南19・精鋭だもの
黒月からの司令を受け取ったミラレットらペンギン隊は、Ⅳ駅に向けて出立し、そろそろその駅舎が見えるか、というところまで来ていた。
時刻は既に昼前。未だに雨は降り続いているが、気温が上がってきて、だいぶ雨粒が柔らかくなってきた。かなり敵陣地後方に入り込んできているが、少人数部隊ということ、彼らが鍛え抜かれた精鋭であるということ、そして雨が味方をして、未だ敵に感知されていない。
平野広がる地平線の彼方に、明らかな人工建築物の屋根が見え始める。ミラレットは双眼鏡を取り出し、建物を見る。
「よし、あれがⅣ駅に間違いないわね。後方地ということだけあって、駐在してる兵力は少ない……。だけど、その分物資はたんまりあるようだから、さっさと決着をつけなくちゃ。」
ミラレットはぶつぶつ言いながら駅の観察を終えると、隊員たちに、奇襲はスピード重視で行うぞ、という指示を出す。隊員たちは、自分たちの戦いが始まる期待と不安に揉まれながら、加速して飛んで行く。
Ⅳ駅に駐在している隊士たちは、そんな超精鋭部隊が飛んできていることになんて、一切気付いていない。
「いやー、最近はずっと雨続きで困っちゃうね。」
「ああ、ほんとに。それに聖祝福記念日も出勤なんて、俺らついてないぜ。」
「でも、西部戦線では、今日に帝国のやつらの駅を奪うための攻撃に出てるらしいぜ。」
「うひょー、まじかよ。ああ、俺前線勤務じゃなくてホントに良かった。」
そんなたわいもない会話をしながら、物資の運搬・積み替えをしている。
「それな。こんな雨のなか戦うのなんてごめんだぜ……。」
ひとりの兵士が、そう言いながら気だるい目で空を見上げる。そんな兵士の目に、空を飛ぶ人影が映る。
「なあ、おい、今日ここで飛行隊の演習なんてあったっけか?」ともう一人の兵士に問いかける。
「いやー、あったかもしれないし、なかったかもしれないなぁ。」
もう一人の兵士は空には目もくれず、黙々と荷物を運び続けている。兵士は、もう一度空を見上げる。すると、何ということだ。飛んでいる飛行士が着ているのは、ザック国の飛行服ではない!敵国・ジークメシア帝国飛行隊の飛行服ではないか!しかも、こちらに向かって飛んできている!
兵士は、突然のことに、手に持っていた荷物を落とす。
「おいおいおまえ、荷物落としてんじゃ――」
「いや、違う。演習なんかじゃない!敵襲!敵襲だ!」
兵士が、空を指さしながら、そう叫んだ。もう一人の兵士も、その指の先の空を見上げる。
そこには、眼前には、小隊規模の飛行隊が迫っていた。みな銃を構え、並みの飛行士では出せないスピードで、駅舎に突っ込んでくる。
『撃てー!』
空から、そんな声が降って来る。
「な、なんなんd――」
自分の口から出たその狼狽と、目の前の敵飛行士の姿が、その兵士の人生最後の瞬間となった。
「初撃成功!敵兵士12名に着弾しました!」叫ぶキール。
「ええ、そこそこの出来ね!次弾装填!目標敵火薬物資!撃てー!」
ミラレットの合図に合わせて、27名が一斉に敵の備蓄火薬に向かって発砲する。
着弾した次の瞬間、轟音が地を揺るがす。火柱が上がり、駅舎全体が火に包まれる。蜘蛛の子を散らすように、駅舎から駐在兵たちが湧き出てくる。駅舎の近くに建てられている兵士の寄宿舎らしき建物、事務所らしき建物からも、皆「何事だ!?」と口々に叫びながら、兵士たちが出てくる。
「もたもたしない!次弾装填!目標は残存敵兵!撃てー!」
ペンギン隊の放つ銃弾が、地上の兵士たちを正確無比に打ち抜いてゆく。
「まだまだ!私の合図待たなくていいから、各自、敵殲滅を開始!」
27名の飛行士が、縦横無尽にⅣ駅上空を飛び回る。地上にいる兵士たちは、なんとか応戦するが、全く撃ち落とすことができない。対空銃でも追えないスピードに、立ち尽くす兵がちらほら出てくる。
そうして、ミラレットたちは前代未聞のスピードで、敵主要補給地の占領を進めていった。
昼過ぎの参謀次長室に、ドアをノックする音が響く。「どうぞ」と黒月。
「失礼します。」
短い言葉と凛々しい敬礼と共に、下等兵が部屋に入って来る。そして、摩擦で床の絨毯が着火するのではないかと思うほどに素早い方向転換をして、黒月の方を向く。
「どうしたんだい?」
昼食の準備をしながら、黒月が問う。今日は聖祝福記念日で食堂が休みなので、買っておいたサンドウィッチとスープを食べる予定だ。
「はい!報告致します。たった今、ペンギン隊から無線が入りまして、Ⅳ駅を完全に制圧したそうです。駅舎は攻撃の際に燃え尽きたものの、路線は利用可能な状態だそうです。」
「うん。流石はミラレットさんだ。」
黒月のデスクの上に無造作に置かれた新型無線機には、
『セイアツブジカンリョウ ゲンザイタイキチュウ』
と表示されている。
黒月は、下等兵には目を向けず、黙々と昼食の準備の仕上げにかかる。「それで、西部駅は?」
「はい。西部駅に関しても、黒月参謀次長の作戦通り、西部戦線の兵力と合わせて、完全に撤退致しました。西部駅とターミナル駅、中央駅を繋ぐそれぞれの路線も破壊済みです。」
準備を終えた黒月が、パンパンと手を払う。そして、ふう、と一息つく。
「それで、東部駅は?」
下等兵が、顔色を明るくして、胸を張って応える。
「はい!西部戦線・西部駅に投入していた兵力を全て東部戦線につぎ込んだ結果、無事、Ⅱ駅直前まで戦線の押し上げに成功しました。総司令官によりますと、間もなく総攻撃を開始し、Ⅱ駅の占領を達成する見込みです。」
黒月は紅茶をひとすすりする。そして、デスクの丁寧にカップを戻す。
「素晴らしい。これで、戦線が『回った』な。」
裏話コーナー
・敵側の視点を書いたのは初かもしれません。ただ、こういうシーンはいいですよね。こういう「ベタ」は好きです。




