姫》様の言葉に、食事を再開したにぃちゃんは、頬を大きく膨らませてもぐもぐとご飯を咀嚼しながら、大きく頷いたのだった。









◆◆◆




「はぁーっ……今日も一日お疲れ様でした」


 湯に浸かりながら、大きく伸びをした。

 既に日は傾き、霊峰から見下ろせる山々に太陽が隠れようとしてる。


 大きな釜を浴槽代わりにして入る五右衛門風呂は、当たり前だけど外に設置してある。

 にぃちゃんが言っていた、木作りの仕切りと薪をくべる石台を備えられたそれは、思ったよりずっと立派なお風呂だった。

 入る度に絶景を背景にした露天風呂気分を味わえるんだよね。世界最高峰と世界最危険を兼ねた秘境の天辺、そこからの景色を眺めながらの入浴ってものすごい贅沢だと思う。


「お疲れ様とは言ったけど……こんなにゆったりした時間は久々だなぁ」


 聖都だとなんだかんだと言ってスケジュールがしっかり決まっていたし、にぃちゃんが帰って来てからは、一緒に遊んだり出掛けたりする為になんとか時間を捻りだしたりしてたし。

 この旅の間は、時間をとらなくてもずっと一緒にいられるし、此処に滞在してる間に至っては、ボクのやってる事なんて家事手伝いのおさんどさん擬きだけだ。

 大使としてしっかりしなきゃ、なんて気合を入れていたのは初日だけだったと思う。

 実質、長めのリフレッシュ期間みたいになってるなぁ……こうなると、レティシアに対してちょっと申し訳ない気持ちが湧いてくる。

 最後には快くボク達を送り出してくれた(あに)の姿を思い出して、悩まし気に吐息をついて、湯舟に鼻まで沈み込む。


 ぶくぶくと気泡を吐き出しながら、ぼんやりと夕焼けの空を見上げた。

 魔道具で声は定期的に聞けているけど……やっぱり顔が見たいかな。

 考えてみれば、今朝方も夢に見た、あの再会以来、レティシアとこんなに長く離れる事って無かった気がする。


 自分から積極的に今回の旅の同行者になった癖に、どうやらボクは早くも(あに)が恋しくて、ホームシックにも似た感情を抱いてしまっているようだった。

 だって仕方ない。

 にぃちゃんとまた長く離れるなんて、考えたくも無くて、旅に付いていこうって思ったけど。

 家族であるレティシアの事だって、大好きだから。


 にぃちゃんに助け出されて、レティシアの『繰り返し』に一緒に同行するなんて、奇跡みたいな幸運と機会を得られて。

 多くの出会いと、戦いを超え、あの戦争を終わらせて――最後の最後に大きな喪失を味わって、でもそれは再び手の中に戻ってきた。

 様々な経験を経て弱虫は卒業出来たと思っていたけど、その分、ボクは我儘になったのかもしれない。


 平和になった、なってゆくであろうこの世界で。

 このままずっと、三人で過ごせていけたらなぁ、っていつも思うんだ。


「それはそれとして、にぃちゃんの隣は欲しいけどね」


 湯面に浮いて広がった、自身の髪を掬い上げながら、そこに映った揺らめく自分の姿を見つめる。


「見た目は悪くないと思うんだけどなぁ……」


 長年向かい合ってきた姿なので、今いち実感は薄いけど一応美少女の部類には入ってると思うんだ。

 でもそれはレティシアも同じだし……やっぱり、差をつけるとしたら……お、おっぱい、なのかな。


 ふにふにと、あんまり大きいとは言えないソレを揉んでみる。

 ……これに関しては、遺憾ながらこの世界の平均値にすら届いていないと言わざるを得ない。(レティシア)よりはマシだと思いたいけど。

 ちょっとマッサージとかもしてみたりしたけど、あんまり効果がある感じはしなかった。


 ……揉まれると大きくなる、ってよく言うよね。自分でやっても意味無いのかな。


 未練がましくマッサージを試みながら、なんとなく――なんとなく、誰かに揉んでもらう光景をイメージした。


