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南20・雨はなおも降り続き

 ペンギン隊による奇襲作戦を実行し、しかし敵に阻まれ、黒月が反逆の一手を打ち出したその翌日。つまりは12月26日金曜日。


 黒月は、今日も朝から参謀次長室にいた。朝からと言っても、前日のような時間帯ではない。8時過ぎくらいだ。まだ疲れが残っているのか、自分のデスクではなく、部屋中央のソファーに腰掛けていた。


 今日も今日とて雨が降りしきっている。昨日よりは小雨になっているが、それでも空は曇天だ。黒月は、そのどんよりした冴えない空を、ボケっと見つめている。


 そんなゆっくりとした朝の時間が流れる参謀次長室に、ひとりの軍人が勢いよくドアを開けて入り込んできた。この部屋に勝手に入って来る軍人。それは黒月の他にはひとりしかいない。そう、桂樹(かつらぎ)だ。


 入室早々、桂樹は手に持っていた地図と報告書をローテーブルに放り投げた。桂樹の頬には小さな切り傷があったが、黒月がそんなことを気に掛ける前に、怒り気味の声で話しかける。


 「おはよう黒月君。昨日は休んじゃって悪かったわね。それにしても、この戦線の動きはどういうことかしら?」


 黒月はその声にビクっとしながらも、ひょうひょうと応える。


 「いや、ペンギン隊のⅡ駅奇襲がなんでか敵に待ち構えられててさ、それで奪取できなかったんだ。そんなことしてるうちに西部駅も攻撃されちゃって、これはヤバいってなって、それでなんとかしようと思った結果、こうなった。」


 「そういうことじゃない!」


 桂樹の声が朝の参謀次長室に響く。黒月は、耳を塞いで身を縮こませる。美少女に叱られるという、そういう人だったら喜ばしい場面かもしれないが、黒月にとっては単に騒がしさしかない。


 「私が言いたいのは、なんで西部駅を敵に明け渡して、Ⅳ駅を襲ったのかってことよ。」


 「でも、それのおかげで結局僕らはⅡ駅とⅣ駅を両方奪取できたんだから、いいじゃないか。なんでそんなに怒るんだよ……。」


 黒月が、細い声で口答えした。


 「まあ、それはそうだけどさ……。ホントに、戦線が90度回っちゃったよ。」


 桂樹は、そう言いながらソファーに座り込み、テーブルの上に広げた地図を見つめた。そこには、奇襲攻撃前とは、これまでの1年間とは、全く違った情勢図があった。


 そう、昨日、黒月の案に従って作戦が行われた結果、戦線は90度『回った』。


 黒月は、西部駅の防衛と、奇襲によるⅡ駅の奪取は不可能だと、すぐさま諦めた。


 しかし、それと同時に、ペンギン隊へはⅣ駅の奪取命令を、メイン戦線には、西部戦線の放棄と東部戦線の一斉押し上げを指示したのだ。その結果、無事に(?)ペンギン隊はⅣ駅を奪取、東部戦線は、夜中までかかってやっとⅡ駅を落とした。


 敵に西部駅を取られ、自軍はⅡ駅とⅣ駅を取った。つまり、今までの国境を境としたメイン戦線は跡形もなく崩れ去り、西部駅・Ⅰ駅・Ⅲ駅・首都を繋いだ敵陣と、ターミナル駅・中央駅・東部駅・Ⅱ駅・Ⅳ駅を結んだ自軍という構造になったのだ。


 「駅をひとつ取られてふたつ取った。敵に使われそうな路線は壊した。別にいいじゃない?むしろ、駅をふたつ取ったこっちの勝ちだよ。」


 黒月は、桂樹の顔色を恐る恐る見ながら、そう言った。桂樹は、何も言わない。


 桂樹は、ハア、と軽くため息をつく。確かに奇襲前より帝国が有利になったのは事実なので、何も言えない。ただ、作戦がとんでも無さ過ぎて、感情が追い付かなかったのだ。


 「それで、今後はどうするの?」


 桂樹が黒月に問う。


 「まあ、とりあえず一旦戦線を落ち着かせるかな。奪取したⅡ駅もⅣ駅も、どっちも路線は生き残ってるけど、駅舎とかは燃えちゃったりしてるから、そこの復旧かな。」


 黒月は、テーブルの上の地図を見ながら話す。昨日、東部戦線がⅡ駅を奪取すると同時に、東部駅とⅡ駅を結ぶ路線が完成した。これで、奪取したⅡ駅とⅣ駅を効率よく運用できるようになったわけだ。


 しかし、それは敵も同じことだった。西部駅を奪取したザック国は、すぐさまⅠ駅と西部駅を繋ぐ路線を敷設した。おそらく、奇襲前から準備していたのだろう。これで、敵も奪取した西部駅を自在に使えるようになった。


 それと、もちんろん、Ⅱ駅とⅣ駅を取られた敵は、Ⅰ駅とⅡ駅、Ⅲ駅とⅡ駅、Ⅲ駅とⅣ駅、Ⅳ駅と首都を繋ぐ路線をすぐに爆破した。これによって『回った』戦線の自陣と敵陣を結ぶ路線は全て消え去り、お互い膠着状態となったのだ。


 「そうね。とりあえず各駅に駐在する兵を置いて、次手を考えるのはそれからね。」


 桂樹が、地図上の駒をいじりながらそう言った。黒月も、その案には賛成のようで、桂樹の手の動きを見ている。そして、おもむろに口を開いた。


 「じゃあ、あとは裏切り者探しか……。」


 「裏切り者って?」


 「いやさ、今回、どう考えても敵にこちら側の情報が漏れていたとしか考えられないんだよね。それも、無線を傍受されたとかでもない。参謀課と司令部しか知り得ない情報、つまり海中飛行隊のⅡ駅奇襲作戦とかが敵に知られていたから。そうなると、参謀課と司令部に敵のスパイがいるとしか考えられない。」


 桂樹は、真面目な顔で話を聞いている。


 「でも、恐らく参謀課にいるだろうなー。ここまで詳細に情報が洩れてたことを考慮すると、司令部ではない気がするよ。」


 黒月は、そう言うとソファーにグダっともたれかかった。


 「じゃあ、参謀課の8人のなかにスパイがいるってこと?そんな……。」


 桂樹は、信じられないといった顔でそう呟き、ももの上で頬杖をつこうとした。が、手が頬の傷に触れて痛みが走ったのか、それをやめて、黒月と同様にソファーにもたれかかる。


 黒月は、その様子を冷たい視線で見ていた。


 「そういえばその傷、どうしたの?」


 黒月のその一言に、参謀次長室の空気が一瞬揺れた。

裏話コーナー


・ここから急展開!?この話も図解を載せる予定なのでお願いします。そろそろ裏話も無くなってきました。さて、裏切り者は誰でしょう?

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