南9・作戦認可
「えーそれでは、定例会議を始めたいと思います。」
長い脚を組んだモリシタ参謀長の一言で、定例会議が始まった。
黒月にとっては2回目の定例会議。今日、この会議で「海中飛行士作戦」を提案するつもりだ。先週の土曜日、偶然にもミラレットと再会を果たし、作戦にある程度実現性があることを確認した黒月は、それから案の微調整を繰り返してきた。
定例会議は、定例の型で進行してゆく。
「はい、それではまずはメインの戦線について、報告がある人はどうぞ。」
桂樹が手を挙げる。「はいどうぞ」とモリシタ参謀長。
「メイン戦線についてですが、西部、中央に関しては今まで通り、国境を挟んでの睨み合いが続いています。Ⅱ駅奪取に向けて押し込んでいた東部戦線ですが、やはり、先週の会議でお伝えした敵の戦力増強によって、国境付近まで押し返されてしまいました。ですが、これも既にお伝えした通りですが、北方にいた兵をこちらに回したりするなどの対策を行ったため、国境より自軍側に押し込まれることはなく、国境付近で戦線は均衡しています。」
「ということは、やはり振り出しか……。」
桂樹の報告を聞いて、メンバーの一人がそう呟いた。黒月は、この進行にデジャヴを感じる。定例会議というよりは、定型会議とでも言うべき様態だ。
「他に、何かメイン戦線に関して、報告や作戦案がある者は?」
参謀長が声をかけるが、誰も応えない。
「えー、それでは、メインに関しては、再びⅡ駅奪取に向けて動くということでいいですかね?」
メンバーがみな無言で頷き、同意を示す。もちろん、黒月もⅡ駅を攻めることに関しては異論はない。攻める方法がメイン戦線でなく奇襲によってだが。
「では、次に奇襲係。何か進展はあったかい?」
奇襲係の女性が力なく首を横に振る。
「えー、ではね、特に何もないということで、これからも引き続き――」
「いや、ちょっと待ってください。」
モリシタ参謀長が会議を終わらそうとしたその時、黒月が割って入った。
「ん?どうしたのかね?」
モリシタ参謀長が、元から高い声を更に高くして、急に割って入ってきた黒月に問いかける。
「僕から奇襲作戦に関して提案があります。」
「ほう?」とモリシタ参謀長。
「簡単なものではありますが資料を作ってきましたので、まずはこちらをご覧ください。」
黒月がメンバーに資料を配る。昨日、桂樹に手伝ってもらって作った資料だ。こういう事務作業はどうも苦手で、黒月は四苦八苦しながら、なんとか会議に間に合わせた。
それから、黒月はメンバーに向かって「海中飛行士作戦」の説明をした。作戦の工程、そしてこれは実現可能性が高いこと、成功した場合にはほぼ確実にⅡ駅を落とせることを。
最初は突飛すぎる案に肝を抜かれていたメンバーだったが、黒月の話を聞くにつれて、真剣に案を検討しだした。みな、この作戦の有効性に気付き始めたのだ。
「――という内容になっております。もし皆さんがこの作戦に賛同してくださるなら、今日から作戦参加小隊員の選別を始めたいと考えております。」
説明を終えた黒月が賛否の確認を取る。桂樹はいの一番に「私は賛成です」と言ってくれた。しかし、他のメンバーはうんともすんとも言わずに、資料とにらめっこしている。
会議への積極性が無さ過ぎるメンバーに、黒月が多少のストレスを感じていると、モリシタ参謀長が口を開いた。
「まあ、面白い作戦だとは思うよ。それで、この小隊の選別や指導は誰が担当するんだい?桂樹参謀次長は参謀課としての仕事があるだろうし、君は『非祝福者』だろう?」
メンバーの何人かが驚いた顔をする。恐らく、それは黒月が「知の祝福者」でなく「非祝福者」だという事実についてだろう。
モリシタ参謀長の質問に、黒月が対応する。
「はい。選別、指導、そして実際の奇襲に関して、全てセリア・ミラレット一段が主導する予定です。彼女の作戦参加の意思も取れています。」
「ほう、セリア・ミラレット一段と言えば……」
「はい、北方最高の隠密飛行部隊・四一二大隊の大隊長を務めた人物です。先ほど説明した通り、水中飛行には隠密飛行のスキルが必要不可欠であると考えられます。よって、彼女が筆頭となって選別・指導を行うのが最適であると考えました。」
「なるほど。であれば、彼女が最適だろう。うんうん。」
モリシタ参謀長は納得したようで、そこで一旦言葉を切った。納得したようだ、というのは言葉から読み取れることであって、相変わらず表情は変わらないので、顔から納得は読み取れない。
「それじゃあ、この作戦は認可ということで良いのではないかい?資料には3週間後には実行可能と書いてあるから、長期に渡る準備が必要なわけでもなさそうだしね。どうかね?皆は。」
モリシタ参謀長がメンバーに確認を取る。みな、無言で頷いたり、小さな声で「賛成」とか「良いと思います」とか言っている。つまり、賛成だ。
「はい、それでは、この作戦は認可ということで。黒月参謀次長、提案ご苦労だった。それでは、この件はセリア・ミラレット一段を主導としつつも、提案者の黒月参謀次長も彼女の補佐として参加してくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
黒月は、敬礼をして参謀長に感謝を述べる。これで、奇襲作戦をスタートできるし、この作戦が成功すれば、1年に渡って停滞していたこの南方戦線を大きく動かせるだろう。
この日の会議は、それで終了となった。早くミラレットさんに会議結果を知らせなくては、と心はやる黒月であった。
裏話コーナー
・特に裏話が無い……。正直この会議のシーンはスキップしても良かったのですが、それだと北方編のようにすぐに南方編も完結してしまう気がして、今回はとあるシーンまではゆっくり行きたいと思います。




