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南16・奇襲攻撃(受け身)

 そこでキールが目にしたのは、何十門もの対空大砲。それだけではない。大隊規模の「空の祝福者」部隊、対空銃を携えた陸兵も中隊程はいる。


 いや、もちろん、このⅡ駅は敵の東部戦線の主要補給地であるから、数多くの大砲や兵がいること自体は何も不思議なことではない。


 しかし、大砲の砲身のその全てが、空、陸にいるその全ての兵士が、ペンギン隊の方を見て、横一列に並んでいる。そう、それはまるでペンギン隊の奇襲を待ち受けていたように……。


 「な、なんなんですかあれは……。」


 キールも、ミラレットとと同じように、同様が口から零れる。しかし、ミラレットはこんな全くの予想外の事態でも、冷静を装って隊に指示を出した。近くの小さめな森を指さし、隊員に一旦そこへ隠れるように指示を出す。


 急いで降下し、森の中に身を潜めたペンギン隊一行は、ミラレット含め事態の把握に追われていた。


 「隊長!あれは一体どういうことでしょう?あの様子では、敵は我々を完全に待ち受けていたという感じですよね!?」


 キールが、興奮気味にミラレットに詰め寄る。


 「ええ、そうね。たまたまにしては兵が多すぎるし、しかも対空装備もバッチリだわ。完全に待ち構えられていたわね。」


 ミラレットとキールの会話を聞きながら、他の隊員たちも不安と混乱に駆られている。雨天で誰にも気付かれない、しかも聖祝福記念日を選んでの奇襲。それが完全に対策されているなんて、全くをもって想定外の事態だった。


 「ど、どうしましょう隊長。引き返しますか?」


 キールが凍えた声で提案する。


 「いえ、それもありだけど……。でも、まだ交戦はしていないし、敵にもまだ感知されていない以上、独断での作戦中止は出来ないわ。ここで一時待機ね。今のうちに司令部に連絡を取って、判断を仰ぐ。」


 ミラレットはそう言うと、無線機を取り出し、司令部に向けて電報を打った。その後、胸ポケットから新型の無線機を取り出し、一応黒月にも連絡をしておく。


 ペンギン隊は、予想外の事態により、敵地のど真ん中で孤立してしまった。夜明けを迎えたはずの空は、分厚い雨雲に覆われて、未だ濃い灰色に染まっている。




 朝7時。南方司令部参謀次長室には、一定の心地よいリズムを刻む寝息が揺蕩っていた。寝息の主は、黒月。ソファーに横になって、完全に寝落ちしてしまっている。


 そんな静けさ満ちる参謀次長室に、けたたましい足音が急激に近づいてくる。廊下の床が抜けるのではないかと思うほどのその慌ただしい足音は、参謀次長室の前で止まった。と、思いきや、次はドアが激しくノックされる音が響き渡る。


 黒月は、寝耳に水、うたた寝に爆音、といった様子で飛び起きる。


 「な、なんですかぁ!?」


 寝ぼけまなこで、どっちの方向にドアがあったかも忘れた状態で、黒月がそう叫ぶと同時に、ドアがバン!という大きな音と共に開いた。


 黒月は、音のした方に降り向く。部屋の入口に、ひとりの下等兵が息を切らして立っていた。黒月が、まだ事態を掴もうと寝起きの脳をなんとか働かせようとするなか、下等兵が声の限り叫んだ。


 「黒月参謀次長!大変です!西部駅が、敵の海中飛行隊の攻撃に遭っています!奇襲作戦は、敵に待ち構えられていました!作戦は失敗です!このままでは、西部駅が取られてしまいます!」


 連絡に来た下等兵も混乱しているのか、ちぐはぐな内容を、とにかく口走った。しかし、それでも寝ぼけた黒月の頭を叩き起こすには十分だった。


 「て、敵の海中飛行隊?西部駅が取られる?作戦は失敗?どういうことだ!?」


 脳まで完全に起きた黒月は、下等兵に問いただす。本当に、何が起きているのか分からない。こちらが海中飛行隊を送り込んだはずなのに、西部駅が敵の海中飛行隊の攻撃に遭う?奇襲が待ち構えられていた?どういうことだ?


 「は、はい。先ほど同時刻に西部駅とペンギン隊から電報が入りまして、東部戦線押し上げのために手薄になっていた西部駅が、敵の海中飛行隊に奇襲を受けています。奴ら、人手不足を補うために無理に押し上げていた西部戦線の横をすり抜ける形で、半島西沿岸を潜水させて海中飛行隊を直接西部駅に送りこんできたんです!こちらが相手のⅡ駅にやろうとしていたことを、敵にそっくりそのまま西部駅を攻撃される形でやられてしまっています!」

 

 下等兵の報告に、黒月は余計混乱に陥る。そもそも、海中飛行隊なんて部隊は、黒月自身の突飛な発想が生んだ代物で、到底他国に存在するとは考えられない。しかも、その部隊が実用段階まで訓練され、実際に西部駅の直接強襲という動きをしてきている。


 さらに言えば、西部駅が手薄になったタイミングで、あえて押し上げていた西部戦線の横をすり抜けるように海中飛行隊を送ってきたのも、偶然にしては出来過ぎだ。敵にこちらの情報を透視されていたかのような感覚に陥る。


 そんな思考のさなか、ハッとペンギン隊のことを思い出す。


 「そ、それでペンギン隊はどうなってる?奇襲は?Ⅱ駅の奇襲はどうなった?」


 「はい。奇襲は失敗です。いや、未遂となっています。電報によれば、Ⅱ駅には飛行部隊を待ち受けていたとしか思えない対空砲台や空戦力、対空陸兵などが揃っていたそうです。ペンギン隊はそれをいち早く察知し、一時的に近くの森に姿を隠したそうですが、いまだにそこから動けていません。司令部も司令部で状況の把握に追われていて、指示が出せていない状況です。」


 下等兵の説明を聞きながら、黒月は新型無線機のことを思い出し、ポケットから無線機を取り出す。すると、そこには


 『テキ マチカマエテイタ ゲンザイタイキチュウ ドウスル?』


 と文字が表記されていた。黒月は、奥歯を噛みしめる。


 黒月は、うたた寝をしていた自分を呪いながらも、頭をフル回転させ始める。奇襲は失敗し、西部駅は敵の手中に落ちそうになっていて、さらには敵にこちらの情報が筒抜けになっていたのではないかという状況。

 

 この状況から「勝ちのロジック」を組み上げるために、黒月はその持てる全ての知識、発想を総動員して、思考の渦を起こしていた。

裏話コーナー


・特に裏話が無い……。ちなみに、私は黒月が思いつくような奇襲作戦は嫌いです。どちらかと言えば詰将棋のような堅実な手が好みです。

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