Life is Love ―運命の輪舞 第3章―
「次の曲で最後です」
咲美がマイクスタンドを下げて前に一歩踏み出す。
「『運命の輪舞』」
最後の曲は天音の肉声の生歌だった。伴奏も黯のギターのみ。
黯が前奏を始める。人間離れした技巧につま弾かれる、美しく澄んだ、でもどこか寂しげで、聞く者の心を掻き立てずにいられない旋律。
咲美が歌いはじめた。
瞬間、空気が変わった。たった数百人程度のキャパシティの会場が異空間になった。
眩いセミロングの黒髪は、咲美の歌声に呼応して生気を宿したように波打ち、見る間に足元に届く長さにまで伸びたかと思うと、光を帯びて輝きだした。
同時に咲美の纏うゴシックドレスも輝く粒子へと変わり、白衣のシースルーへと変化した。
透けるような白い髪を揺らしながら、絹のように白い肌に純白のドレスを纏う咲美は、ギリシャ彫刻さながらの――いや神話に登場する歌の女神そのものだった。
千歌の口から紡がれる久遠の愛。
どんなに離れていても、どんな障害が2人を引き裂き、悲劇が舞い降り、死に別れようとも、あの日に誓った愛は久遠に変わることない。生まれ変わっても、種族が違えども、結ばれぬ愛であろうとも。
詩が脳内を反響している。足が震え、頭が熱くなり、現実感が遠のいていく。
咲美はここではないどこか遠くを見据えていた。歌を歌う瞬間、咲美は此岸に身を置いていないのかもしれない。
咲美は泣いていた。
歌声が衰えることはなく、情動はクライマックスに向けて高まっていく。
歌い終えた時、会場は静寂に包まれた。しわぶきの一つもない長い静寂。だが実際には数秒のことだった。
同時に起こった大音声が会場を包んだ。咲美を称える賛美の声と拍手。
皆が泣いていた。俺の頬にも知らずに温かいものが伝う。
天音の初めての――そして最後のライブ――。
この100秒間の奇跡が、たったワンコーラスの恋歌が、咲美の歩んだ人生の軌跡が、俺の胸に生涯癒えぬ傷として刻まれた。