南12・ヘンタイペンギン
「ううっ、寒い!寒いけどやるよ!ハイ並んで。」
ペンギン隊が結成した週の木曜日。ミラレットらペンギン隊一行は、海中飛行訓練のために帝国南東に位置する唯一の港町・リスカフに来ていた。
ミラレットの掛け声で、隊士たちが浜に集まって来る。ミラレットを含め27人の選ばれし(生き残りし?)飛行隊士たちだ。しかし、みな同じく寒さに震えあがっている。リスカフも帝国では南方に位置する都市だが、海から吹く冷えた風が隊士を苦しめる。
整列した隊士たちを前に、ミラレットが話を始める。身長が低いミラレットでは後ろに並んでいる隊士の顔が良く見えないため、程よい高さの箱に乗って話すようだ。
「皆さん、まずはコリからここまでの飛行お疲れ様です。今日から、私たちはここで奇襲作戦に向けた訓練・演習を行うことになります。参謀課の要請で、2週間後までには作戦実行できるようになっていないといけないので、余裕をもって12日後までには完成できるようにしましょう。」
「はい!」
隊士たちのやる気のこもった声が砂浜に響く。寒さに身を縮こませながらも、自分たちが戦線を打破してやろうという強い意思を感じる返事だ。こうして、ペンギン隊の短期強化訓練が始まった。
何よりも重要なのは、海中での飛行能力の向上だ。海では、川とは違い、潮の渦や海流があるため、飛行難易度は遥かに高い(ちなみに、ミラレットは到着早々試しに海中飛行してみたが、何の問題もなく一発で飛行できた。さすがは以下略)。
「はい!じゃあ1班ずつ行きます!よーい、ドン!」
海中飛行200m走の始まりだ。まずは海中飛行そのものに慣れるため、これを繰り返す。
「初日だからまだ目標タイムには及ばないわね。はい次!」
ミラレットは洋上に浮かび、隊士たちの訓練を監督する。
「はいオッケイ!速度はそこそこだけど、君は潜水深度浅すぎ。それじゃ『覚の祝福者』どころか目視で敵に感知されちゃうよ。次はもっと深く、そして速く!はい次の班!」
訓練すべきは潜水飛行のみではない。実際に作戦を実行する際は編隊を組むため、その練習もしなくてはならない。他にも海中飛行からの高高度飛行、隠密飛行からの敵主要補給地奇襲など、演習すべき事項は数多い。
厳しい訓練ではあるが、ペンギン隊の隊士たちは、高い志をもって訓練に取り組み始めた。
しかし、そんな彼らの心が折れるのに、そう時間はかからなかった。
寒すぎる海、ミラレットが課すキツ過ぎる訓練内容、寒すぎる風、強すぎる水圧、いくらやっても完成しない編隊。選ばれし隊士たちといえども、心が折れるには十分だった。
訓練開始から5日が経過。皆個人での海中飛行には慣れてきたが、編隊飛行にはまだ慣れていなかった。故に、その先の演習にも進めずにいた。海中での最適な編隊が、大きな課題となってペンギン隊の前に立ちはだかった。
「隊長、編隊どうしましょう。いくらやっても、潮が渦を巻いてしまって、綺麗な編隊ができません。」
夜の休憩兼ミーティングの時、ミラレットにそう嘆いたのは副隊長のキールだった。彼は四一二大隊でも副隊長としてミラレットの下で冬季全面攻勢を戦った、ミラレットの戦友である。
「そうね……やっぱりいつもの三角型じゃダメなのかしら。」
暖炉を前に温まりながら、紅茶を嗜むミラレットも考え込む。
「はい、三角編隊では隊士と隊士の間に乱海流が生まれてしまい、どうしても綺麗な編隊を保てず、それによって飛行速度も上がりません。」
「どうしましょうかね……。」
昼は訓練の監督に体力を使い、今は思考にエネルギーを使っているミラレットは、糖分補給のために、紅茶に砂糖を2,3ブロック入れる。
ミラレットの手から離れたブロック砂糖は、連なって紅茶にダイブしてゆく。先頭の砂糖が水面に入り込むのを皮切りに、その後ろのブロックたちも綺麗に紅茶の中に姿を消す。
その砂糖の動きをぼんやりを眺めていたミラレットは、神経の伝達が遅れたように、数秒後に「これじゃない?」と呟いた。
「これ、というのは?」
ミラレットのひとりごとを聞き取ったキールが聞き返す。
「編隊よ。」
「変体?」
砂糖の落下とヘンタイ。繋がりのない2つの事柄に、キールは話の筋を掴めない。
「変体じゃなくて編隊。海中飛行の編隊よ。」
「ど、どういうことでしょうか。」
ミラレットの意図を掴めないキールは、砂糖を混ぜて溶かしているミラレットに説明を求める。部屋の隅々で思い思いの時間を過ごしている隊士たちも、聞き耳を立てている。
「だから、三角編隊じゃなくて、言うなれば、縦列編隊を組むのよ。縦一列に並んで飛ぶの。これなら先頭の人の後ろを飛ぶ人たちはあまり体力を使わなくてもいいし、縦一列だから乱海流も生まれない。」
飛行編隊としてはまずやらない飛行編隊に、キールは言葉を飲んでしまう。しかし、確かに自転車隊などは空気抵抗を避けるために縦一列で並び、先頭を交代しながら進んで、さらに抵抗を隊員で分散する。それを飛行隊でやろうということである。
「た、確かに。明日、それを試してみましょう。これが上手くいけば、なんとか訓練期間が予定の10日間に収まるでしょうし。あまり慣れない編隊ですけど、今回の海中飛行自体が慣れない、というか突飛なものですから、とにかくやってみましょう。」
ミラレットの希望的観測を持てる案が、隊員の心を少しばかりは治した。キールを初め、この話を遠巻きに聞いていた他の隊士たちも、希望を取り戻した。
「それじゃあ、明日からもよろしくね。引き続き、ガンガン行くわよ!」
ミラレットは隊員にそう告げると、自室に帰っていった。
裏話コーナー
・本当は、縦列編隊に辿り着くまでをもう少しじっくり書きたかったのですが、ここにそんなに文字数を当てたいわけではなかったので、サラッと解決させました。




