南18・使命と混乱の戦場
「ど、どういうこと?これ。」
新型無線機のメッセージを呼んだミラレットが、戸惑いの声をあげる。それを見聞きしていたキールが、「どうしたんですか?」と言いながらメッセージを横から盗み見る。
「え、どういうことですかこれ?」
キールも、ミラレットと同じ反応を示す。ふたりはしばらく考え込んでいたが、いつまでもそうはしていられないと、ミラレットが吹っ切った。司令が、今はこれしかない以上、この任務を実行するしかない。上の命令は絶対。それが軍という組織の根幹だ。
「隊のみんな、聞いて!」
ミラレットの掛け声に、隊員がミラレットの方に向かって整列する。
「今、司令部から(本当は参謀からだけど)無線が入りました。私たちはこれより、Ⅳ駅奪取に向けて出立します。」
隊員たちの間に、不安と不信が広がる。列のあちこちから、「なんでⅣ駅?ここよりもさらに敵陣地後方じゃないか」とか、「今すぐ撤退するべきだ」とか、様々な声が広がる。
そんな隊員たちを見て、ミラレットは言葉を続ける。
「もちろん、みんなの不安は分かる。奇襲はできてもいないし、敵の情報が掴めないなかで、更に敵陣地に入り込んでゆくのは怖い。でも、それが私たち、ペンギン隊に課せられた司令なのよ。私たちは、地獄を通り抜けてここに乗り込んできた。ここから先が地獄だったとしても、それは私たちは既に通ってきた道。選ばれし海中飛行隊として、鍛えぬいた隠密飛行隊士として、使命を全うしましょう。」
ミラレットの、自らに言い聞かせるような力強い演説に、隊員たちの顔から、不安と混乱、焦りが引いてゆく。
「みんな、いいわね?」
ミラレット問いかけに、みなが力強く頷く。
「それでは、出立!」
掛け声と共に、ペンギン隊は散開し、飛行を開始した。もちろん、隠密飛行で。
朝8時を過ぎ、冬の雨天と言えど空がだいぶ明るくなってきた頃。西部駅の防衛を担当していた兵士たちは、敵海中飛行隊の猛攻の対処に追われていた。
空中を自在に飛び回り、これでもかと銃弾と爆弾を地に打ち込んでくる敵飛行士たち。かれこれ一時間も応戦しているが、なんせ人手が足りないので、今にも防衛部隊は崩壊の危機にたっていた。
ひとり、またひとりと、敵に撃ち伏せられてゆく。
「クソっ、当たれ!当たれ!あの女飛行士め!」
西部駅防衛隊の隊長が、もはやヤケになりつつ、敵飛行士に発砲を繰り返す。が、当たらない。頬を軽くかすめたかどうかといったところだ。
「た、隊長!もうこれ以上持ちません!もう半数以上がやられてしまいました!」
隊士のひとりが悲痛な叫びをあげる。
「弱音を吐くな!今この西部駅を取られては、我が帝国がメイン戦線において窮地に立たされるも同義だぞ!耐えろ!」
隊長は、口では強気なことを言いながらも、その実、涙目で敵飛行士に応戦している。それもそうだ。秒読みで、かわいい部下が動かなくなってゆくのだから、とても耐えられたものではない。その証拠に、先ほどから何度も、連絡員に司令部から司令は入っていないのかを確認している。
「おい!連絡員!司令はまだか!何もないのか!」
「はい、未だ何も……いや!来てます!ええ!?」
降り注ぐ銃弾を、建物の影に隠れて回避している連絡員が、新たな司令に気付く。隊長は、敵飛行士を狙い撃ちながら、連絡員に怒鳴る。
「おいなんだ!?クソっ、あの飛行士め、すばしっこいな!早くその司令を読み上げろ!増援か!?増援が来るのか!?」
連絡員は、送られてきた司令が信じられず、何度も目を左右に動かす。が、とにかく隊長に伝えなくては、と内容の理解はすっ飛ばして、とにかく読み上げる。
「いえ、増援ではありません!即時撤退命令です!西部駅は放棄せよとの司令です!西部駅だけではありません!西部戦線全てから全隊の引き上げ命令が出ています!」
「な、なにぃ!?西部駅を放棄!?司令部はメイン戦線がどうなってもいいと言うのか!?」
この西部駅を死守するために戦ってきたのに、それを放棄!?隊長は、司令の意図が読めず、混乱する。しかし、今はそれどころではない。判断が1秒遅れれば、部下が、いや自分の死が待ち構えている状況なのだ。司令が来ているならば、すぐに実行に移さなくては。
「で!具体的な撤退方法は!?」
「はい!西部駅防衛担当隊は、ターミナル駅に撤退する組と、中央駅に撤退する組に二分して列車で撤退するようにとの指示です!その際、撤退に使った西部駅とターミナル駅を繋ぐ路線、西部駅と中央駅を繋ぐ路線は、完全に破壊しておくようにとの司令が来ています!」
「なるほどな!せめて敵に鉄道は使わせんぞということか!了解だ!」
隊長はそう言うと、部隊全体に向けて、撤退の指示を出した。敵の猛攻を退けながら、列車に乗り込み、すぐさま列車を発進させる。生き残った兵士たちが、動き始めた列車に次々と乗り込む。
もっぱら、敵の目的は西部駅の奪取であるから、深追いはしてこない。撤退していく西部駅防衛担当隊の乗り込んだ列車を、追いかけ回してはこなかった。
文字通り死ぬ気で守っていた西部駅が遠くになってゆくのを見つめながら、隊長は列車の床に座り込む。
「それにしても、西部駅を手放すっていうのは、本当になんなんだ……。」
隊長のそんなつぶやきは、風と車輪の軋む音に混ざって、戦線の大地に消えていった。
そんな激戦はつゆ知らず、黒月は参謀次長室で紅茶を嗜んでいた。本日既に2杯目の紅茶である。
「まあ、今日中には戦線が『回る』だろう。明日には桂樹さんも帰って来るし。」
窓に絶えず打ちつける雨粒を眺めながら、そう呟いた。奇襲作戦の続きは、戦線を動かす妙案は、まだまだ働き始めたばかりだ。
裏話コーナー
・こんなことろにも伏線が!今回は分かりやすかったですかね?




