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信じて送り出した清楚系ツンデレ幼馴染エクソシストがクラスメイトのチャラいミュージシャンかぶれにドハマリして地雷系配信者デビューするなんて

 ヴァンパイアとの戦いから一月から経った。

 傷口の呪いは消えて、俺の体は回復に向かいつつあった。もう登校をしてもいい頃合いだ。

 早く咲美に会いたい。会ってあの時の返事を聞きたい。

 咲美は最初の内は何度か見舞いに来てくれたが、それも少し前から途切れてもう3週間会っていない。

 よく考えたら死に損なってベッドに縛り付けられた状態で告白の返事を聞くなんて俺の性に合わない。こちらから出向いて正々堂々と答えを聞く。たとえどんな結果になろうとも。

 そしてヴァンパイアとの戦いから25日が経過したある日の朝――。

 午前6時50分。

 枕元のスマホの通知音が鳴り、俺を眠りの皮膜から引き上げた。俺の推しである歌い手『天音』――そしてその正体は妖魔どもと戦う退魔師で、俺の幼馴染である『織部咲美』――の新曲が投稿された通知音。これが鳴るのは――。


 一か月ぶりの新曲……!


 頭に電流が走り、跳ねるように布団から飛び起きた。一秒前までの眠気は、もう遥か彼方に吹き飛んでいた。

 スマホを引っ掴み、天音のチャンネルを開く。

 だが――一番上に投稿されている新曲が、これまでの投稿されたものとは明らかに雰囲気が異なっていた。


『黯とセッションしてみた』


 タイトルに違和感を覚えた。今まで天音はソロ活動のみで誰かとセッションした事なんてないはず。それに咲美も投稿活動を明かすことは消極的だった。

 そして「黯」? 黯とは誰だ? いや、俺はこいつを知っている。そう、一月前に天音をフォローした曲書きの投稿者だ。天音が、知らぬ間にその黯と繋がっていたということなのか?

 そしてサムネイルもこれまでのものと様相を異にしている。

 今までに投稿された曲は、動画とは言っても音声データのみの純粋に歌のみものだったが、その新着動画のサムネイルは明らかに映像付きのものだ。

 違和感が疑念に変わり、そして再生をタップしたところでそれは衝撃となった。

 どこかの廃墟だった。

 欧州の城を思わせる豪奢な一室が、ボロボロに朽ちて廃墟の様相を呈している。

 部屋の中心で立つ女は、両の耳にピアスを鈴なりに付けて、細い腕と腰に鋲のついた太い腕輪とベルトを嵌め、穴の開いたシャツからは胸の谷間とヘソが覗き、フリルのミニスカートの下には縞柄のニーソックスを履いており……、パンクとロリータが合体した、赤、紫、ピンクなどの散りばめた目に痛い毒々しい原色ファッションに身を包んでいた。パンロリ? ロリパン?

 インナーカラーの入った真っ白い髪に、白磁のごとき真っ白な顔を、血を思わせる深紅のルージュ、夜の闇のようなアイシャドウで縁取られた燃えるような金色の目――。


 その女は、俺の幼馴染である織部咲美だった。


 だが同時に、それは俺の知っている咲美ではなかった。

 あの活力に満ち満ちた咲美とは違う。虚ろな瞳には意志のようなものが感じられない、まるで人形のような――。

 そして、咲美の傍らには一人の男が立っていた。

 全身を黒で包んだ細身の体の男が、ギターを持って咲美に侍るように佇んでいる。この男が黯なのか?

 こちら咲美以上に異様な雰囲気を纏っていた。

 咲美と同様の白いその肌と金色の目には、人とは思えぬ、というよりも生き物が持つ生気みたいなものがその男にはなかった。まるでこの世に足を置いていないかのような――。

 そう、この気配には覚えがある。この気配は、一月前に戦い、俺を半死に追い込んだヴァンパイア――。

 映像の中の男の白い顔を注視し、そして俺はその顔に覚えがあることを自覚して、心臓が跳ねる音を聞いた。


 あの男は、(まゆずみ)真夜(しんや)――?


 映像の中で咲美の横に立つ男は黛だった。一月前、ヴァンパイアと戦ったあの日の朝、俺に咲美に告白していいかと尋ね、そして振られた、クラスメイトの黛――。

 あの黛がヴァンパイア? そして動画投稿者の黯? そして――そして今、天音と――咲美とともに曲を投稿している――?


 黛が演奏を始め、合わせて咲美が歌い始めた。

 ヘソに脇に下乳に太ももに舌と、際どい所を惜しげなく見せつけ、咲美がなまめかしくも、咲美はキレッキレのダンスをキメながら、咲美は情熱的なヴォーカルを披露した。

 調和を重んじる合唱部のコーラスでもなければ、リスペクトに重きを置いたこれまでの歌ってみたとも違う、自分のための歌う歌――。

 こんな咲美は見た事がなかった。

 咲美がこんな自己表現をする事も、内にそんな面を抱えていたことさえも、俺は知らなかった。


 俺の目は咲美へと釘付けとなっていた。

 5分後、動画は終わり、俺の手から知らずにスマホがすり抜けて落ちる。だが体は固まって拾うこともできない。

 スマホは沈黙し、部屋に静寂が戻る。

 疑問と衝撃が頭上を渦巻いていた。そこに怒りや嫉妬と呼ばれる黒いものが混ざり、完治したはずの腹の傷が疼くのを感じる。

 どれだけそうしていたか、再びスマホの通知が鳴り、俺の意識を現実に呼び戻す。

 送り主はまたも咲美と、そして黛だった。

 だが送り宛は俺が見ている動画サイトでもなければ、まして俺個人に送ったのでもない。


『曲を投稿してみたので聞いてください』


 と、素っ気ない文章と動画へのリンクが、なんとクラスメイト共有のライングループに送られていたのだった。

 メッセージより30秒も経たぬ内にクラスメイト達からレスがつく。


「これ咲美と黛君?」

「どこここ?咲美ちゃん超素敵。カワイイ。エモい」

「こマ?」


 やがて動画の方にもコメントが付き始める。名前を見ると懐かしい知っている名がいくつかあった。咲美は現在のクラスメイトだけでなく、2年次と1年次のクラスメイト、さらには中学校や小学生時代の知り合いにまで宣伝をしているようだった。

 再生数も急速に伸びだし、あっという間に3桁に達してしまった。

 そしてスマホが鳴り、咲美が再びメッセージを送ったことを告げる。


「10月10日 次の湊高校文化祭にてライヴ開催」





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