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南25・本部勤務は突然に

 そこに辿り着くのには、想像よりもだいぶ時間がかかった。当初は2月には終えると思っていた戦線は、全く2月には終わらなかった。


 それは、春の足音が、「覚の祝福者(ブレスド)」なら聞こえるか、という頃。望遠鏡を使えば、ギリギリ春がこちらに手を振っているのが見える頃。その時は、ようやく訪れた。


 ジーグン暦3月。ジークメシア帝国に歓喜が吹き荒れた。そう、ついにザック国が白旗を揚げたのだ。


 長く、ひどく辛い道のりだった。が、帝国は勝利を収めた。


 主な勝因は、2つ。ひとつは、昨年12月25日聖祝福記念日に行われた奇襲。この奇襲は相互に行われた攻撃であったが、帝国の参謀・黒月が西部駅を捨て、Ⅳ駅の奪取に回るという奇想天外な作戦を立案。その結果戦線は大きく動き、保有する駅の数で優位をとった。


 次点に、奇襲作戦後の長期戦を見越した戦略。バンバドレス・アーネス・モリシタ参謀長が行った、首都への攻撃はそこそこに、敵の保有する中途駅へ圧力を掛けるという戦略。これが功を奏した。ザック国が予想よりも長く抵抗してきたこともあって、この作戦がザック国を徐々に徐々に削り落とすことになり、反撃の余地を与えなかった。


 長きに渡る戦いを終えた南方司令部は、どこよりも激しく歓喜が渦巻いていた。戦線から引き揚げてきた戦士たち全員が集い、盛大な祝勝会が行われた。もちろん、黒月も参加した。


 ミラレットさんやモリシタ参謀長、その他黒月が南方に来てからの約3カ月で知り合った戦友たちと、飲み、食らい、語らった。会の最中にも、黒月の脳内には桂樹(かつらぎ)の存在があったことは言うまでもないだろう。


 終戦後の軍側の諸々の行事が終わった今、今度は政治部による交渉が行われている。サンドリア公国と結んだ終戦条約のように、おおよそ、帝国が一方的に有利が条約を結ぶことになるのだろう。


 そんな戦勝の立役者、黒月が今どこにいるのかというと、首都・ヴァスティの地にいた。祝勝会が終わり、しばらくした後、参謀本部から呼び出しの電報が来たのだ。


 3カ月前の責任追及裁判を思い出しながら、黒月は参謀本部の建物に入ってゆく。エントランスに入ると、職員の女性が声をかけてきた。


 「黒月南方参謀次長ですか?」


 どこか見覚えのある、シメジを思わせる身なりの女性。


 「はい。そうです。」と黒月。


 「お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」


 女性はそう言うと、黒月を奥へと案内した。そして、黒月は一階の奥の方の部屋に通された。部屋の上には「機密応接室」と書かれている。前回のような、大会議室ではない。


 ノックして部屋に入ると、そこには副総司令官と参謀本部参謀長の姿があった。あまり大きくない部屋に巨体の副総司令官と細身の参謀長。なんだか、参謀長が窮屈そうにしているように見える。


 「まあ何よりも、南方での仕事、お疲れだったな。」


 黒月が席に着くなり、副総司令官がそう言った。


 「は、ありがとうございます。これで、僕のスパイ容疑は晴れましたかね。」


 少し皮肉を混ぜて応える黒月。副総司令官は口をつぐむ。代わりに、参謀本部参謀長が会話を続ける。


 「ええ、その節は、大変失礼いたしました。お約束の通り、黒月南方参謀次長のこの度のご活躍によって、容疑は完全に晴れました。今後、軍は一切黒月南方参謀次長に対して嫌疑を抱きません。むしろ、帝国に莫大な利益をもたらしてくださったことに、感謝しています。」


 「それはどうも。」


 黒月は、あえてぶっきらぼうに応えた。それもそうだ。実際に帝国を勝利に導いたのだから、文句はないだろう。


 それだけではない。黒月の発案によって生み出された海中飛行隊という部隊は、その後、本部に正式に認可された。それまで無かった海中戦闘員という概念の登場によって、帝国軍は新たな次元へと昇華したのだ。本来なら、本部は黒月とミラレットに頭が上がらないはずだ。


 「それでだな、今回、黒月南方参謀次長を呼び出したのには、訳があってだな。」


 再び、副総司令官が口を開く。相変わらず、ここまで脂が香ってきそうな口。


 「黒月南方参謀次長を、参謀本部参謀次長に任命したいのだ。」


 参謀本部。その言葉を聞いた瞬間、黒月の心が跳ねた。遂に来た。本部勤務。これが、黒月が自分の「非祝福者」の謎を解く重要な一歩だ。首都で名をあげ、全国にそれを知らしめて、手がかりを得る。


 「はい!ぜひ、全力で務めさせていただきます。」


 黒月は、食い気味に返事をする。副総司令官は、軽く息を吐いてから、続けた。


 「まあまあ、話はまだあるのだが、とりあえず、引き受けてくれて良かった。実はだな、我が帝国が北のサンドリアと南のザックを倒し、大国となりつつあることで、東西からの圧力が非常に高まっているのだ。」


 黒月は息をのむ。今や南北を飲み込み、大国となったジークメシア帝国に隣接する東西の大国。古来より大陸の支配権を二分して握ってきた、東のオースタン帝国と、西のウェスタリア帝国。


 「圧力と言いますと?」黒月が聞き返す。


 「ああ、今まで大陸中央で分裂していたサンドリア、ジークメシア、ザックが、ジークメシアが総取りする形で、統合された。東西の帝国は、自国の存在を脅かす新たな強敵の出現と見たのだろう。今まで沈黙してきたが、ついに動いてきた。ややもすれば、東西の帝国が連合を組み、我が国を挟み撃ちにして殲滅しにくるかもしれん。それだけは避けなければならない。既に、東西の国境付近では活発化の兆候があるのだ。なんとしても、帝国を存続させなければ。黒月南方参謀次長。やってくれるな?」


 副総司令官が、贅肉を豪快に揺らし、口から飛沫をまき散らしながら、黒月に詰め寄る。


 黒月は、軽い頭痛を覚える。一難去ってまた一難。北で勝ち、南で勝ったと思ったら次は東西だ。帝国を東西の大国から防衛するという大仕事。しかし、その分得るモノもまた莫大。


 黒月は、覚悟を決めた。いや、元からこの選択肢しかなかったはずだ。黒月の声が、応接室に凛として響いた。


 「ええ、任せてください。僕が、なんとしてでも『勝ちのロジック』を立ててみせます。」




 こうして、黒月は参謀本部勤務となり、参謀本部参謀次長となった。その黒月がありとあらゆる知恵を活かして、帝国の存亡に立ち向かうのは、また別のお話。

裏話コーナー


・ここまでお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。もしそれがたったひとりだけだったとしても、たとえ誰もいらっしゃらなかったとしても、私からは、ただ感謝を。

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