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南10・生き残ったペンギンたち

 「違う違う!もっとこうヌルヌルって感じよ!そんなんで最高速出したら首もげちゃうからね!ハイ君もう一回!」


 黒月が定例会議で「海中飛行士作戦」を提案し、認可された翌週の月曜日。ミラレットは、海中飛行士候補を選別すべく、コリの町を流れる川のほとりに来ていた。南方司令部から海までは少なくない時間がかかるので、この川を使って、飛行士の水中耐性チェックを行い、選別しようという算段だ。


 今日、この川のほとりに集められたのは約60人の「空の祝福者」たち。先週の定例会議で作戦が認可された後、黒月は急いでミラレットのところに認可の報告に行った。


 それから、ふたりで急いで「海中飛行士候補」の書類選別を行った。「空の祝福者」として戦線で大きな戦果を挙げた者など、この奇襲作戦にふさわしい人材を選りすぐった。書類選別を通過した人材には速達で通知を出し、すぐさま南方司令部に来るよう指示した。そうして、週をまたいで今日、やっと全員の「海中飛行士候補」が揃ったのだ。


 「うん。君はすごく上手ね。合格!でも君は違う!もっとこうサラサラっと!水に逆らっちゃダメよ!ハイ次!」


 ミラレットは、集めた飛行士たちに川中を逆流するように飛行させ、その才を見ている。しかし、飛行士たちは「水中を飛ぶ」というシンプルに未体験で意味不明なことをさせらるうえに、ミラレットの独特なアドバイスが相まって、皆なかなか上手く行かない。


 ミラレットは、この作戦のリーダーとして、彼らに檄を飛ばして選別を行っていた(ちなみに、ミラレットは試しにこの川中を飛行してみたところ、何の問題もなく一発で高速飛行できた。流石は北方最高の隠密飛行隊長だ)。


 そうして地獄の大選抜大会が進み、陽光が傾き始めて選別も終わりが見え始めた頃、河原に黒月が姿を現した。


 「おーい。ミラレットさーん。どうですか?選別の様子は。順調……ですか?」


 黒月は、河原に転がる幾人もの死にかけの飛行士を目にして、言葉尻をすぼめてしまう。一体どんな過激な選別が行われたというのだろう。


 「あ!黒月君来てくれたんだ!選別は順調よ。最初はみんな出来なさ過ぎて心配だったけど、何回かチェックするうちにできるようになる人も増えてきて、今23人決まったところ。私を除いてあと3人でメンバー決定よ。」


 「おお。それは何よりです……。」


 経過が順調なのはなによりだが、目の前に転がっている大量の半死人を見ると、どうも素直に喜べない。黒月が頬を引きつらせているこの合間にも、ミラレットは「ハイ違う!君もう一回!」と既に死にそうな顔をした飛行士に叫んでいる。


 黒月はそんな選別をしばらく眺めていたが、ここに来た用事をふと思い出した。選別はようやくあとひとりが決まればメンバー決定のところまで来たようで、隣に立っているミラレットも多少の疲労を顔に浮かべながら、川中の兵士を見つめている。


 「あ、そういえばミラレットさん。今日、僕ただただ選別を見に来たわけじゃなかったんですよ。」


 「ん?そうだったの?」


 「そうなんです。伝達事項があって。技術課からの伝言なんですけど、耐水耐寒潜水兼用飛行服は、なんとか作戦当日には間に合うそうです。なんで訓練中はちょっと冷たい思いをすることになるかもしれないんですけど、実行当日に山脈山頂で凍え死ぬってことはなさそうです。」


 南方といえど戦場は冬。冬の海を潜水した後に高標高の山脈を越えるとなれば、凍え死に必死だ。なので、今回の作戦が決まってから、書類選別を行うと同時に、すぐに技術課に耐水耐寒かつ潜水用に抵抗の少ない飛行服の開発依頼を出しておいたのだ。


 「あら、それは良かったわ!もし間に合わなかったら北方の時に使ってたただの耐寒飛行服を着ようかと思ってたけど、それじゃ水の抵抗も大きいし、何より寒さが心配だったからね。それは良かった。」


 「いや、本当にそうですよね。あ、あともうひとつ。これを渡しておきたくて。」


 そう言うと、黒月は小さな直方体のデバイスをミラレットに手渡した。デバイスは長細いスティックの形をしていて、その1面には液晶が埋め込まれている。


 「何?これ?」


 見たこともないデバイスを目にしたミラレットは、興味深そうにいろいろな角度からそれを眺めている。自分から渡しておいてなんだが、必死に川中を飛行しているのに全く見てもらえていないあの兵士もかわいそうだ、と黒月は思う。


 「それも、技術課に頼んで作っておいてもらったものです。簡単に言えば耐水性と耐寒性を高めた無線機ですね。ですが、今回は奇襲に使うということで、音ではなく液晶の表示で内容を伝達できるものを作ってもらいました。もし作戦中に急な変更があった場合にはこれに指示が表示されます。」


 「おお~技術課もすごいね!了解よ。作戦中はちょくちょくこれを見とくわね。ありがとう。」


 そんな会話をしていると、最後のひとりが川中を泳ぎ切ったようだ。ミラレットのお眼鏡にもかなったようで、これで晴れてメンバーが揃ったことになる。


 「おお、じゃあこれで『海中飛行隊』結成ですね。」と黒月。


 「うん、そうね。ほぼ一日かかっちゃったけど、これでペンギン隊の訓練に入れるわ。」


 「ミ、ミラレットさん?『ペンギン隊』って……?」


 「この小隊の名前よ。『海中飛行隊』じゃ可愛げがないでしょ?だから、海中を飛ぶってことでペンギン隊よ。」


 黒月がそれに絶句したことはいうまでもないだろう。こうして、「ペンギン隊」は結成され、訓練に向けて始動した。

裏話コーナー


・今までの作風でちょっと滲んでいたかもしれませんが、私は「ベタ」な設定があまり好きではありません。だから黒人サリーが出てきたり、キムが金髪青目だったりしたわけですが、ミラレットさんはある意味ベタな設定です。でも、好きなんですよね。「天才がゆえに誰にも伝わらない独特なアドバイス」が。

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