「――にぃ……」


 ~~~~ッ! ダメだ、ボクは馬鹿かよっ!

 一瞬で顔が茹で上がる感覚がして、誤魔化すように頭まで湯舟に沈み込む。

 そもそも欲しい相手の為におっきくしたいって思ってるのに、欲しい相手に揉んでもらわないと駄目って破綻してるじゃんか! 酷い穴だらけの理屈だよ!


 ひとしきりお湯の中で身悶えすると、勢いよく湯舟から半身を飛び出させて、気を落ち着けるように深呼吸する。


「……ハァ」


 なんだか、自分が酷くバカな事で悩んでいるような気分になって、溜息が洩れた。

 ……そろそろ上がろうかな。

 そう思って、釜の縁に手を掛けると。


 ――おーい、そろそろ薪を追加したいんだが、今大丈夫かぁー?


 丸太を組んで作られた仕切りの向こうから、そんな声が聞こえて、慌てて湯舟に肩まで沈み込む。

 石台のおかげで、釜は地面より高い位置に設置されているので入ってる人間の姿なんて見えやしないんだろうけど……気分の問題だよ!


「だ、大丈夫だよー、どうぞー!」


 さっきまでの余韻を引きずっているせいか、声が上擦りそうになるのを、なんとか抑える――落ち着けボク、ほんとに落ち着いて、頼むから。

 必死に気持ちを落ち着けようとしていると、薪を抱えたにぃちゃんが、律儀に目を瞑ったまま仕切りの向こうから現れる。


 ――おう、寛いでいるとこスマンな、さっさと終わらせるからちょっと待ってくれ。


 そう言って、石台の下に屈み込むと、手慣れた様子で――実際、風呂を沸かしているのはにぃちゃんなので手慣れているんだろう――薪を追加して、木筒で息を送り込んで火の勢いを調節する。


 ――お湯の温度はどうや? 熱くない?


「う、うん、ちょっと温くなってきてたから、少し上がるくらいなら丁度良いよ」


 ――顔、赤くね? のぼせる前にちゃんと上がれよ? あと上がったら水分取りなさい。


 こっちの声色からおかしいと思ったのか、閉じていた眼は開かれ、此方を心配そうに見上げていた。

 釜の縁から鼻梁から上だけ覗かせて返答したんだけど、にぃちゃんにはボクの顔色くらいお見通しだったみたいだ。

 喜びと気恥ずかしさでますます顔に熱が集まるのを感じながら――お風呂の熱以外から生じた、身体の奥の熱っぽさに押されて。


「うん……でも、ボクまだ髪を洗ってないんだ。だから――洗うの手伝ってくれないかな?」


 気付けば、そんな言葉を口にしていた。


 ――馬鹿言ってんじゃねーですよ。子供じゃないんだから、自分で洗いなさい。


 にぃちゃんは、そんな風に、ボクの言葉を笑って受け流す。

 うん。そうだね、にぃちゃんならそう言うだろうと思ったよ。

 でも、でもね。


「えー、でも、前は洗ってくれた事あったじゃん。いいじゃんかー、今日も洗ってよー」


 分かってるんだよ。もう、小さかったままじゃない。外身が変わっても、心は前世の――男の子のつもりでいたあの頃のままじゃない。


 ――三年以上前の話だろーが。はしたなくってよ、聖女様。


「なら、聖女様のおねがいだ、どうかボクの髪を洗ってください!」


 分かってるんだ、()()()こんな風に、こんな事を言ってるんだよ。


 ――聖女様なら御自分の洗髪くらい、自分でしましょう――のぼせる前にな! ほれ、ハリーアップ!


「ちぇーっ」


 そうやって、笑い合いながら。

 何時かの暗闇とは違う、綺麗な星空が広がる空の下で、願う。


 すぐじゃなくてもいいんだ、でもいつか。

 いつか、彼がボクの想いに、気付いてくれますように。




 湯舟の中から見上げた星空に、小さな流れ星が一条、輝いて見えた。









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